大きく道をおさえる

●まずは初心者向けの話から

京都は碁盤目のように街が整備されており、東山もよく見えるため、東西南北がはっきりしていて迷いにくいとはよくいわれる。このこと自体は本当だと思う。

そうは言っても、初めて訪れる人は戸惑うこともあるだろう。東西南北がわかっても、地理感覚への指標がなければ、やはりわからんものはわからん。当たり前のことだ。

京都では、北へ進むことを「上ル」、南へ進むことを「下ル」と表記する。北が高く、南に向かって下がりつつ開ける地形の感覚が表現されている。実際に住所表記にも使われている。また、南北方向に進むことを基準に、東へ曲がることを「東入ル」、西へ曲がることを「西入ル」と表記する。碁盤目ならではだろう。

京都駅に降り立って、烏丸口に出る。身体は北を向き、「上ル」状態だ。バスターミナルを通りすぎて横断歩道を渡る。右を向けばビルの合間に東山、左を向けば西。この状態で、東西に横切る道は、平安京時代より一条〜九条の9本がある。それに対して、南北の縦に上り下りする道もあり、烏丸通だの河原町通だの堀川通だの、名前らしい名前がついている。このあたり、観光篇洛中極私的概略にも触れた。

なんで道が重要なのかと言えば、四条通(横、東西)と烏丸通(縦、南北)の交差点を「四条烏丸」と呼んで、そこを起点に上るだの、西入るだのと説明するから。つまり、道を知らないと見当がつかない。そうは言っても、2次大戦の空襲で焼け野原になった時に、また元のように雑然と都市化してしまった東京と違い(江戸の街自体も、人口増加で埋め立てと建て増しの連続だった)、システムがはっきりしているから、まだましだろう。

で、問題は、一条〜九条の間にも、名前のついた道がある。新参者には無数に思えるくらい。まだなじんでいない状態だと、二条と言われれば「横切ってる道ね」と思えるが、そうじゃない道の名前を聞くと「どっちがどっちよ」などと思ってしまう。

たとえば「姉さん六角押御池・・・」といった歌があって、横の道の名前を全部覚えるため。縦の道の版もあるそうな(録音して、販売されたことがあるそうです)。こんなのがあることからして、京都在住者でももしかするとたいへんなのかもしれない、などと思ってしまう。

●私も京都在住じゃないです

というわけで、とりあえず、どうやったか。

もう一度、京都駅、烏丸口に出たとしましょう。京都タワーからまっすぐ北へ伸びるのが、烏丸通。金融関係の会社が四条通り近辺に集まる、現在の中心となる道。

ここを中心に、大きな道を、とりあえず身体になじませる。烏丸通より東にあって、やはり縦の大きな通りは、河原町通。その先、鴨川を越えて、東大路に至ると、少し東山に向かって高くなりつつあり、その先は東山地帯。同様に西の大きな通りは堀川通。お堀があって、二条城が面している。その先には、西大路(京都盆地はさらに広がっている)。この範囲で、縦に走る道の大筋をおさえた。

問題は先に書いたように、一条のように番号のついた通りが、必ずしも大通りではないこと(実際には平安京創建当時とずれている通りもある)。京都駅の南側、新幹線口が八条。ここから上って、東西本願寺で七条。さらに上ると車線数の多い通りに出会う、これが五条。2次大戦中に、戦時体勢として道幅を広げ、そのままになったという有名な話が伝わっている。次に繁華街四条、そして三条は意外に目立たず細く、広いのは御池通。二条も目立たず、むしろ丸太町が目立つ。ここに御所の南端。さらに上ると、一条を経て、今出川が御所の北端。

こうして洛中の際と大きな道をおさえると、バスの経路を調べるのが少し楽になる。そして、今出川から上ると、北大路に出会う。大徳寺、金閣寺へ至るのに便利な道で、北大路バスターミナルもある。

ちなみに、東寄りの繁華街を少しだけ整理。四条河原町から東へ向かって四条大橋を渡ると、川端通(鴨川沿いの南北の道)。ここを上ると、次に三条ターミナルが見える。京阪電車、地下鉄、バスのターミナル。さらに上って、出町柳に到着。鞍馬に至る京阪電車にも乗れるし、ここから北は同じ市街地でも空気感が変わる。

碁盤目をとりあえずこうやっておさえて、そこから離れた地点との距離感を地図でつかんでおくと、かなり気が楽になってくるはず。たとえば、衣笠(金閣寺より西の方面)、御室、嵐山は、盆地の西の方に広がっている。嵐山から下れば桂、上れば嵯峨野、といった具合。

そうちょくちょく行けない私のような場合、道を細かく全部を覚え込んでも実感が湧きにくいから、まずは地図を見ながら大筋を身体になじませていた。こういう例もあるということで、ご参考になれば。


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