第1回連続講演会を開催
ホームレスの自立支援、住居保障、地域再生の課題について議論

 新建東京支部・日本住宅会議関東会議の共催でシンポジウム
「ホームレス:家をなくした人たちの自立再生の展望」が6月19日、東京芸術劇場で開催されました。このシンポジウムは「住まいの原点を問う」という共通テーマで実施する連続講演会の第1回目の企画として行われ、新建・住宅会議会員のほか、多くの市民や学生が集まり、定員100名の大会議室が満員となりました。
 コーディネーターの中島明子和洋女子大教授(新建代表幹事)は、日本で異常にホームレスが増えており、今回のシンポジウムでは、現状の把握から一歩進んで問題解決に向けてどのようなホームレス支援が出来るのかを具体的に考えていきたいと呼びかけました。


パネリストの報告(要旨)
ホームレス問題とは何なのか<岩田氏>
 岩田正美日本女子大教授は、そもそもホームレス問題とは何なのかという視点で報告し、ホームレスは、多様な要因によって「家を失った」人々であり、@雇用システムの転換、A家族の縮小と単身世帯の増大、B多重債務問題、C都市再開発による安価な住宅・宿舎の縮小、D自由と自己責任の強調、などの要因が複合的に結びついていること、ホームレス状態とその「問題」化を、@路上にさらけだされた失業・貧困・疾病そのものの問題、A生活拠点(ホーム)の喪失による「住民資格」の希薄さと「制度的排除」、B近隣の「迷惑」と「空間的排除」、C社会的統合という角度からの問題視、という4点で報告しました。そして解決すべき点として、@家だけでなく、社会への帰属の立脚点の回復、A他の問題を抱えた人への配慮、B社会対立・排除の回避と「住民」概念の拡大が必要であると報告しました。

路上生活者問題の解決を地域再生に活かす<水田氏>
 山谷ふるさとの会の水田恵氏は、従来は路上生活者に至る経路が、寄せ場生活(日雇い労働生活)から路上生活に陥るという経路であったのに対し、バブル以降には日雇い生活を経ないで路上生活者になっている人が山谷地域で異常に増大しており、「質的な変化」が山谷で起こっていることを指摘しました。そして、ふるさとの会では、劣悪な環境の中で生活保護を受けている簡易宿泊所居住者が自立するためのリビング提供などの活動を続けてきたことを紹介しました。そしてこれらの活動をふまえて24時間体制で自立生活をするため生活訓練施設が必要であると考え、今回、第二種社会福祉事業の宿泊施設を開設するまでに至ったこと、今後は、路上生活者問題の解決を地域再生に活かすためのまちづくりのプランを検討していくことが課題であるとの報告を行いました。

釜ヶ崎では簡易宿泊所での生活保護を認めさせることが当面の課題<ありむら氏>
 西成労働福祉センターのありむら潜氏は、日本最大の寄せ場である大阪釜ヶ崎の歴史を、漫画家である氏のイラストを使って紹介しました。地域の現状としては、これまで寄せ場として、労働提供の機能を唯一としてきた釜ヶ崎地域の成立要件が崩れてきたこと、それにより路上生活者が増大し、彼らの生活再建、地域再生が課題になっている状況があること、しかし、釜ヶ崎では山谷や寿町と違って、簡易宿泊所の生活保護が認められておらず、まずは、宿泊所での生活保護を認めさせることが課題であるとの報告を行いました。

建築・都市計画技術者の視点から<大崎氏>
 新建山谷プロジェクトチームの大崎元氏は、ふるさとの会の依頼を受けて、新建会員を中心とした建築・都市計画技術者が集まり、高齢路上生活者の「終のすみか」としてのグループホームの計画案の作成、UIA国際コンペへの応募等に取り組んできたことを紹介しました。そのなかで既存の施設ではなく、路上生活経験者の自立支援のための空間という架空の空間のあり方がどのようにあるべきか、また街の空間と路上生活者との関わりなどについて考えてきたことを述べました。そしてアパート改造型の自立支援施設の実現に向けて、プロジェクトチームとして関わってきたことを報告しました。


 各パネリストの報告のあと、改造型自立支援施設「ふるさと千束館」の完成に至るまでの取り組みを、設計担当者の小野誠一氏がOHPを使いながら紹介し、大阪簡易宿泊所組合の参加者の発言、参加者の質問を受けて、パネリストの議論が行われました。



    参加者の感想文より
■主にホームレスだった人たちの社会復帰促進事業に関わっています。アパート・都住に出ても、生活はできても精神的に1人暮らしが難しい方たちが多く、グループホームができないものかと考えていて、今日はとても興味深く皆様のお話を聞きました。(女性の参加者)
■路上生活者がおかれている現在の状況や、民間やNPO、または、行政がどの様な手段で支援しているかがわかりました。また、路上生活者を安易に生活支援しているのではなく、なるべく社会的に自立させようと努力していることがわかりました。明日OPENする自立支援センターがうまく稼働することを祈っています。(男性・市役所職員)
■去る6月5日、私たちが立ち上げた「住宅改善ネットワーク」の総会の講演に山本厚生さんをお呼びしました。その際「地域の住まいの問題はホームレスの人たちの自立支援からとりくまなければ・・・・」というお話があり、今日の会を知って参加した次第です。まさに地域で高齢者や障害者の拠り所づくりをしてきて6年ですが、みなさんの実践を聞いて、大変励まされました。私たちの周辺にも何人もいるホームレスの人たちと、どう接していくかについては、又、私たち自身で考えていかなければならないと思っています。今日の原点に沿った実践が報告できるようにがんばります。ありがとうございました。(女性の参加者)
■ホームレスの問題についてのいろんな方の真剣なとりくみは、非常に参考になりました。水田さんの具体的な考え方もよく理解できました。都会(東京や大阪)だけではなく、地方でもまちづくりや雇用ができれば私たち自身の将来のためにももっといいのにと思いました。私たちの役割としては、実際何かができなくても、そのような考え方だけでもいろんな人に伝えられれえばと思います。岩田先生の自立という言葉のとらえ方とか、古い考えの社会のトップに対する批判にもすごく共感できました。(女性参加者)
■現在まで路上生活者を横目で見ながらただ通り過ぎるだけでしたが、その現状と背景等少し理解できました。今後は自分に何ができるか、何をするかだと思います。(男性の参加者)
■大変勉強になった講演会でした。ホームレス「問題」のとらえ方をはじめ、単に居住施設の解決だけではなにも解決しない事等よくわかりました。水田さん、ありむらさんの地域再生と結びつけた活動と、その視点におおいに関心すると同時に敬服もさせられました。日頃の私たちの活動におおいに刺激を受けた内容、感謝します。(男性・新建会員)

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