(社)日本建築学会より、9月8日 [金]〜10日 [日]に開催される2000年度日本建築学会大会(東北)研究懇談会「特定非営利活動法人と地域の計画」への原稿提出の依頼があり、「山谷」ふるさとまちづくりの会の紹介として以下のとおり原稿を提出しました。(図面、写真等は省略)        

■ 路上生活者の「自立」と結びついた地域再生プロジェクト

■「山谷」ふるさとまちづくりの会
(正称:路上生活者と共に活動する「山谷」ふるさとまちづくりの会)
<代表>
中島明子/和洋女子大学家政学部生活環境学科
水田 恵 /ボランティアサークル ふるさとの会
<事務局・連絡先>
大崎 元 (有)建築工房匠屋(本文執筆・文責)
/ 03-3716-1743 / 3716-8459(FAX)/ VED03705@nifty.ne.jp
丸山 豊 (株)まちづくり研究所
/ 03-5423-3470 / 5423-3479(FAX)/ JDP07511@nifty.ne.jp
http://www.asahi-net.or.jp/~sm2k-tmr/sanya.htm

■ 路上生活者と共に活動する「山谷」ふるさとまちづくりの会
(趣意書)
代表:中島 明子
●路上生活者への生活支援のボランティアから始まったふるさとの会も十年の活動を経て、新たな活動を展開することになりました。
●路上生活者と共に活動する「山谷」ふるさとまちづくりの会(略称:山谷ふるさとまちづくりの会)は、路上生活者と地域に住み・働く人々、そしてボランティアの人々が、共に山谷地域のまちづくりを考え活動するために、ふるさとの会の呼掛けで1999年6月に発足しました。
●地域の再生と路上生活者の人々の人間らしい暮らしの回復を結びつける試みは、アメリカ、イギリスでも取り組まれ、路上生活者を地域から"排除(Exclusion)"するのではなく、"共生(Inclusion)"の視点で地域の主役の一人として考えています。この困難ではありますが魅力的なテーマは、現在の地域福祉、都市計画、まちづくりへの挑戦でもあります。
●山谷地域の人々、行政、医療・福祉・保健、建築・都市計画にかかわる人々、そして路上生活者が、信頼関係にもとづいた新しいネットワークの下で、福祉を軸にした総合的なまちづくりの可能性を追求し、山谷地域が誇りのもてるまち"Pride of Place"になるように・・・。私たちの夢はふくらみます。
1999年6月

■ SANYA-FURUSATO COMMUNITY REGENERATION GROUPWORKING WITH HOMELESS PEOPLE
(The Prospectus)
Akiko, NAKAJIMA●FURUSATO-NO-KAI, which was started as a volunteer organization for the aid of homeless people, has launched a new project after a decade.
●SANYA-FURUSATO Community Regeneration Group (SFCRG) was set up by the FURUSATO-NO-KAI on the 20th of June 1999. It was formed because that the homeless, local people and volunteers shared their ideas and acted together.
●The trial which linked between the recovery of the homeless people's quality of life and community regeneration has recently been tackled in the U.K and U.S.A. Homeless people are considered as one of the significant resources in the community, not EXCLUSION from the community but INCLUSION in the community.
This attractive subject is also a challenge to the existing community care, city planning and community development in spite of difficulties to resolve it.
●Homeless people and people who are concerned with public administration, medical care, social services, public health, architecture and city planning make a new trusting network and pursue the possibility of a regeneration project dependant upon welfare services.
We are looking forward to the day that SANYA will become a place of "PRIDE for ALL".
June 1999.
●「山谷」ふるさとまちづくりの会は、建築・まちづくりの専門家が中心の集まりで、NPOふるさとの会を側面から支援しています。自由参加の研究会で、NPOではありません。
●NPOふるさとの会は、ボランティアサークル ふるさとの会が発展してできたNPOです。路上生活者の自立支援活動を中心とした社会福祉系のボランティアサークルです。

■活動メンバー
●会のメンバーは建築・まちづくりに関わっている人がほとんどで、研究者、設計者やコンサルタントなどの実務経験者、さらに学生がいます。
加えて、ボランティアサークルふるさとの会の世話人やボランティア参加者でまちづくりに興味のある人が加わっています。
●メンバー
<代表>
中島 明子/和洋女子大学家政学部生活環境学科
水田 恵 /ボランティアサークル ふるさとの会
<助言グループ>
前野 まさる/元・東京芸術大学建築学科教授
岩田 正美/日本女子大学社会福祉学科教授
塩崎 賢明/神戸大学工学部建築学科教授
松本 暢子/大妻女子大学社会情報学科助教授
黒崎 羊二/ (株)まちづくり研究所所長
ありむら 潜/ (財)西成労働福祉センター
早田 宰/早稲田大学社会科学部助教授
加藤 仁美/東海大学工学部建築学科助教授
麦倉 哲/東京女学館短期大学教授
遠藤 幸司/ボランティアサークル ふるさとの会
<研究会員>
山本 厚生  大崎 元  永井 幸  小野 誠一  関内 潔  田村 孝平
丸山 豊  林 工  黒崎 匠  杉山 和雄  岡沢 まどか  山本 徳子
大岩 摩子  増渕 信哉  足立 圭  飯田 耕介  板倉 武志  河合 嗣生
川田 あやこ  齊田 哲平  作田 未知子  高柳 智  成田 寛  原田 ひろみ
馬口 たかこ  後藤 靖幸  宇佐見 良恵
<事務所>
ボランティアサークル ふるさとの会
03-3875-0005 / 03-3876-7950(FAX)
111-0024 台東区今戸2-14-8大野電気マンション502

■組織の特色
●建築、まちづくり分野のそれぞれで研究者、設計者・コンサルタント、施工者、学生がメンバーを構成しており、また、会の支援母体に「新建築家技術者集団」「日本住宅会議」などがあって、多様な展開に対応できる体制をもっています。
●NPOふるさとの会との協働を通じて、建築・まちづくりの人たちが社会・福祉系の人たちとのコミュニケーションを形成しつつあります。そうした学際的なつながりの中で実際の事業が位置付けられていく可能性に期待しています。
●ただし、実際の活動では会員のボランティアに頼っており、恒常的に活動する組織として確立していないという問題があります。

■他団体とのネットワーク
●建築・まちづくり分野との関係
現在は会員個人のつながりから、いくつかの大学研究室などとの関係を深めており、継続研究として「山谷のまちづくり」を取り上げる研究室も出てきています。
また、支援母体である「新建築家技術者集団」「日本住宅会議」との連携は日常的におこなっています。いくつかの財団とは助成事業を通じて関係をつくってきました。
●他分野との関係
他分野との関係はNPOふるさとの会を通じて連携をつくりだしてきました。
社会学系、福祉学系の大学などの研究機関や訪問介護などの福祉実務の団体とは、路上生活者問題の認識を深めるために協力連絡を取り合っています。今年はとくに東京都による路上生活者一斉調査があったため、多くの大学、ボランティア組織と協働することができました。
大阪・釜ヶ崎のボランティア団体とは日常的に連絡を取り合い、大阪での活動の基盤づくりに動き出しています。
どちらの分野の人たちともEメール連絡網がつながっており、「山谷」ふるさとまちづくりの会の活動を継続的に発信しています。
●行政との関係
NPOふるさとの会を通じて、城北福祉センターなどの東京都の福祉行政や区との連絡が徐々に確立し始めています。ただし、建設系の行政とは連携・連絡を持てていません。

■ 活動について
「山谷」ふるさとまちづくりの会は1999年6月から活動しています。先行する山谷プロジェクトチームの活動は1998年1月から始まりました。
●背景
 東京都山谷地域は日雇い労働者の寄せ場として成立し、不況の中での失業問題と連環して約3000人のホームレス+ドヤ居住者8000人という問題を抱えています。
 ボランティアサークル・ふるさとの会はこれまで、そうした山谷地域を中心に、炊き出しボランティアから共同リビングの提供、その他さまざまなイベントの開催などを通して路上生活者のケアをおこなってきました。しかし、そうした単発的ケアの限界から、24時間体制の自立支援施設の必要性を感じて始めていました。
 そうした要請にこたえるため、建築・まちづくりを専門にするメンバーによって高齢路上生活者自立支援施設検討会(通称:山谷プロジェクトチーム)は生まれました。
(自立支援施設とは、長い路上生活等で失われた生活のリズムをとりもどす訓練をすることにより、自らの意志で生活をかたちづくっていくことへの支援をする施設である)

■活動の内容
 現在は、施設づくりとまちづくりの二面で活動が展開しています。
●施設づくりとしては、民家改造による自立支援のための「ふるさと千束館」(1999)、「ふるさと日の出館」(2000)の実現と、それにいたる施設計画プログラムの検討提案があります。
●まちづくりとしては、「山谷」ふるさとまちづくりの会の毎月の定例会を通じて地域データの収集、東京都の路上生活者実態調査への協力やイベントへの参加、シンポジウムの開催などの他、研究合同ゼミ、雑誌の発行を行っています。
●次段階の活動は、地域の住民・居住者などにアプローチするためのまちづくりビジョンづくりになります。まずは、簡易宿泊所経営者に向けて、宿泊所を自立支援施設として再生させる提案など、施設づくりからまちづくりへとつながるシナリオの提案からはじめます

■活動の経年変化と成果

1.施設計画案づくりからのスタート
山谷プロジェクトチーム/1998年1月〜1999年6月
◆はじめの一歩―パンフレットづくり/1999年5月
(「高齢路上生活者自立支援施設」案)
 ふるさとの会からの要請は、彼らが高齢路上生活者の自立支援施設として抱いている漠とした考えを目に見えるかたちにしてほしい、ということでした。行政・住民の理解を得るために具体的な目標空間イメージが必要だからです。我々は仮想の敷地を設定し、パタン・ランゲージなどの手法を用いながら、イメージを具体的な図面に置き換える作業をはじめました。
 最終的に提案したものは、最小限のプライバシーが守られる個室群とそれらをつなぐ明るい共有空間で構成されています。共有空間は3段階にわけて配置されました。
(1)小人数の居住者が集まれる小さな共用スペース
(2)居住者みんなが集まれる大きな共用スペース
(3)居住者だけでなくまちの人が加わることのできる開かれた共用スペース
◆UIA国際コンペ「建築と貧困の廃絶」/1999年3月
 パンフレット作成と並行して、途中段階での考えをまとめるためにUIA主催のアイディア・コンペに応募しました。(建築家部門・佳作入選)

2.施設づくりの実現
山谷プロジェクトチーム/1998年1月〜1999年6月
◆「ふるさと千束館」への道程/1999年3月
 資金的に厳しく加えて施設に対する理解を得ることが難しいことなどもあり、なかなか実現できなかったけれど、そんな中からこうした事業に一定の理解を示してくれる家主と不動産業者が現れ、1999年3月、小さな古い木造住宅を借り上げて改造工事を行なうことになりました。都との協議を経て、生活再建のための施設ではあるが長期居住型の自立支援施設ではなく、短期通過施設である「東京都第二種社会福祉事業・宿泊所」としてです。
 山谷プロジェクトチームのメンバーが設計監理やベッド工事、ボランティア工事もおこなっています。
 限られたスペースと予算の中ではパンフレットで提案したすべてを盛り込むことはできません。生活の自立支援という課題から、優先されたのは個のスペースではなく共有のスペースでした。
◆ふるさと千束館の開設/1999年6月
 現在の千束館は、通常20名程度の入居者に対して、毎日の食事・入浴を中心に月に何度かの医療ケアなどさまざまな活動を投入し、自立生活のための環境を維持しています。
◆環境行動事業/1999年9月〜2000年3月
 開設後の事業として、1999年度(社)住宅生産団体連合会「住宅関連環境行動助成」を受けて3つの事業を行いました。千束館居住者にもまちの人にも益のある環境行動事業を率先して行なうことによって地域住民によいイメージをもってもらえることを願っています。
(1) 真空式ソーラー温水器と太陽電池パネルの設置。
(2) 台所生ごみを処理するためのコンポストの設置。
(3) 道路に面する壁面やベランダ手摺などにプランターやワイヤーを設置しての緑化。

3.まちづくりへの発展
「山谷」ふるさとまちづくりの会/1999年6月
◆シンポジウム「ホームレス:家をなくした人たちの自立再生の展望」(新建築家技術者集団東京支部・日本住宅会議関東会議主催)/1999年6月
 「住まいの原点を問う」という共通テーマで実施された連続講演会の第1回企画です。パネリストは岩田正美(日本女子大)、水田恵(ふるさとの会)、ありむら潜(西成労働福祉センター)、大崎元(山谷プロジェクトチーム)の各氏、コーディネーター中島明子氏(和洋女子大)で、このときホームレス問題を地域のまちづくりに連動させて解いていくという展望が見い出されました。
◆「路上生活者と共に活動する『山谷』ふるさとまちづくりの会」(略称:「山谷」ふるさとまちづくりの会)/1999年7月〜(月1回)
 上記シンポジウムをきっかけに、ふるさとの会と山谷プロジェクトチームが呼掛けて発足しました。建築・まちづくりに関係するものだけでなく、社会学や福祉学、ボランティア、学生など、関心のあるすべての人に開かれています。今後のまちづくりシナリオを模索しています。
◆ミニ講演会/2000年4月〜
 「山谷」ふるさとまちづくりの会の一環として、一般に開かれた講演会を催しています。
 第1回 黒崎洋二氏 4月8日
 「住みつづけられるまちづくり」
 第2回 平山洋介氏 5月7日
 「NPOによる地域再生とまちづくり」
◆「(仮)浅草史誌」の発行/1999年10月〜
 NPOふるさとの会と共同発行しています。会の動きを常に公開していくことで多くの人に関心をもってもらうと同時に、住民自身も把握しきれていない山谷地域の客観的な現況や山谷のまちづくりに関わる様々な情報を提供していくことを目的にしています。
◆「ふるさと千束館特別コンサート」悠久の音色〜胡琴の夕べ〜/1999年10月30日
 住民や地域で活動する人々に千束館をより身近に感じてもらおうと開催されました。
 費 堅蓉(フェイ・ジェンロン)さんによる三弦と琵琶の演奏で、分かりやすい解説とともに何種類もの楽器が奏されました。地域住民(町内会等)、千束館居住者、東京都関係者、報道関係、研究者など多くの参加がありました。

4.新たな動きの中から
◆女性ホームレスのための自立支援施設=
『ふるさと日の出館』建設/2000年5〜8月
 ふるさと千束館に続いて、女性ホームレスのための路上生活者自立支援施設が今動き出しています。女性の場合は男性ホームレスとはまた違った状況があり、我々の目には見えないかたちでのホームレス状態の人たちが各地の施設にかなりの数収容されています。
 今回はふるさとの会が他の場所で運営している「共同リビング」の機能もここに移し、その他地域に住む高齢者の援護対策としてショートスティなどの機能も含めていきたいと考えていて、「ふるさと千束館」ではあまり実現できなかった「地域に開かれた」施設としてのあり様を展開していきたいと思います。
 2000年8月改造工事完了、開設予定です。

■経営状態
●「山谷」ふるさとまちづくりの会は研究会であり、組織としての経営基盤をもちません。そのため組織全体としてでなく、事業単位で活動助成、業務委託などを受けています。
●財団等からの活動助成
1999年度から2000年度にかけて、NPOふるさとの会との協働でいくつかの民間団体から活動助成を受けています。これらの助成が会員活動の主な財政基盤になってきました。
(1) 財団法人ハウジングアンドコミュニティ財団
1999年度住まいとコミュニティづくり活動助成
『高齢路上生活者自立支援施設の提案と山谷のまちづくり』30万円
/高齢路上生活者自立支援施設検討会
(2) (社)住宅生産団体連合会
1999年度住宅関連環境行動助成
『NPOによる路上生活者宿泊所の効果的運営のための環境共生事業』100万円
/「山谷」ふるさとまちづくりの会
(3) 財団法人ハウジングアンドコミュニティ財団
2000年度住まいとコミュニティづくり活動助成
『山谷/地域再生+路上生活者支援の情報ネットワーク(居住・福祉・雇用に向けて)』80万円
/「山谷」ふるさとまちづくりの会
●設計監理の業務委託
「ふるさと千束館」「ふるさと日の出館」工事に関しては、事業主であるNPOふるさとの会から設計監理の業務委託を受けています。
(1) 『ふるさと千束館改造工事』47.25万円
(2) 『ふるさと日の出館改造工事』52.5万円
●日常的な活動
助成対象以外は、NPOふるさとの会、新建築家技術者集団、日本住宅会議などへの協力参加と、自己負担によるものがほとんどで、出版など採算性のある事業は行えていません。

■特定非営利活動法人ではない理由
●出発点がNPOふるさとの会を建築・まちづくりの専門的な面から支援することだったため、会自体がNPOになる必然性はありませんでした。
●しかし、今後、地域再生を建築・まちづくりを軸にCDC的方法で展開していくには、NPO・法人化も検討しなければなりません。

■現在の課題
●人材確保
会員のボランティアを基にした活動が、短期間にいくつかの実際的事業を行うようになったため、事業を実現していくプロジェクト・スタッフの確保が難しくなってきました。スケジュールや予算の限定された事業を責任をもって進めていくだけの、余裕ある人材確保が必要になってきています。
●基礎的な情報収集
山谷地域はその独特の地域性から、地域情報を収集する上での難しさがあります。路上生活者・簡易宿泊所居住者の実態把握の困難さ、地域経済の不透明さなどを乗り越えて、地域再生まちづくりビジョンの基礎となるさまざまな情報を収集していかなければなりません。
●「住民参加」までのプロセス
NPO、行政などとの関係はできてきましたが、路上生活者の自立支援という活動がまち全体のコンセンサスを得てはおらず、住民参加にまでつながっていません。「住民参加」にまでいたるプロセスを構築する方法を見出していくことが、これからの大きな課題です。

■今後の展望
● 組織としての展望
事業を実践できる組織力を持つために、CDCを念頭に置いてのNPO・法人化を目指す段階にきています。
● まちづくりとしての展望
住民参加にいたる途中段階として、簡易宿泊所宿主や商店主など、自立支援プログラムに直接関係する主体との窓口を開いていくことです。

■今後望まれること
●組織としての希望
活動を開始する際の初期投資、立上げを支援するような助成、補助、優遇などの制度的対応や、税制だけでなく信用保障のような側面からの支援が期待されます。
●まちづくりとしての希望
アメリカCDCにおいて顕著なように、地域再生を実際の事業において展開していくためには、NPO事業に対する税制面での優遇や、民間企業がCDC事業を支援しやすくなるような制度、信用保障などが期待されます。(以上)

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