路上生活者と共に活動する「山谷」ふるさとまちづくりの会
(略称:山谷ふるさとまちづくりの会)


趣意書

代表:中島 明子


■路上生活者への生活支援のボランティアから始まったふるさとの会も、十年の活動を経て、新たな活動を展開することになりました。

■路上生活者と共に活動する「山谷」ふるさとまちづくりの会(略称:山谷ふるさとまちづくりの会)は、路上生活者と、地域に住み・働く人々、そしてボランティアの人々が、共に山谷地域のまちづくりを考え活動するために、ふるさとの会の呼掛けで、1999年6月に発足しました。

■地域の再生と路上生活者の人々の人間らしい暮らしの回復を結び付ける試みは、アメリカ、イギリスでも取り組まれ、路上生活者を地域から“排除(Exclusion)”するのではなく、“共生(Inclusion)”の視点で地域の主役の一人として考えています。この困難ではありますが魅力的なテーマは、現在の地域福祉、都市計画、まちづくりへの挑戦でもあります。

■山谷地域の人々、行政、医療・福祉・保健、建築、都市計画にかかわる人々、そして路上生活者が、信頼関係にもとづいた新しいネットワークの下で、福祉を軸にした総合的なまちづくりの可能性を追求し、山谷地域を誇りのもてるまち“Pride of Place”になるように・・・。私たちの夢はふくらみます。

1999年6月

<組織>
名称
路上生活者と共に活動する「山谷」ふるさとまちづくりの会
(略称:「山谷」ふるさとまちづくりの会)

<代表>
中島 明子 和洋女子大学家政学部生活環境学科教授

<助言グループ>
前野 まさる 東京芸術大学美術学部建築学科教授
岩田 正美 日本女子大学人間社会学部社会福祉学科教授
塩崎 賢明 神戸大学工学部建築学科教授
松本 暢子 大妻女子大学社会情報学部社会情報学科助教授
黒崎 羊二 (株)まちづくり研究所所長
ありむら 潜 (財)西成労働福祉センター

<ふるさとの会世話人>
水田 恵 ボランティアサークルふるさとの会
麦倉 哲 東京女学館短期大学助教授
遠藤 幸司 ボランティアサークルふるさとの会

<研究会員>
早田 宰 早稲田大学社会科学部助教授
加藤 仁美 東海大学工学部建築学科助教授 
増渕 信哉 東海大学工学部建築学科
山本 厚生 生活建築研究所
大崎 元 (有)建築工房匠屋
永井 幸  (株)福手設計事務所
小野 誠一 小野建築設計室
関内 潔 SEKIUCHI Furniture Factory
田村 孝平 (株)コムテック地域工学研究所
丸山 豊 (株)まちづくり研究所
林 工 (株)鹿島出版会 書籍編集部
黒崎 匠 地域建築空間研究所
杉山 和雄 地域建築空間研究所
岡沢 まどか 地球デザインスクール
大久保 徳子 東京都交通局
大岩 摩子 (有)設計事務所ゴンドラ

事務局:ボランティアサークル・ふるさとの会 03-3875-5164/03-3876-7950(FAX)

Email 大崎 元(建築工房匠屋) VED03705@nifty.ne.jp
    丸山 豊(まちづくり研究所)JDP07511@nifty.ne.jp


「山谷」型まちづくりに向けて

大崎 元


■施設づくりからまちづくりへ

1999年 7月31日「山谷ふるさとまちづくりの会」の第1回会合が台東区千束社会教育館で開かれました。この会は「山谷」地域に典型的に現れている路上生活者問題を、その問題の中でだけ個別に取り扱うのでなく、山谷という街全体の問題として位置づけ、「まちづくり」という視点で解決の道を探っていこうとするものです。

山谷地域は、関東大震災から戦後復興、高度経済成長にかけて労働者供給市場としての役割を担いつつ、しかも「排除」の歴史を背負いながら、都市によってつくり出され、囲い込まれてきた地域であり、現在、非常に特化した形でいわゆるホームレス問題が顕著に見られます。
しかし、山谷地域には簡易宿泊所や木賃アパートだけでなく、住宅や学校、商店街、工場、卸倉庫など様々な都市機能が混在し、お互いに微妙な距離を保ちながら稼動しています。そして今、そのどれもが衰退傾向にあります。それは日本中に見られる都市問題と同じ様相です。

会のきっかけは、1999年 6月19日池袋芸術劇場会議室で開かれた連続講演会『住まいの原点を問う』第1回 「ホームレス:家を失した人の自立再生の展望」の議論(報告別項)でした。その直後、台東区千束で第2種社会福祉事業・宿泊所『ふるさと千束館』(報告別項)が開設し、自立支援活動の拠点施設が生まれました。そうした動きを通じて、地域との協働関係の重要性や地域再生という視点の必要性を認識し、地域に潜在する可能性を改めて探ってみようということになりました。

欧米のCDCやCBOに範をとりながらも、山谷地域独自の地域福祉ネットワークを基軸にしたまちづくりによって地域の再生・活性化を模索し、そこから振り返ってホームレス問題の解決につなげるという方法を見出したいと思います。
この取組みは今始まったばかりでです。多くの方々の参加や協力を期待しています。

以下に基本的な枠組を示します。
■山谷ふるさとまちづくりの会
(正式名称)路上生活者と共に活動する「山谷」ふるさとまちづくりの会

●テーマ
<路上生活者の「自立」と結合した地域再生プロジェクト>−地域福祉ネットワーク形成による地域再生−

●設立の目的
これまでボランティアサークル・ふるさとの会が実施してきた山谷地域での高齢路上生活者自立支援のプログラムを継承しながら、新たに始まった高齢路上生活者のための第2種社会福祉事業・宿泊所の経営を起点に、路上生活者問題の解決を山谷のまちづくり全体のなかで考えていく。その中で地域住民や各種事業者間などのまちづくり合意を促進することで、路上生活者はもとより、この地域に住み働く人々と共に地域再生の方策を提案し、その事業化を図っていく。

●山谷地域で活動をおこなう背景
−山谷地域での必要性と可能性−
1.寄せ場としての山谷=ホームレス問題の深刻化
・日雇労働者の寄せ場としての山谷地域は、現在の不況下で失業問題と連環し、ドヤ居住者8000人と約3000人ものホームレスを抱えている。

2.地域の衰退=街荒廃の兆候
・居住人口はゆるやかに減少し、高齢化率も急速に高まっている。
・ 約200軒の簡易宿泊所・旅館の経営不振、商店街の衰退、靴製造など地場産業の不振、さらには木造モルタル建築密集が防災・住環境の悪化という問題を表面化させ、相互に悪循環=「負」の循環を起こしている。

3.地域の既存資源の活用=自力更新と「ローカルマネー」の可能性
・一方、山谷地域には大きな福祉予算、膨大な住居需要者、福祉需要者の存在、集合的に立地した老朽簡易宿泊所・旅館など、地域福祉、福祉産業、共同化、まちづくりといった可能性を内包する大きな社会的資源があるとも考えられる。

4.「負」の循環から「正」の循環への展開の可能性
・悪循環を断ち、路上生活者自立支援活動によるホームレス問題への対処を地域福祉+まちづくりの結節点として捉え直すことで、この街独自の「正」の循環が期待できる。

●活動の内容

1.山谷地域における地域福祉の確立
・個別福祉から始まった高齢路上生活者自立支援プログラムを山谷全体の地域福祉の中に位置づけながら、デイホーム・ネットワーク等の実現可能な地域福祉提案を構想する。

2.地域福祉から始まるまちづくり
・地域福祉をホームレス問題から旅館業・零細地場産業・近隣商業の再生や居住環境改善などに一体的につなげていくプログラムを提案し、その実現方策を検討する。

3.主体づくりと共通認識づくり
・地域福祉からまちづくり、そして地域再生へとつながるシナリオを提案し、住民・各事業者・行政等の間に合意形成をすすめ、NPOを中心とした協働しうる体制を生み出す。

4.「山谷まちづくりシナリオ」
・福祉サービス業の導入や、簡易宿泊所・旅館、老朽住宅、商店などの共同建替等も併せて、地域経済と地域再生の基本条件を整える事業を提案し、地域各層の自力更新を促して「正」の循環を生み出す。


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