1.増え続ける高齢路上生活者

 東京などの大都市部では、路上生活者が急増しています。失業や貧困の問題に加えて、路上生活者の高齢化、疾病などが重なり、さらには行政がその場の対処に追われ、限定的で有効な福祉政策となっていないことが路上生活者の数を増やし、路上生活の長期化、固定化、さらには回帰化をもたらしています。

(図:「増え続ける路上生活者」を参照)

2.山谷はいま・・・・

 台東区北部の山谷地域は、その代表的な例です(図:「山谷地域」を参照)

戦後より日雇い労働者の寄せ場として高度成長に貢献してきた場所であり、ドヤと呼ばれる簡易宿泊所が彼らに寝所を提供してきました。
 バブル経済の崩壊後、就労場所を失う人が急増し、山谷とその周辺地域には路上生活者がいっそう増えています。

 現在、約2,000人弱の人が路上やビニールシートでつくったテントで生活し、また、約2,500人の路上生活を体験した高齢者がドヤを住まいとして生活しています(図:「台東区北部の路上生活者数」を参照)

3.ドヤから再び路上生活へ

 多くのドヤ(簡易宿泊所)は高度成長期に建てられたもので、老朽化しています。個室は2〜3畳程度の広さが中心で、洗面所・トイレは共用、風呂は狭い家庭風呂程度のものがあるのみで、宿泊施設であるにも拘わらずほとんど利用できない状態です。入居者が集う場所もありません。

 長い路上生活の末、心身に障害を負い自活能力を失いつつある高齢者がこのようなドヤで生活しています。生保受給後の自立への支援がないままに、再び路上生活に戻る(回帰化)人も少なくありません

4.これまでの対策

 一方、今までとられてきた行政施策を振りかえると、限定的非継続的で、個別メンタルケアの不足など、特に高齢ホームレスのニーズを満たしているとはいえない現状です。

 そこで、わたしたちはボランティアの立場から、自立支援の活動「高齢路上生活者自立支援センター」を小さな場所を借りて開いてきました。そこでは、自立のためのプログラムに参加する中で人間同士のつながりに喜びを見いだしてきたホームレスもいます

 しかし、こうした活動への参加も、ドヤに帰ると再びアルコールに依存するなど、生活そのものの改善にいたらないことの多いのが現状です。

5.自立支援施設の提案−再び路上生活に戻らないために

 いま必要なのは、路上生活経験者の生活の再建−自立ということです。ボランティアや行政と接点をもった路上生活者が自立を志向し、再び路上生活に戻らないための施策が必要なのです。そのためには、安定した住居の保障と24時間体制のケアが必要です。

 こうした条件をもった私たちの提案するグループホームは、ボランティアの運営により、路上生活を経験してきた高齢者の日常生活を支援し、その中で彼らが自立した生活を取り戻していくことを目的としています。

6.なぜボランティアが運営するのか

 行政のケースワーカー(担当者)は、現状では一人で100人以上の対象者を担当しています。これでは、個々に特性をもった高齢者のケースワークはできません。

 ボランティアはこれまで独自にホームレスと関係を築いてきました。だからこそ、それぞれの人がかかえる問題をよく知る立場にあり、行政担当者と比べても、十分な時間をかけて個々人の自立のための相談にのって支援することができます。

7.NPO法人として

 ボランティアが非営利で事業を営む社会的要請も高まってきました。今回の場合、行政とNPO(非営利民間組織)法人が契約する形式をとり、協力関係を築くことになります。

 従来しばしば、不動産などの財産をもつ事業者が老人ホームの経営などで問題を起こしてきました。しかし、非営利の市民法人は、市民に対して情報を公開し、行政との契約により活動しますので、二重の責任を負い、かつ利益追求をしません

8.地域の再生

 路上生活者が路上で生活する代わりに、通常の生活をすることは、まちの環境もイメージもよくなります。またこうした高齢者が生きがいをみつけ、地域の一員・消費者として生活することは、地域商店街の繁栄にも寄与し、さらにはみずから社会の担い手としての自覚をもち、社会に貢献し、地域を支えていく主体ともなっていきます。共存共栄の共生型社会をつくることにより、都市は再生し活況を呈していくと私たちは考えています。

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