公開:2004年7月4日

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写真


解説:太陽との対話

 この写真は、写真によって何かを伝えるタイプではなく、見る人の(創造力でなくて)想像力を引き出すタイプの作品です。

 この被写体を普通に撮るなら、背景の空をこんなに広く入れないでしょう。主役をもっと大きく写して、それがより強く見えるようにします。でもそれでは、作品としての魅力が高まりません。

 写真の狙いを変えて、見る人に想像させる形にしました。写っている主役が、太陽と対話している雰囲気を、見る人に感じさせる写真に。それには、2つの要素が必要だと考えました。

 最初の要素は、写真の撮り方です。太陽自体を入れて対話を感じさせるのはかなり難しいので、太陽に向かって対話していると感じられるように、別な形で“準備”します。あくまで“準備”です。具体的には、背景の空を広く入れて写します。主役が左上を向いていたので、左上に空を大きく入れました。

 もう1つの要素は、写真のタイトルです。「対話」という言葉を入れることで、対話のイメージを強制的に誘導します。タイトルにより誘導された状態で、対話を感じるように“準備”された写真を見ると、主役が対話していると感じやすくなります。背景の空いている空間の中で、見る人それぞれが対話を想像するわけです。

 このようにタイトルで誘導する方法は、写真表現の中でよく使われます。写真では表現しづらい内容もあり、それをタイトルの言葉で補うためです。この方法で大事なのは、誘導の言葉を撮影前に決めて、その誘導がもっとも成功するような形で写真を撮ることです。フレーミングの際には、誘導の言葉と組み合わせた効果が高まるように計算して、主役や背景などを配置します。

 この写真を写したのは、晴れた冬の日でした。おかげで、背景の空の色が普段より青く写り、良い印象に仕上がりました。太陽との対話は、宇宙という幻想的な世界であり、青い色の背景は宇宙の印象に通じます。単なる偶然ですが、写真の狙いを強化する効果が得られました。ただし、同じ状況をE-1で撮影したら、もっと印象的な青になって、さらに良い出来になったでしょう。この写真の撮影時点ではE-1を持っていなかったので、実現は不可能なのですが。

 今回の狙いを実現するとき、縦位置で写すという選択肢もあります。でも、撮影したのは、横位置のたった1枚だけでした。撮影したとき、縦位置を思い付かなかったのかも知れません(もしかしたら、ファインダを覗いてダメだと感じたのかも知れません)。後から考えると思い付くのに、その場では思い付かないことは、よくあります。撮影時に考えるのは30秒とか1分ですから、考える時間が少ないのが原因でしょう。今回の場合は、縦位置で写した方が良かった感じがします。ただし、本当に良いかどうかは、実際に写してみないと分かりません。良いと思ったのに、実際に写してみたら期待外れだったことも、よくありますから。