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甘い血の待つ星
 

 ヒースリード発電プラントを銀河中に売り込むのが僕の仕事だけれど、生き馬の目を抜くような中央星系での営業はどうも苦手で、不定期のトランパー船しか通っていないような辺境を、いつも渡りあるいていた。
 オーガス7はそうやってたどり着いた星のひとつだった。系内にそれ一個しか可住惑星のない、田舎の――よく言えばのどかな星系だ。なぜとはなしに、ふるさとに戻ったような気がした。僕は戦争孤児で、本当のふるさとなんかないのだが。
 地元企業への売り込みは最初、うまく行きそうだった。だが、数度目の商談で、何が気に障ったのか、急に相手の態度がよそよそしくなった。そのまま話が流れそうな雰囲気に、不安を感じながらビルを出た。
 もう夜で、空には星が光っていた。星座は見慣れない形だったけど、ひときわ明るく輝く砂色の星が、なぜか僕を慰めているように思えた。
 そうやって上を見て歩いていたら、人にぶつかった。
「きゃっ!」
「あ、失礼」
 尻もちをついたのは、若い女の子だった。青い髪が長くて、涼しげな顔立ちの美少女だ。すらりとした足が太ももまで見えるような大胆なミニをはいている。
 彼女は僕をにらんで文句を言った。
「どこ見て歩いてるのよ!」
「ごめん、星が綺麗だったもんだから……」
「星?」
 手を貸して助け起こしながら、僕は空を指差した。少女は言った。
「オーガス8?」
「あれはオーガス8っていうの? てことは、この星のひとつ外の惑星か」
「……あなた、よそ者?」
「中央から来たんだ。重電プラントの営業マンさ」
「でも、髪は」
 言われて僕は頭に手を当てた。中央ではよくからかわれる、青い髪だ。
 少女と同じ色だ。そういえば、売り込み先の社員も道行く人々もみんな同じだった。ここの人間の特徴だろうか。
 僕は笑った。
「偶然だよ」
「ふうん……」
 少女はじろじろ僕を見つめてから、猫のようにニッと笑った。
「あなた、これから暇?」
「ホテルに帰るだけだけど……」
「じゃ、晩ごはん付き合わない? いい店を知ってるわ」
「え? そんな、見ず知らずの女の子に……」
「ばか、あなたがおごるのよ。ぶつかった罰金」
 中央ではこうやって男を誘う美人局や、詐欺まがいの連中がたくさんいる。けれど、この子はなぜか、そんな悪人じゃないような気がした。
「分かったよ。僕はヒトリ」
「あたしはホノカよ」
 僕たちは手をつないで歩き出した。

 ホノカは美人局や詐欺師じゃなかった。ましてや娼婦なんかじゃなかった。
 なのに、食事の後で誘われた。
 少しためらったけど、僕はOKした。嫁さんや恋人がいるわけでもないし、彼女もそうだと聞いたからだ。それに、この時代、避妊や性病予防は簡単にできる。
 ホテルに入って探すと、思ったとおりメドチェッカーが備え付けられていた。それ一つで十五万六千種の病原菌感染判定と、遺伝子検査までできる医療器具だ。病院でなくとも、男女が触れ合うようなこういう場所には必ずある。
 僕がチェッカーの端子をなめて差し出すと、ディスプレイの表示を見て、ホノカは満足そうにうなずいた。
「綺麗なもんね。あたしのも見る?」
「いや、いいよ」
 それから僕たちはセックスした。
 体が溶けてしまうような、熱くて心地よいセックスだった。今まで出張先の女の子と寝たことはあったけれど、それとは比べ物にならないほど素敵だった。
 三度交わったあとで、ぬめらかな彼女の中にたゆたいながら、僕は彼女の乳房を優しく吸った。ホノカが笑った。
「なあに、赤ちゃんみたい」
「ん……なんだか甘えたい気分なんだ」
「ふふ……好きなだけ甘えていいわよ、ボク」
「ボクはやめろよ」
 鼻の頭にしわを寄せて可愛らしく笑うホノカを、僕はつついた。でも不快ではなかった。ホノカが年上だと食事の時に聞いたからだ。見た目は十七、八でしかないのに。
「いつもああやって、男にぶつかってるの?」
「まさか。あなただからよ」
「よそ者だから? この星の女の子は旅人が好きなのかな」
 そう言うとホノカはなぜか笑った。
「あはは、それ全然違うよ」
「違う?」
 ホノカは顔を傾けて、窓の外の夜空を見た。オーガス8が光っていた。
「あなたは知らないのよね。……教えてあげるから、続けて」
 僕はもう一度彼女の中で動き出した。甘い吐息を漏らして僕のあごにキスしながら、ホノカは話し始めた。

   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

 自分の体ぐらいあるユウヒ魚の重さにもめげず、キートは全力疾走で砂丘を越えて、一気にフネへと駆け下りた。
「ターナ! でっかいの取れたよ!」
 フネの側で洗濯物を干していた娘が振り返った。長い青い髪が優雅に流れる。キートは一息に駆け寄って、たった今浜で取ってきた獲物を草の上に投げ出した。
「ほら! 久しぶりの大物!」
「まあ、頑張ったわね」
 ターナが包み込むような優しい笑顔を浮かべた。
 その夜の食事は、もちろんユウヒ魚の丸焼きだった。フネのそばに作ったかまどで焼けていく、夕日色の巨大な切り身を見ながら、キートは白い歯を見せてうきうきと言った。
「当分はこいつでしのげるね」
「そうね。おなかいっぱい食べられるわね」
 足をそろえて座ったターナが微笑む。その優しい顔を、キートはうっとりと眺める。
 キートはターナの美しい姿が、本当に好きだった。モメン草のワンピースから覗く輝くような肌や、弾むように豊かな胸や腰や、ミツアミヅルで縛った細い腰が好きだった。ターナがキートよりずっと長い手足を振って、踊るように洗濯物を干したり、ちょっとした悪戯のように指先を動かして、モメン草の服をつくろう姿は、いつまで見ていても飽きなかった。
 ここにあるのは、海と砂丘と草原とフネだけだ。でもキートは、ターナと二人きりのここでの暮らしに、心底満足していた。
 ユウヒ魚がいい具合に焼け、キートとターナは腹いっぱい食べた。それからターナは、いつも持ち歩いている小瓶を開けて、マクロビアニンの錠剤を一粒飲んだ。
 それだけは、ターナが独占しているものだった。いつものことだったが、キートは身を乗り出して言った。
「ねえターナ、それくれない?」
「だめだって言ってるでしょ。これはすっごくマズい薬なのよ」
「ちぇー、そんなことばっかり言ってさ」
 ツンと顔をそむけたターナを、キートは恨めしそうににらんだ。
 その夜遅く、フネの寝室で、キートはむっくりと起き上がった。
 部屋を出て、音を立てないようにブリッジに向かう。その狭い部屋にはベッドなどないのだが、ターナがいつもそこで寝ている。キートが一緒に寝ようといくら言っても、頑として許さないのだ。
 ブリッジに忍び込んだキートは、明かりをつけずにしばらく待った。暗かったが、かすかな明かりはあった。窓から、砂色の星の光が差し込んでいるのだ。
 目が慣れると、おぼろげに室内の様子が見えてきた。リクライニングしたシートに、膨らんだ毛布が横たわっている。目的はそのそばの救急キットの箱だ。
 キートは息を殺して箱に近づき、それを手に取ると、そっとブリッジを出た。
 それからフネを出て、外の草原に腰を下ろし、箱を開けた。
 マクロビアニンは小瓶の底に一割ほど残っているだけだった。キートはどきどきしながら蓋を開け、それを一粒、手のひらに乗せた。まずいまずいと言いながら、ターナは月に一度、必ずこれを飲んでいる。なんの薬だか言ってくれないのが怪しかった。
 本当は、すごく甘くてうまいお菓子なんだ。
 キートはそれを舌に乗せ、唾液に包んだ。
 その途端、あごがしびれるようなものすごい苦味が突っ走った。期待と正反対のひどい味に驚いて、キートは草の上にそれを吐き出した。
「うえー……ほんとだったんだ」
 ターナは嘘をついていなかった。疑って悪かったなあと気落ちしていると、悲鳴のような声が飛んできた。
「キート、それ飲んじゃだめ!」
 キートは飛び上がった。おそるおそる振り向くと、フネのタラップにターナが立っていた。転がるようにタラップを降りてくると、逃げ出したくなるほど恐ろしい顔で、キートの手から小瓶を取り上げた。
「飲んだの!」
「え、うん……」
「吐いて! 今すぐ!」
 ターナがキートの首をもぎ取らんばかりの勢いで抱きついて、喉の奥に指を突っ込もうとした。キートは脅えながら手を振り回した。
「や、やめてよ! なめたけど苦かったから吐いたんだよ!」
 それを聞くと、ターナは草の上にぺたんと尻もちをついて、ほーっと息を吐いた。
「そう……よかった……」
「ごめんよ。でも、そんなに怒らなくってもいいじゃんか」
「一錠だって無駄にできないのよ、時が来るまでは……」
「時?」
「ええ」
「時ってなんの」
 ターナは答えない。キートは別のことを聞いた。
「じゃ、それがなんなのか教えてよ。それぐらいいいでしょ」
「……言えないわ」
「なんだよ、それ」
 キートは腹を立てた。ターナの両腕をつかんで顔を覗き込む。
「どうして教えてくれないんだよ。ターナ、ずるいよ。僕はなんにも隠してないのにさ、ターナばっかり秘密作って」
「……」
「一緒に寝てくれない理由も秘密だしさ、月に一回トイレで血が出るのに、なんの病気か教えてくれないしさ」
「キート!」
 ターナが険しい顔でにらんだ。
「それはおおっぴらに言っちゃだめって言ったでしょう!」
「あ……ごめん」
 キートは口元を押さえた。つい口が滑ったが、ターナとの約束を破ってしまった。
 トイレでのことや、体の一部に関わることは、お互い見てはいけないししゃべってはいけない。そういう約束だ。――どうしていけないのか分からなかったが、キートは守っていた。なんとなく、そうしなければいけないという気がしていたのだ。
 それを考えたとき、キートは自分も秘密を一つ持っていたことを思い出した。
 後ろめたくなって、黙り込む。すると、ターナが手を伸ばして、キートを抱きしめた。
「隠し事してごめんね、キート」
「……」
「キートが怒るのも当然ね。今は言えないけど、いつかきっと教えてあげるから……」
 ターナの柔らかい乳房に胸板を受け止められる。キートの怒りが溶かされてしまうような温かさだ。頬がぽっと熱くなって、腰のあたりがむずむずした。
 キートは後ろめたくなってきた。ターナが言うことはいつも筋が通っている。隠し事をするのだって、ちゃんとした理由があるのに違いない。自分が子供っぽい恥ずかしさで嘘をついているのとは、わけが違うのだ。
 キートは素直に謝ることにした。
「ターナ、ごめん。実は……僕も嘘ついてたんだ」
「なあに?」
「あのね……前にターナが言ったでしょう。僕の体がおかしくなったら隠さずに言えって」
「うん」
「ちょっと前から……変なんだ」
「変って?」
「夜中にたまに、ち……ちんちんがずきずきする。朝になると、パンツに変な汁が出てるの。今まで、こっそり洗ってた」
「……キート」
「今もね、そんな感じ。……なんか、ターナのことを考えるとそうなるんだ」
 ターナがキートの肩をつかんでゆっくり押し離した。ためらいがちに手を下げて、キートのワンピースの上から股間に触れる。
 硬く張っていた先端を撫でられて、キートは寒気を感じたように震えた。ターナが視線を上げて、正面から見つめた。
「キート、その変な汁って……白っぽくて、とろとろの?」
「う、うん」
「どうして言ってくれなかったの?」
「だって、これ、ターナとの約束に当てはまるじゃないか。それに……恥ずかしかったし」
「言ってくれてもよかったのよ」
 キートは息を止めた。ターナの顔がバラ色に上気していた。見たこともないほど嬉しそうな微笑だった。
「それは、あなたが大人になったってことなのよ」
「大人?」
「そうよ。ああ、十二年待って、やっと……」
 ターナがもう一度抱きしめた。怒られることもなく豊かな胸に押し付けられて、キートは安心しかけたが、しばらくして逆にあわて始めた。
「ちょ、ちょっと、ターナ……」
 乳房の形が変わるほど強く顔を抱きしめられる。それだけではなく、尻を引っ張られて、ターナの太ももをまたがされてしまった。キートの性器が、ターナの柔らかな下腹でぐりぐりと押し潰されてしまう。
「だめだよ、それ、いけないことだよ!」
「いいの、もういいのよ。今まで禁じてきたのは、慣れ切ってしまって欲情できなくなるのを防ぐためだったの」
「ヨクジョウってなに? た、ターナ! それだめだってば!」
 キートは恐怖を覚えて腰を引こうとする。だが、途中で体を震わせて静止してしまう。ターナの指が愛しそうにキートの先端をくすぐっている。今まで感じたこともないひりひりとしたしびれが広がり、怖がるキートを逃がさない。
「何これ? ターナ?」
「これが欲情。気持ちいいでしょう?」
 気持ちいい? これが?
 生まれて初めての感覚を、キートは徐々に認めていった。そうだ、気持ちいい。なんだか分からないけど気持ちいい。
「ねえ、ターナ……これなんなの」
「前に話して上げたわよね。女の子は赤ちゃんを産むことができるの。でも一人じゃだめ。男の子の精子をもらって、子供を作るのよ。私は子供を作らなきゃいけない。あなたが射精できるようになるのを待ってたの……」
 セイシ、シャセイ。初めて聞く言葉がぐるぐると頭の中で回る。どれも、耳を塞がなければいけないほど危険な言葉だと分かった。以前のターナなら絶対に言わないような。
 それを平気で口にしている。ターナが、約束を破っている。許している。
 精通を迎えた体にたまりつつあった、得体の知れないもやもやが、一気に形になった。あの白いべとべとが出た朝の体のうずきが、何を求めていたのか、キートは本能的に悟った。
「ターナ……シャセイしていいの? ターナがさせてくれるの?」
「そうよ」
 ターナは長いまつげをキートの額に滑らせて、甘い匂いのする唾液を頬に押し付けた。
「あなたは私の中に射精するの。そして……あなたの妹を作るのよ」
「妹?」
 キートの問いは、ターナの唇に押し潰された。

 まったく肌に刺さらない綿のような草の上で、横たわるキートの体をターナが愛撫する。
 ワンピースの裾をめくられたとき、キートはまだ抵抗を残していた。
「ターナ、そこ見るの?」
「ええ。キートの立派なおちんちん、見せて」
「は、恥ずかしい……」
 そんなことを口にし、しかも見せてなどと頼むターナが、キートは信じられなかった。なのに、頭が煮え立つような興奮を覚えた。
 下着を下げられると、まだ茂みに覆われていない若い性器がぴいんと反り立った。ターナがつぶやく。
「可愛い……まだかぶってるのね。でも、すてき。ピンクできれい……」
 見つめるキートは目を疑う。ターナが軽く目を伏せて、ぶるっと震えたのだ。信じられないほどの喜びの表現だった。それからターナが、口に含んだ。
「ターナ!」
「力を抜いて。怖がらないでいいから。とってもいいことなのよ」
 キートは金縛りにあったように動けなくなる。見せるのもだめだと言われていたものを、ターナのつややかな唇が飲み込んでいる。崇拝に近い気持ちを抱いていた女性を汚してしまっている。恐れで心臓が止まりそうだった。
 なのにそこは燃えるように猛っている。にゅるにゅるとうごめくターナの唇に舌に、もっともっと押し付けたい突っ込みたい塗り付けたい。神経と心がどろどろに溶けていく。
 ターナは飢えたような激しさでキートのものを愛撫する。口いっぱいに含み、両手で幹も袋もいっしょくたに包み、しわ一本逃がしたくないというように、舌と指先で細かく細かくいじり抜く。自制心が消失してしまったような求め方だった。
「ご、ごめんなさい、キート……」
 先端の丸みに舌を這わせ、皮の隙間に突っ込んで注意深くむいていきながら、ターナが荒い息の合間に謝る。
「私、我慢できない。一回飲ませてもらうからね?」
「の、飲ませてって……」
「男の人の、十二年ぶりだもの。ずっと我慢してきたんだもの……」
 くるっ、と包皮がめくられた。「ひっ」とキートはうめく。その痛みも熱烈な舌の動きで溶かされていく。
「おいしーい……キートのおちんちん、私のキートの味……」
 ターナがぐっぷりと根元まで飲み込み、頬をへこませて強烈に吸った。
「出して! どぴゅって出して! 早く飲ませてェ!」
 叫びに誘われるように、キートは腰を突き上げた。今まで夢うつつの状態でしか感じたことのない刺激が、くっきりした鮮烈さで性器の中を突っ走った。
「ターナ、汚れちゃうよっ!」
 叫びながらもどうすることもできず、キートは激しく射精した。びくんびくんと腰を震わせて、意識も吹っ飛びそうな白い快感を、何度もターナの口内に噴出させる。
「はあっ、くんんっ!」
 快感の爆発に暴れ回るキートの腰に、普段のしとやかなそぶりからはかけ離れた貪欲さで、ターナはがっちりとしがみついた。夢精するほどたっぷりと溜めていたキートの精液を、受け止めるはしから喉の奥に飲み込む。すぐに間に合わなくなり、強くキートを包んだ唇から、ぶぴゅっと余りがあふれ出した。
「はあっ、はあっ、はあっ……」
 キートは肺の奥から空気を吐き出し吸い込んだ。まだ余韻に震える腰に取り付いたターナが、口の中の粘液をすべて飲み込んでようやく顔を離し、垂れ落ちたしずくを指ですくい取って鼻に近づけた。
 くすり、と淫靡に笑う。
「キートの精子、最高……思ったとおり、味も匂いもあの人と一緒なのね……」
 キートは声一つ出せずに脱力している。全身の毛穴が開いて、清冽な汗の玉が浮き出していた。ターナは鼻を押し付けたままその体に顔を滑らせて、子犬を気遣う母犬のようにキートをかぎまわった。
「良かった? キート」
「う……うん……」
「足がしびれて立てないぐらいでしょ?」
「ん……」
 ぼんやりと放心しているキートの視界に、ターナの顔が現れた。真っ赤に上気した頬に青い髪が数本張り付き、瞳は初恋の少女のようにキラキラと輝いている。凄烈なほど美しい顔だった。
「早く立ち直ってね。私の可愛いキート……」
 ターナがキートを抱き上げて、草の上に横たわった。キートは自分より大きなターナの体の上で、しばらく夢見ごこちにまどろむ。
「今のが……シャセイなの?」
「そう。すてきでしょ」
「すごく良かった。おちんちんが真っ白に燃えちゃったみたい……」
「すぐもう一回できるようになるわよ。男の子は何度も出せるのよ」
「そうなの?」
「ええ。もっといっぱいエッチなことを考えて。欲しいはずよ、男の子なら。何がしたいの?」
「エッチなことって……いけないこと?」
「そうよ。でもいけなくないの。あなたはもう、私に何をしてもいいの」
 キートは、自分を受け止めているターナの体に意識を向けた。顔が埋まってしまうほど豊かな乳房が、絶対に見られなかったワンピースの下の部分が、ぴったりと自分の体に張り付いている。
 いったん落ち着いていた心臓が高鳴り始め、わけのわからない衝動がむらむらと湧いてくる。これがエッチな気もちなんだ、とキートは自覚する。これをターナにぶつければいいんだ。
 キートは地面に両手と両足を着き、わずかに体を浮かせた。それから改めて、ターナの体をまさぐり始めた。ふわふわと乳房を撫で、むき出しの二の腕をつかむ。
「もっとよ。好きなだけ、したいだけ、どこにでも触って」
 キートは少しずつ大胆になっていった。撫でていた乳房を、押し、転がし、揉み、つかみ、ついには両手でぐいぐいとこね回した。たっぷりした肉が握れば握っただけ形を変え、こりこりに立った乳首が指先でピンとはねた。
「ターナ!」
 キートはしゃにむにワンピースの襟を引き裂いた。ほわん、と現れた二つの塊に十本の指を凶暴に食い込ませる。それでもどこかで、ターナの痛みを気遣う気持ちがあったが、彼女の表情がそんな気遣いを押し流した。背筋が寒くなるほどの歓喜の顔だった。
「いいわぁ、もっと強く! めちゃめちゃにするの! それが男の子なの!」
 こぼれるほどたわわなふくらみの頂で、乳首はアンバランスなほど可憐で小さかった。キートは体の奥から突き上げる懐かしさに動かされて、そこに口をつける。ちゅうちゅうと音を立てて吸い、手で強くしぼり上げた。「ひぃん」とターナが泣くような声を上げる。
「キート、おっぱい好きでしょ?」
「うん、あったかい!」
「そうよね。あなたは昔から好きだったものね。我慢させてごめんね。これからは好きなだけ吸って!」
 乳房全体がてらてらと光るほど、キートは厚く唾液を塗りつけた。そのべたべたの丘に頬を挟んで、甘い汗の浮いた鎖骨を何度も何度もなめ上げた。
「おっぱいだけでいいの? ここも、ここもあるのよ」
 ターナがキートの手を導いた。まるく豊かな腰に、熱をたたえた下腹に。
 キートは体を起こして、視線を下げた。ターナがワンピースの裾に手をかける。
「見る?」
「……うん」
「ん……」
 ターナは裾をめくりかけ、何度か息をついた。
「だめなの?」
「だめじゃないけど……私も、ちょっぴり恥ずかしい。ずっと隠してきたんだもの」
 呼吸を止めて、よし、とターナはうなずいた。
「全部見て。もうこれからは、隠さないから……」
 脂の乗ったしなやかな太ももの間で、手製の下着がくしゃくしゃに濡れて張り付いていた。汗だと分かる。だが中心はどう見ても汗ではなかった。
 キートはそこに触れた。太ももの奥の小さな下着が、沸かしたように熱く濡れていた。
「ターナの……おちんちん」
「おちんちんじゃないの。そこは……」
 もっとも卑猥な言葉は、さすがに消え入るような小声だった。
「おまんこっていうの……」
 キートはとても繰り返せなかった。胸の中だけでそれをつぶやきながら、何度も触れた。耳たぶのように柔らかく、唇のように濡れたひだが、布の下にいくつも重なっていた。
「み、見ていい?」
 ターナはこくりとうなずき、足を動かして下着を脱いだ。誰に習ったわけでもないのに、体の奥から衝動が湧き上がってきて、キートはそこに顔を近づけた。
「ターナって、こんな風なんだ……」
 見ることはおろか、知識としてもキートは知らなかった。欲情と好奇心の混ざった視線をそこに突き刺し、震える手を伸ばして調べ始める。
「ちょっぴり毛が生えてる。しゃくしゃくするよ。下は……柔らかい……とろとろだよ。ものすごく垂れてる。それに赤くって、ひくひくしてて……」
 ターナは答えず、胸元でこぶしを握ってはあはあとあえいでいる。キートの指が触れるたび、びくん! と腰を跳ねさせる。痛いほど視線を感じて、体を丸めたくなるような羞恥にさいなまれている。そしてそれを激しい興奮として受け止めている。
「あ、ちょっと硬いとこが――」
「んひんっ!」
「た、ターナ?」
「いいの、そこいいの……くりくりして」
「こ、こう?」
 キートの幼い指戯が電流を走らせた。ターナはものも言わずにビクビクと痙攣する。キートも息ができないほどの興奮に襲われて、小さな指でターナを責め上げる。
 その指がぬかるみの奥に入った。
「ターナ、これ、穴なの? 中に……指が入るよ。なんか、なんかしたいよ、僕!」
「すごい……男の子って、ちゃんと分かるんだ……」
 ターナは手を下ろし、キートの股間を捕らえた。そこはすでに蘇り、敵に向けられた銃のように硬くまっすぐに突き立って、ターナの股間を狙っている。
「これを入れるの」
「おちんちんを?」
「そう。そして中で射精するのよ。いっぱいいっぱい射精するのよ」
 ターナは可能な限り大きく足を開いて、キートを子宮に呼んだ。
「それは死ぬほど気持ちいいのよ」
「入れたい!」
 キートが無垢の情熱をたぎらせて言った。
「僕、入れたい! ターナの柔らかいここに入れたい! もう入れていいの?」
「いいわ。腰を出して……」
 ターナの指が導く。立てられたターナの膝に両手をついて、キートはぶるぶると体を震わせながら腰を落としていった。
「ここ……」
 ターナがキートの性器を倒して、自分のそこにあてがった。キートは先端を包む粘液の海を感じる。
 その瞬間、本能がキートの腰を突き飛ばした。
「ターナっ!」
 ぐぬっ! とキートは突き込みかけた。寸前でためらう。
「だ、だめだよ! こんな硬いおちんちんでターナのおなか刺したら、ターナが壊れちゃうよ! 痛すぎるよ!」
 だが、本能はキートの中にあるだけではなかった。先端だけを軽く埋め込まれた生殺しの状態に、待ち焦がれたターナが耐えられるはずがなかった。
「なんで止めるのよ、突っ込んで!」
 叱咤に見せかけた、それは懇願だった。ターナの両足がカマキリの鎌のように動いて、キートを力ずくで胎内に押し込んだ。びしゃっ、とあふれた愛液がはじけ散った。
「ひゃあんっ!」
 悲鳴は同時だった。歓喜と、恐怖。
 幾重にも重なったぬるぬるのひだが、キートをぴっちりとくるんでうごめいている。多分、じっとしていてもすぐに射精してしまう。じっとしていたくない思い切りねじ込みたい。十二歳の幼い体を強烈な本能が無理やり動かそうとする。だが別の強い力が、キートを押しとどめていた。
「ターナ、いい、気持ちいいっ!」
「そうでしょ、早く動いて、動くの!」
「でも、だめだよ、だめなんだ!」
 強烈な快感に今にも押し流されてしまいそうになりながら、キートは半泣きで叫んだ。
「なんだかわかんないけど、だめな気がするんだよ! 十二年もいっしょだったターナに出すのって、いけないんだよ! 絶対だめなんだよ!」
「それも……分かるの? 偉いね、キートは……」
 言いながらターナは渦を巻くように腰を動かし始める。こすりつけて来ないキートに、自ら膣壁をまとわりつかせていく。
「そうよ。本当ならだめなの。親子でこんなことするなんて」
「おやこ……」
「でも、しなくちゃいけなの。私たちのふるさとは滅んでしまったから。見える? あの星が」
 歯を食いしばって耐えるキートのあごを、ターナはぐいと押す。二人で夜空に光る砂色の星を見る。
「オーガス8は……戦争で壊滅して砂漠になってしまったわ。逃げる船も……くんっ、みんな沈められた。私たちの船も壊されて、かろうじて私だけが……ハアッ、救命ボートでこのオーガス7にたどり着いた……」
 ターナの声はどんどん虚ろになっていく。キートの硬さに内臓を溶かされていっている。限界まで勃起した性器が、奥に食い込みつつあるのだ。キートもまた、耐えられずにじわじわと動き始めていた。
「そこで私はあの人の子供を産んだわ。それがあなた。残ったのはあなただけ。だからこれしかない。オーガス8の血を蘇らせるには……あなたの子を私が産むしかないの」
「じゃあ、じゃあ、ターナは……僕の、マ――」
「言わないで! あなたはもう私の恋人なの!」
 ぞうっと寒気がキートの背を突っ走った。十二年の間に受けた教育が、それが禁断の行為だと十分に知らせていた。
 だが寒気はそのためではなかった。最愛の女性が、もっとも血のつながりの濃い母親だった。それが嬉しい。その彼女にすべての欲望を受け止めてもらえる。それが嬉しい!
「ターナ……いいの? 本当にいいの?」
「いいのよ! 十二年間考えて決めたのよ。あなたが犯して、妊娠させて! それが一番嬉しいの!」
 星明りを浴びた白い美貌が、両手を差し伸べてキートを迎えていた。そこに奇怪な狂気は微塵もなく、ただ強い使命感と、息子への愛と、澄み切った純粋な欲情だけが浮いていた。
「た、ターナ……ターナ!」
 キートの中で何かが切れた。すべての最初から彼を見守り、彼を愛してくれた人だった。逃げるも逆らうもないのだ。むしろこれは最高のつながりだった。
「好き、大好きだよターナ!」
 思い切りターナを抱きしめて、キートは腰を押し付けた。「くううっ!」とターナが嬉しげに顔を歪める。
「来る? 来てくれるの、キート?」
「うん! ぼく、ターナとつながるよ。ターナに全部出して、妊娠させてあげるよ!」
「そうよ、思い切り出して! 教えてあげる、すごくいいこと!」
 キートがぎこちなく腰を動かし、すぐにターナが優しくいやらしく支えなおす。あられもなく性器を斜め上に突き上げた姿勢に、キートの動きが安定する。
 そう、ずっとそうだった。ターナは包んで、支えてくれる。お尻を突き出して、僕の体を支えてくれる。僕がいっぱい出せるように。
「腰、つかんで。おちんちん奥まで入れて」
「うん、うんっ」
「そうよ、そうっ! ぐりぐりするの、奥まで刺すの! 一番気持ちよくなるように動くの!」
「こう、こうだよね? ああっ、ターナすごい! もっときゅうってして!」
 ターナの腰にのしかかって、キートは力の限り性器を突き下ろす。どろどろに溶けた管の一番奥にこりこりした弾力がある。そこにこすりつけるのが気持ちいい。
 ひいっ、はあっ、とターナが喉をさらす。瞳が上がり、視線を失っている。
「分かるわね? そっ、そこよ! その奥に出すの! 一滴も残さず出すのよ?」
「うん、だ、出す! 僕出すよ? いい、もう行くよ? いい? ターナ!」
「来てッ、逃げられないぐらい出して、キートが空っぽになるまで流し込んでェッ!」
「ターナあ!」
 キートは思い切り撃ち放った。びゅるびゅるびゅるっ! と音がしたような気がした。ただ膣内で射精したというだけではなかった。決して外れないように、間違いなく子宮に流れ込むように、ターナの奥深くで結びつくように、そう心から願いながら、貫くようにして放った。
「いいっ、そうよーッ!」
 腹の奥がへこむような圧力を感じてターナは絶叫する。愛しい夫と産み出した愛しい息子の精液、すべてを捨てて十二年待った奔流だった。意思で可能な最高の出迎え、筋肉がきしむほど強い両足の挟み付けでキートの腰をくわえ込んで、身も心も焼き尽くされるような熱を、胎内の中心に吸い込んだ。
 その限りなく暖かい抱擁に、キートは間違いのない母親の愛を感じた。
「ママ、ママ、届いてる? ちゃんと入った?」
「ええ、来たわ、キートのあったかいの、私のおなかに、ママの奥に!」
「まだ出るよ、もっと出るからね?」
「いいわ、出して! どれだけでも、いつまででも!」
 キートの絶頂は長く長く終わらなかった。まるですべての生命力を精液に換えたように、ターナの柔らかな体の中にびくりびくりと射精し続けた。
 ターナは至福の表情を浮かべて、はちきれんばかりに満たされていくのを感じていた。

   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

「……それで?」
「もちろんターナは妊娠したわよ。キートはいっぱいいっぱい出したんだし、その後もいっぱいいっぱいセックスしたんだから」
 ベッドに体を起こして電煙を吸っていた僕に、枕を抱いたホノカが愉快そうに笑った。
「それからターナは、運良く女の子を産んだ。そのあとも何人か子供を産んだけど、最初の女の子が初潮を迎えたら、今度はその子がキートと交わって子供を産んだ。そうやって親子兄妹同士でいっぱいいっぱいセックスして、いっぱいっぱい子供を産んだ。――その子孫が、今のオーガス7の人たち、つまりあたし」
「……めでたしめでたし、なのかな」
「さあ。ターナはわりと早い時期に亡くなったそうよ。キートが育つのを待つ間に使ってたマクロビアニンっていう薬、もとは遭難者が若さを保つための薬だったそうだけど、代わりに寿命を削る副作用があったの。それを一人で十二年間も使ってたからね」
「美しい姿を保ってキートを誘惑するため?」
「そ。永遠の美少女ママってわけ。なんか悲しいよね」
 おぞましい、おどろおどろしい、怪談のような話だった。でも僕は、なぜかその話に、奇妙な親近感を覚えていた。
「それは本当なの?」
「ほら」
 ホノカは窓の外を指差した。砂色の星はもう大分傾いて、見えなくなりそうだった。
「オーガス8は、実際に高爆速兵器で丸ごとサラ地になってるわ。銀河史を調べてみる? 四百年前まではこっちのオーガス7は無人だったって、ちゃんと書いてあるわよ。そう思われていたからこそ、二人を助ける船も来なかったわけだし」
「ふうん……」
「タバコちょうだい」
 僕の手から電煙を取ってくわえると、話し疲れた、というようにホノカはスイッチを押した。ぽっとインジケータが光って、味覚刺激の電流を舌に流した。
「そう言えば……」
「なに?」
「もとは何の話だったっけ。ああ……旅人が好きかって話だ。それがどうつながるの?」
「ここ、近親相姦が多いんだ」
 さらりとホノカは言った。
「遺伝子操作で優生学的な問題は解決されてるけど、よその星からのウケは悪いね。でもみんなやってる。血の近い人と自然に引き合っちゃうのよ。……それがターナとキートから受け継いだ性質かどうかは、調べて分かるようなことじゃないけど」
「じゃあ、旅人は嫌いなんじゃないか」
「そう。あなた、商談に失敗しそうだって言ってたよね。よそ者だって思われたからよ」
「そうかな」
 僕は首をひねった。
「最初はうまくいきそうだったんだけど」
「最初は仲間だと思われたのよ。あなたの髪」
「……なるほど」
 僕は納得した。ターナから譲り受けた青い髪、それがこの星の人々のつながりの証なんだ。
「いっそ、地元出身だとでも言っておいた方がよかったかな」
「そうね。あながち嘘でもないし」
「……え?」
 僕は振り向いた。ホノカはあっちを向いて何かしていた。覗き込むと、たっぷり中出しした僕の精液が流れ出てきたので、拭いているのだった。
「ちょっと、かっこ悪いところ見ないで」
「ああ、ごめん」
「……ま、いいけどね。嫌じゃないから」
 ホノカは上半身をひねってこちらを向いた。
「あなた、ここの人だもの」
「どういうこと?」
「中央はせち辛くって苦手だって言ってたよね。で、ここへ来たら安心した。みんなそうなのよ、ここの人間は。頑張って外へ進出しようとするんだけど、疲れて帰ってきちゃう人も多い。ホームシックね」
「それだけじゃ……」
「もちろんそれだけじゃない。さっきメドチェッカーかけたでしょ」
 ホノカはベッドサイドから手のひらぐらいの機械を取って、口にくわえた。
 ピ、と鳴ったので僕に差し出す。
「見て」
 表示を見た僕は絶句した。――洒落にならない染色体重複率だった。
「あたしとあなたは、少なくともいとこぐらいの血縁みたいね。……さっきの気持ちよさから考えたら、姉弟かも」
「そんな馬鹿な……」
「戦争で船を沈められて、中央の人に拾われたんでしょ? 昔ここから出た船にあなたぐらいの年の子供が乗ってたか、調べてみる?」
「……悪い夢を見てるみたいだ……」
「どうして?」
 ホノカは体をすり寄せて、僕の首に腕を回した。
「星の数ほどいる銀河の人たちの中で、偶然出会えたのよ。むしろ幸運って言ってほしいな」
「でも、姉弟でセックスしたなんて……」
「いっぱいいっぱい出したくせに」
 僕は赤くなった。確かに、ホノカとの交わりは今までで最高の気持ちよさだった。
「正直になりなよ。よかったでしょ。あたしもよかった。大体、最初にあなたを誘ったのだって、他人じゃないって直感したからだもの。これを悪い夢なんて言われるのは悲しいよ」
「そうか……」
 僕は思わぬ出会いに混乱しながら、ホノカを見つめた。切れ長の目を細めて、ニッと笑う。言われてみれば、他人とは思えなかった。
 出し抜けに気付いた。他人でなくとも、僕は中央の営業マンで、彼女はこの星の人間なのだ。朝になったら別れるしかない。
 そう考えると急に、この娘が愛しくなった。
「うーん……悔しいな。せっかく会ったのに……」
「悔しい?」
「うん。別れたくないよ」
 そう言うと、ホノカはなぜかうつむいて、シーツをひねくり始めた。なんだか一回りも幼くなったように見えた。
「あの……あのさ」
「え?」
「あたし、家族いないんだよね。それは、あなたと一緒に船で出てって死んじゃったんだからって、今分かったわけだけど、それで人恋しくってさ」
 電煙をやたらとチカチカ吹かす。
「だから、あなたが初めての人じゃない。今まで何人かと寝たことがある。……こういう女、嫌い?」
「嫌いって……嫌いなら寝たりしないよ」
「そうか」
 よし、とうなずいて、ホノカは顔を上げた。
「よかったら、連れてってくんない?」
「え?」
「あたし、前から中央に行ってみたかったんだ。中央の人ってあこがれてた。でもこの星の男は引っ込み思案ばっかりで……あなたは一応中央の会社で食えてるんでしょ」
「出張で女の子連れて帰るのはちょっと……」
「でも、恋人も奥さんもいないんでしょ」
「そりゃそうだけど、急に言われても」
「急じゃないよ」
 ホノカは顔を寄せて、小さな女の子のように寂しそうな顔で言った。
「生まれたときから、決まってたことだよ」
 その言葉は、水のようにするりと僕の胸に流れ落ちた。
 僕は手を伸ばして、彼女を抱きしめた。張りのある豊かな乳房が胸の上で潰れる。
「分かった。いっしょに行こう」
「いいの? あの……姉弟だよ?」
「ターナとキートの供養だよ。……僕も彼らの子孫なんだもんな」
 ホノカがふっと表情を緩めた。笑うかと思ったら、顔をくしゃくしゃにして泣き出した。
「よ……よかったあ。断られたらどうしようかと思った」
「いいよ、もう心配しなくて」
「ありがと。ほんとにありがと」
 僕は泣きじゃくるホノカに口付けした。ホノカも口付けを返し、そのまま僕たちは抱き合ってベッドに倒れた。
「もう一回しよ。いっぱいいっぱいしよ。ね、弟クン」
「そうだね、お姉ちゃん」
「ん……」
 そして僕たちは、四百年前の二人のように、暖かく激しい交わりを再び始めた。


――了――



本編は、小松左京氏の「日本沈没」の作中譚、「丹那婆」を題材にしました。
僭越ながら氏への感謝を表させていただきます。

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