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Comical Pixy

「あー、ハンターハンターだ!」
 ダンボール箱を抱えてアパートの階段を上ったおれは、すっとんきょうな叫びを聞いて足を止めた。箱の横から顔を出して、部屋の前を見る。
 廊下に積み上げたコミックの束に、小さな女の子がかがみこんでいた。
「お……」
 おれは思わず、しげしげとその子を見つめた。何歳かわからないが、背中に赤いランドセルを背負っている。高学年ではなさそうだ。白いブラウスとタータンチェックのジャンパースカート。左のひざ小僧にばかでかいバンドエイド。両耳の横にぴょこんとお下げが突き出ている。目がぱっちりと大きく、笑顔が明るい。見るからに活発そうだ。
 別にロリコンじゃないが、かわいい女の子は嫌いじゃない。初めまして、ぐらい言おうかと思ったが、その子の行動で、気が変わった。
「うわーワンピースだ、あっ遊戯王、ドラゴンボールもある!」
 その子は、おれが見ている前で、ひもで縛った束の中から勝手に何冊か抜き取り始めたのだ。たちまちおれはブチ切れた。まったく最近のガキは!
「おいコラ! 人のもん勝手に読むなよ!」
「あっ……」
 小動物のようにビクッとその子は飛びすさった。おれはその前に歩みよって、ダンボール箱をどすんと下ろした。にらみつける。
「これ、おれのだからな」
「……ごめんなさい」
 女の子はうつむいてしまう。ちょっとかわいそうになった。別に悪気があったわけじゃないんだろう。
「あー……いいよ別に。怖がるなよ、怒ってねえから」
「……ほんと?」
「うん」
 おれがうなずくと、その子はにこっと笑った。
「ねー、これどうするの?」
 もう全然めそめそしていない。切り替えが早い。まあ、この年頃の子供って、こんなもんか。
「どうもしねえよ。部屋に置いとく」
「部屋?」
「ここに越してきたんだよ。201号室。おれ、入鹿道則な」
「イルカ? へんな名前ー」
「うるせえ」
 女の子は、じっとコミックの山を見ている。おれの資料だ。いや、本当。
 おれはこの春から美大生になった。将来は漫画家になるつもりだ。東京に出てプロのアシスタントでもするのが早道なんだろうが、考えた末、やめた。高卒でいきなり現場に飛びこんだって、できることはたかが知れてる。いい漫画を描くためには、地元でこつこつ勉強するのだって無駄じゃないだろう。
 さすがに、山奥の実家で修行するのはいろいろ無理があるから、町には出てきたが。
 なんの話だったっけ? そうだつまり、おれは家具と一緒に、山ほどの漫画を抱えてこのアパートへやってきたんだ。
 下に止めてあるレンタルのトラックには、まだまだ「資料」が乗っている。どう見積もっても、部屋に入れるのにあと二十往復はかかる。
 おれは、ものほしそうな顔をしたその子に声をかけた。
「読みたいのか」
「うん!」
「じゃ、いいぞ」
「ほんと?」
「あまりぐちゃぐちゃにするなよ。丁寧に扱ってくれ」
「わかった!」
 女の子はうれしそうにコミックをひっかき回し始めた。言ったそばからこれだ。
「丁寧に!」
「わかった!」
 わかってないようだが、まああまり目くじら立てなくたっていいだろう。おれ的最重要資料は、厳重に梱包したダンボールの中だ。
 荷下ろしの邪魔だから最初に数束ここへ上げたが、本の前にまず家具を入れないといけない。おれが、テレビやら布団やら空の本棚やらを抱えてえっちらおっちら階段を上り下りしている間、その子は部屋の前にしゃがみこんで、一心に漫画を読みふけっていた。パンツまる見えのうんこ座りだ。色気も何もあったもんじゃない。
 あるわけないか、こんなガキに。
 そのうち家具は一段落したが、大物が残った。冷蔵庫だ。これはひとりではちょっとつらい。乗せるときは親に手伝ってもらったが、薄情なやつらで、後はひとりでなんとかしな、と言われた。四年間仕送りしてもらうことになるから、大きなことも言えなかったが、土下座してでも連れて来るべきだったか。
 おれが困っていると、一階から四十歳ぐらいのおっさんが現われた。 
「やあ、大変そうだね」
「あ、殿村さん。こんちわ」
 おれは頭を下げた。一階のふた部屋をぶち抜いて住んでいる、大家のおっさんだ。大家といっても本職はサラリーマン。このアパートは死んだ爺さんから受け継いだそうだ。古い実家を売ってここに住み、金を貯めているという話。
 ビジネスマンだから、普段は背広だ。前に会った時はそうだった。今日はセーターにベスト姿だが、いかにも休日の企業戦士という感じで、のんびりした中にも隙のない雰囲気がある。今にも携帯電話で呼び出されてLAあたりに飛んでっちまいそうだ。顔も柳葉俊郎ばりのシブ中年。頼れそうな人である。
「会社はどうしたんですか?」
「代休だよ。決算前に休日出勤が続いたからね。それより、手伝おうか?」
「お願いします! 参っちまってて」
 おれたちは、冷蔵庫を抱えて階段を上った。部屋の前にいた女の子がこっちを見たが、なにを思ったのか、ぱっと漫画を放り出して隣の部屋に駆けこんでしまった。
 殿村さんが苦笑した。
「おや、また逃げられた」
「あれ、おとなりさんですか?」
「真由ちゃんって言うんだ。仁科真由。私はどうも嫌われてるみたいでね」
「おっさんが嫌いなのかも。よく父親に叱られるとか」
「父親はいない。お母さんとふたり暮らしだよ。しかしおっさんはひどいな」
「あ、すんません!」
「まあいいが。あの子とも仲良くしてやってくれ」
 けがもなく冷蔵庫を部屋に入れることができた。お礼に中から缶ジュースを出して渡す。
「重いものはこれだけかい?」
「はあ、あとは本ばっかりなんで、おれひとりでなんとか。……助かりました」
「じゃ、私はもういいかな。これから行くところがあるし」
「はい、どうもありがとうございます」
 殿村さんは笑って下におりていった。一人で駐車場からマークUを乗り出して走っていく。ああ、そうか。妙にキメた格好してると思ったら、よそ行きだったんだ。いいなあ、奥さん置いて男の休暇か。
 などと考えつつ、トラックに行ってまた本を抱えてくる。部屋の前に上がると、いつのまにか、さっきの子が戻っていた。おれを見て、きょろきょろする。
「……ひとり?」
「ああ」
「よかった」
 ほっとした顔になる。これはどうやら、本格的に殿村さんが嫌いらしい。なんでだ、いいおっさんだと思うが。
「真由ちゃんて言うんだろ?」
「うん。まーゆ。おいちゃんはイルカね」
「おいちゃんじゃねえ、お兄ちゃんと言え。それから、道則だみちのり」
「みちのりお兄ちゃん……言いにくーい。イルカでいいじゃん」
「ああもう、好きにしろ」
 それどころじゃないのだ。本は重い。三月の末にしては馬鹿にあったかくて、汗が出る。
 すると、そんなおれを見て、真由ちゃんがランドセルを床に下ろした。
「貸して。手伝ったげる」
「お? どうした急に」
「まんが読ませてもらったもん。『おかえし』はだいじなんだよ」
「先生が言ってたのか?」
「ううん、お父さん」
 白い歯を見せて無邪気に笑う。なんだかちょっと、胸がきゅっとなってしまった。離婚したのか死んだのか知らないが、言い付けをちゃんと守っているんだろう。いい子じゃないか。
「うーん、それじゃあ……」
 手伝うったって、本の束は十キロぐらいある。これは無理だ。
「おれがトラックからここまで持ってくるからさ、真由ちゃんはばらして中の本棚まで持ってってくれる?」
「わかった」
「ちゃんと一巻から順番に並べるんだぞ。数わかるか?」
「わかるよー! まゆ、わりざんできるんだよ!」
「そりゃすごい」
 そういうわけで、引っ越しはふたりの共同作業になった。
 こういう風に細かいものをいくつも運ぶ場合、てこずるのは靴を脱いだりはいたりすることだ。真由ちゃんが室内係になった効果は思ったより大きく、作業はサクサク進んだ。
 夕方前には、ほぼ全部の漫画を運び入れることができた。それまでずっと階段係をしていたおれは、中に入って初めて本棚を見て、びっくりした。
「おう、こりゃすごい……」
「ね、ちゃんとできたでしょ?」
 真由ちゃんが得意げに言う。ちゃんとどころじゃない。
 奥行きのある本棚に、二列以上に本が並べられている。その手前側が、まさにおれの計画通りになっていたのだ。
「富樫義博とゆうきまさみが前でザコが後ろか……真由ちゃん、すごいじゃないか」
「ゆうすけとおうまさんすきなの!」
「そうだよな、なんだかんだ言っても鳥山明は偉大だよな。気が合うな、真由ちゃん」
 頭を撫でてやると、くすぐったそうに首をすくめた。それから、顔を上げて言った。
「ねえ、もっと読んでいい?」
「オーケーオーケー、ご褒美だ。好きなの読め。貸してやってもいいぞ」
「じゃ、これ!」
 真由ちゃんは、並べたばかりの漫画をざっくりひとシリーズ抱え上げた。ふらふらしながら出口に向かう。おいおい、十九巻あるんだぞ。
「持ってやろうか?」
「だいじょうぶ! ありがとね!」
 そう言うと、真由ちゃんはとことこ出て行った。ま、隣の部屋だ。心配することもないだろう。
「さて……飯でも食いに行くか」
 部屋の中は、本以外ごちゃごちゃだ。料理なんかできる環境じゃない。とりあえず整理整頓は明日に回すことにして、おれも外に出た。

 そんな感じで、おれの独立生活は始まった。
 ほぼ想像したとおり。大学生としての暮らしは、息が詰まりそうだった高校の時とは、比べ物にならないほど自由だった。家を出た甲斐があったってもんだ。
 ただ、ひとつ想像していなかったことが起こった。
 真由ちゃんが、ちょくちょくうちに現われるようになったのだ。
 講義はまだ顔見せ程度だ。当分はクラブに入るつもりもない。友達も彼女もまだいない。修行せにゃあかんからね。早く済ませてぱっと帰って、うちでしこしこペン仕事。
 すると、夕方頃にこんこんドアが叩かれるのだ。
「イルカー、いるー?」
 ドアを開けると、真由ちゃんがにっこり笑っている。なぜだかいつもランドセル姿だ。追っ払うのもかわいそうだから入れてやると、またごっそり漫画を抱えて帰っていく。
 一週間もたつと、持ちかえるのがめんどくさいとばかりに、部屋に居座って漫画を読むようになってしまった。
「イルカー、こんにちわ」
 今日も今日とて、真由ちゃんが現われた。もう案内も請わない。風取りに少しドアを開けてあるのをいいことに、勝手に入ってきてランドセルをその辺におろし、寝転がって漫画を読み始める。おれが背中を向けて机にかじりついていても、どこ吹く風だ。
 しゃべるわけでもないから、静かではある。しかし、どうも気になる。
 おれは一応、賞を狙って漫画を描いている。同人誌に回り道する気はない。真剣勝負だから、ひとりでじっくり考えつつ描きたいのだが……それはまあ、我慢できないこともない。将来は他人と同じ部屋で作業するかもしれないんだし。これも修行だ。
 しかし、別のことが気になった。
 引っ越しの日に、近所の人たち数人と顔を合わせた。当然、おれの部屋の漫画の山のこともばれているはずだ。オタクだと思われたに違いない。あながち見当外れでもない。
 オタクのおれの部屋に、小さな女の子が入りびたっていたら、誤解されるじゃないか。
 大体、親がなんていうか。
 引っ越したばかりなのに、隣と険悪になってもつまらない。おれは聞いてみた。
「真由ちゃん、ママはなにしてるんだ?」
「おしごと」
「お仕事か、そりゃそうだわな。帰りは遅いの?」
「九時頃。いっつもそうなんだ。自分ばっかり」
「ここに来てるって、お母さんに言ってある?」
「言ったよ。まんがどこから持ってきたのって聞かれたから」
「したら、なんて?」
「怒ってた」
 げ。
「公文のドリルやってなかったの。だから、今日はやってきた。もう怒られないよ」
 そういう意味で怒ったわけじゃないと思うんだが……
 おれ的にはなんということもない漫画が、教育ママにとっては有害図書に見えることだってあるだろう。こりゃ、持って帰らせるのはやめたほうがいいな。
「真由ちゃん、悪いけど今日からは漫画貸せないよ」
「えー? じゃあ、ずっとここで読まなきゃいけないの?」
 あ、そうなってしまうか。
 やぶへびだったかなと唸っていると、真由ちゃんがぱっと立ち上がっておれの背中におぶさった。あったかい小さな体の重さがかかる。
「イルカって、まんが屋さんなの?」
「漫画『家』。の、卵だな」
「へえー、ゆうすけとか書ける?」
「あ、ああ」
 そこらのメモ用紙に、おれはすらすらっとオールバックの顔を描いてやった。いかん、デッサンめちゃくちゃだ。
 でも、真由ちゃんにはそれで充分だった。
「うわー、すごい! イルカ上手!」
「そ、そう?」
「うまいうまい! ねえ、まんが書いたら見せてね!」
 肩越しに、真由ちゃんはにーっと笑った。珍しい、虫歯がない。ゴムでしばったおちょんぼの端が鼻に当たって、くしゃみが出そうになった。子供特有の砂糖くさい匂いで息が詰まる。
 思わず、おれは胸を叩いた。
「おしゃ、見せてやる!」
「わーい!」
 喜ぶだけ喜んでから、ぱっと体を離して、真由ちゃんは読みかけの漫画に戻ってしまった。まったく、気まぐれの権化だ。
 うつぶせにむこうを向いて、ぱったらぱったら足を動かしている真由ちゃんを見ていたおれは、はっと気づいた。
 しまった、追い出しそこねた。……ほめられちまうとなあ。弱いんだよ、免疫なくて。
 誰だってそうだろが。

 指で鉛筆を回しながらネームを切っていると、表から軽自動車の音が聞こえた。
 おれは、時計を見た。うわ、いかん。もう八時半だ。そういえば腹も減ってきた。
 後ろを見ると、まだ真由ちゃんは漫画を読んでいる。子供だから進みかたが遅いのだ。
「真由ちゃん、もう帰ったら?」
「んー……やだ」
「今の音、お母さんの車じゃないか?」
 言ってるそばから、階段に足音が聞こえた。部屋の前を通って、隣に入る。大声が壁を突き抜けて聞こえる。
「真由、まーゆ!」
 やばいやばい。
「ほら、呼んでる!」
「ちぇー」
 口をとんがらせる真由ちゃんを追い立てて玄関のドアを開けたところで、鉢合わせした。
「うわちゃー……」
「真由! だめでしょう、こんなに遅くまでよそのうちに上がりこんで!」
「よそじゃないよ、おとなりさんだよ」
 真由ちゃんはふくれる。お母さんはその腕を引っ張りながら、じろりとおれを見た。
「おたくもおたくです。いい年して小学生を部屋に引っ張りこむなんて、常識がないわよ!」
 オタクオタク言うなよ。まあ、違う意味だが……。
 真由ちゃんのお母さんは美人である。美人なのだが、化粧が濃い。三十代半ばぐらいだから仕方ないが。それに、目付きが怖い。真由ちゃんのお母さんとは思えないほどだ。
 おれは弱々しく言い返した。
「一応、帰れって言ったんですけど……」
「一応じゃだめでしょう! 子供にははっきり言ってやらないとわからないのよ。それになんですか、あの下らない漫画本! あんなもの子供に見せるなんてどういう神経してるの! 人が死んだり、殴られたり、ぞっとするわ。教育の妨げになります!」
 そんなにぽんぽん言うなよな、まだ初対面――じゃないが、一度あいさつしただけだぞ。
「さ、真由、帰るわよ。もうここに来ちゃいけません」
「やーっ!」
 腕を引きずられてころんと倒れたまま、真由ちゃんは泣き出した。
「やじゃないの! わがまま言うんじゃありません!」
「や! 絶対やー!」
「女の子は男の部屋にみだりに入っちゃいけないの!」
「お母さんだって行ってるじゃんか!」
 ぱっとお母さんは手を離した。顔色が変わっている。……おー? 今のはひょっとして、やばい発言か?
 下手につっつくとどうなるかわからない。おれはあさっての方向を見て、聞かなかったふりをした。
「やだやだやだ、まゆもっとまんが読むのー!」
 ばたばた暴れる真由ちゃんを挟んで、妙な沈黙が生まれる。
 おれが言葉に詰まっていると、いきなりお母さんはおれを押しのけてあがりこんできた。
「ちょっと、なんですか!」
 叫んだが、無視された。お母さんはおれの部屋の中を顔をしかめて見まわした。
「ふん、散らかってはいないみたいだけど……」
「そりゃ、引っ越したばかりでものがないから……」
「でも、これは容認できないわね」
 本棚の漫画をざっと見まわす。うーん確かに、お子様には過激な内容のものもあるかもしれない。
 お母さんは、本にちょろっと指をかけて奥のほうをのぞいた。何度かそれを繰り返してから、振りかえる。
「これと、これと、これなら読ませてもいいわ」
 おれはげっそりした。題を見ただけでストーリーがわかる、どうでもいいようなカスっぽいラブコメばっかりだ。反面教師として持って来ただけのやつ。
「他の本はだめです。いいわね?」
「はあ……」
「それと、真由に変なまねをしたら、すぐ警察を呼びますからね!」
「しませんよそんなこと……」
 おれがうなずくと、お母さんは真由ちゃんの手を乱暴に引っつかんで出て行ってしまった。
 おれはどっとため息を付いた。
「異端審問だな、まるで……」
 そう言いつつ、ほんの少しほっとした。
 前にも言ったが、おれはロリコンじゃない。でも、ああも無防備に真由ちゃんが抱きついてきたりしたら……妙な気にならないとも限らないじゃないか。知り合いでどっぷり染まってる奴がいるが、あいつが道を踏み外したのもちょっとしたきっかけからだった。市民体育館の更衣室で、偶然女の子が、目の前で一瞬だけパンツいっちょになったからだと。
 一瞬どころか、真由ちゃんは見せっぱなしで平気だ。危険かもしれない。
 わかりやすい防波堤ができてよかった。
 外からマークUの音が聞こえた。殿村さんも帰ってきたようだ。いかん、自転車が出しにくくなる。まだ買出しに行っていない。
 おれはわれに返って、部屋から飛び出した。

 でも、防波堤ができたのがちょっと遅かったんだよな。
 お母さん――万里江さんというらしい――にあんなことを言われたせいで、逆にそういう回路が頭にできてしまった。しばらく気づかなかったけど、そのうち自覚した。
 真由ちゃんは相変わらずうちに来る。寝転がったり、しゃがんだりしながら漫画を読む。何を読んでいるのかな、という程度の気持ちでちょくちょく振りかえっていたが、その間隔がいつのまにか短くなった。で、目が。
 目がパンツを追ってしまう。
 春の盛りだから、真由ちゃんは薄いひらひらのスカートしかはいていない。その格好であっちを向いたりこっちを向いたり好き勝手に動くから、全然下着を隠す役になっていない。子供だから仰向けに寝たままずりずり動いたりする。するとびらーっとスカートがめくれあがって、パンツどころかおへそまでこんにちわだ。そのままごろんとうつ伏せになる。くりっとしたお尻が半ケツ状態。
 見るな、おれの目!
 そう思うんだが、なにしろまわりに誰もいない。本人は漫画に夢中で気づかない。見るだけならばどこからも苦情がこないのだ。
 で、ついついじーっと見てしまう。布がふわふわ余っている木綿のパンツ、つやつやの太もも。
 見てれば触りたくなるのが当然だ。――いやいやいやいや、触ったりしたら警察だぞ! 裁判だ、懲役だ、ワイドショーだ!
「だあーっ、もう!」
 たまりかねて、おれは叫んだ。
「真由ちゃん、だらしないぞ! ちゃんとスカート上げろ!」
「え?」
 真由ちゃんは不思議そうにこちらを見る。
「寒くないよ」
「寒くなくても! パンツしまえ!」
「なんで?」
「なんでって……」
 そんなこと言えるか。言ったら、襲いたがっているのが丸分かりじゃないか。
 おれが困っていると、例によって真由ちゃんはぱっと立ちあがって、本棚に向かった。
「ねえ、これ読んじゃだめ?」
 もう話題が切り替わっている。おれは少しほっとした。
「どれ? ……ああ、それはダメ。禁書指定だ」
「そんなあ、見たいー」
 真由ちゃんはどんどんと足を踏み鳴らす。そう言われてもなあ。見せたら警察だし……
 なんか気を逸らす方法はないか、と思っていると、ふと真由ちゃんのひざ小僧が目に止まった。三センチ四方ぐらいの大きなばんそうこう。
 この際なんでもいい。
「真由ちゃん、それ、どうしたの」
「これ?」
 真由ちゃんは自分のひざを見下ろした。
「ころんだの」
「ずいぶん長いこと貼ってるよな。まだ痛い?」
「痛くないよ。でも、お母さんが毎日貼るから……」
「ちょっと来な」
 そばに立った真由ちゃんのひざに、おれは手を当てた。試しに上のほうを少しはがしてみる。その下には、もうピンクの肉が盛り上がっていた。何度かかさぶたが張り替わったんだろう。
「もうはがしてもいいと思うよ」
「じゃ、やって」
 おれはぺりぺりとばんそうこうをはがした。少し驚いた。思ったよりも大きなけがだ。子供って転ぶ時は力いっぱい転ぶからなあ。
「痛かっただろ。どこで転んだの?」
 骨ばった華奢なひざの裏をつかんで、傷痕を見つめながらおれは聞いた。真由ちゃんはなぜか、黙っている。
「学校か?」
「……グランド。よーへーがやったの」
「よーへー?」
 おれが見上げると、真由ちゃんはなんと、泣き出していた。
「よーへーが足ひっぱったの。ころんだのに、痛いって言ったのに、どんどんひっぱったの。石にぶつかって、ざくってなったの」
「……いじめられたのか? 誰か助けてくれなかったの?」
「みんなまゆのこと嫌いだもん。まゆのお父さんはりこんだって言うんだもん」
 ……そうか、万里江さんは離婚したのか。重いなあ。子供って容赦ねえなあ。
 かわいそうになって、おれは真由ちゃんの手を引いた。
「おいで」
「うん」
 ぐしぐし鼻をすすりながら、真由ちゃんはおれのあぐらの中に収まった。肩を優しく抱いて、頭を撫でてやる。
「だからいつも、漫画ばっか読んでるのか」
「うん。みんな、まゆと遊んでくれないから」
「寂しかったんだな」
「でもね、今はさみしくないよ」
 真由ちゃんは、おれの顔を見上げた。
「イルカがいるもん。イルカって、お父さんと友達がまざったみたいで、すき」
 天使のように微笑む。おお、今鳴いたカラスがもう笑った。
「そーかそーか、よし、おれは真由ちゃんの友達だからな」
「うん」
 うなずくと、真由ちゃんは本棚を指差した。
「ね、あれ読んでいい?」
 ……なんつータイミングだ。断るに断れんじゃないか。わかってやってるのか?
「あれはねえ……」
「まゆ、お母さんに言わないから。ひみつにするから。ね?」
「……絶対だぞ。言ったら、おれは牢屋だからな」
「だいじょうぶ、まゆだってお母さんに怒られるのやだもん」
 えへへへ、と真由ちゃんは笑った。こりゃ相当な悪女だ。おれは苦笑するしかない。共通の秘密ができてしまった。
 真由ちゃんはさっと立ち上がった。あ、とおれは引きとめそうになった。お尻の感触が……
 何を考えとるんだ!
「わり、ちょっと出かける」
「え?」
「コンビニだよ。すぐ戻るから」
「すぐだよ!」
 あんなに無防備だと、妄想が育って育って。まったく、あんなに健気な、なにも知らない子を相手に邪心を抱くとは、なんてやつだ、おれ。
 頭を冷やすつもりで、部屋を出た。

 真由ちゃんが本当になにも知らなかったのなら、おれの一人相撲に終わっただろう。
 おれがペットボトルをぶら下げて部屋に戻ってくると、真由ちゃんは背中を向けてぺたんと座っていた。ごそごそ動いている。
「コーラ買ってきたぞ。飲むか?」
「うん……」
 妙に頼りない返事だったが、おれは構わず、コップをふたつ出した。コーラを注いで、持っていく。
「なに読んでんだ?」
 横からのぞきこんだおれは、ぎょっとした。
 江川達也だった。(もちろん、タルるーとくんなんかではない)
 真由ちゃんが顔を上げた。ほっぺがぽっと赤くなって、まぶたが半分下りている。眠いような、笑っているような、変な顔だった。
「イルカぁ……」
「な、なんだ」
「みんなも、めでするんだね」
「目で?」
 聞き返そうとしたとき、真由ちゃんの両手の場所に気づいて、言葉が出なくなった。
 真由ちゃんは小さな両手を、太ももの間に挟みこんで、もじもじと動かしていた。おれは目を疑った。
「んふぁ……」
 真由ちゃんは小さく息を吐き、きゅっと肩をすぼめて、パンツの中心をまさぐりつづける。両膝で押さえた漫画に、ちらちらと目を落とす。勘違いじゃない。この子は――
「ま、真由ちゃん……」
「ねえ、イルカぁ……めでしてよ。真由、がまんできないぃ……」
 とろんとした目で真由ちゃんはおれを見上げる。なんだ、めでって。なんだ、この子!
 どうしたらいいのかわからなかった。おれが凍り付いていると、真由ちゃんはうらめしそうに言った。
「もう……してくれないの? あ、あン……ま、間に合わないよう」
 くしくしくし、と真由ちゃんが指の動きを早める。そのまま、前のめりに倒れこむ。漫画のページにほっぺたを押しつけ、指を股にさしこんだまま、お尻を高く上げて、軽く両脚を開いた。
 おれの目の前で、白い布の間に、真由ちゃんの人差し指と中指が深く食い込んだ。
「くうん……」
 ぴくぴくっ、と真由ちゃんのお尻が震えた。それから、どさりと横に倒れこんだ。
「はあ、はあ、はあ……」
 浅い息遣いを何度も繰り返す。しばらくすると、真由ちゃんは体を起こして、時計を見た。
「あ……八時半だ。もうすぐお母さん帰ってくるね」
「ま、真由ちゃん……」
「まゆ、帰る! また明日ね!」
 おれが引きとめる間もなく、真由ちゃんは風のように出ていってしまった。
 おれは、馬鹿のように突っ立っていた。やがて、我に返って二杯のコーラを一息に飲み干した。
 部屋の中には誰もいない。まるで、何も起こらなかったみたいだ。
 夢か?
 いや、違う。あの子のふわっとした甘ったるい匂いがほのかに漂っている。それに、開きっぱなしの漫画のページに、とろりと滴のあと。真由ちゃんのよだれだ。
 あの子……なんなんだ?

 翌日は講義に出ても上の空だった。頭の中は、真由ちゃんの小さなお尻と、その真ん中に半分近くまで食いこんだ指でいっぱいだった。耳の奥で、とろけたような真由ちゃんのねだり声がリピートする。
 イルカぁ……
 力いっぱい頭を振って打ち消した。あの子がどういうつもりなのかなんて、問題じゃない。手を出したら犯罪だ。おれが自制しなくてどうする。きっとあの子は、自分がなにをやっているのかわかってない。
 学校が終わって部屋に帰っても、おれはまだぼんやりしていた。何かしようにも手につかない。真由ちゃんはまた明日って言った。今日も来るのだ。どんな顔で迎えればいいんだ?
 そんなおれの混乱をよそに、五時すぎにまたドアがノックされた。
「いーるかっ」
 ドアを開けると、真由ちゃんがいつものランドセル姿で、にこにこ笑って立っていた。おれは、この子の考えがわからない。どうでもいいようなことを聞いてしまう。
「真由ちゃん……いつも、晩御飯どうしてるんだ」
「おやつ食べた。ごはんは、お母さんが帰ってから一緒に食べるの」
「そうか」
「……入っちゃ、だめ?」
「いや……入れよ」
 どうして入れてしまったんだろう。いや、理由はわかりきってる。
 期待したんだ。――くそっ!
 真由ちゃんはいつものようにそこらにランドセルを置いて、漫画を選び始めた。おれはドアにカギをかけた。窓は、閉めてある。
 真由ちゃんの後ろに腰を下ろして、はれ物に触るように慎重に聞いた。
「真由ちゃん……昨日の、どういうつもりだ」
 真由ちゃんの手が止まった。きれいに左右に分けられた髪の中央に向かって、おれは言った。
「ああいうこと……大人の男の前でするって、どういう意味かわかってんのか? やめろよな」
「イルカ……」
 真由ちゃんは振り向くと、おびえた顔で言った。
「怒ってる?」
「……なんであんなことしたんだよ」
「だって……イルカが悪いんだもん」
「おれが?」
「イルカが、へんなまんが置いとくから……まゆ、あんなのがあるって知らなかったんだもん。あれ読んだら思い出して、止まらなくなっちゃったんだもん」
「思い出して?」
「ねえイルカ、怒ってる? まゆのこときらいになった?」
「き、嫌いにって」
「きらいになったんでしょ! イルカもよーへーみたいにきらいになったんでしょ!」
「よーへーって……まさか」
 さっと脳裏にひざの傷がひらめいた。
「真由ちゃん、まさか、その子の前でも同じことしたのか?」
「だってよーへーが言ったんだもん! おんなはあそこ触ると気持ちよくなるって! そんなことまゆだって知ってたから、やってみせただけだもん! そしたらみんながまゆのこときらいになったの!」
「……」
「よーへーが言ったからやっただけなのに! 悪いのよーへーなのに、みんなあたしをへんだって言うんだよ。なんで?」
「……」
「ねえ、あたしってへんなの? イルカはへんな子、きらい?」
 目に涙がたまっている。どう答えたらいいかわからない。ただ、泣かせたらおしまいだ、という気がした。保身を考えたのかもしれない。お母さんに全部ぶちまけられたらおしまいだ、と思ったのかもしれない。
 どっちでも一緒だった。とにかく、おれは真由ちゃんを慰めていた。
「嫌いじゃないよ。でもな……」
「ほんとにきらいじゃない?」
「ああ」
「まゆがへんでも?」
「変じゃ……ねえって」
「じゃあ、またしていい?」
 おれは沈黙した。真由ちゃんは、ひざ立ちでおれにすり寄ってきた。
「イルカといるとね、なんかお父さんといるみたいなの。だからまゆ、したくなっちゃうのかもしれない」
 おれはつばを飲みこんだ。そして、とんでもない質問を口にした。
「真由ちゃん、まさか……それ、お父さんに教えてもらったのか」
「そうだよ」
 なんの屈託もなく真由ちゃんはうなずいた。
 それでわかった。真由ちゃんがなにを「思い出して」いたのか。どうして万里江さんが離婚したのか。
 父親に歪められた娘。
「ね、お母さんにはないしょにするから」
「……」
「お母さん、このこと話すとものすごく怒るんだもん。絶対言わないから。ね、して」
「……してって」
「だったら見てるだけでいいから! そばにいて! おねがい!」
 おれは、もう一度つばを飲みこんだ。
 涙まじりに愛撫をねだる女の子。その子は、肌が触れ合う意味をちゃんと理解している。絶対に口外しない。誰も見ていない。
 おれが黙っていると、真由ちゃんは立ったまま手をスカートの中に差し入れた。くいっ、と指を曲げる。見えない、だがわかる。
 おれの目の前五十センチで、真由ちゃんはオナニーを始めた。
「おねがい……見てて……」
 左右から降りた両手をスカートが隠している。さわさわときぬ擦れの音が漂う。真由ちゃんが目を閉じる。ふっ……あっ……と可愛らしい鼻声。
 もうなにも考えられなかった。
 おれは右手を上げ、真由ちゃんのスカートの中に入れた。重なった小さな手の甲に触れ、それをゆっくりとどける。
「イルカ……?」
 真由ちゃんは、おずおずと両手を引きぬいた。あいたところに、おれは手のひらを当てた。
 ぴんと張った太ももの間の、柔らかい布が当たった。そのまま押し上げる。布地の向こうに、小さな女の子の小さな作りがあった。
「イルカ……ありがと……」
 真由ちゃんがおれの肩に両手を置く。それから、指の動きに合わせて、ふるふると震え始めた。

 それからの毎日は、暗く、後ろめたく、けれど怖いぐらい甘美なものになった。
 ほとんど毎日、おれは講義が終わるが早いか家に帰って、真由ちゃんを待った。クラブもバイトもどうでもよくなった。
 夕方に真由ちゃんがやってくると、ドアと窓を厳重に閉じて、カーテンを下ろした。それからは、二人だけの時間だった。
「ねえ……」
 部屋に入ると、真由ちゃんがささやきながらおれの腰に抱きついてくる。いつも始まりは、立ったままだった。まるで儀式のように、おれは壁にもたれた真由ちゃんの前に座って、持ち上げられたスカートの下の闇に手を差し込んだ。
 しっとり湿った太ももに手のひらを這わせ、軽く持ち上げるようにして股間に指をあてがう。三本の指で細かく揉み上げてやると、真由ちゃんは気持ちよさそうに鼻を鳴らす。
「うん……イルカ、すてき……」
「気持ちいいか?」
「きもちいい……やっぱり、自分でするよりこっちのほうがいい……」
 蛍光灯に照らし出された人工の密室。許されない行為。真由ちゃんのあえぎより、自分の荒い息のほうが大きく聞こえる。毎度おなじみのちり紙交換! とスピーカーの声が飛びこんでくる。おれはびくっと体を縮める。ウサギのように聞き耳を立てている。ものすごい恐怖、それを上回る欲情。
 真由ちゃんのひざが笑い出す。おれはその両足を抱えて畳に押し倒す。ぴったり合わさった太ももに顔を押し付ける。
「やん……」
 含み笑いのような声を上げるが、真由ちゃんは逆らわない。触れても、嗅いでも、味わっても。
 ぺろぺろとおれは舌を這わせる。普通の人間には絶対味わえない柔らかい肉。パンツの中心まで鼻を押しつける。子供のあそこなんて、いい匂いはしない。おしっこと、洗い残した恥垢のいやらしい匂い。体臭は甘く柔らかいのにここだけは違う。そのギャップに頭がおかしくなる。
 おれはズボンのファスナーを下げながら促す。
「真由ちゃん……足開いて……」
「ん」
 真由ちゃんが大きく開脚する。関節がすごく柔らかい。水平近くまで開いた足の間で、パンツの股の部分が浮く。隙間から中のピンクがのぞいている。おれはそこに触れる前に、まわりの薄い肌をちろちろとねぶり、浮き上がった筋肉を甘噛みする。真由ちゃんが鳴く。
「やあん……はやくぅ……」
 それを聞くと我慢できなくなる。パンツをかきわけて鼻を突っ込み、柔らかいひだに舌を押しこむ。童貞のおれは、そこを他の女と比べることなんかできない。たとえ知っていても、比べようがなさそうだ。
 何もない。ぷっくらした恥丘がほんのり染まりながら切れこんでいるだけ。上端にぴょこりと、粘膜に包まれた白桃色のものがとがっている。クリトリスだと想像はつくが、これは多分まだむけていない。それでも、そこをつつくと一番反応がある。
「ひっ! やっ! イルカ、そこっ!」
 上唇でそこを左右にくすぐりつつ、おれは深く舌をうずめる。いくつか重なった輪ゴムの間で絞られるようだ。とても狭い。塩辛く、アンモニアの匂い。
 それをこそげ落としてやろうと、おれはだらしなく唾液を流しながら、何度も舌を出入りさせる。そのたびに、真由ちゃんがおなかを大きく上下させて吐息をしぼり出す。
「いいよぉ……イルカぁ……」
 洗いつづけるうちに、不快な匂いが消える。代わりに、本物の快感の証しが。ちょっとずつ、ほんの少しずつつ未熟な腺から湧き出てくる、とろりとした愛液。
「いっ、イルカあ! イルカあ!」
 おれは音を立てて舌をうごめかせる。びくびくと真由ちゃんは痙攣する。小さな体に受け止めきれないほどの快感に負けている。甲高い叫び声。もうそれが他の部屋に聞こえるかどうかなど、考えていられない。
「ひっひっひっ、ひぃっ!」
 ぶるぶるっ、と体をこわばらせて、真由ちゃんはおれの舌を締め上げる。少ない愛液がしぼり出されておれの口の中にあふれる。
 それを味わいながら、おれもしごいていたペニスから精液をまき散らす。

 一回目が終わっても、それが最後じゃない。
 いったん冷めて漫画を読み出した真由ちゃんに、後ろから抱きつく。真由ちゃんは嬉しそうに叫ぶだけで、逃げ出さない。ブラウスに顔を押し付けて、体中の甘い匂いを吸い取る。耳たぶをかむ。
 ブラウスのボタンを上から三つぐらい外して、スリップをかきわけ、ぺたんこの胸にキスを押しつける。乳房はちっとも柔らかくない。でも、心臓の鼓動が聞こえるし、米粒ぐらいの乳首が堅くなるのもわかる。
 ひざ立ちになった真由ちゃんのスカートに手を突っ込んで、力をかけず、けれど猛烈な速さで、パンツの上からこすりたてる。真由ちゃんはとがった爪を突き刺すぐらい強くおれの背中に突き立てて、そのままいってしまう。それだとおれは手がふさがっていて射精できない。しかし、気にならない。いかせるだけで目がくらむほどの満足感があった。
 逆に、おれが冷めている時、真由ちゃんが不意打ちをかけてきたこともある。
「いーるかっ!」
 と叫びながらおれの背中に乗っかる。おれは構わずテーブルに向かいつづける。すると真由ちゃんは、後ろに突き出したおれのひじに、ぐりぐりとスカートの上から股間を押し付け始める。
「ね、このまま……」
 真由ちゃんは、そうやって小刻みに腰を動かしつつ、いつまでもおれの背にもたれている。いけなくてもいいらしい。そうやって微妙な快感を味わいながら、ずっとおれの体温を感じているだけで満足なようだった。
 だけど、おれたちが決してやらないことがあった。それは、裸になること。
 いつ人が来てもいいようにするんだ、というのは、おれが真由ちゃんに言った嘘だった。いや、半分は本当なのだが、もう半分は別の理由だ。おれが我慢できなくなって、真由ちゃんを犯してしまうかもしれないから。
 いろいろな意味でひどく微妙な毎日だった。誰かに声を聞かれたらばれてしまう。真由ちゃんがおれに飽きてもおしまい。逆におれが自制できなくなって、本当に真由ちゃんを犯してしまっても終わりだ。この年齢で破瓜に耐えられるわけがない。痛みに驚いておれを嫌いになるぐらいならまだいい。最悪、大けがになって病院行きだ。
 セックスの一歩手前の愛撫だけ。毎日ゼロにリセットできる関係を、おれたちは続けていた。
 だが、それだってそう長くは続かなかった。

「い、イルカぁ」
「なに?」
「それ、はずかしいよ……」
 四つんばいの真由ちゃんが、背中をへこませてもだえる。それを押さえつけて、おれは顔を押し付けていた。
 パンツの隙間に差し込んだ舌。おれは、犬のように体を伏せたいぎたない姿勢で、真由ちゃんのお尻の後ろから、彼女のあそことお尻の穴をねぶりつづけていた。
 薄いピンク色の谷間の上にある、鴇色のつぼみ。軽くなめてやったら、すぐに匂いはしなくなった。味も匂いもしないが、不思議においしい。柔らかい粘膜と肌のつながるところを、ちろちろと少しずつくすぐってやる。
「いや……なんかいやぁ。これって、泣きたくなるよ……」
「屈辱的って言うんだぞ」
「くつじょくてきぃ……」
 舌足らずな口調に、背筋がぞくぞくする。舌を押し付けながら、つるりとしたお尻に頬ずりしてやる。ひげのそりのこしが当たったのか、「いたっ……」と小さな声が聞こえた。
 その時、ドアが乱暴に叩かれた。
「真由! いるんでしょう、出てきなさい!」
 おれたちは弾かれたように立ち上がった。恐怖で頭が真っ白になる。真由ちゃんはあわてて漫画に飛びつく。
「入鹿さん! 出てらっしゃい! いるのはわかってます!」
 おれはなにも考えることができないまま、ドアを開けた。万里江さんが、恐ろしい顔で立っていた。
「真由はいるわね?」
 靴も脱がずに上がりこんでくると、万里江さんは真由ちゃんの前に仁王立ちになった。おびえた顔をして、真由ちゃんが言いかける。
「おかあさ……」
 バシッ! とビンタが閃いた。真由ちゃんは吹っ飛ばされて床に転がる。おれが止めようとすると、振り向きざまに万里江さんはもう一度手を動かした。
 目の前が真っ赤になるぐらい強いビンタだった。
「この恥知らず!」
「……」
「私がなにも知らないとでも思ってるの? 全部わかってるのよ! うちの娘に手を出すなんて、あなた、覚悟はできてるんでしょうね!」
 頭の中で、ぐるぐるとお袋の顔やカメラのストロボのイメージが回った。おれは、必死に言いぬけようとした。
「な、なんのことですか?」
「しらばっくれるんじゃないわよ! 私が前に来た日から五日目、その日からあなたは破廉恥なことを始めたでしょう!」
「どうしてそんなことが……」
「言いたくないけど、はっきりさせましょうか。真由の下着を洗濯しているのは私なのよ!」
 足元をすくわれたような気がした。二人だけの秘密だと思っていた、愛撫の痕跡。そんなものを見られたのだ。体が押しつぶされるような羞恥と狼狽で、おれはよろめいた。
「じゃ、じゃあ……」
「何かの間違いかと思って様子を見ていたのよ。でも、あなたのところに行った日は必ず――近頃なんて毎日じゃないの! 汚らわしい!」
 もう言い逃れできなかった。おれは口をつぐんだ。
「出来心なんて言っても許しませんからね。今この場で逮捕してもらうわ!」
 携帯電話を取り出す。おれは止める気力もない。
 すると、真由ちゃんがくしゃくしゃの顔で取りすがった。
「やめて! けーさつ呼ばないで! イルカが悪いんじゃないの、まゆがしようって言ったの!」
「黙りなさい! あなたが誘っただなんて……そんなこと、あるわけないじゃないの! ありえないのよ! お父さんが出てった日に、忘れなさいってあれほど言ったでしょう!」
「でもまゆなの! まゆずっとしたかったの! お父さんがほしかったのー!」
「あんな男のことなんてもう口にしないで! あんたも今度こそ忘れるのよ!」
「なんだよう、お母さんだって殿村のおじさんがお父さんなくせにい!」
 二度目のビンタが真由ちゃんを吹っ飛ばした。憎しみさえこもった一撃だった。
 おれは、はっと顔を上げた。
「あんた……」
「な、なによ!」
「真由ちゃん、それ本当か? お母さん、殿村さんとどうしたんだ?」
「真由! 言っちゃ――」「お母さんいつもおじさんと会ってるんだよ! まゆ知ってるもん! お母さんが遅いときは、いつもおじさんの匂いがするもん!」
 真由ちゃんは一気にそれだけ言って、泣き出した。
 おれは、万里江さんの顔を見た。唇を噛んでうつむいている。本当なのだ。そういえば、時間こそずらしていたが、殿村さんはいつも万里江さんと同じ時に出ていき、帰って来ていた。
 ものすごく悪いことをしようとしている自分に気がついた。でも、これしかない。自分と真由ちゃんを守るためには、これしか。
「殿村さん、奥さんいるよな」
「……」
「あんたが警察呼んだら、おれもばらすよ」
「取引しようって?」
 万里江さんは、鬼のような目でおれをにらんだ。
「……悪魔」
「そうだな。言いわけはしないよ。汚い手だ。でも……ひとつだけ言わせてくれ。真由ちゃんがいやがることはしない」
「そうだよ、まゆちっともいやじゃないよ」
 真由ちゃんがおれの足にしがみつく。泣き濡れたその顔と万里江さんの顔を見比べて、おれははっと気づいた。
「もしかして……あんた、この子と血がつながってないんじゃないか」
 似ていないのだ、全然。
 思ったとおり、万里江さんは吐き捨てるように言った。
「……その子は、あの男の連れ子よ」
「それがあんたのところにいるってことは、しっかり育てるって離婚の時に請合ったからだろ。あんたが教育教育ってうるさいのは、世間に顔立てするためなんじゃないか?」
「だったらどうなのよ、関係ないでしょ!」
「そんな考えだから、真由ちゃんが寂しがるんだよ」
 万里江さんは苦い顔でおれをにらみつけた。それから、やけになったように言った。
「ええそうよ。本当のところ、その子邪魔でしょうがないのよ。いくら言っても下らない漫画はやめないし、あいつに仕込まれたいやらしい癖も治らないし」
「だったら今度こそ取引だ。おれがこの子の面倒を見る。あんたは殿村さんと好きにしろ。お互い外にはなにも言わない。どうだ」
「……クズね」
「言ってろよ。あんただって似たようなもんだ」
「ふん……」
 万里江さんは、冷たい目でおれたちを見つめた。それから、ため息をついた。
「好きにしなさいよ。私はもう、関わりたくない。なにも見なかったことにするわ」
 そう言うと、万里江さんは身を翻して出ていった。
 おれは尻もちをついた。我ながら、よくあんな大それたことができたものだ。
 横を見る。真由ちゃんが心細そうに立っていた。
「お母さん、行っちゃったな」
「ううん……」
 真由ちゃんは首を振って、抱きついてきた。
「まゆ、知ってたよ。お母さんがまゆのこと嫌いだって。だから、なんにも変わってない」
「真由ちゃん……」
「でもいいの。イルカがいるから。まゆ、イルカがいちばん好き」
「ありがとな」
 おれたちは、顔を見合わせて、キスした。

 なんだか考えなきゃいけないことが山ほどあるような気がしたが、とりあえずおれは、万里江さんが出ていったドアにしっかり鍵をかけた。最初に浮かんだのは、あまり関係なさそうなことだった。
「真由ちゃん、真由ちゃんのお父さんって、どんな人だったんだ?」
「うーん」
 真由ちゃんは小首を傾げたが、ランドセルに手を伸ばして、それを開けた。
 いろいろなものが出てきた。ノート、櫛、リップクリーム、手袋、それに、手ずれした「鉄腕アトム」。
「これみんな、お父さんの?」
「うん。ほかのは、お母さんに捨てられちゃった」
 そうか、だから真由ちゃんは、これらを入れたランドセルを肌身離さず背負っていたんだ。
「アトム……そうか、漫画好きもお父さんの影響か」
「うん。もっとたくさんあったけどね」
 そう言って、真由ちゃんはちょっとだけ寂しそうな顔をした。
「まゆがね、五歳のときにはじめてめでしてもらったの」
「あのさ、そのめでってなに?」
「え? こういうことじゃないの?」
 真由ちゃんは瞳をくりくり動かした。
「お父さんが言ってたんだよ。『まゆ、今日もめでてやるからな』って」
 そうか、『愛でる』か。多分、エッチとかセックスというと万里江さんにばれるからだろうけど……なんかムカつく響きだなあ。
「まゆびっくりした。あんなに気持ちいいことはじめてだったから。お父さん大好きだったのに」
 しかし五歳って……
「来いよ」
 おれは、真由ちゃんをひざの上に抱え上げた。 
 よく考えたら、そいつが元凶じゃないか。そいつが真人間だったら、真由ちゃんは普通に育って、万里江さんも離婚せず、もちろん不倫もせず、円満な家庭になってたかもしれないのに。
 けれど、そいつがいなかったら真由ちゃんはおれのところに来なかった。するとまあ、プラマイでゼロ。――というのは、おれの勝手な理屈付けか。
 真由ちゃんがおれの腕の中で身じろぎした。
「どうしたの?」
「思い出したら、またしたくなった……」
 そう言って、スカートの中に手を突っ込む。恥じらいがないなあ。えらそうなことは言えないけど……
「じゃ、するか」
「いいの?」
「まあ、ね」
 万里江さんとは、なんとなく休戦協定――というか冷戦状態ができあがったみたいだから、しばらくは、いきなり怒鳴りこまれるようなことはないだろう。いや、将来またごたつくんだったら、今のうちに楽しんでおきたい。
 毒食らわば、皿までだ。
 それに、親の万里江さんの黙認なんだから、近所からなにか言われても万里江さんにごまかさせればいい。――自分の考えにびっくりした。そうか、おれってそこまで卑劣な奴だったんだ。
「どうしたの?」
 真由ちゃんが見上げる。その純真な顔を見ていると、先のことはどうでもよくなった。
「なんでもないよ……」
 おれはそう言いながら、真由ちゃんにむこうを向かせた。膝の上に乗せたまま、大胆にスカートをかきあげてパンツに触れる。
「さっきは、途中だったからね」
「うん……」
 真由ちゃんが、安心しきった顔でおれにもたれた。
 肩越しに両手を前に出し、両足を九十度に開かせて、くしゃくしゃとあそこを揉み崩す。「ふぅん……」と鼻を鳴らして真由ちゃんが顔を上げる。上からキスした。真由ちゃんはぴちゃぴちゃ舌を鳴らして、おれの舌を口の中に引っ張りこんだ。
「キスも好きなの?」
「キス好き。ぺろぺろされるのぜんぶ好き。なんかね、なめられるとぼうってなっちゃうの。どんどんぼうってなると、まっしろになるの」
「じゃ、真っ白にしてあげる」
 唇に続けて、すべすべのほっぺたや、薄いまぶたや、丸いおとがいにまんべんなく舌を這わせた。真由ちゃんはうっとりした顔で力を抜いている。とても可愛い。
 それから、のどをなめた。ブラウスのボタンを全部外す。今日の真由ちゃんはそれ一枚だけだった。おれは片手で、真由ちゃんの薄くて熱い肌を残らず撫でまわした。胸もおなかも、わきも背中も。
「イルカ、あそこも……」
 真由ちゃんが、自分でパンツをこすりながらおねだりした。おれも興奮している。今は、びくびく脅えなくてもいいんだ。
 畳に横たえてやろうとして、思いついた。真由ちゃんは体が薄いから、寝かせるとあそこが低すぎて顔を寄せにくい。
「きゃ?」
 抱き上げて、テーブルの上に乗せた。画材をどけてスペースを作る。
「真由ちゃん、足をだっこして」
「こう?」
 両足を思いきり上半身に押し付けて、抱え込ませた。つま先で頭を挟めるぐらいぴったりと、体が折れ曲がる。ほんとにこの子は体が柔らかい。
 お尻だけが、テーブルからはみ出した。きゅっと合わさった太ももの肉が盛り上がり、パンツの股を細く狭めている。りんごぐらいしかない小さなお尻の間で、引っ張られたパンツがぴったりとはりつき、真由ちゃんのあそこの形がはっきり浮き出ていた。
 おれは、そこに鼻を押しつけた。パンツに残ったおしっこの匂い。
「やん……」
 ぴっちり押しつぶされているせいで、あそこの肉が盛り上がっている。おれは鼻と唇で思いきりそこをこすり回した。水風船のようなむにっとした弾力がたまらない。
 布の上からでも、先端のぽっちがわかる。そこを弾いた。
「ひゃん!」
 舌でぐいぐい押してやると、「ふわあぁ……」と鼻にかかった声を上げた。
「ねえ、中もなめてよう」
 この子はいつも直接的だ。おれは、はさみを取った。
「何するの?」
「もう洗濯してもらうわけにはいかないだろ。新しいの買ってあげるから」
 おれは、パンツの股のお尻のあたりにはさみの先端を潜りこませた。「つめた……」と真由ちゃんが不満げな声を上げる。
 じょきん、と切った。同時に、パンツは腰を一周するただの布になった。
 めくりあげると、きれいな桃色の唇が現れた。布との間に細い筋が一本。もう、漏らしている。
 明かりの下にはっきりさらしたのは、初めてだった。
「真由ちゃん、きれいだよ……」
「見てないで、はやくう……」
 おれはそこに舌を沈めた。太ももが合わさっているからきつい。無理やり舌をねじ込む。じゅぷじゅぷと出し入れしてやる。
「あんっ……もっとおくまで!」
 姿勢を変えて、真横から唇を押しつけた。そうしないと舌が届かない。伸ばせる限り伸ばした舌で、真由ちゃんの体の中をねろねろとえぐる。
「いいっ! それいいっ!」
 奥の方が喜ぶのは気のせいかな? そんなの男の幻想だ。でも真由ちゃんは確かに、深ければ深いほど嬉しそうに体を震わせる。
 突っ込みたい。そんな欲望が高まってくる。無理なのに。舌でさえ、丸めてとがらせないと入り口を通らないのだ。処女膜のようなものもちゃんとある。
 おれは仕方なく、自分の手でペニスをこすり上げる。そんなおれの苦悩に気づいたのかどうか、真由ちゃんが片手を伸ばした。
「ねえイルカ、リップとって」
「リップ?」
 ランドセルから出した小物の中にそれがあった。おれは、それをとって真由ちゃんに渡した。真由ちゃんはリップクリームのふたを取ると、ぺろぺろとなめてから、お尻に持っていった。
「んっ……」
 息を詰めて見守るおれの前で、真由ちゃんはそれをあそこの入り口にくりくりと押しつけた。それから、ゆっくりと中に挿入していく。
「真由ちゃん……」
「お父さんがね、めでするときにやってくれたの。ずっとやってなかったけど、イルカのために練習する。こうすれば、いつかイルカのおちんちん入るかもしれないでしょ」
「おちんちんって……」
「お父さんがしたがってたから。おちんちん入れると、おとこもおんなもすごく気持ちいいんだよね。けっきょくできなかったけど……」
 ほんとに犯そうとしてたのか。なんて鬼畜な親父だ。
 ――いや、わかってる。おれも同類だ。
 真由ちゃんは、根元までずっぷりとリップを飲み込んでしまった。なるほど、これなら細いし、潤滑もできて一石二鳥か。
 それでも、真由ちゃんにとってはきついらしかった。顔をしかめながら、健気に手を動かして、ずぶずぶとピストン運動を始める。
「ま、真由ちゃん……」
「ちょっと待って。すぐ終わるから……」
 真由ちゃんの額に汗の玉が浮き始めた。熱にうかされたように顔が真っ赤になる。だが、過激な分快感も激しいらしかった。見る間に手の動きが早くなり、片手で自分の太ももをぎゅっと抱きしめる。
「んんっ!」
 そのまま声も立てずに、真由ちゃんは絶頂した。自分のひざに顔を押し付けて、二、三度鋭く痙攣する。
「はぁああ……」
 深く息を吐くと、花が開くように真由ちゃんは両足を下ろした。ぬぽっとリップを抜き、テーブルのふちからずるずる下に落ちる。
「痛くなかったか?」
「ん、いたがゆかった……」
 思い悩んだ哲学者のようなまじめな顔で、真由ちゃんはうなずいた。それはなんだか、今の痛々しいまでの努力に、妙に似合っていた。
 それから、少しさっぱりした顔でおれの股間を見た。
「あっ、やっぱり。イルカも出したいんでしょ」
 そうだ。おれのペニスは、真由ちゃんの過激すぎるオナニーのせいで、ギンギンにきばっていた。どうしたらいいんだ、あんなもの見せられたら、手で抜くぐらいじゃ収まらない。
 すると、真由ちゃんはまた、優しい笑顔を見せてくれた。
「イルカ、『おかえし』してあげる」
「おかえし?」
「イルカ、いっぱいさわってくれたもん。だからしてあげる。お父さんがいつも言ってたよ。『おかえし』が大事だって」
 そう言うと、真由ちゃんは体を伏せて、おれのペニスに顔を近づけた。
「ま、まさか」
「ん」
 ちゅっ、と先端にキスされてしまった。
 真由ちゃんの『おかえし』って、これが本当の意味か! 突っ込めないもんだからって、そんなことまで教えこむなんて……どこまでひどい親父だ。
 言うな、わかってるって。
 いたいけな子供の過ちを利用する事だってわかってても、止められなかった。さっきキスした、真由ちゃんのあの柔らかい唇とねっとりした口の中が、おれのを包んでくれるんだから……虫歯もなかったし。
 ちゅちゅっ、と何度かキスしてから、真由ちゃんは舌を出して、張り詰めた亀頭をなめまわし始めた。おれはうめいた。
「うわ……真由ちゃん、気持ちよすぎ……」
 童貞だぞ、おれ。フェラやセックスはおろか、手で触ってもらったことだって一度もない。さっき真由ちゃんのお尻にスカート越しに押しつけたのでさえ、めちゃくちゃ気持ちよかったのに、こんなことされたら……
 ずるーっ、と真由ちゃんはペニスを飲み込んでしまった。口が小さいからすごくきつい。そして真由ちゃんは、唇を巻きこんで歯が当たらないようにしてくれている。亀頭の先に、ちろちろと舌。
「うっ、うわっ!」
 前立腺がびくびく震えて、出しそうになった。すると真由ちゃんは、細い指できゅっと根元を押さえ込んでしまった。苦しい。
「ま、真由ちゃ、頼む……」
「まっへ。もっこがまんひはほうが、ひもきいいよ」
「そんな……」
 お父さんが言っていた、んだろう。お父さん! てめえこんなテクニックまで……
 ぷはっ、といったん顔を離すと、よだれまみれのペニスをしこしここすりながら、真由ちゃんは楽しそうに言った。
「ちゃんとのんであげるから。ね? いい子だから、もうちょっとがまん」
 いい子って……あーのーよー……
 真由ちゃんは茎から亀頭の裏まで、舌で丁寧にくすぐり始めた。先端と根元はしっかり両手で押さえている。あごもまだとがっていない丸っこい顔の女の子が、手慣れた様子でごつごつしたおれのペニスをもてあそんでいる。ものすごい落差だった。
 こんな可愛い子にいかされて、その瞬間の顔を見られるなんて。情けないほど屈辱的で、恥ずかしかった。それが逆にぞくぞくした。
 少しぐらいやり返してやろう。
 おれは真由ちゃんの腰をつかみ上げて、寝そべりながらこっちに引き寄せた。スカートとパンツの残りに囲まれたお尻に、頭の上をまたがせる。
 顔を上げて、手加減なしでしゃぶり始めた。
「あん……イルカ、お父さんとおんなじ!」
「うれしいか?」
「うん! イルカもまゆのあそこ好きなの?」
「好きだよ。真由ちゃんは?」
「まゆも! これいちばん好き!」
 はあはあ息を吐きながら、真由ちゃんがおれのペニスに食いついている。まるで動物みたいに。裏筋に舌を張りつけてちゅぱちゅぱ吸う。間違いなく味わっている。そこまで乱れてしまうなんて、信じられない。
「真由ちゃん、おれの、おいしい?」
「しょっぱいよ、変な匂いする」
「真由ちゃんだってそうだったぞ。おれがきれいにしてやったんだ」
「うん、まゆもイルカの、きれいにしてあげるね!」
 違う、わかる。おいしいんだ。おれもそうだった。熱に狂っていると、あそこの味までおいしく感じられる。
 大きな瞳で漫画を見ていた、おちょんぼ頭のあの可愛い子が、おれの洗ってないものをおいしく感じるぐらい、狂っている。
 おれのほうが狂いそうだった。
 おれは指まで使って真由ちゃんの浅いところをくすぐりながら、舌で奥までねぶりまくった。びくびく体をはねさせながら、奉仕が途切れないように必死に真由ちゃんはおれのものにしゃぶりつく。愛液がぬるぬると鼻にかかる。子供の真由ちゃんの体が、一生懸命おれの愛撫に応えようとしている。殺したいほど愛しくなって、おれは真由ちゃんの太ももを抱きしめた。あそこのいやらしい匂いと真由ちゃん全体のお菓子のような匂いがごっちゃになって、むせそうになった。
 この子の中にぶちまけたい。
「ま、真由ちゃん、くわえて!」
「んんっ!」
 ずるずるっとペニスを飲みこみながら、真由ちゃんが栓をしていた指を離した。
「うおっ、おおっ!」
 ズビュウッ!
 真由ちゃんのあそこに顔をうずめながら、おれは思いきり射精した。腰の奥から力をこめて、のどの奥に白い液を注ぎこむ。
「ん! む! んぐっ!」
 真由ちゃんがのどを鳴らして精液を飲んでいる。おれの顔は、おつゆまみれの真由ちゃんの太ももとあそこに、べったりと押しつぶされている。
 ペニスと顔と、両方を真由ちゃんに包まれて、おれは幸せだった。

 それから真由ちゃんは、文字通りおれの部屋に入りびたりになった。
 朝は自分のうちで支度をして学校に行く。帰ってくるとずっとおれの部屋にいる。カギっ子だった真由ちゃんは、違うカギを持ち歩くようになった。もちろん、食事も一緒だ。
 おれみたいな男一人が相手というのもかわいそうだから、目下、できるだけ友達と遊べ、としつけているところ。
 気になる生活費は、真由ちゃんが万里江さんからぶんどってくる。多分、あの人なりの見栄だか打算だかがあって渡してくれるんだろう。気味が悪いが、口止め料だと自分を納得させて、受けとっている。どうせ小学生だから、額もたいしたものじゃない。
 それで、晩御飯のあとだけれど。
 あの日、おれは真由ちゃんを一度家に返した。だが、十時すぎになってもう一度ドアが叩かれたのだ。
 ドアを開けると、男の子みたいなデジモンのパジャマ姿で、真由ちゃんが立っていた。
「どうした?」
「もうこっちの子だからこっちで寝ろって」
「マジかよ」
 真由ちゃんはご丁寧に枕まで持ってきていた。そのままおれのそばを通りすぎて、おれの布団でご就寝。この辺の勝手さは相変わらずだ。
 というわけで、夜もおれたちは一緒なのだった。
 先行き不安だが、その不安もぶっ飛ぶような役得がひとつ。
 寝顔が。真由ちゃんの寝顔が。もうなんというか。
 見せてやらん。おれが、その寝顔のためだけにでも、人生棒に振っていいと思った顔だからな。



   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



 低年齢ものでよく見かけるのが、
「いいよお兄ちゃん、あたしお兄ちゃんが好きだから我慢する」
「この子がいやがることだけはしない」
 という免罪符。
 本作でも使っているが、もちろんこれは偽善。
 言うまでもないが書いておくと、本人がいいと言っていようがいまいが手を出してはいけない。別に法律が禁じているからというわけではなく、多感なこの年頃の子供にそんなことをしたら、気持ちよかろうが悪かろうが性格が歪む。やらないのが相手のため。
 また逆に、連中は天使でもなんでもなく、人のことなど考えず自分のしたいことだけを追及する。未熟な心は人を傷つけることをためらわない。
 幼児恋愛など成立しない。幻想は幻想に留めておくのがよい。

 いちいち無粋だとは思うが、それだけ踏まえた上で、読んでいただければ。私がDOORのトップに書いた「節度ある受け取り方のできる方」というのは、そのように子供に対してなんら期待を抱かず、たとえば美少女アンドロイドがいたらなあ、と思うのと同じように、ありえないことを承知で妄想することができる人を差す。
 ネタがネタだけに、あえて釘を。ほんとに無粋で失礼。

 例によって、単発の思いつき話です。
 続編があるとしても、いつになるかは不明。

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