| top page | stories | catalog | illustrations | BBS |


 湖畔にて     ―または、ネリド辺境博物誌の序―

 夕暮れの湖畔に二輪馬車ギグが一台。かたわらに炊事の煙が上がっている。
「りーさん、できたよ」
 焚き火の上で手鍋をかき回していた少女が馬車を振り向いた。目が大きくて目鼻立ちのやわらかな、愛らしい娘だ。身に着けているのは粗末な無染めの一枚ものだけだ。日に焼けた腕と足を、付け根近くまで夕べの風にさらしている。それでもさほど寒そうではない。やや垂れ気味の三角耳を、伸ばし放題の赤毛から覗かせ、スカートのすそからふさふさとした尾を垂らしている。人ではない、亜人なのだ。歳は十代半ばに見える。
「ありがとう」
 馬車の座席で書き物をしていた女が答えた。声をかけた少女とはあらゆる意味で対照的な姿だ。ベルベットの厚い外套に身を包み、丈夫な皮のブーツを履いている。髪の色は黒で、銀のピンで頭の上にきっちりとまとめている。修道衣に似た黒服で、手首と足首までつつましく覆っているが、布地を内側から支える体の線には豊かな丸みがある。
 手にした野帳も、乗っている馬車も、馬車の右側面に吊ってあるライフル銃も、さらに亜人の少女自身も、すべて女の所有物だ。リュイリー・カピスタ、歳は二十を出たばかりだが、首都サンズブレスで正式な学位を得た博物学者である。
 少女はマルテュースと名づけられた従者だ。リュイリーが野帳を閉じて馬車を降りると、ぱたぱたと尾を振って寄ってくる。
「りーさんりーさん、お仕事おわった? なにかいたの? みせて?」
「鍋にハーブを入れた?」
「入れたよ! りーさんに言われたとおり、ちゃんと水で洗ってから入れたよ!」
「敷物を敷いて。一緒に食べましょう」
「うん!」
 リュイリーが鍋のそばにしゃがんで味を見た。具は彼女自身が掘った根菜と、マルテュースが狩ってきた野兎だ。一つうなずいて待つ。マルテュースが馬車の座席の下から、カンバスを取り出し、そのあたりで一番平坦な土の地面に敷いた。さらに二枚の異なる皿を取り出した。一枚は木皿、もう一枚は金彩の入った磁器の椀だ。
 それからの奇妙なやりとりは、二人にとってのちょっとした儀式だった。
「はい、りーさん」
 マルテュースが磁器の椀に湯気の立つ煮込みをたっぷりとよそいつけて、差し出した。リュイリーは無言でそれを受け取る。礼の一言も口にしない。彼女が主人であるためだ。
 次にリュイリーが片手で匙を取った。マルテュースは鍋のかたわらの地べたに木皿を置き、その後ろに行儀よく腰を下ろす。リュイリーはおもむろに、鍋の底に残っている汁と具を木皿にすくい出した。マルテュースは文句一つ言わずに、ゆらゆらと尻尾を振って待っている。従者にとって、食物とは主人の手から与えられるものだからだ。
 ましてや、それに主人の皿と同じ温かみがあれば。
「感謝していただきましょう」
「いただきます!」
 皿に伏せて食いはじめたマルテュースは幸福な顔だった。
 リュイリーは身分のある人間にふさわしく、カンバスの上に端然と座って、あまり上等とは言いかねる食事を、きわめて上品に食べた。食べ終わると馬車から火酒の瓶を持ってきて、匙に少し注いで唇に流しこんだ。
「はぁ……」
 宙に吐いた熱い息が白い雲になった。
 前方は残照の揺れる湖面だ。五リーグほど遠くに目的地のブラスコ村が見えている。背後はモミの大木が茂る深い森で、刻々と暗くなる。ここは商業地からも鉱山からも遠い、まったく辺境の地だ。周辺十マイルにいる人間はリュイリーたちだけだろう。
 空を見上げるリュイリーの内を、さまざまなものが満たす。満腹、火酒の酔い、一日の乗車とそれに続く狩りでの疲労。十分に検分して、ここが危険な野営地でないことは確かめてある。大きな安息を覚えた。
 安息は、しかし、熱いうずきを呼んだ。
「んふ……」
 リュイリーがちらりとマルテュースに横目をくれた。彼女はリュイリーの許しを受けて鍋の底まで舐めている。清潔でも清楚でもなく、ましてやしとやかさなどない少女だが、女には違いない。彼女のしなやかな二の腕や太ももをリュイリーはじっと見つめる。
 抑えがたい衝動が始まった。マルテュースの肌と肉がほしくなり、鼓動が早まる。股間にむっくりした熱い異物感が生まれる。特異な構造をした自分の秘所の奥で、腺から分泌された粘液がじくじくと溜まり始めたのが、早くも感じられた。
「くぅ……」
 いけない――そう自戒して自分の体をきつく抱きしめたが、無駄だった。いったんそれと意識してしまうと、リュイリーは常に、決して衝動をやり過ごせなかった。とにかく処理するまで理性的に行動することができなくなる。そうとわかっていても――いや、わかっているからこそ、この半獣の少女を連れ歩かずにはいられないのだった。
「マル」
「……あい」
 鍋を舐めていたマルテュースが、ぴたりと動きを止める。その肩が小刻みに震えている。鋭敏な感覚を持つ彼女は、女主人の発情にとっくに感づいていた。
 リュイリーの手が伸び、マルテュースの二の腕を引く。がらんと鍋が落ちる。リュイリーの厚い外套と長い腕が開き、温かくやわらかな胸に少女を引きずりこむ。従者は主人に逆らえない。それでも彼女は精一杯主人の堕落を防ごうとした。
「りーさん、だめだよ」
「マル」
「辛抱するって言ったじゃない。まるとしちゃうのは破戒だって」
「わかってるわ」
「もうしないって、きんよくするって、言ったのに、だめ」
「暴れないで」
 もがく少女の手のひらを避け、足を払う。それ以上強い抵抗ができないマルテュースを無理やり抱きしめる。半野生の娘の体はどこも弾力のある肉がついていて、とても体温が高い。髪やうなじは鼻が痛むほど濃い糖蜜の香りを帯びている。それがリュイリーの残りわずかな理性もかき消した。
 マルテュースの頭に生えているぽってりした耳たぶを唇に挟み、てろりとあふれんばかりの唾液を塗りつけて、吸った。
 じゅうぅ……っ。
「んきゅっ!」
 マルテュースが肩を縮めて叫んだ。一瞬の隙を捕らえてリュイリーは娘の手を自分の股間へ導く。修道服の裾をかきあげてストッキングの上を滑らせ、なめらかに張った太ももの奥のレースのショーツへ。
「マル」
「り、りーさん……!」
 マルテュースが息を呑む。指先に異様な器官が触れたのだ。
 艶のあるシルクを持ち上げて脈動する、はりつめた肉の茎。
「やめて……」「離してはだめ」
 命じられたマルテュースは身を凍らせる。その体にリュイリーが両腕を絡ませる。豊かな乳房で娘の肩を受け止めながら、ぴくぴくと跳ねる耳たぶを唾液でぐしょぐしょにしていく。すうすうと露骨に鼻を鳴らして髪をかぎ、頬やあごに絶え間なく手のひらを這わせて欲情を伝える。
「は……わ……ぁ……」
 マルテュースは何を見るわけでもないのに目を見張る。指先に伝わってくるのだ。勃起を始めていたリュイリーが、マルテュースを味わうにつれてますますそれを膨らませているのが。
「りーさん……おちんちん……すごい……」
 姿は玲瓏な女性としか見えぬのに、リュイリーはまぎれもない男性器を備えていた。充血して反りあがったそれが、マルテュースへの渇望をはっきりと示して、一秒ごとにみちみちと硬さを増していた。
 マルテュースは首を振って逃げようとする。
「りーさん、だめぇ……」
 立ち上がろうとしたとたん、手首をがっしりとつかまれた。振り向くと、潤んで強く光るリュイリーの瞳と目が合った。普段は涼しげなものを感じさせる整った美貌が、今に限っては攻撃的な雄の熱気をたたえていた。
「ひっ……」
 がぷっ、とリュイリーがマルテュースの尻に噛みついた。少女はもともと一年中裸で暮らしていた。今でも命じられて薄物と下着を身に着けているだけだ。若い肉のついた太股も小麦色の尻の丘も、むき出しにしている。そこにリュイリーが唇を押しつけ、足を抱えこんだのだ。
「や、あぁん……やめっ……」
 マルテュースは弱々しい声しか上げられない。リュイリーの口が尻にぴったり吸いついて、ぞっとするほどの熱心さで舌を這わせている。さらに女主人は両手を少女の足の間に滑りこませて、あつかましく上下に撫でさする。こりこりと飛び出したくるぶしや膝の骨から、ぴんと伸びた太股の付け根まで。――さらに無遠慮に、薄布で覆われた谷間にまで。
「マル」
 リュイリーが舌を長く伸ばし、太股から腰骨のあたりまでたっぷりと唾液を塗り付けた。犬でもやらないような淫らがましい意思表示が、マルテュースの種族の本能を強烈に揺さぶる。言われるとおりにしたいという思いで頭がいっぱいになる。
 リュイリーの一言が、やはり今回も引き金になってしまった。
「受け入れなさい」
「くぅ……ん!」
 鼻を鳴らして、マルテュースはどさりとカンバスに膝を突いてしまった。その背に猛獣のような音のない動きでリュイリーがのしかかる。頭を押さえ、耳をくわえ、未熟な胸をかき抱き、厚い外套でまるごとすっぽりと包んでしまった。
 そして修道服の前ひだを横へかきわけ、白のショーツを太股までずり下げた。先端から早くも透明な糸を垂らしている幹が、ぶらん、と斜めの角度に現れた。
 突き出されたマルテュースの尻に、先端をそっと押しつける。少女がぶるりと震えた。
「りーさん……あつい……」
「ええ」
「だめなの? もうがまんできないの?」
「マルがおいしすぎて」
「だめって言ったの、りーさんなのにぃ……」
「黙りなさい」
 マルテュースの申しわけ程度の下着を細い指がかきわけ、まだ小さなぽってりした唇を開かせた。二股の指が形作るその門に、リュイリーの先端が触れた。
 ぬちゅ……
「ふ」「んぁ……」
 上になった美しい顔は眉をひそめ、下になった愛くるしい顔が絶望したように口を開けた。すぐに、その表情がさらに鮮明になった。
 ぢゅ、ぢゅるる、ぢゅるぅ……ずちゅんっ
 夕暮れの湖畔でうずくまっているように見える女の腰が、わずかに沈んだ。それが、あどけない従者の胎内へ女主人が欲望を押しこんだ瞬間だった。
「ん……」「あああぁ……!」
 リュイリーが沈鬱に目を閉じたまま、わずかに口の端を緩める。マルテュースはぱくぱく口を開けている。成り行きに反して、この時は二人とも快楽そのものを味わっていた。もっとも敏感なところを密着させる快感。
「マルテュース……」
 リュイリーは少女の頬に何度も口付けし、乳首の立ってしまった薄い乳房や二の腕を淫猥そのものの手つきで撫で回す。頭の半分以上を占めるのは性器からの直接的な快感だ。
 マルテュースの膣腔は、まだリュイリーを受け入れた経験が少ないため、径に余裕がない。尻の肉も豊満というほどにはついておらず、腹の脂肪はそれ以上に薄いので、思い切り挿入されると奥行きも苦しい。しかしそれに反して彼女の体は、主人にどうしてもと求められると、本能的に受け入れてしまう造りだ。そのため、股間全体がすっかり温まって溶けている。
 リュイリーのペニスはそこへ押し入った。抗う筋肉を押し広げ、戸惑う粘膜をかきわけて。当然先端は子宮口に届いたが、それでもなお女主人は容赦せずに力をこめた。するとじきに挿入が根元まで進んで、二人の尻と腰がぴったりと密着した。
 リュイリーの快感はうかつに息も漏らせぬほど強いものになった。男性器に触れるのはまんべんなく湿ってひきつった管。周りをみっちりした熱い腹腔が包み、荒い呼吸をともなう横隔膜の動きや、痛苦しさによる不規則なびくびくした痙攣を伝えてくる。かすかなマルテュースの尻の動きに合わせて粘膜がぬちぬちとよじれ、泡になった粘液がぷつりと漏れ出したりもする。
 無情きわまることに、リュイリーがそうやって交わりながら望んでいるものは、マルテュースという人格ではなくて、彼女の肉体だけだった。彼女の肉と体液だけがあればよくて、心など見ていなかった。
 マルテュースがそれを従順に捧げているので、リュイリーの興奮は際限なく深まっていった。ペニスの根元の液溜まりへ、じゅくじゅくと一滴また一滴送りこまれる体液を感じていて、それの放出へ向かう腰の動きをゆっくりと始めた。
 マルテュースはしかし、そういったリュイリーの心情をすべて承知していた。
「りー……さんっ……おなかのぐりぐり……きもちよくないよぅ……」
 はふはふと蒸気のような息を吐いて主人の名を呼ぶが、応えてくれないことはわかっている。ここまで交わりを深めたリュイリーは、見かけ以上に理性を失っている。マルテュースの言葉などあえぎ声の変調としか思っていない。マルテュース自体を排出のための
道具のように見なしている。
 だが、それが、マルテュースの好きな扱いだった。
「マル……ここよ? いまここまで入ってるわよ……?」
「ひぃ……っ」
 リュイリーの細い人差し指がへそをくるくると撫で回す。マルテュースは恐怖に顔を引きつらせる。そんなところまでおちんちんが入るなんてふつうじゃない、入ったらおなかやぶれちゃうかもしれない、そういう思いが身を縛る。
 が、その恐怖は同時に暗く甘い快感をももたらす。こんなにあぶないことをさせるほどこの人がすきなんだという誇り、これでまるが死んじゃったらりーさんを泣かせられるんだという優越感。
 マルテュースの種族は絶対強者に従うことを最大の慶びとするのだ。
 うねりのようにゆっくりと動いて性器を出し入れしていたリュイリーが、いよいよ身を硬くし始めた。獲物へ跳ぶ寸前の猫のように体を縮め、ぶるっ、ぶるるっ、と暴発に耐えるための痙攣を起こし、うつろだった瞳をさらに昏く沈める。マルテュースはぎちぎちに張り詰めた先端を腹の奥に感じながら、単純な機械と化していってしまう主人の横顔を、首をひねってぼんやりと見上げる。
 ぬるり、ぬるり、と眠りそうなほど遅くなっていた動きが、ついに一番奥でぴたりと止まった。リュイリーが全身を胎児のように強く縮める。マルテュースはそれに合わせて深々と息を吐いている。
「さあ……出すわ。んウッ!」
「――ひぅーっ!」
 じゅぅぅぅっ、と最初のひと撃ちで子宮が拳ほどに膨らんだような気がした。リュイリーの射精はそれほど強烈だった。
「ぅっ、うぐっ、うゅんっ! きゅあぅぅ!」
 じゅるるっ、びゅぅぅっ、びゅくびゅくっ、下腹部が中から圧迫され、恐怖で断続的な悲鳴を上げてマルテュースはのた打つ。しかしリュイリーの熱い四肢が牢獄と化して少女を捕らえている。おびえるマルテュースを気づかう様子はまったくない。それどころか、彼女のもがきを楽しんでさえいた。
 ――マル、マルテュース、可愛い子、どれほどでも満たしてあげたい。
 閃光のような放出感が性器を貫くたびに、注入している子宮の狭さと、マルテュースのおびえが伝わってくる。彼女の額にびっしょりと噴きだした汗が発散して、鼻から脳髄が流れ出してしまうほどの芳香を感じさせる。この十数秒の快楽に対して、彼女は常人よりもはるかに耐久性がない。正しく言うと、彼女はそのことで異常なほどの快感を覚えてしまう体質だった。
「まるてゅーすぅ……」
 生きている従者をぬいぐるみのように堅く抱きしめたまま、一方的に射精して射精して射精し尽した女主人が、突然ふっと脱力した。美貌から蕩けた表情を失う。――そして次の瞬間その顔に浮きだしたのは、ぞっとするほどの憔悴の色だった。
「まる……テュース……」
「りーさん?」
「私……また……」
 よろり、とリュイリーが体をずらし、カンバスに横ざまに倒れた。楔を抜かれたマルテュースの陰部からは、青白い塊のようなおびただしい精液がごぽりとあふれ出す。しかし半獣の娘は気にするそぶりも見せず、主人の横顔を覗きこんだ。
「りーさん、しっかりして、りーさん!」
「……なさい」
「りーさん?」
「あっちを向いてなさい! 私に構うな!」
 びくっ、と跳ねのいたマルテュースは、しかし、ほっとしたような笑みを浮かべた。
「おっきな声でるなら、だいじょうぶ……」
 そうつぶやいて背を向け、打ちのめされた主人を見ないようにしながら、自分の体を舌で清め始めた。



| top page | stories | catalog | illustrations | BBS |