雨で。濡れる日  どこかでぴろぴろと音楽が鳴って、隣でもぞもぞと動きがありました。 「ふぁい……はい、西住です。おはようございます。はい……はい、ああやっぱり。わかりました、みんなに伝えます。はい、ありがとうございます……」  ピッ、と通話を切って、ぽすんと携帯を落とす音。それから腕がするりと布団から抜け出して、ぐぐぐっ、と隣の体が硬く伸びる気配。 「お休みだぁ……」  目を開けると、みほどのが両腕を枕越しに高く組んで、うーんと伸びをしていました。こちらに目を向けて微笑みます。 「あ、優花里さん、起きた?」 「はい……おはようございまふ」 「電話あった。今日のパレード、雨天中止だって」  言われて窓の外に意識を向けると、聞こえました。  さあさあとかすかなささやき。ぴちょん、ぴちょん、と雫のつぶやき。  日曜の世界を静かに包む、雨の音が。 「だから、お休みだよ」  はふっと息を吐いて、みほどのが両腕を布団に戻します。嬉しそうな顔が近づきます。外部から要請があって準備していた、戦車を繰り出す市民パレード。その責任が消えたので、隊長のみほどのはほっとしたんでしょう。  それだったら――。 「お休み、ですか……」  もの言いたげな私の表情を、何か別の意味にとられたみたいで、みほどのはちょっと申し訳なさそうにささやきます。 「喜んじゃだめだよね。楽しみにしてた人もいるだろうし。優花里さんも出たかったよね? 戦車のパレード」 「いえ……はい」 「張り切って準備してたもんね。ごめん」 「でも、どうせなら晴れの日にやりたいですからね。雨だと戦車の中までびしょ濡れになっちゃいますから、中止も仕方ないです」  「そうだね。残念だけど……ね」  目を合わせて苦笑し合うと、みほどのは手を伸ばして、私の頭をさわさわと撫でてくれました。 「また何かやれたらいいね。戦車が好きな人のために」 「……はい!」  みほどのはみんなの気持ちを考えてくれる人です。私はうれしくてうなずきました。  さわさわと、手が髪に触れ続けてくれます。私も手を出して、そんなみほどの腕を撫でました。満ち足りた気持ちになります。暖かい布団に包まれて、部屋には二人だけで、窓の外には人目をさえぎるような静かな雨の幕。邪魔をするものは何も――。 「……いま、何時ですか?」 「ん、まだ六時前」 「まだ早いですね」 「うん。でもみんなにも連絡しないと――」  携帯を取ろうと動かす手に触れて、私は言ってしまいます。 「それは、後でもよくないですか。お休みってことですから」  みほどのの手が止まります。いつもの、あの気弱そうな困り顔になって、聞かれます。 「ええと……優花里さん?」 「後にしませんか。その、私……」  もうちょっとだけ、こうしていたくて。  一日が始まって気が引き締まる前の、ゆったりした時間。それが、連絡を始めたら消え失せてしまいそうで、私はわがままを言っちゃいます。  みほどのがふわりと優しい目になりました。手を戻して一段と顔を寄せてきます。 「甘えんぼみたい、優花里さん」 「すみません……」 「ううん、いいよ、可愛い」  耳元に口が近づきました。 「後にするね、優花里さん」  声と唇のあまりの近さに、ぞくっと震えちゃいました。  するすると腕を回して抱き合います。まだ眠気の抜けていない、くんなりした体を寄り添わせて、唇を重ねます。 「うん……んむ、ゆかりひゃん」「みぅ……みほ、どの……」  薄く開けた唇をつむつむと押し当てるていどの、浅いキス。それだけでもう、胸が高鳴って体が火照ってきます。みほどのも同じです。ほっぺたが、おなかが熱くなって、布団の中の体からうっすらと甘い汗の匂いが立ち上ってきます。 「優花里さん……もやもやしてきちゃった? 昨日、しなかったから……」 「はい……すみません、そうです……私、我慢してました……」 「そうだよね、私たち、ちゃんと我慢したよね……」  いつも土曜の夜は二人の時間を取るんですが、昨夜はイベントの準備に専念して、早寝しました。お互いに自制して、手もつながないで寝たんです。  だからなおさら、反動で……。 「すみません、すみません。お休みって聞いたとたん、思っちゃいました。みほどのとゆっくりできるって。そんなことじゃだめなのに」 「あ、なぁんだ……優花里さんもなんだ」いたずらっぽいささやきに、耳がしびれます。「私も思っちゃったんだよ、優花里さんと仲良くできるって」 「くうぅ……みほどのぉ!」  腕に力をこめようとすると、待って、と止められます。 「ね、脱いじゃお」きらきらと輝く瞳。私しか見たことのない、こういうときの楽しそうな目。「ふく、全部……」 「は、はい」  狭い布団の中で、もぞもぞと手足を動かしてパジャマと下着を脱ぎます。布団なんか剥がしちゃってもいい暖かさなんですが、私もみほどのも、そうするにはまだ抵抗があるんです。  足から引き抜いた下着を取り出すのは恥ずかしくて、丸めて手で隠してしまいました。みほどのも同じようにしていて、目が合うと照れ笑いしちゃいました。 「ぱんつ」 「はい……」 「脱いじゃった? 優花里さん」 「はい……みほどのも」 「ん。脱いじゃった。えへへ……はだかだね」  枕元に、二人して布をぽいぽいと放り出して。  ぴったりと、私たちは抱き合いました。 「優花里さぁん……」「んみ、みほどの……」 「うふ、あったかい、さらさら……」  胸と胸とがふんにゃりと柔らかくつぶれ合います。みほどのの私より大きなおっぱいがじかに当たると、なんだかもったいないというか、私なんかが触れてしまっていいのかと思って、どきどきします。脚の間に膝が割り込んでくるので、こちらも同じようにして根元まで挟み合います。お互いの一番秘密にしてるところがこすれあって、ものすごく恥ずかしくて嬉しい気持ちになります。  そうして、みほどのの体は柔らかいとかあったかいとかもあるんですけど、何よりも肌がすごくきめ細かくてつやつやと滑らかなのがすてきです。肌を合わせると、しっとりと貼りついてすごく気持ちいいです。まるで温めたババロアを舌に乗せたときみたいな感触です。 「はふ……み、みほどの……」  思わず胸からおなかを押し付けて、腕に力をこめちゃいます。背中も細くてすべすべで、押し当てた手のひらが止まりません。撫でまわして、何度も撫でおろして、お尻までつかんじゃいます。 「――んっ」  みほどののお尻は……私がいつも、見ないようにすごく努力しているところです。  だって、見えちゃうんですから。戦車のキューポラから身を乗り出して四方を見回すみほどのを、装填手席から指示を求めて見上げると、必然的に目に入っちゃうんです。私は多分、世界で一番みほどののお尻を目にしている人間です(大洗に来る前のことは知りませんけど!)。  でも戦闘中にそんなところ見つめるわけにも、考えるわけにもいきませんから、可能な限り頭から追い出すことにしているんです。  今は私の手の中にあります。もっちりしたまぁるい丘が……気持ちふっくらと大きくて、けれども可愛らしくきゅっと引き締まったお肉が、手のひらでむにむにとはずみます。  それも衣服に包まれていない剥き出しの姿で。  指を細めて力を入れて、うどんの生地をこねるときみたいに、きゅっきゅっと揉んでみると、「んっ」と声が聞こえます。「んっんっ」お尻の内側がびくっと震えます。お団子作りみたいに手のひらでこねこねすると、「んうう……んう」と肩におでこを押し当ててふるふるしてます。お尻の下のほうを谷間へ向かってさわりさわりとさすると、「ひやああぁ……」と細い声が漏れてきました。  私はどきどきが止まりません。みほどののここ、そんなところだったんですか? 「お尻……好きですか」  思わず聞いてしまうと、「んっ? んんん? 好きっていうか……その」消え入りそうな声が聞こえました。「そわそわするの」  みほどのがぐいっと私の肩にあごを乗せました。 「ゆか、優花里さん、それより……」ふーっ、ふーっとくっきりした吐息の音を聞かせてくれます。「ぎゅうして、ね、ぎゅぅーって、して……」 「はい、こ、こう……?」  お尻から腰へ背中へ手を滑らせて、折れそうに可憐なそこを気遣いながら抱き締めると、ううん、と激しくいやいやをされます。 「もっと。もっと、ぎゅーって!」 「は、はいぃ……!」  ぎゅううっ、と力いっぱい抱き締めます。腕の中でみほどのの肺がつぶれて、きゅふうっ、と空気が漏れ出すのまで、聞こえました。 「そ、そう……いいよぉ……」  私の腕力で抱きしめたら痛いぐらいのはずなのに、声は溶けそうに甘くて天井まで跳ねました。そして、お返しにぎゅううっと強烈な抱擁が来て、私も同じ気持ちを味わいました。 「みほど、のぉ……っ」  私の肩と腕の骨が折れそうなぐらいの力。それに感じたのは、どんな言葉にもできないほど強い、愛しさでした。 「好き、すきぃぃ、優花里さんっ……」  ぐりぐりぐり、と耳元に頬ずりされます。ぞくぞくとうなじの毛が逆立って、背筋がしびれました。すでに触れているあそこがジンジンと激しくうずいて、ぎゅっと太腿で挟み込んで押し当ててしまいました。 「わ、私だって、みほどのが……」 「言って、優花里さん、言って」 「好きですっ……大好きですぅ」 「ふくぅぅぅ」  ぐいいっ、と思い切りみほどのが腰を突き出してきます。私の太腿の上に当たっているあそこが、ぐりぐりとはしたないほどあからさまにこすりつけられました。 「あっ、だ、だめ、さわって、優花里さん。さわって、も、もう」 「は、はい、はいっ」  片腕を下ろしてみほどのの股間に差し入れます。触れたそこはつるりと滑らかで、おなかの下から脚の間まで、指に絡む茂みがありませんでした。え? と一瞬思ったものの、隠れた場所に指が届くか届かないかというところから、もうくちゅりと粘りが感じられたので、疑問も吹っ飛んでしまいます。 「うわ」 「うん」  くしゅり、と髪をかき分けて耳にふれた耳は、茹でたてのマカロニみたいに熱くなっていました。 「ごめんね、もうそんななの。優花里さん、好きすぎて……」  息が止まるぐらい嬉しいことを言ってくれてから、優花里さんは? とみほどのが手を伸ばしてきます。  繊細に腰からおなかを伝った指が――その感触だけでもぞわぞわするほど気持ちいいんですけど――そっと下腹に入ってきました。くしゅ、と茂みを通り抜けられたのが、なんだかすごく恥ずかしくて。けれどもその陰にまでぬるりと入ってきた指に、気後れをかき消されてしまいます。  みほどのの可愛くて柔らかい指先が、私のはしたない粒をぴとっとつついて。びくっとこちらが震えたのを、念入りに確かめるみたいに、そろえた指でぴとっ、ぴとっ、と優しくひだのまわりを叩きます。 「ひっく、うっ」 「……優花里さんも、とろとろが出てる」 「ごめんな、さいっ」  みほどのの指が汚れてしまう。気が引けて仕方ないけれど、どうしようもありません。私はあそこから止めどなくぬめりをこぼして、大好きな指を浸してしまいます。  二本だった指が四本に増えて、ぺったりと柔らかな丘を覆ってくれました。ふにふに、ふにふにと粒ごと丁寧にマッサージされると、ビンビンと神経に響くような生の快感が走って、悶えてしまいました。 「はっ、あ、みっ、みほっ、どっ」 「いっぱい出てきた……きもちいい? 優花里さん、きもちいーい?」  嬉しそうにささやきながら、みほどのが愛撫してくれます。体の一番気持ちいい部分を、一番好きな人が大事に大事にさわってくれるんですから、これ以上気持ちいいことなんてありません。  私は足をもぞつかせて、ほっぺたをこすりつけて、心地よさを伝えます。  シーツがくしゃくしゃとずれていくけれど、もう気にしていられません。  触れられるだけで気が済むわけがありません。私もみほどののあそこを指で包んで揺らします。 「ゆかり、さぁっ……」とみほどのが口を開けてあえぎます。押し当てたまま、ぬるり、ぬるりと前後へ滑らせると、指の節や指紋がこすれて気持ちいいみたいで、「それっ、それなのっ……」とかすれた細い声を聞かせてくれました。 「優花里さんっ」 「ふぁ、はっい」 「きもちいい……きもちいいね……!」 「はいっ……きもちいいですっ……!」  優しく触れあっていると、すぐにもっとすごいことをしたくなります。強く押さえたり、指で軽く挟んでみたり、ひだのあいだをすくってみたり。ぬるぬるの中のひくつく入り口を探し当てて、指先を潜らせてかき回してみたり。  そのたびに、ジンジン、ぞわぞわと快感が生まれて、つま先から頭のてっぺんまで電気みたいに響きます。  女の子同士、一番恥ずかしくて気持ちいいところを、お互い隠しもせず遠慮もせずに、好きなだけいじり回す。誰にも言えないようないけないことですけど、すっぽりと守ってくれるお布団のおかげで、心置きなく没頭できます。  好きな人にさわりたいっていう気持ちを、思う存分解放できるんです。好きな人にさわってほしいっていう気持ちを、思う存分満たしてもらえるんです。  手を動かしやすいように体を少し離して、おでこ同士を押し当てて熱中していました。「優花里さんっ……」と余裕のないみほどのの声が聞こえます。 「これっ、どうしよう、すごくいいよっ……ひんっ、んんん」 「はい、私も、みほどのぉ……」中まで入りこんでぐるぐると渦を描くように動いていた中指を、きゅーっとりきんで締め付けます。「は、入られるのっ、ものすごくっ」 「はっ、はふ、優花里っ、さんっ」粒を挟みながら谷間をこねている私の手に、みほどのがぐいぐいと腰をせり出して押し付けます。「わ、私もっ、それ好きっ、手でぐりゅぐりゅ、好きっ、いい? 優花里さん、手、挟んでいい? 強くしてっ」 「は、はいっ」  私の手先をみほどのは太腿の全力でぎゅーっと締め付けて、ぐいぐいっと腰をひねりました。指の股のあいだで腫れたように硬くなった粒がぬりぬりと潰れます。指と手の間から、搾り出されたみたいにちゅぷちゅぷとおつゆがこぼれてきます。 「んぅううぅっ、んーっ!」と泣きそうな顔でみほどのがうめきます。苦しそうに見えるけど、そうじゃないんです。気持ちよさが振り切れて、耐えなきゃいけないほどだからなんです。 「す、すごいよっ、優花里さんも、優花里さんも!」  「はい、ゆ、指っ、奥にっ」 「こう? ここ?」 「もっと、もっとです」 「こ、こう? ほんとにいい?」 「はいぃっ」  みほどのが、立てた中指を精一杯深くまで進めてくれました。それでも、抱き合った姿勢では手首が曲がらなくて、本当に欲しいところまであとちょっと、って感じだったんですけど。  薄目を開けると、興奮で涙を浮かべて真っ赤になったみほどのの顔が映って――何も知らなかったみほどのに、「そんな指使い」までさせてしまっていることが、ひどく申し訳なくて。 「そ、そこです、そこ――」  大好きな人の指を、自分のそんなところにくわえこんでいるってことのいやらしさに、全身が鳥肌立つほど震えあがって、おなかをびくびくさせて……。 「いいっ……いいですみほどの、みほどのぉっ!」   ……思い切りきゅうーっと、吸い付いちゃいました。  はあはあと湿った息をこぼして見つめ合います。「かわいい……」顔を寄せたみほどのとキスをします。唇と舌先を絡ませてくすぐり合いながら、差し込んだ手先に集中します。お互いが今日一番してほしいことがわかったから、あとはそれを続けるだけです。新しいいたずらや工夫は要りません。  私は手で押しつぶすように。みほどのは私に深く差し込む形で。丁寧に、じっくりと、気持ちをいっぱいにこめて、攻め立てていきます。 「ふぁ、はっ、はっ、はっ、ゆっ、ゆかっ、りっ、さっ」 「みっ、みほ、みほどっ、んっ、んっんっ」  あそこから体全体へざわざわと打ち付けていた強い波が、とうとう堰を切ってあふれ出しました。ざぁんっ、と津波のように強烈な一波が押し寄せて、私はもみくちゃにされてしまいました。  んーっ、んーっ、うーっ、とうめいて、中のものをきつくきつく締めつけて、全身を突っ張らせます。ほとんど同時に肩にがしっと抱き着かれて、ぶるぶるぶるっと激しい痙攣が伝わってきました。 「ぃーっ、きぃーっ、くぅぅー……っ」  歯を食いしばったみほどののうめきが耳に突き刺さります。差し入れた手が太腿にがっちりと挟みこまれて動かせません。硬くこわばって震える体の内側で、いっぱいの快感が荒れ狂っているのがわかります。  けれどそれを抱きしめる私のほうもめちゃくちゃに飛んでいたので、しっかり見つめたりできませんでした。ただ相手と一つになったという嬉しさの中に溶け込んでいました。  頭の中全部、みほどのと一緒にたどり着いた気持ちよさに洗い浸されて、相手の体にだけ強く強く触れて……そんな時間が、いつまでも続きました。  潮が引かないんです。少し収まってきても、太腿を動かして指を意識するだけで、手を動かして刺激するだけで、またすぐ強い波がぶり返して、飛んでしまうんです。  無限に続きそうな、続いてほしい、幸せな時間でした。  どこかで短いメロディが聞こえました。それが区切りを告げる合図でした。私たちは目を開けます。お互いの汗だくの上気した顔が映ります。音が聞こえたのはわかっているけど、まだまだそっちに注意を向ける気にはなれません。  みほどのの涙にぬれた栗色の瞳、戸惑っているようなぼやけた瞳に、私のとろけたようなぼんやりした顔が映っています。 「ね……」 「ん……」 「うん……」 「はいっ……」 「優花里さん」 「はい……」 「今の……ね?」 「はい……」 「うん……うんっ」  何度もうなずきだけを交わしながら、ゆっくりと微笑んでいきます。言葉なんかいるわけがありませんでした。二人ともまだお互いの一番奥に触れています。とてもよかったね、最高だったねって……そういう思いなんです。ううん、どんな思いにもたとえられません。  今までになかったぐらい、近づき合えて、ひとつに溶け合えたひと時でした。  少し熱心に手を動かせば、また同じところへ戻っていける気がしていました。でもそうしてはいけないってことも、わかっていました。外の世界が、音を送ってきましたから。  みほどのが手を引きます。名残り惜しい思いで私は見送ります。手を拭いて携帯を取ったみほどのが、画面を見て「あわっ」と声を上げました。 「カエサルさんだ。返事しなきゃ」 「カエサルどの……何時ですか?」 「七時」 「七時?」  びっくりしました。こんなに気だるくなければ跳ね起きていたと思います。まさか、もうそんなに経ってたなんて。 「うわあ、ずいぶんみんなを待たせちゃったよ。待ってね、メールする」  各車長とあんこうのみんなに連絡しなきゃいけません。せわしなく携帯を操作していたみほどのが、やがてそれを終えて、ぱたんと手を落としました。ふーーっ、と深いため息をつきます。 「六時すぎに連絡しなきゃいけなかったのに、失敗したなあ……」 「すみませんでした。私がおねだりしちゃったばっかりに」 「ううん、私もしたかったから……」  そう言ってからみほどのは、顔を上げてしばらく窓のほうを見ていました。  さあさあと雨が降り続いています。外はだいぶ明るくなりました。車の音も聞こえ始めています。  振り向いたみほどのが、子供っぽくぺろっと舌を出しました。 「私たち、二人がダメダメだったね? 優花里さん」  そのとき、小さな何かを感じました。今までのみほどのとは、ちょっと違う、って。 「は……はい、ダメダメでした、私たち……」  私は、頬を染めてうなずいていました。  みほどのがもぞもぞと布団を羽織って、また私に触れます。おっぱいをくすぐって、腋をなでて、肩にツッとキスして。楽しそうに、でも落ち着いた、穏やかな顔で。 「優花里さんのね、肩が好き、背中が好き、おっぱいも好き。ふさふさの髪もさわさわした匂いも好きだし、すぐ真っ赤になっちゃうほっぺも好きだし、体はぜんぶ好き。あそこも好き。指入れちゃうの、すごくどきどきしたよ。優花里さんにそんなことしちゃうの、ほんとどきどきした。いいの? 優花里さん。指なんか入れられちゃって」 「えっう、ほ、その」なんて言っていいかわかりません。ものすごく急です。立て続けに好きを並べられて頭がパンクしそうです。「いいです……みほどのに、なら」 「はうう……」強すぎる炭酸飲料を飲んだ時みたいに、目をぎゅっと閉じて肩を震わせ、はあっとみほどのは息を吐きます。「いいんだ、優花里さん、そんなことして……」 「あの、みほどの?」 「今ぜんぶぜんぶ、本音出してるの」何かがあふれそうな口調で言って、みほどのが私の手を取り、もう一度脚の間に挟みます。「私、こんなに正直に本音ぜんぶ出したことって、一度もないよ。絶対誰にも言わなかった。言えなかった。優花里さんには、優花里さんだけには、言えるの、言いたいの。ここにさわって?」  私は息を呑んで、指を動かします。つるりとした子供っぽい丘はもうだいぶ乾いてしまってたけど、ひだのあいだにまだ残っていたぬめりが、つぷりと指を包みます。 「うん……」心地よさそうに、ふるりと震えて、みほどのが見つめます。「ダメな私じゃ、だめ? 隊長の時はしっかりするから、二人の時だけは……」  私は鮮やかに思い出しました。私たちが初めて結ばれたのは、ここで、このベッドの上で、みほどのが本音を聞かせてくれた時でした。隊長としての責任がつらい、っていうことを。  今またみほどのは、同じことを聞いています。今度は前よりももっと深く……本当の本音まで受け止めてくれないかって。  私は胸が詰まります。私の答えはやっぱり、前と同じなんですが、それは一度聞けばずっと信じられるものなんじゃなくて、何度も何度も聞きたいことなんでしょう。  だったら私だって、何度でも。  こほん、と咳払いをして言います。 「わ、私は、みほどののお顔が好きです。しっかりしてないときとか、困ってるときとか、泣きそうなときの情けないお顔が可愛くて大好きです。それにほっそりしてか弱そうなところも――」ううん、まだだめだ、まだ作ってる。「じゃなくてお尻が好きです! ふとももとかパンツ大好きです! ちゅーしてすりすりしてくんくんしたいです! おっぱいも好きですし女の子らしくてふわふわぷにぷにしてるとこ全部食べちゃいたいです! みほどのお尻タッチ好きですよね?」 「え、ええっ?」 「お尻! さっきもみもみしたとき、さり気に流しましたけど、好きですよね?」  言ってお尻をむにゅっとつかむと、「ひゃん!」と跳ねてから、みほどのはこくこくうなずきました。 「は、はい、好きです……実は」 「嬉しいです!」言って首を伸ばして、ちゅっとキスしました。「あともうバレてますけど匂い大好きです! みほどのの匂いでご飯三杯いけます! どこもかしこも好きですけどやっぱり下のほうが――」  言いかけて、さわっていた手を戻して顔に近づけようとすると、ぱしっと手首をつかまれました。 「ま、待って。優花里さん」 「でも好きです」 「待って。お願い。わかったから。それは待って」 「でもこれが私の一番ダメなところなんです」 「わかった、わかりましたから! ああっ、だめ、それはだめー!」  ぐぐぐぐ、と腕力にものを言わせて口元に手をもっていって、すんすんっと息を吸い込むと――はわああ、と絶望的な顔をするみほどのに、得意げに笑ってみせました。 「大丈夫です!」 「……大丈夫じゃないよぉ、優花里さん……」 「どうですか。引きました? こんなのがあなたの装填手ですよ?」  耳まで赤くなって手で顔を覆ったみほどのが、不意に枕をつかんで、ばむっと叩きつけてきました。 「うわ」 「それは、ほんとに、やめて、ほしいですっ!」 「あっ、すみませんっ、つい、行けるとこまで行かなきゃいけない気がして、あの、ほんと、はぶっ」  ばんばん、ばんっと何度も叩きつけてから、ばさりと枕を置きました。一瞬、見つめ合います。  見る間に笑い崩れて、噴き出しました。 「やだ、もう、優花里さん。あんなことするくせに、すぐ謝るんだから」 「あはは、ちょっとやりすぎました、はい……」 「ダメだよぉ。ほんとに、ダメダメだよぉ、優花里さん……」  けらけら笑ったみほどのが、突然がばっと抱き着いて、すりすりすりっと強く頬をこすりつけてきました。 「ダメ優花里さん……可愛いダメ優花里さん。あんなこと、他の人の前でやっちゃだめだよ? うわあって思われちゃうからね?」 「当り前じゃないですか、もちろんですよ。みほどのにしかできません……みほどのだって、だめですからね。指、入れちゃった……なんて、えっちな話したら」 「言わない言わない、絶対言えないよ、そんなこと……!」  恥ずかしげに頬が赤くなっているのが、当たっている頬の熱さで分かりました。  私たちは裸で抱き合います。静けさの戻った部屋に、さあさあと雨の音が届いています。携帯は、もう鳴りません。予定のなくなったみんなは、思い思いに今日やることを考えているんでしょう。  押し付け合ったおっぱいを通じて、とくん、とくんと鼓動が伝わってきます。みほどのは静かです。私は耳の横に垂れている髪の房を手ですいて、ささやきます。 「寝直します?」  みほどのは、ううんと首を振ってから、私の手をお尻に引き寄せて、上目遣いに聞いてきます。 「あれ、続ける……?」  私は、首を振ります。試合みたいだ、って感じています。激しく撃ち合う殲滅戦のあいだにも、押し引きの引きや、仕切り直しってものがあります。 「ご飯、どうですか?」 「ご飯……」 「おなか一杯になれば、いろんなことができますよ」 「……練習の計画とか、他校の分析とか?」  はい、とうなずこうとして、みほどのの横顔に気づきます。なんだか不満そうでした。  私は、今日にふさわしい一言を付け加えました。 「計画とか、分析とか、そういうの全部ほっぽりだして昼間っからやっちゃうぐだぐだえっちとか、です」  それを聞くと、みほどのがくすっと笑って、顔を上げてくれました。 「そうだよね。今日はまだまだ、ダメダメでいられるよね。――いい?」 「はい。今日は、ダメな一日にしちゃいましょう」  ようやく私たちは布団を押しのけて、起き上がります。  日曜日です。まだ、これからが。   (おわり)