いちばん大きな花だから    わたくしは、あんこうチームの皆さんが大好きです。  沙織さんは、女子学園に入ったばかりの内気なわたくしをひっぱって、いろんな人に会わせて下さいました。お料理のレパートリーもどんどん増やしておられます。  優花里さんは、女の子でも野山で生き延びたり、見知らぬところへ忍びこんで偵察したり、格好いいことができるんだって教えて下さいました。  麻子さんは、驚くほど我の強い方です。自分のわがままや好き嫌いをあんなに表へ出せるということ、それでも皆さんと協力できるということに、わたくしびっくりしました。  そしてみほさんは、可能性の塊です。嫌で嫌でたまらなかった戦車道を、仲間のために好きなものに変えてしまい、その仲間たちが好きになれるぐらい、戦車道を楽しいものに変えてしまわれました。  皆さんを見守っていると、日々感動してしまいます。人はなんていろいろなことができるんだろうと。  でも、最近はちょっぴりうらやましいと思ったりします。  わたくしにはないものを、持っていらっしゃるから。      〇oooooooo〇   「ぃぃやあっふーーー! お布団だぁー!」 「やめろばか沙織とびこむな、埃が立つ、床が抜ける」 「いくらなんでも床は抜けなくない? どぅっぷし」 「だったら私もこうしてやる。どーん」 「ちょっ、痛い! 麻子ミサイルちっちゃいけど硬い!」 「武部殿、冷泉殿ー。入り口でやられると入れませんよう。うわっと」 「えいっ! 優花里さんも突っこんじゃえー……って、ふぇっ?」 「ふふふそうは行きませんよ、私に不意打ちは効きません!」 「なに今のすごい、優花里さん跳んで回った! ぐるって!」 「左衛門佐殿と忍術やってまして、最近」 「へぇー、そうなんだ……でも優花里さんの弱点は知ってるよ、ここだ!」 「わひゃはそれはっ? わっ腋はだめです腋はーあひゃひゃひゃ、あぅんっ……!」 「皆さん、大はしゃぎですね。でしたらわたくしも失礼して……え、えいっ」 「ほぎゃ!」「ぐはっ」「うえっ?」「あたっ!」 「あら」 「あらじゃなーい、華はだめー!」 「一撃で大ダメージですよ、さすがはうちのタンクバスター殿です」 「す、すみません、皆さん……」  あんこうチーム、上陸日での一泊旅行。昼間は梨狩りと渓流下りを楽しみ、立ち寄った道の駅の物産展で各地の銘菓を買いこんで、温泉街の和風旅館に投宿した。露天風呂であちこち隠したり剥ぎ取ったりつっついたりの入浴後、大広間で夕食に舌鼓を打ったり板前さんにあしらわれたりして、部屋に戻ったら布団が敷かれている。おふとんダイブからのじゃれ合いくすぐり合いに、華が大身長榴弾を投下して全員を爆砕した。  流れは食後のくつろぎタイムに移行。昼間にスマホで撮りまくった写真を見せ合って、顔が変だポーズが変だと笑い転げていたが、備え付けの緑茶にお湯を注いだ沙織が、「これさあ、お茶だけじゃ寂しくない?」と言ってしまったことから全員の別腹が起動し、しこたま買ったお土産菓子の山に鵜の目鷹の目が注がれる、最悪の事態となった。 「まずこれだ、京都・由乃由の抹茶チーズケーキ!」 「おおー、いきなりヘビー級いっちゃいますか。私は軽ぅく、こっちの茨城お菓子処いとうの福来氷を」 「わあ、可愛い。透明なサイコロみたい。華さんそっちは?」 「これは長野杏花堂の杏もなかですね。やはり緑茶には和菓子が合います」 「はいフォーク、こっちもどんどん食べちゃってね。って麻子待ったぁ!」 「それも可愛い。麻子さんそれなに?」 「ん……栃木のスイーツショップクリオネのもちもちロール、らしい。むくむくむく」 「先にこっち食べてからいこうよ、順番にさあ」 「あはは……まあ、あんまり開けすぎると片付かないかもですけど」 「別にいいだろ、五十鈴さんがいるんだから」 「ええ、どれもとっても美味しそうですよね。わたくし、止まらなくなってしまうかも」 「うわ、華、杏もなかは? 早すぎでしょ! えーいこうなったらもうやけだ、みぽりんもいっとけ! 次どれがいい?」 「じゃあ、私はこれ。岩手県・菓風の練乳いちご大福!」 「ぎゃー可愛い……!」「一ついいか」「わたくしも」「やばいです、甘いですぅ」  土産の六割が二時間で消えた。  時計の針は巡り、寝支度の時が来た。歯磨きが終わるか終わらないかのうちに、今朝早起きした麻子がいきなり入眠。もういっぺんお風呂でカロリー使いたーいと言っていた沙織も、部屋に戻ると布団に沈んだ。華はテーブルを片付けると、ごちそうさまでした、と満足した様子で就寝。みほが明かりを消して、布団に入った。 「優花里さん?」 「もうちょっとだけ。ここ、眺めがいいんですよ」  板の間の安楽椅子から開け放った外を眺めて、優花里が答える。横たわったみほは、肩越しにちらりと背後をうかがった。  仲間たちが静かにやすんでいる。廊下側から麻子、沙織、華。青白い月明りに照らされた布団の盛り上がりは、もう動かない。規則正しい寝息が聞こえる。  ――起きてるの、私たちだけだ。  窓に向き直る。  四角い窓枠に片肘を突いて、もの思わしげに渓流を眺めるシルエット。組んだ足が浴衣からはだけてきれいな白いすねが光っている。  一幅の絵みたいだった。  みほはしばし、声もなくその姿に見入る。  ひゅうと谷風が吹き込んで、ふわふわとくせ毛が揺れた。カラカラと窓を閉ざした優花里が、こちらに気づいて微笑んだ。 「寒かったですか?」 「ううん……」 「もう寝ますね」  優花里はカーテンを閉めずに戻ってきた。窓際の自分の布団に入って、枕に頭を落とす。  みほは目を逸らさない。  やがて、布団の中にかすかな動きを感じて、はっとなった。二枚の布団の境目をくぐって、手が伸びてきた。すかさず捉まえて、きゅっと握る。  優花里がちらりと目を向ける。こくりと小さくうなずく。  布団の中で体をずらして近づき、楽しかった一日の、秘密の二幕目を始めた。  心臓がどきどきする。右手のすぐ先では仲間たちが寝ている。なのに左手はいけないことを始めている。  しっかりして頼もしい優花里の手が、みほの手の中でほんのりと温まってくる。流れ込んでくる血が感じられて、優花里のどきどきがわかる。自分と同じだ。  優花里がきゅっきゅっと指を絡めて、ふしふしと指の腹をさすってくれる。同じように触れ返す。それだけでもひりひりと心地よくなる。好意のメッセージが伝わってる。胸の中で何かが大きく開いていき、息が強くなる。  すぐにもっと触りたくなる。  指をほどいて、つ、つと手を滑らせ、体へ。浴衣の上から腰骨に触れる。さわさわとお腹へ進める。力の入っていない腹筋が柔らかい。優花里が小さく震えて、その手がこちらへ動き始める。胸。浴衣の下はノーブラのタンクトップで、その薄い布越しに、手の甲がさらさらと乳房を撫でる。心地よさに震え上がる。  はあ、はあ、んくっ、と息が漏れる。みほもお腹から胸まで撫でまわし、肘を曲げて、指の背で、ちょんと頬をこする。優花里のつやつやしたほっぺたをなぞり、ふさふさの髪に隠れた耳を挟み、顎へと指を滑らせ、唇に、つっと触れる。――すると優花里の指も顔に来て、二本指でぺたりと唇に触れられた。  キスしてる……と意識した途端に、ぞくんとくっきりした快感が体を貫いた。  指で唇に。唇から指に。X字型に交差する触れ合いが、キスだと互いにはっきりわかって、声もなく悶えた。  唇の先でもむもむと指を吸い、逆に指先に吸い付いてくる唇を、そっと割り開いてなぶる。指はみほの舌にまで触れてきた。優花里さん、えっちすぎ、と声を上げたくなる。声の代わりに自分の指で、濡れた口内の歯をなぞった。んんっう……! と優花里が脚をもぞつかせた。  歯止めが利かなくなってしまいそうで、みほはいったん指を離す。優花里もそれを察したのか、引き揚げてくれる。宙に持ち上げた指先の濡れた輝きを見つめていると、優花里が手を上げて握りしめた。ぬめりが一つに混ざりあった。  ――もう、優花里さん……!  鼓動は高鳴りすぎてうるさいほど。はー、はー、と懸命に吐息を逃がしながら、絡めた手をぱたんと布団に落とす。みほは迷ってしまった。というか、深刻に困ってしまった。  今すぐ思いきり抱き合いたい。  それは優花里も同じみたいで、「みほどの……!」と余裕のなさげな声が聞こえた。 「どうしましょう……?」 「しーっ、優花里さん、みんなが寝てる……!」 「は、はい……」  しゅんとなった声がする。あ、だめ、だめと心の中でみほは叫ぶ。優花里さん、やめないで。今やめられちゃったら、私、私……。  ごそりと横を向いて、顔を近づけた。 「お友達がいるのに、えっちなんかしたら、大変だよ」 「ですよね」 「そんなのもう、へん、へんたい? だよ。みんなをびっくりさせちゃう……」 「は、はい。その通りです……」 「華さんは、いやらしいです……って言うだろうし、沙織さんは、みぽりーんって呆れるだろうし、麻子さんだって……」 「勘弁してくれって言いそうですね」 「そうだよ。だから」  みほは、するりと優花里の布団に入りこんだ。 「――ぜったい、ばれないようにしなくちゃ」 「み、みほど」 「しーーーっ!」  間近に迫った優花里の唇に指を立てて、みほは潤んだ瞳を向ける。 「ひみつ、ひみつだから! ……ね?」 「……そう来ちゃいますかぁ」 「だめ?」 「……いいえ」ふっと顔を和らげて、優花里はみほの腰を抱き寄せた。 「みほどのと秘密で……って、どきどきします」 「私も。そ、そーっとだからね? ばれないようにね?」 「はい、控えめに……ちょっとだけ、ですね」  そういう優花里の目も、嬉しそうに濡れている。みほはたまらず、顔を近づけた。 「優花里さ、んっ、んんっ」 「ふ、みほ、ん、んむぅ」  唇を重ねると磁石のように吸い付いてしまった。甘い柔らかさに抗えない。ぴったりと押し付けて舌を差しこみ、薄く離してくり返しついばむ。 「んふ――だ――だめ、ゆかりさ――んん」 「みほどの、だめ、だめですって――ふむぅっ」  お互い相手に懇願しながら、腕は別の生き物のように動いて、肩を、頭を抱きすくめている。ぎゅっと力をこめると、腕の中にしっかりと相手の体が感じられて、たまらなく愛しい。同時にぎゅっと締め付けられると、求められているのがひしひしと感じられて、体の芯まで嬉しくなった。 「だめ、だ、よぉっ……!」  蜜でいっぱいの沼のような、底なしの甘さに沈みかけて、みほは必死に踏みとどまる。欲求に逆らって優花里を押し離そうとする。 「落ち着こう、優花里さん落ち着こ? これ、だめ……!」 「そ、そんなぁ……」  優花里は離れてくれなかった。みほの腰に回した手をごそごそと動かしている。と思うと、ずるずると何かが引き抜かれる感触。――お腹のまわりがふわりと楽になった。優花里が布団の中から引き出したものを見て、みほは目を丸くする。 「ゆ、優花里さぁん……」 「抜いちゃいました、えへへ……」  優花里は浴衣の帯を手にしていた。ぽいと枕元に放り出して、自分の帯もほどいてしまう。  そうやって前を開いてから、改めて近づいて、ささやいた。 「声、出さなければいいんじゃないですか?」 「そんな……でも……」 「触りたいんですよぉ。お願いです、そーっと、そーっとしますから……」  優花里がそんなふうに哀願してくることは滅多にない。それにほだされて――というよりも、やっぱり自分も同じ気持ちで、みほはとうとう、うなずいてしまった。 「わかったよ、でも、ほんとにそーっとだからね?」 「はいっ……」  ついでに一緒に敬礼してしまいそうな、素直な笑顔が本当にかわいい。みほは顔を和らげると、自分の浴衣の前を広げながら、優花里と抱き合った。  ふにっ、と肌着に包まれた胸のふくらみが最初に当たった。こつんと膝がぶつかり、脚のあいだに脚を入れる。腰を、腹を押し付けていって、ふんわりと体の前を寄り添わせた。「はふ……」「んん、ん……」  肌の心地よい感触に、安らかな吐息が漏れる。優花里もTシャツ一枚のノーブラだ。浴衣越しよりもずっといい。すりすりと優花里がこすりつけてくる太腿の、温かいしっとりした肌ざわりがたまらない。 「みほどの、すべすべですぅ……」 「優花里さんはつやつやだよぉ、気持ちいい……」  抱き合った胸のあいだで乳房がたゆたゆと震える。自分の乳首に優花里のくりくりした先端が感じられて、みほは頬を染める。 「ね、当たってる……」 「……はい」 「優花里さんのえっち」 「お、お互い様じゃないですかぁ」  二人で胸元に視線を落とし、ふにふにと押し付け合う。「おっぱい、柔らかいね……」「ふいぃ……」と目いっぱい恥ずかしがりながらも、互いの感触を楽しんだ。 「はあぁ……」回した腕にきゅっと力をこめたり、緩めて体を滑らせたりしながら、みほは酔ったような熱い息を吐く。「抱き合うのって、ほんと気持ちいいね……」 「ですよぉ。気持ちいいです」  すんなりした足を絡ませて、ふわふわのふくらはぎをこすり合わせながら、優花里が幸せいっぱいのささやきを漏らす。 「こんなにすべすべで、ぷにぷにしたみほどのとぎゅーできるなんて、嬉しくておかしくなっちゃいそうです」みほの横顔に鼻を当てて、すーすーとしきりに嗅いで、頭を振る。「いい匂いですぅ、うう、みほどのぉ」 「優花里さんこそ……」  たっぷりした髪に手を入れて、さらさらと指で梳きだし、自分の顔にふぁさっとかぶせて、みほは目を閉じる。「んふ、これ大好き。おいしいよ、優花里さん……」 「ひぁふ……」  嬉しさでぽーっとなっている優花里が無性に可愛くて、みほはおでこや鼻に何度もキスをした。  そのあいだにも、寄り添わせた下腹をもぞもぞとこすりつけ、挟み合った太腿を食いこませたり、足の指で弄いあったりしている。いつしか全身で、抑えることもなく、お互いへの好意を伝えあっていた。  えっちって、すごいな――と、みほはふと思う。人とこんなふうに、口や舌をくっつけて、体のあちこちをさわり合うのが、気持ちいいなんて。昔はそんなこと考えたこともなかったし、やれって言われても嫌だったろうけど。優花里さんとするのはちっとも嫌じゃないし、すごくしたい。不思議だな。  さっき優花里が言ったことを、みほは思い出した。 「……ねえ、優花里さん?」 「はい?」 「私がもし友達だったら……えっち、した?」 「ふぇえ?」優花里は戸惑った声を上げる。「どういうことですか?」 「うんとね、私と優花里さんは好き同士になったけど、それでえっちするようになったけど、もし告白してなくて、友達のままだったら、こんなふうにえっちできたかなって」 「急にそんなこと言わないで下さいよぉ」優花里が苦笑する。「いま、難しいこと考えられませんよぅ……」 「ん、そうだよね、ごめん」  みほは謝ってまたキスしたが、少しして、優花里が言った。 「こんなふうに言うと、引かれるかもしれませんけど……私は、お付き合いさせていただく前から、みほどのとえっちはしたかったです……」 「えっ……あ、そんなこと言ってたよね、想像してたとか……」みほはなんとなく、ぞくっと震えてしまう。「じ、じゃあ、もし好き同士になってなくても、こうやってみんなで旅行に来たら、えっちしたいなーって、思ってた……?」 「た……たぶん」耳まで真っ赤になって、情けなさそうにうなずいてから、優花里はぎゅっと目を閉じた。「すみません、そんな人間ですみません! でもみほどの、いいですか?」 「ひゃいっ?」  急に優花里が肩をつかんだので、みほは変な声を上げてしまう。優花里は泣きそうな顔で言った。 「今はいいですよね? お付き合いできたんですから。これ現実ですよね?」 「ゆ、優花里さん、落ち着いて……」あわてて優花里の肩を撫でて、みほは微笑みかける。「現実だよ、大丈夫だよ……えっちしたい気持ち、わかるよ」 「……みほどのぉ、ううう」  まだまだ心配なんだな、とみほは優花里を撫でさすりながら、小さく息をつく。私たち、普段は友達の女の子同士として過ごしてるから……優花里さんも、不安になっちゃうんだ。揺さぶるようなこと言って、悪かったな。 「ただの友だちじゃないよ、私たち、好き同士だよ……」子供に言い聞かせるようにささやいて、みほはもう一度体を寄せ、優花里の手を取る。「ね、続けよ。えっち……」 「んうう……はい」 「ほら、さわっていいよ。ううん……さわってほしいな。私もさわるね」  みほは優花里の胸を軽く揉んでから、思い切って手を降ろした。下着の上から、股間に触れる。 「ここ、いい……?」 「ひ」ぴくっと肩を縮めた優花里が、「は……はい」とうなずいた。 「ん……大丈夫、大丈夫だよ……」  さす、さす、さすと手のひらでぷっくりした丘を撫で、もうちょっと奥のほうのふにふにしたひだを、指先でくしくしとなぞる。「ふぁ……は」と口を開けた優花里が、手探りで手を伸ばしてきて、みほの股間に触れた。同じように丁寧にさすられると、直接的な快感がピリッと走って、「ひぐ……」とみほも喉を鳴らした。 「さ、さわって……いっぱいさわってね。気持ちいいから……」 「はい、はいぃ……私も、いいですぅ……」  ひとつ布団の中で、ふたつの体を寄せ合って、互いの手を交差させて。一番奥の秘密の部分を、相手に触らせあった。硬くした手のひらで、握りこむみたいに何度もきゅっきゅっと圧迫し、立てた指で下着を谷間に食い込ませてなぞり、合間にすべすべした太腿を撫でまわし、ずっと奥の後ろのほうまで潜らせた。 「ふあ……んあ……みほどの、溶けそう……ですっ……」 「わっ私も、きもちっ、気持ちいいよっ……!」  奥のほうから湧き出すジンジンとしたむずがゆさを、指が押し潰してかき回し、ヒリヒリする快感に変えてくれる。触られれば触られるほどつぼみが開き、芯がくっきりして、奥の深いところが、ぽってりと重く腫れてとろけてくるのがわかる。  余計なことを考える必要がなくなり、考えられなくなった。かたく目を閉じて、感覚を通じ合わせようとするみたいに、おでことおでこを押し当てる。下着越しにとろみがにじんでくると、どちらからともなく相手の腰に手をかけて、下着を引き下げた。太腿まで降ろすと腿のあいだに手を入れて、折り曲げた指をぬかるみに沈めた。  厚ぼったい潤んだ粘膜の穴に、つっぷりと中指が飲まれて――ピンと突き立つ硬いものが、下腹部に入ってきた。「――っ!」切ないうずきを心地よくえぐられて、ぞくぞくと背を反らし、膝頭をわななかせる。指が締め付けられ、こすりあげて答える。押し付けた額から、本当に相手の快感が感じ取れるような気がした。 「み、みほど」「捉まって、ぎゅって、ぎゅって!」  空いた腕を相手に回してしっかりと支え合い、一心に指を使った。自分と相手、感じるところが少しずつ違うのが楽しかった。優花里は入り口、みほは奥。浅いところをせわしなくかき回して水気をあふれさせ、手のひらが埋まるぐらい深々と押しこんだ指に中をえぐられた。 「そのまま、そのまま、優花里さ……」「私、私、も……」  かくんと前のめりになって相手の肩にもたれる。頬に頬を押し付けて気持ちを伝え続けた。もう何の不安も不満も行き違いもなかった。求める相手に求めてもらっているという満ち足りた気持ち。ふうっと足元をすくわれたように意識が白い空間に浮かんで、時間の流れがなくなった。 「あっ、く、あっ――」「ん、くっ――」  ――五人部屋の一番窓側の、少し膨れすぎた布団が、さわさわと小刻みに震えている。それがだんだん激しくなると、肘か膝なのか、不意に角のような盛り上がりが、ぐいと飛び出して、くぐもったうめき声が漏れた。 「はぁ……! あ、あ……」  布団のすぐそばに貼りつくようにして様子をうかがっていた人影が息を呑み、自分の体を抱き締めた。  切なげに垂れたその頭に、三日月のように細いひと房の跳ね髪が揺れていた。 「はふ!」「はあぁ……」  みほと優花里は外へ這い出して冷たい部屋の空気を吸う。布団の中から二人分の熱気があふれ出す。いつのまにかすっぽりと布団をかぶってしまっていた。 「暑くなっちゃったね」「夢中でした」 「……うふふ」 「えへへ……」  上気した顔で笑みを交わす。と、こちらを向いている優花里の顔がこわばった。 「い……五十鈴どの!?」 「へっ?」  あわてて振り向いたみほは、目が合ってしまった。  隣の自分の布団の上で、なぜか正座して身を乗り出していた華と。 「は、は、はな……」 「あっ、その、これは……」 「みほどの、服、服っ!」  優花里に言われたみほは、自分が汗で貼りついたタンクトップ一枚であることに気づく。丸裸ではないけれど、この状況では言いわけのしようもない姿だ。 「ひっ、ひゃああぁ!」 「み、見てません! 見てはいませんから、わたくし!」 「もぉー、何ぃ? うるさいぃ……」  向こうで沙織まで起き上がってしまった。あわてて優花里が声をかける。 「な、なんでもありません、武部どの! ちょっと飲み物をこぼしちゃっただけで」 「飲み物ぉ? 早く拭かないと染みになるよぉ……ふぁぁ」  寝ぼけた返事をすると、沙織はまたぱたんと寝入ってしまった。 「今です、みほどの。お手洗いに」「う、うん」「あ、みほさん――」  それを言いわけにこの場から逃げられる。優花里さんナイス援護、とみほはあわてて浴衣をかき合わせ、優花里と廊下に出た。  しばらくして戻ってくると、華は自分の布団に入っていた。そのまま忘れてくれればいいと思ったが、二人が床に入ると、話しかけてきた。 「みほさん……いいでしょうか」 「……う、うん。なに?」 「謝らせてください。見てはいないんですけど……」 「声は聞こえちゃった……ってこと?」  やり取りに気づいて優花里もみほの布団に入ってくる。華が顔を赤らめて言った。 「……はい。いえ、ついつい、聞き入ってしまいました。申し訳ありません……」 「はううぅ……」  みほたちは恥ずかしさに身を縮めてしまった。  けれども、しばらく亀になっているうちに、華に知られた恥ずかしさが、華に気づかせてしまった恥ずかしさに変わってきた。  以前、みほと優花里、二人の間柄が、冗談交じりに囃し立てられたことはあったけれど、具体的に何をしているのかなんて、もちろん話さなかった。それどころかあんこうチームは、沙織の空想を除けば、お色気話が出ることも滅多にない、健全で明るいチームだった。  そんな仲間たちがいるのに、二人でこそこそといやらしいことをしていたんだから、悪いのは自分たちの方だ。んっとうなずいて勇気を出し、みほは小声で言った。 「あのっ、華さん」 「はい?」 「私こそごめんなさい――その、変なこと聞かせちゃって……」 「いえ……」 「き、聞きたくなかったよね、友達がこんなことしてるの。私たち、つい……ううん、わっ私がね? 誘ったからなの、優花里さんからじゃないよ? 優花里さんは悪くないの、私がちょっと、甘えたくて」 「いえ、あの、みほさん……」 「ごめんなさい、もうこういうのしませんから! 気を付けるから、できれば忘れてほしいです……」  両手を合わせて拝む。華に変な目で見られたり、チームがおかしな空気になってしまうのはいやだった。  すると華がいっそう身を乗り出して、小声で言った。 「あの、みほさん……わたくし、不快になってはいませんよ。そんなに謝らないでください」 「ふぇ?」  みほが戸惑って顔を上げると、月光に照らされた華の顔は、ほのかな桃色に染まっていた。いつものしとやかな、流れる水のように澄んだ声でささやく。 「わたくし、お二人がご一緒に……その、ご一緒されてるのに気づいたとき、いいなと思ったんです。普段から仲のいいみほさんと優花里さんですけど、お二人だけのときはもっと仲良くなるんだとわかって、つい……その」  恥ずかしげに頬を押さえる。 「聞き耳を立ててしまいました……はしたないことですけど……」 「き、聞かれちゃってたんですかぁ……」 「優花里さん?」  振り向くと、優花里はみほの背中に隠れて、潰れそうに小さくなっていた。 「あれを五十鈴どのに聞かれたなんて……ううう」 「すみません、優花里さん、本当にすみません」華が手を伸ばす。「でも、こういうと不遜かもしれませんけど、優花里さんのお気持ちもわかったような気がしてしまって。外から見れば仲睦まじいお二人でも、折に触れ確かめ合わなければ、やっぱり不安になるんだなと……それをみほさんがしっかり受け止めて差し上げていたのが、なんと言いますか、すごく麗しい……素敵なお姿でした」  伸ばした手を降ろして、華が小さく微笑んだ。 「うらやましい……って、ちょっぴり思ってしまいました」 「華さん……」  華の笑みがとても寂しげに見えて、みほは意外に思った。  華はいつも一歩引いたところから、自分たちのことを見守っていた。自分と優花里が、まだ付き合い始めですれ違っていたころは、こっそり応援してくれたし、沙織と麻子のあれこれがあったときも、こじれていた二人を仲直りさせようとしていた。  そういう立場でいたいと、本人が言ったのだ。自分は今まで、それを信じていたけれど――。  やっぱり、それだけじゃなかったんだ。五人の中で、二人と二人が仲良くなって、一人だけただの友達でいることを、気にするときがあったんだ。  みほは初めて、華が秘め隠して来た内心に触れたように思った。 「優花里さん、ごめんなさいね。わたくし、みほさんがおっしゃったように、今夜のことは忘れてしまいますから……どうか、お気になさらないでください。お二人はお二人のままで、他を気にしないでお付き合いなさってください。それでは、わたくしはこれで――」  そう言って華が背を向けようとしたとき。  みほは、布団の中に手を伸ばして、彼女に触れていた。 「待って、華さん」 「……みほさん?」 「ええと……」  引き留めたのは、友達としての想いか、それとも隊長としての勘だったのか。両方かもしれない。ただ、今この時を逃したら、もうこんな機会はこないかもしれない、という気がしていた。 「ちょっと、こっち来てください……あ、優花里さんの布団へ。ごめんね、優花里さんも詰めて」 「え、ええ?」「みほどの?」  騒がしくならないように気をつけながら、いったん布団を出て、華を優花里の隣にひっぱりこむ。そうして、華を挟む形で、もう一度布団に入った。 「みほさん? あの、これは……」 「な、なんですかこれ」  華が戸惑って左右を見ているし、優花里は混乱して汗をかいている。そんな二人に、聞いて、とみほは声をかけた。 「あのね、私、思ったの。華さんに寂しい思いをしてほしくないって。私は優花里さんとお付き合い出来て、優花里さんが一番大事だけど、みんなのこと、華さんのこともやっぱり大事だから。優花里さんは? 私とあんこうチームと、どっちが大事?」 「ええっ? みほどのとあんこうチームですか?」優花里が困って首をかしげる。「そんなの決められませんよう、どっちもです」 「でしょ、それは私もだよ。だったら――」  みほは思い切って華の首に腕を回すと、ぎゅっと抱き締めた。 「――華さんにも、こうしてあげなきゃ」 「みっ、みほさん!? ふむっ」  声を上げかけた華の口を、片手で塞ぐ。サンダース戦のときの内緒話のように。 「しーっ、華さん。変なことはしないから。嫌ならやめるから、ね?」 「で、でも……」 「嫌じゃ、ないと思ったから……」みほは少し腕をゆるめて、ただじっと、大柄な華の体に寄り添うようにする。 「不快でないって、言ったよね。きっと華さんはこうしてほしいんだって、気がして……違った?」  華は長いまつげを落ち着かなげにしばたたかせて、みほを見つめる。やがて決心を固めたみたいに、口を開けた。 「いいえ……違っては、いません」 「あの、み、みほどの」優花里がうろたえた声を漏らす。「それはどういう……」 「優花里さん」優花里が困らないように、精一杯優しい声をかけて、みほは優花里の手を取る。「優花里さんも、してあげて……こうやって」  手を引いて、華の胸にかけた。言われるがままにしつつも、「私、五十鈴どのとは……」と優花里が言い返す。 「いや?」 「だって友達じゃないですか!」 「そうだよ。でも優花里さん、言ってたよ。友達でもさわりたいって思ったって」 「それとこれとは――」 「違うの? 優花里さんは、華さんにさわるの、いや? 気持ち悪い?」 「き、気持ち悪いなんてことはないですけど――」 「抵抗ある?」 「は、はい」頭がいっぱいいっぱいになった、泣きそうな声で、優花里が言う。「わた、私はみほどののものなんですよう、それに五十鈴どのは大事なお友達で、そういう対象じゃないんですよ。そんな、こんなことしたら、私たちの関係が……」 「優花里さん……」  みほはちょっと驚いたものの、「ん、わかった」と布団を出ると、今度は優花里の背中に回って、包むように抱きついた。 「ごめんね、優花里さんが一番だからね。心配しないで、乗り換えちゃったりしないから」 「みほどのぉ……うっうっ」 「こうしててあげるから……これで、もういっぺんできない?」 「えぇ……?」 「ほら、華さん寂しそうだよ」  言われた優花里が、はっと目を見張った。  華が伏し目がちに、困ったように微笑んでいた。嫌がっていた優花里を、逆に慈しむように。何も言わなかったが、無理しないでくださいね、とその目が言っているみたいだった。  そのとたんに、優花里は似たような顔を思い出した。  それは昔、何度も見た。まだあんこうチームと出会っていなかったころだ。クラスメイトの誰かれに、嫌いじゃないけど一番じゃない、と口には出さなくても態度で示され、肩を落として帰った自宅で、鏡の中にその顔があった。  ずきんと胸が痛んだ。自分には今、一番大事だと言ってくれる人がいる。その人に背中をぴったり抱かれている。その人と仲良くしているところを、見せつけてしまった。口では大事な友達と言いながら。 「あ……」  ぎゅっと目を閉じて胸を押さえた。  その手を伸ばして、幸せに舞い上がりながら背を向けていたものに、優花里は目を向けた。 「い、五十鈴どの……ごめんなさい。私、ひどいことを……」 「あ……」  腕を回して、強く抱きしめる。わずかにこわばっていた体から、ゆるやかに力が抜けていった。 「私、よくばりでした。みほどのにこんなに大事にしてもらってるのに……独り占めしたくて、誰にも渡したくなくて……」 「いいんですよ、優花里さん」  入れ替わりに手が伸びて、優花里の背を遠慮がちに抱いた。 「あなたはみほさんのものです。みほさんもあなたのものです。わたくしはその横にいるだけ。割りこんだりしません。――でも」  ふわり、と五彩の花のようなあでやかな香りが鼻腔に押し寄せた。豊かでとても柔らかなものが顔を包みこむ。  華の胸だった。優花里は、とても大きなものに抱かれたように感じた。 「――嬉しいです、そう言って下さって」 「いふぶのの……」  まともに声も出ない。目だけで見上げると、華が黒い瞳を糸のように細めていた。 「そんなやさしい優花里さんが、わたくしも大好きですよ――」  改めて抱擁に力がこもる。優花里を胸に抱いた華は、少しずつ、自分のしたいことを表してくれるみたいだった。 「優花里さん、華さん……うふふ、私、いいこと思い出しちゃった」  抱き合う二人を見守っていたみほが笑う。「いいこと?」と二人が振り返る。 「私たちが一番最初に戦車ショップに行った日、ね――沙織さんのご飯会のお誘いに、優花里さんが、一緒に来たそうな顔をしたでしょ?」 「え、ええ」「はあ」 「あのとき、一緒にどうですか、って誘ってくれたのが華さんだった。覚えてる?」 「そうだったでしょうか……」「あ、はい、そうでした」  優花里さんは嬉しそうだったよね、とみほがうなずく。 「あのとき、私も嬉しかったんだ。優花里さんはクラスが違ったし、まだみんな、お互いのことよく知らなくて、やっていけるかな、って思ってたから……華さんが、お友達を受け入れてくれる優しい人だなって、わかって」 「言われてみれば、そんなこともあったような……」 「ね」「はぷ」  みほは優花里をサンドイッチにして、華に抱きつく。 「あのときの二人が、今も一緒にいるなんて、私、すごく嬉しい」 「みほさん……」  柔和な垂れ目をいっそう和らげて、華が手を伸ばしてみほを抱いた。 「ありがとうございます」「ううん、私こそ」 「あの、おふはりとも」  挟まれた優花里が、華の胸の上でふばふばと声を上げる。 「息がれきまふぇん……」 「あ、ごめんね」  二人が抱擁を解くと、這い上がって顔を出した優花里が、照れくさそうに二人を見比べた。 「なんか……不思議な気分です。五十鈴どのと抱き合うなんて……」 「そうですね、わたくしもちょっと新鮮です。――でも、嬉しいですよ。優花里さんってふかふかで可愛いですから」 「か、かわっ? そんなことないです、私なんかモシャモシャですしバタバタしてますしひらひらしてませんし――」 「そんなことあるよ! ねっ華さん、優花里さん可愛いよね?」 「ええ」 「はうううぅ……」 「華さん、ほら」華の手を引いて優花里の頭に触れさせながら、みほは髪に顔をうずめる。「優花里さんて、すごくふわふわでお日様の匂いがするの。やってみて」 「えええ……」「よ、よろしいんですか? 失礼しても?」  わくわくした顔で頬ずりした華が、すうっ……と息を吸った。 「……はぁっ。はい、ほんとに……生き生きとしてピリッとして夏の肌という感じで、それでいてまろやかで甘くかすかに乳臭くて……素敵ですね」 「ひ、品評しないでくださいよぉ……」 「わぁ、華さんも気に入ってくれたんだ。ね、いいでしょ」 「ええ。実はこれまで、戦車の中でも感じていましたけど、みほさんの手前、あまりべたべたするわけにもいきませんでしたから……」 「い、五十鈴どのだって、すごくいい匂いがします。あんまり言うと、仕返ししちゃいますよ?」 「あら、そんなことされてしまうんですか」口ではそう言ったものの、華は楽しそうに微笑んでいる。「どんなことを、なさるんですか?」 「え、えーっと……こうです!」  優花里は腕立て伏せみたいに、背中で布団を持ち上げると、持ち前の腕力で、華の体をぐいと引き寄せた。「あん……」と肩を縮める彼女を越えて、その向こうに降りる。 「みほどの」華の背中に寄りそって捉まえると、優花里は声をかけた。「そ、そっち側を押さえてください。挟撃作戦です!」 「二人で挟んじゃう? ふふ」 「あ、みほさん……あぁ……」  みほはふわりと華の胸に身を重ねた。顔の前に来た、白いたおやかな首筋に鼻を寄せて、すっと嗅ぐ。――その瞬間、まぶたの裏に花びらが舞い散ったような気がした。赤い花、黄色い花、白や紫やピンクの花が入り混じったような、芳醇で鮮やかな香りを、華の肌は帯びていた。 「ほんとだ……華さん、いい匂いぃ……」 「でしょう。えいっ――」優花里も背後から、絹糸を集めたようになめらかな髪に顔をこすりつける。「……ふは、すごいです。五十鈴どの、花束みたいです……」 「や、あ、ああっ……」  二人に前後から体を寄せられた華が、喉首をさらして細くあえぐ。その声が、「ひ」と鋭く跳ねた。  その豊かな乳房にみほが手を置いて、きゅっ、と握ったのだった。 「華さん――」みほが低くささやく。「華さんて、嫌じゃない……んだよね」  はあはあと胸をあえがせていた華が、みほに目を落として、こくりと小さくうなずいた。  何を、とは聞かない。それはもう、二人ともわかっていた。  遅れて優花里も気付いたみたいだった。「みほどの……」とつぶやいたが、その声にはもう、さっきのおびえはない。 「華さん、仰向けに……」  言われた華が、従順に天井を向いて横たわる。はっはっは、と呼吸が速い。彼女に寄り添って、みほはささやきかけた。 「私たち、お友達だけど、普通のお友達よりはずっと仲のいい三人だよね。だから……私、華さんがいいなら、普通のお友達としちゃいけないことも、していいかなって気がするの。……優花里さん?」 「私は――」反対側から、優花里が華の手を握る。「五十鈴どのが寂しいなら、なんとかしてあげたいって思います。三人でって、ほんとはいけないはずですけど、五十鈴どのは私も大好きって言ってくれましたし、私も五十鈴どのに触ったら気持ちよかったですし……あ、ああ、なんかもう頭いっぱいで……」  くしゃくしゃと髪をかく優花里にちょっと笑って、「華さんは……?」とみほは訊いた。 「わ、わたくしは……」ごくりと唾を飲みこんで、うなずく。「乙女として、こんなところでこんなことになってはいけないと思うのですけど、わたくしの本当の気持ちは……」 「……うん、気持ちは?」 「知りたい……です」手で顔を隠す。せわしない息を通す首筋は紅に染まっている。「みほさんと優花里さんが楽しんでいるのは、どんなことなんだろうって。すごく、すごく興味があります。どきどきして、せつなくて……き、期待してしまっています。お二人に教えていただけるのでしたら、それは、もう……」 「うん……華さん、可愛い……」 「はい、可愛いです……」  優花里が華の帯をほどいた。みほがそれをするすると抜き取る。二人の手が浴衣を左右に開いて、体の上に滑りこんだ。  華の肌着は上等そうなキャミソールだった。つややかな薄布が起伏に富んだ体をあえかに覆っている。そうしてやはり、とても広くて、大きくて、豊かだった。  手を下にやった優花里は、張り出した腰骨の頼もしげな幅と、お尻から長い太腿へのたっぷりした肉付きに息を呑む。胸を手で包もうとしたみほは、くびれた腰からくっきりと盛り上がる乳房の輪郭と、包み切れない量感に、目を見張った。 「華さん……華さんて、やっぱり」「ものすごいナイスバディですよねぇ……」 「す、すみません、すみません……」  顔を押さえたままの華が、肩を縮めて声を震わせる。 「和服を着るにはふくよかなほうが似合うものですから、うちではいつもご飯が多くて……」 「あっ、恥ずかしがらないで。すごく素敵だから」  どうしたわけか、それだけボリュームのある胸なのに、華はブラをつけていなかった。みほは薄布越しに乳房を撫で上げて――そうすると、整いすぎているほど形のいい丘が、大きな水袋のようにたゆたゆとへこんでいく――てっぺんの尖りを、揃えた指でころころと奏でた。  途端に、大きな体が肩から爪先まで、びくんと震えた。 「――それに、すごく敏感みたい……」 「は、恥ずかしい……」 「楽にして。痛いことも、いやなこともしないよ……」 「女の子同士ですからね……」優花里も声を添えて、反対の乳房に顔を寄せる。「不安なの、わかります。そこはいや、って思ったら言ってくださいね」  透けるほど薄い布越しに、はむ、と乳首をくわえた。唇で歯を隠して、なだめるように弱く挟む。華のそこは尖りというよりは小さくなだらかな丘の形で、温めたマシュマロのようにふにふにと形を変えた。 「む、むずむずします、優花里さん……」 「ひゃめます?」 「いいえ、続けてください……」  優花里は手も添えて、触れるか触れないかの愛撫をさらさらと与えた。自分がみほにされて気持ちよかったから、肩へ、二の腕にも、少し強く撫でさすっていった。  何度目かに乳房の頂に指を走らせた優花里は、そこがツンと硬くなっているのに気付いた。また唇で挟んでやると、ぴくんと華の前髪がはね上がって、胸が大きく上下した。  とうとう、華が言った。 「きもちいい……」  瞳をとろりと潤ませて、深い深い息を吐く。優花里と対になるように半身を愛撫していたみほが、嬉しそうに微笑んだ。 「よかった。こういうふうでよかったんだ」 「体がふわふわして、どきどきしてきます……お二人とも、とても上手です」 「そうなんだ……私は、優花里さんに教えてもらったから」 「そうなんですか? 優花里さんが先生……?」  目を向けられた優花里が、あわてて手を振る。 「わ、私はみほどのと一緒にしてるうちに、わかって来ただけで。決してえっちの先生なんかじゃ」 「えっ? でも優花里さん、すごくえっちなところあるよね。脚とか――」 「っ、待っ」優花里が手を伸ばしててみほの口をふさぐ。「それだけは! それだけは、みほどの……!」 「むぐっ……んふふ、わかったよ。二人だけの秘密、残しておきたいもんね……」  みほがいたずらっぽく笑ったので、優花里も苦笑するしかなかった。  二人がまた体に触れ始めると、華が気がかりそうに言った。 「あの、変な話なんですけど……いいでしょうか」 「なに?」 「わたくしばかりしていただくのは、悪いような……こちらからも、何かいたしましょうか?」 「えっと……ね、華さん」華のほっそりした白い手首に、ちゅ、ちゅ、とキスしながら、みほが言う。「これは、義務感でやってるわけじゃないの。華さんが可愛くて素敵だから、触らせてもらってるんだよ」 「そ、そうです」華の首筋に顔を寄せて、すりすりと鼻でこすりながら、優花里がささやく。「あの……さっきはあんなこと言っちゃいましたけど、ほんとは五十鈴どのって、すごく綺麗で、柔らかくて……触りたいって、思っちゃってます。もっともっと、触っちゃだめですか……?」 「まあ……」照れくさそうに頬を押さえた華が、「そんなふうに言っていただけると……わたくし、嬉しくなってしまいます。でしたら、あの……」  ふーっと息を吐いて、目を閉じる。 「お好きに、なさってください。わたくし、お二人にもっともっと、触っていただきたいです……」  無防備に身を任せる華の言葉を聞いて、みほと優花里は、ぞくっと背筋を震わせた。 「な、なんか……ね、優花里さん」「ふぁい」「華さんって、えっちだよね……」 「そんな」  ふるっ、と華が身を縮めた。 「だったら、ね――そうだ、華さん。今度はうつ伏せになって」 「うつ伏せですか? はい……」  ごろりと華が身を返すと、暑いから取っちゃお、とみほが掛け布団をめくりあげた。丸めて沙織たちのほうに、形ばかりの壁を作る。 「静かに、静かにね……」  華の浴衣もすっかり剥ぎ取った。月光に照らされた華が半裸でうつ伏せになると、布団の下端まで届く、すらりとした脚の長さがやはり際立った。それだけでなく、波打ち流れる黒髪とキャミソールに白く彩られたあでやかな背中、レースに縁どられた裾をふっくらと盛り上げる大きな丸いお尻が、二人に息を呑ませた。 「ふわぁ……」「綺麗ですぅ……」  華は枕を抱いて、静かに肩を上下させていた。黒髪の隙間からちらりと覗いた目にうなずいて、みほが背中に手を置いた。 「くすぐったかったら言ってね」 「はい……ふぁ、あ」  髪をまとめて横へ流し、みほがうなじに唇をつける。ちろちろと舌でくすぐりながら肩を撫で、体を添わせて胸を押し付けながら、肩甲骨の谷間をさすり、背骨沿いにさらさらと手を降ろしていった。 「ぞ、ぞくぞく、します……っ」 「背中って、自分じゃわからないけど、触ってもらうとすごくいいよね……」  優花里は沙織たちのほうを気にしながら、華の腰に寄り添った。何度か手で触れようとして、そのたびに気後れして引っこめる。布団を剥いで目で見てしまったせいだった。  改めて見ると華の尻は、怖いほど美しかった。彫刻のように優美な丸みと伸びやかな線を備えているのだが、彫刻とは違って下着を着けている。尻を斜めに半周するぴっちりした食いこみがひどくなまめかしい。真っ白な裏腿は鏡のように照り輝いている。手で触ったら汚してしまいそうな気がする。  その上この人は――背徳感に胸がざわつく――恋人のみほとは違って、あくまでも友達なのだ。学校の廊下で、戦車の中で、大浴場で見慣れてはいるけれど、触れてよかったことなど一度もなかった。自分のものではないし、将来誰かに捧げられるかもしれない、同性の肌。 「……優花里さん?」   固まっている優花里を、みほが怪訝そうに見る。優花里は首を振る。 「いえ……」  下手なことを言って止められたくなかった。これは、触ってはいけないものだと強く思いながら――優花里は華の尻に、震える唇を押し付けた。  滑らかでみずみずしい肌が寒天みたいにへこみ、百合の花の澄んだ匂いがした。 「っは……」  ぴくん、とさざ波が走った肌に手を置く。ぎゅっ、とつかんで脚まで滑らせる。手触りが違う。みほのさらさらした肌よりもっときめ細かい。比べてしまったことで胸が痛む。後ろめたさをごまかすみたいに腿を撫でまわし、丘に舌を這わせた。 「ゆか……りさ……」  枕をきつく抱いて華がうめき、はたはたと膝下を浮かせて、爪先でシーツを掻く。たまらず、「みほどの」と優花里は顔を上げる。 「あの……あのっ」 「なあに?」 「すみません、その……」目を伏せる。「い、五十鈴どのが素敵すぎて……えっちな気持ちになってしまいそうなんです。あの、私! 決して……う、浮気とかでは……」  みほは一瞬きょとんとしたが、すぐに微笑んで身を乗り出し、「ちょっとだけだよ……?」と優花里の頬にキスした。 「はい……」  ちょっとだけ。そう許してもらったことで気持ちが楽になった。優花里は下着の縁から両手を滑りこませて華の尻を大きくつかみ、力を入れてゆったりとこね回した。量感のあるもちもちとした肉が指の間からあふれそうに形を変えながら、びくっ、びくっと不規則にひくついて跳ねた。 「はっ、はあっ、んっ、んんっ」  切れ切れに息を漏らし、左右の頬をせわしなく枕に押し付けて、華が悶える。その肩にみほが寄り添って訊く。 「きもちいい? 華さん」 「は、はいっ」 「優花里さん、華さんが気に入っちゃったみたい。あのね、優花里さんはとっても気持ちよくしてくれるんだよ」 「はいっ、んんんんっ」キスされた尻にぎゅっと力を入れて、ぞくぞくと肩を狭める。「た、たまりません、せつないですっ……」 「……優花里さん、ちょっと気に入りすぎ?」ちらりとそちらに目をやって、みほは眉根を寄せる。「ううん……なんか、くやしい」 「す、すみません、みほさん……」 「華さんが優花里さんを、好きになりすぎちゃっても困るから……」  みほは華の頬にかかる髪をかき上げると、微笑みを浮かべて顔を寄せた。 「もっときもちいいこと、してあげるね」 「もっと……?」 「目を閉じて」  あ、と華は気づいたみたいだった。それでも、おとなしく瞳を閉ざした。  みほがその頭を抱いて、唇を重ねた。 「ん……」  浅いキスだった。唇がつぶれない程度に押し付けて、ほんの少し舌を当てただけ。――だが短くはなく、三呼吸、四呼吸分ほども続いた。  華が、初めてのその味を、充分感じ取れるまで。  顔が離れた時、みほは見た。とても名残惜しそうに揺れている華の瞳を。それに向かって、小さく首を振ってみせる。 「ごめんね、ほんとはこれ、優花里さんにしかしてあげないの」 「あ……」 「今のは特別、ね」 「――はい……」  華は微笑みを返し、すぐに、くぅんっ……とまだのけぞった。  優花里は夢中になっているみたいで、華の片足を抱きしめて内腿を撫で回していた。優花里さん、と声をかけてから、みほは華に言い聞かせた。 「華さん、もう一度ごろんしてもらえる?」 「はい……?」 「きっと、準備ができたと思うから」  仰向けになった華に、再び二人が寄り添った。期待と恐れに目を閉じた華が、腰の横でしっかり両手を握りしめていることに気づくと、みほがその手を取って指を絡めた。 「なにも怖くないよ」 「はい……」 「深呼吸して……」  みほがうなずいてみせ、優花里が手を降ろした。脚の付け根の暗がりに手が入ると、さっと華がその手を押さえた。 「あっ、あの」 「恥ずかしいですか?」 「はいぃ……」 「――華さん」  みほがしっかりと大きな体を抱きしめた。優花里もそれにならう。右と左から柔らかな頬で挟まれた華が、「みほさん、優花里さん……」とつぶやいた。 「さわって、華さん。私たちに」「はい、私も!」  華が左右を手探りして、みほと優花里の腰に触れ、ぎゅっと抱き寄せた。ほーっと吐いた息とともに緊張が逃げていき――するりと、優花里の右手が華の秘所を覆った。 「――くっ」  膝が立ち、太腿が手を挟みこむ。優花里は無理に動かさず、下着の上からぴったりと当てた手で、華の小さな丘を温める。みほが華の頭を撫で、子守唄でも歌うみたいにささやいた。 「大丈夫、大丈夫だよ、華さん。なぁんにも恥ずかしくない、私も、優花里さんもしたんだよ。だぁれも見てない、三人だけの秘密だから……ね?」 「は、はい……」すりすりとみほに前髪を押し当てて、消え入りそうな声で華が言った。「お願い、します……」  少しずつ、脚が緩む。少しずつ、優花里は右手を動かし始める。最初は手のひらでゆっくりと揉みほぐすように。脚が開いていくと、練って押し伸ばすように円を描いて。 「はあ、あ、あ……」  華が喉を開け、足を伸ばし始めた。緊張で少し白んでいた頬と首筋に、みるみる血の気が満ちていく。優花里の手が温かくなる。優花里自身の興奮のせいだけでなく、華がそこを熱くしていた。 「い、五十鈴どの、きもちいいですか」 「は、はいっ、ゆかさ、優花里さんっ」  抱き着いた華があえぎ、くっきりした花芯が薄布の下で育つ。花びらの奥からあふれた蜜で、股布がぬるぬると滑り始める。友達の発情を直接手で感じてしまって、優花里もまた顔から火が出そうになる。自分もまた同じ姿を華に覗き聞かれたんだという思いが、恥ずかしさに輪をかける。 「――ジンジンしますっ……」  頭を振って悶え続けていた華は、それからいくらも経たないうちに、優花里の胸元にしがみついて、がくん・がくんと大きく腰を突き出し、一気に下着を水浸しにした。長い髪を乱して一息に昇り詰めた華の激しさに、優花里が呆然としていると、彼女に代わってみほが華のそこに触れて、引き続き愛し始めた。 「みほどの?」 「私も華さんを気持ちよくさせてあげたい……」  やっ、はぁっ、と膝を揺らしして切ながる華の、しどけなく開いてしまった股にぬちぬちと指を使いながら、みほが優花里に微笑みかける。 「優花里さん、華さんをいかせてあげて、楽しかったでしょ?」 「は、はい……すみません……」 「ん、いいよ。華さん、とっても素敵だもんね。いっぱい触りたくなっちゃうよ。だから……私も華さんにして、いいよね?」 「は……」それが親切なのか悪戯なのか、許す資格があるのか止める権利があるのか、何もかもが頭の中で千々に乱れてわからなくなって、「はい……」と優花里はうなずくことしかできない。  わかるのは、三人が今、恋人でも友達でもない、なってはいけないとろとろの甘い関係になってしまっているということだけ――。 「んんんっ、くぅっ、んふんっ、ひうぅぅ……!」  華の瞳孔は快感に開き切っている。左右の二人にしがみつき、声を殺そうと浴衣の裾を噛んで悶え狂う。みほはとうとう下着の中に指を入れる。人魚の尾のようにしなやかな足が、それを挟み付ける優花里の足のあいだで暴れている。優花里の目の前でこぼれそうに大きな乳房が激しく波打つ。自分の胸を重ねて、揺れを押さえつけた。みほが息をあえがせた。 「華さん、すごい、こんなに敏感だったんだ」 「はい、これは二人がかりでないと……」 「ね。いちばん大きな人だもんね……」 「は、だめ、だめです、わたくし、と、飛びっ……」  切羽詰まった顔でうわごとを漏らす華を、二人は右と左から、ありったけの親しさを込めて抱き締めた。 「ひ、ぃんっ……!」  その二人を骨がきしむほど抱き締めながら、華がぐぅっと弓なりに背を反らして、びくびくと長く痙攣し――。  椿の花が落ちるみたいに、はたりと力を失って横たわった。 「はあっ! はぁっ、はぁっ、はぁ――」  馥郁とした芳香が立ち昇る。脱力した華の全身から汗が噴き出していた。満開の時を迎えた花畑みたいな香りに、二人はむせ返りそうになり、みほがふらふらと窓を開けにいった。 「優花里……さん……」  肌を重ねていた優花里に、華がゆっくりと目の焦点を合わせる。戻ってきたみほにも顔を向ける。 「みほ、さん……」 「わかる? 華さん」 「え……?」 「華さん、いっぱいいっちゃってたよ……?」  はぁ、はぁと少しずつ落ち着かせながら、華はまた優花里を見てみほを見て、二人が満面の笑みでいることに気づくと、顔をしっかり覆って、身を丸めてしまった。 「はあ……あっ……」 「ふふふ……五十鈴どの、すごかったです。イヤイヤをして、ぴーんとなって」 「い、言わないでくださいぃ……」 「よかったでしょ。真っ白になって、体が溶けてなくなるみたいで……」  肩まで赤くなってぶるぶる震えていた華が、こくりとうなずいた。 「はい……あんなの、初めてでした。全身が解放されて、開き切ってしまうような……」 「満足した?」 「……はい」  蚊の鳴くような声で、華が答えた。  開けた窓からひゅうと風が巻きこんで、くしゅっ! と華がくしゃみをした。立ちこめていた、たがの外れたような興奮の空気が流れ去り、友達同士の落ち着いた、礼儀の線で区切られた距離感が戻ってくる。  半裸でいるのが場違いに思えてきたとき、優花里が提案した。 「もう一度、お風呂行きませんか。汗をかいてしまいましたし、冷えてきましたし」 「そうだね、そうしよう。華さんも、ね?」 「は、はい」  華がふらふらと浴衣の前をかき合わせた。 「はぁーっ……」  広い岩風呂に身を浸して、三人は息をつく。深夜零時すぎの露天風呂には誰もおらず、気兼ねなくくつろげた。いや、くつろげるはずだった。  だが三人は二メートルほど離れて、みほと優花里、華ひとりに分かれており、ぎこちなく互いにちらちらと目を向けていた。 「あのう、みほさん……」居心地が悪くなったのか、華が言う。「もうちょっと、近づいてはいけませんか? よろしければ、ですけど……」 「あっ、うん、いいよ。華さんこそ、いいの?」 「どうしてですか? わたくしは、いやではありませんけど……」 「うん、あのね――」ちらりと優花里に目をやり、似たような気まずい顔でいるのを見て、華に目を戻す。「いま話してたんだけど、私たち、成り行きで華さんにえっ、あんなことをしちゃったけど、落ち着いて考えたら、やっぱりすごいことだったよね、って思って。二人で友達を無理やり? しちゃったみたいなところ、あったから……。反省してるの」 「反省、ですか……」  タオルを巻いた頭を傾けて、華は優花里の隣にやってくる。 「そんなふうに考えて下さらなくても、よろしいのに……。わたくしは、自分の意志で、身をお任せしたんですよ」 「み、身を……」  優花里がぞくっと肩を震わせて、さらに拳一つ分、みほのほうへ引く。顔を曇らせる華に、みほがあわてて手を振る。 「あっ、優花里さんの今のは、逃げたんじゃないよ。華さんがきれいだから……裸だから、意識しちゃうんだって」 「意識……したくないんですか?」 「したくないっていうか、だめじゃないですか?」優花里が顔を上げる。「いっぺんえっちしたからって、すぐにそんな……じろじろ見たり、べたべた近づいたら、いやらしいじゃないですか……」 「でも、優花里さんはみほさんのことを、そういつもいつもえっちな、色っぽい目で見ているわけでは、ないでしょう?」 「それはそうですけど……」 「それに、わたくし」すうっと息を吸って、咳き込むように言う。「お二人になら……そ、そういう目で見られても、構いません。お二人が本当に、大事にして下さる方だって、わかりましたから……」  優花里とみほは顔を見合わせると、おずおずと華を挟んで、肩を並べた。にっこりと華が笑う。 「よかった。わたくしのせいで、三人がぎくしゃくしてしまったら、どうしようかと思いました」 「う、うん」「はは……」 「ところで――改まって、お二人にお願いしたいことがあるんですけど、よろしいでしょうか」 「は、はい」「なんですか?」  ざぶり、と前に出た華が、振り返って尋ねた。 「お二人に触っても、よろしいですか?」  二人は息を呑む。  華が膝立ちになって近づく。白いくびれた裸身、重く豊かな乳房が揺れ、みほに覆いかぶさる。 「ふぁっ、あっ、あ」  みほは口を開けて凍り付く。  それを見た華は、やおら身を離すと、今度は隣の優花里に抱きついた。 「んぅっ……くうう……」  優花里はびくっと肩を縮めて、ぶるぶると震えてしまう。  華はしばらくじっとしていたが、やがて身を離すと、湯の中に座りこんで二人を見比べた。  そして、唐突にくすっと笑った。 「あらあら……お二人ともひょっとして、触られる方は全然、ですか?」 「えっ」「そ、そんなことは……その」「そんなことは、あるかも……?」 「いいんですよ、ご無理なさらないでくださいな」華はまた笑顔になって、二人の間にもたれる。「わたくしはお二人に触っていただけただけで満足です。こちらから無理にさわろうとしたりは、いたしません。ご安心なさって」 「そうしてもらえると、ありがたいかな……ね?」 「は、はい。五十鈴どのプロポーションに比べたら、私なんか全然で、恥ずかしくて……」  華は穏やかに目を閉じていたが、やがて「みほさん」とつぶやいた。 「はいっ」 「のぼそうなので、わたくし、お先に上がらせていただきますね」 「えっ、まだ……」  ザバッと地面に上がった華が、歩き出しながら肩越しに言った。 「今夜はありがとうございました。よろしければ、またお二人がお揃いの時に、ご一緒させてくださいな」 「う、うん。でも、あのっ!」 「このことは三人の秘密――ですね?」 「――はい」 「心得ております。それでは、失礼いたします。おやすみなさい」  タオルをほどいて黒髪を流した美しい背中が去っていくのを、二人はぽかんとして見送った。 「なんか、急……でしたね」 「うん。ひょっとして……」 「ひょっとして?」  言いかけたみほは首を振って、優花里の肩に頭を預けた。 「――華さんは、やっぱりとても優しい人だ、ってことだよ」 「……ああ」  優花里はうなずいた。 「そういうことですか」 「きっと、まだいたかったと思うよ。また今度誘ってあげようね?」 「はい……」  優花里はみほの肩を抱き寄せて、うなずいた。      〇oooooooo〇   わたくしは、あんこうチームの皆さんが大好きです。 「さーみんな、楽しかった旅行も今日で終わりだけど、おうちに帰るまでが遠足だからがんばって行くからね!」 「ただの移動だ。がんばってたまるか」 「がんばろうよ旅行なんだからさあ、電車でUNOとかおやつとか逆ナンパとか!」 「ご亭主と番頭さんと板前さんに子供扱いされた時点でいい加減に懲りろ」 「されてないー! 可愛いですねって言ってくれたー!」 「それが子供扱いだ。わからないのか沙織、あまりしつこいとそのうち――」 「そのうち何よ?」 「泣くぞ」 「う」 「お前の腹でガン泣きする。しがみつく。浮気者ってわめいてやる」 「そ……そう来たか、新しいね麻子……」 「おお、珍しい。冷泉どのがド直球です」「むしろ逆に変化球?」「女同士のどうにもならない困りごとを、人前に引きずり出して無理やり追い詰める、捨て身の大暴投では……」 「わかった、わかったわよ! 逆ナンパはしないから!」 「んっ」  旅館から駅へ下る朝の道。赤い顔でうなずく麻子さんと、そんな麻子さんにちょっとどきっとしてる感じの沙織さんが、とても可愛らしいです。  沙織さんと麻子さんは、いろいろあって特別なお二人になられました。ただの幼馴染みとも、またただの恋人とも違う、お二人だけの決めごとがあるみたいで、それがどういうものかは、わたくしにも、誰にもわかりません。 「優花里さん優花里さん、麻子さんが可愛いっ……!」 「武部どのもじゃないですか? あの人が素直に折れるの、初めて見ました。あっ、手!」 「つないじゃったねー」  みほさんと優花里さんも、大事なつながりを持ってらっしゃいます。このお二人は、わりに隠さずに――というか、隠すのがあまりお上手ではなくて――お付き合いなさってますけど、二人きりの時にどんなことをなさっているのか、やっぱりわかりません。  そして、わたくしも、今回の旅行で秘密の仲間に加えていただけました。 「華さんっ」「五十鈴どの」  みほさんと優花里さんが、両手をつないでくださいます。前を行くお二人にわからないように、目配せします。三人の秘密ができました。  実は、わたくしにも一人だけの秘密があります。  昨夜のお風呂で、みほさんと優花里さんのどちらかが、どちらでもいい、ひとこと言ってほしい、と思ってしまったこと。 「好きです」って。  結局、その望みはかないませんでした。きっと、どちらでもいい、なんて思ってしまったからでしょうね。  それでよかったと思います。矛盾していますけど、お二人の仲が壊れてほしくはありませんでしたから。  もちろん、こんなことは口に出しません。お二人も、察してくださったみたいですし。  皆さんそれぞれに秘密がある――それでも、そんなだから、わたくしはこのチームが大好きです。  道端に白い可愛らしい花が咲き乱れています。わたくしはそれを歩きがてら摘んで、みほさんと優花里さんの髪に挿して差しあげます。 「はい、コスモス。――お二人ともよく似合いますよ」 「ミ、ミリタリーパンツに花っていうのも、はは……」 「ううん優花里さん可愛い、すっごく可愛い」 「あーっ、何そのお花! いいなあ、私もほしーい!」 「もう生えてないぞ。沙織、戻るな」 「えへへ、いいでしょ?」 「か、かわいいですかね……?」  沙織さんが前になり後ろになって、ほしがります。みほさんがわたくしの袖を引っ張ります。 「華さん。ね、華さんも」  背伸びをして、わたくしの帽子にも一輪、挿してくださいました。 「華さんがいちばん似合うよ」 「でもわたくし、この花にふさわしくは……」 「そんなことないです! ぴったりだよ、ね? 優花里さん」    「はい! それは間違いありません」  お二人とも、うなずいて下さいました。 「……ありがとうございます」  わたくしは想いを隠して、頭を下げます。  秘すれば花――と、申しますから。   (おわり)