[番外編] そんな二人もあるのかも 後編 「西住殿、秘密基地って興味あります?」  ある土曜日、半日の練習が終わったところで話しかけました。「秘密基地?」と西住殿は首をかしげます。 「はい。子供のころの隠れ家です。私って、昔からこの学園艦で育ってきたじゃないですか。あちこち探検して、人のいない秘密の場所をたくさん知ってるんです」 「あ、そういうのなら、私も昔はお姉ちゃんと作ったことあるよ。アンブッシュの訓練だーって」 「え、西住殿もですか。それは意外です……でも話が早くて助かります。それでですね、最近気が付いたんですけど、今の目で見ても面白そうなスポットがいくつか残ってるんですよ。もし今日おひまでしたら、一緒に行ってみません?」 「うん、今日はもう予定はないけど……」言ってから、西住殿はもじもじし始めました。「それは、二人でってこと? 二人はちょっと……」  予想通りの反応でした。西住殿は、このあいだのことがあってから、二人で過ごすのを避けるような感じになっていたので。  でも、ここで引き下がってはなんにもなりませんから、腹をくくって「二人で行きたいんです。西住殿、お願いします!」と正面攻撃を仕掛けました。  西住殿はたじたじとなって、「は……はい」とうなずいてくれました。押しに弱い人でよかったです。  農具小屋になってて戦車探しのときにも気づかなかった試作OI車の車体だとか、先尾式の変わったプロペラ戦闘機の残骸がずらりと並んでる放棄された大倉庫だとか、ばかでっかい謎の潜水艦が転がってる艦艇格納庫だとか。いくつかのスポットを回ってから、目的地に着きました。  そこは上甲板の市街地から遠く離れた、大洗学園艦の中層左舷にある無人の部屋。  中に入るとちょうど大窓から夕日が差していて、広い室内はきれいなオレンジ色に染まっていました。 「わあ、すごい」  どっしりした机や背の高い本棚があって、色の褪せた肖像画や旗が壁にかかっている、古めかしい部屋です。バーカウンターにはかすれてラベルの読めない瓶がいくつも並んでいます。 「ここが優花里さんの秘密基地なんだ……立派な部屋だね」 「実は艦長室なんです」 「艦長室!?」 「昔、まだ生徒たちが艦を運営するようになる前に使われていた部屋ですよ」 「そんなとこ勝手に入っていいの?」 「だって、怒る人なんかいませんもん。入り口の鍵も、私がつけ直したっきり開けられた様子がないんで、ここ五年は間違いなく誰も来てません」 「へぇー……」  続き部屋も大窓のある居室で、大きなワードローブとベッドがあります。そのころに日も暮れてしまったので、私がいつも持ち歩いている野営道具を示して、泊まっていきませんか、と誘うと、西住殿はちょっとためらいながらも、うんと言ってくれました。  ランタンを灯して、すり減った絨毯にツェルトバーンを敷いて、おいしい食事をとって。おなかが膨れると、置き忘れの洋酒を開けてすごい匂いに顔をしかめたり、書棚にずらりと並んだ革張りの本を見て回ったり。 「ここには、学園艦ができてから今までの記録が、あることないことすべて書かれているそうですよ」 「あることないことって。第一、誰が書いてるの?」 「あはは、子供のころに聞いた伝説ですよ、伝説。何冊か見てみましたけど、白紙でしたしね」 「ふーん……」  最後にはベッドに寝袋を広げて、並んで腰を下ろしました。隅に置いたランタンの光で、私たちの横顔がほんのりと窓に映ります。並んだ二人の姿の向こうに、月明かりに光る海が見えました。 「きれいだねー……」「なんか、出来すぎですよね。シチュエーション作りすぎちゃいましたかね、あは」  私が照れて頭をかいていると、そんなことないよ、と西住殿が笑ってくれましたけど、はっと何かに気づいたように、そそくさと体を離しました。 「あ、うん。すごく素敵、素敵だけど、私、今日はもう疲れちゃったかな。寝よ? 優花里さん」  気まずそうな顔でした。   そうなることはわかってました。その理由も。  私はぴしっと座りなおして、隠し持っていた小箱を取り出しました。 「西住殿、これを見てもらえますか」 「……なに?」 「お薬です。これを後で飲むと、赤ちゃんができる心配がないっていう。女の子の薬ですね」 「え?」西住殿が目を見張ります。「それ、え? なんで……」 「西住殿、最近私を軽く避けてましたよね。さっきも泊まりって言ったら、ためらいましたし。それって、そういうことでは? またああいうことがあると、我慢できなくなるから……大変なことになっちゃうから、じゃないんですか?」 「優花里さん」と驚いた西住殿が、目を伏せました。「うん……実は、そう。私、もう自分を抑える自信がなくなっちゃって……」 「だと思いました。だから、その心配は要らないって言おうと思って……」 「そういうことじゃないよ、優花里さん。それって、ほんとにしちゃうってことだよ。さわりっこじゃすまないんだよ。優花里さん女の子でしょ、そんなこと簡単に言っちゃ、だめだって」 「簡単に言ってなんかいません! 簡単な思い付きで、計画立てて、薬を取り寄せて、カレンダー見て、今日を選んだと思います? そんなわけないです。私、しっかり決めて来たんです。西住殿を受け入れようって。だから……」  勢いをつけてここまで言いましたけど、言葉が止まってしまいました。もし本当に西住殿がいやがっているのなら、これはただの空回りってことになってしまいます。  でも、西住殿はそんな私を見ると、思い返したようにそっと抱き締めてくれました。 「そっか、優花里さん……私に、ほしがってほしいんだ」 「――はいっ!」  思いっ切り、うなずいていました。 「一生懸命がんばって用意して、大事な決心して、ここまで漕ぎつけたのに、私がいやだって言ったらだめだよね。私、なんでわからなかったんだろう……ううん、私がしなきゃいけなかったんだ、こういうこと」  こくこくと私はうなずきます。力が抜けて崩れそうでした。 「それなのに全部してもらっちゃって……ごめんね、鈍くて。わかったよ、私、言うね」  体を離すと、初めて告白するみたいな気の入った顔で見つめて。 「優花里さんがほしいです。優花里さんの初めてをくださいっ!」 「……西住殿ぉ」  どっと抱きついてしまいました。  ようやくしてもらえたキスは、言葉にできないほど甘くて、深くて。腰と首に回された腕が、期待したよりも、それまでのどんな想像よりも強くて。  唇から体の中へ、指先や脚の先まで、あったかい心地よさで、一気に塗りつぶされていきます。  「ほしがっていいんだよね、優花里さん」西住殿の手が、するりとセーラー服の中に入って、肌を撫で回していきます。「出しちゃうよ……私、全部出しちゃう。いい……?」 「はいぃ……全部、いいです。もらってください、私を……」 「もらっていいんだ……」  スカートの中に入った手が、お尻をつかみました。両手でむにっ、むにっと……あの手付きです。ふざけ合いのときじゃなくて、本気でスイッチが入ったときの、粘りつくような指使いです。普通の女の子が絶対してこないさわり方。 「好き、優花里さん、好き。私に食べられたくて、こんな準備までしちゃう優花里さん……好き……」 「はい、私、西住殿に食べられたくて……」言いながら声が震えちゃいます。「全部、準備してきました。その気になってもらえました? 食べてもらえます?」 「食べちゃうよぉ……」  はぐっ、と首筋に噛みついてきます。ぎりっと歯が食い込んで……あ、歯型ついちゃった、って思うとぞくぞくして……「くうんっ」て、私はのけぞります。 「はっ、はぁーっ、はぁっ……」  どさりと押し倒されました。西住殿が靴を脱ぎ捨ててのしかかってきます。セーラーとブラを脱がして、自分も脱ぐと、ふわりと胸を重ねて……「あっ、やっ……」と声が出ちゃいました。裸の胸に触られるのは初めてでした。「ふにふにしよ、ね」とささやかれて、互いの胸をそっと押し当てます。 「んふ、西住殿、ふ」 「優花里さん、っ……さんっ」  おっぱいにおっぱいを重ねてもらいます。乳首にきれいな桜色の乳首がくにっと当たって、たぷっ……と白いお肉に埋もれていきます。「柔らかぁい……」「はい……」と微笑み合います。お風呂で見たことがあるといっても、二人きりで見せ合うのは初めてで恥ずかしいんですけど、そんな気持ちも、一緒にふにふにと胸を揺らし合っていると、消えていきます。  もともと私より大きな西住殿の胸が、たぷんと私の胸を覆うような感じになって。でもむにむにとこねていると、くっつき合った乳首や乳房の内側がこりこりと刺激される感じがして。それがなんとも、ジンジンと心地よくて……。 「はぁ……気持ちいい、優花里さん……」 「わ、私も……」   だんだん汗ばんできた肌がぬるぬる滑って、すごくえっちな感じがしました。  裸の背中に腕を回します。剥き出しの背中は細いです。あったかくてしっとりして、とてもいい撫で心地です。ぎゅっと力をこめると、お互いのおっぱいがむにっと潰れて、胸と胸が隙間なくくっついちゃう感じになります。 「優花里さん、可愛いよぉ……」  ぎゅうっと抱いたまま西住殿がごろんと転がりました。上になった私をゆさゆさと左右に揺さぶります。大きなお人形みたいな扱いですけど、それは乱暴じゃなくて、心地よくて。人にぎゅっとされて揺すってもらうのは、そういえば嬉しかったなって、小さな子供のころを思いだしちゃいました。 「重くないですか……?」 「重くないよ。乗っかられてるの、気持ちいいよ」  体だけじゃなくて、膝や足首の下にまで自分の体を入れて、西住殿は私を全身で受け止めてくれます。 「優花里さんの体全体を感じるの。ね、あーんして、キスして」  言われた通りに、目を閉じて軽く開けた口を近づけると。とろりと流れた唾液を、西住殿の舌がすくい取っていきます。 「優花里さんがくれる重さとか柔らかさとか、あったかさとかとろとろとか……全部嬉しいよ。私、私だって、優花里さんのものにされたいよ……」  あの、幼いほど可愛らしい顔でそんなことを言うんですから、私だってたまりません。上からキスをくり返して、ちゅぷちゅぷと唾液を飲ませちゃいます。  それでも、西住殿は私と違うところがあるので。  はいたままのスカートの中身は、もうとっくにこりこりと硬くなって、私のおなかに当たっていました。  西住殿が揺さぶりを止めました。二人のあいだのおっぱいよりも、硬いあの部分に意識が集まってきます。とくっ、とくっとかすかに鼓動まで感じられて、私はじっと顔を見つめちゃいました。西住殿もそんな気持ちみたいです。  西住殿が手を下げて、また私のお尻にふれました。むにむにとえっちに揉みながら指を谷間に入れて、一番奥の、隠れたところをくしくしといじります。そんなところを触られるのは本当に恥ずかしくて――でも本当にきもちよくて、私は「ふく、んんっ」と悶えちゃいます。  西住殿は上と下から手を入れて、熱心にそこをさわさわしてくれましたけど、そのうちに耳元でぽつりと、「見たい……」と言いました。  熱く、低くて、いつもの西住殿じゃないみたいな欲情のこもった声でした。  耳がぞっと気持ちよくなってしまって。私もそれと同じお願いがあったんですけど、口にすることもできずに、こくっとうなずいてしまいました。  私を押しのけた西住殿が向きを変えます。艦長用の大きなベッドの足側に回ると、私の片腿に頬を乗せて、もう片足を押し開きました。  見下ろせば、ベッドサイドに置いたランタンの光で、私のスカートをめくり上げる西住殿の顔が黄色く照らし出されています。とっくに濡れてる下着に食い込む視線が強くて、身を縮めてしまいました。 「恥ずかしいです……!」 「お願い。すごく見たいの」  その言葉を口にされたら逃げられません。私は腕で顔を覆って、恥ずかしい光景から逃げました。 「優花里さんのパンツ……」ひたっ、とグミみたいな感触が布越しに当たって、ひくっと震えてしまいます。「んっ」ふーっ、と息を吹き込まれました。じわあっ、と熱が広がって、苦しいぐらいにあそこがうずきます。  すー、すー、と何度も吸われちゃいました。今まで何度も私の匂いを嗅いできた西住殿ですから、そういうことをされるだろうという気はしてました。でも、でも。 「やめて、やめて下さい、西住殿」 「お願い、ほしいの。私、優花里さんのこういうのがほしいの」 「でも、そんな、んふぅぅんっ……!」  あぁむっ、と下着ごと中の丘を丸ぐわえした西住殿が、じんわりと力を込めて噛みました。薄布で丸められた硬い刺激に、敏感な部分をぐうっと咬み搾られると、ジンッとものすごい快感が走って、のけぞっちゃいました。 「はくぅぅ……おい、しっ……」  嬉しくてたまらないような声。はぐ、はぐと何度も続く甘噛み。肩や腕と違って傷つきやすいところですけど、それだけに、十二分に気を付けて痛む寸前に留めてくれているのがよくわかります。女の子がそこをどう感じるか、西住殿はわかってるんです。きっとこれは、口でしてもらえる、最も危なくて気持ちいい愛撫なんでしょう。 「ぐぅうぅっ、んっ、ふんっ、うぅ」  甘く、痛痒くて、死ぬほど強烈な愛撫に、私はもがくように上半身をひねります。下着の中身が充血しきって、ひりひりと剥けているのがわかります。耐えられなくなる寸前に、すっと硬さが消えました。それに続く慰め。すりすり、くむくむ、と柔らかい感触。西住殿の鼻と唇。それに舌。染み出してきたものと、染みついていたものまで、味わわれちゃってます。 「んぅぅん……」  両脚を担ぎ上げて、西住殿は私の太腿でぴったりと顔を挟みました。動きが止まったのでちらりと見ると、目を閉じて、祈りでも捧げてるみたいに、私の股間に深々と顔を埋めていました。 「思った通り……ううん、こんなの想像もしなかった。優花里さん、匂い、おいしい……」  一瞬、泣いているようにさえ見えてしまいました。それぐらい西住殿は喜んでくれてたんです。  それをみると、とうとう嬉しさが恥ずかしさを塗りつぶしてしまって。そんなに喜んでくれるなら……と私も少し力を入れて、きゅむ、と西住殿のほっぺたを挟んであげました。 「西住殿……そこ、ほんとに好きなんですね」 「ん……そうなの。本当は、こういうことがしたかったの。普通じゃないよね、ごめんね、変だよね……」 「それはやっぱり、西住殿が……そういう体だから?」 「わかんない」首を振られて、ふにふに、と中身がしびれます。「ううん……そうなの、かな。私、いまめちゃくちゃ硬くなってる。きっと、やっぱり、そういうことなのかも……」 「見せて、もらえますか」  ゆっくりと西住殿が顔をあげました。少しだけ不安そうに眉を下げて。  でも、こくりとうなずいてくれました。私の横にもそもそと這い戻って。ぺたんと脚を外折りして座って、スカートに手をかけます。 「私、今まで自分から見せたこと、ない」 「……はい」 「女の子のものじゃないよ。すごく変だよ。いい?」言って、首を振ります。「ううん、約束して。ぜったい、変だって言わないで……」 「言いません。ぜったいに」  私が強くうなずくと、西住殿はスカートに手を入れて、何度もためらいながら、下着を脱ぎました。 「こ……れっ……」  うつむいて真っ赤になりながら、両手でめくり上げたスカートの下から。  すらりとした一本のシルエットが現れました。 「お……お」  私は思わず顔を近づけます。  驚きました。だってそれは予習したのとは全然違いましたから。  西住殿のそれは、白桃色の素肌をいっぱいに上気させたような落ち着いた紅色で、かすかな反りのある綺麗な弓型を描いて立っていました。大きさはもう少しでおへそに届きそうなほど見事なものですが、太さはそれほどでもないというか、私が握ったら指が余りそうなぐらいで、根元から首のところまで気持ちよく伸びています。  先端には、見慣れたものに例えるなら、砲弾の被帽みたいな、少し膨れて先すぼみの部分があります。でもそれは冷たく硬い砲弾とは違って、色も艶も熟したさくらんぼそっくりに、真っ赤に充血して張りつめています。  恥ずかしげにすり合わせた西住殿の白い太腿のあいだから、くっきりとそそり立ったそれは、持ち主の控えめで一生懸命な気性そのままの、可愛らしくて一途なたたずまいで。もっとずっと怖い物を想像していた私は、嬉しい驚きに打たれてしまいました。 「うわ……ぁ」  こんな、こんな素敵なものを、西住殿が隠していたなんて……。 「も、もういい?」  スカートを下ろそうとする西住殿の手を押さえて、もっと顔を近づけます。ツンとかすかな匂いが鼻をくすぐります。あの青臭い匂い。先端の切れ込みに透明なしずくが光っています。 「西住殿……」 「な、なんですかっ」 「私、あの、その……」感動してます。  そんな言葉では表しきれなくて、一気に顔を押しつけてキスしちゃいました。 「優花里さ、んぁっ!」  のけぞる西住殿の声を聞きながら、無心に頬ずりしていました。しっとりと汗ばんで、熱く脈打つ、塩からい匂いのするそこに、ぐりぐり、ちゅう……と鼻筋を押しつけて、唇を当てて。 「だ、っめっ、やんっ!」 「にし、西住殿っ」逃げようとする腰に抱きついて、やたらめったらにキスします。「もっと早く、これっ、見せっ、私っ、好っ!」 「な、なにっ? 優花里さんっ、なにぃやあぁぁぁ……!」  声が溶けたのは、くわえてしまったからでした。先端に吸い付いて、すっぽりと口に含みました。被帽の部分が舌にぐにゅっと当たって感触がわかります。ぺとぺとした粘膜でできている甘硬い果実。そんなところは敏感に決まってますから、湧き出した唾でいっぱいに包んで、ぢゅうぅぅっ……と思い切り優しく吸ってあげました。 「っああああ、あぐ……!」  西住殿が胸を反らせて、きつくシーツをつかみました。口の中のものが、根元からびくびくと激しく痙攣しました。払いのけてもよさそうなものなのに、西住殿はベッドに釘づけにされたように手を上げません。きっと動けないんです。気持ちよすぎて抵抗できないんです。 「やめっ、やめて優花里さんッ! 出る出ちゃうっ!」  あれが?   ぞっと頭髪が逆立ちました。西住殿が何よりも吐き出したいもの。西住殿が何よりも女の子に出しちゃいけないと思ってるもの。この全身のこわばりは、理性を振り絞った抵抗。  解放してあげたい。ずっとこの人を苦しめていたはずの、板挟みから。  閉じようとする脚にのしかかって押さえて、こわばりの根元を安心させるみたいに両手で包みながら、最大限のいたわりをこめて、とろとろの唇と舌を、ぬる、ぬる、ぬる……って上下させてあげました。 「だめ、だっ」   言葉半ばで、ぐっと西住殿が歯を食いしばったその瞬間、びくっ! とあれが膨れ上がって口蓋が叩かれました。  奔流に。びゅうううっ、と鋭いほど強い流れが当たります。あっという間に舌の上が満たされます。止まりません。びゅうっ、びゅうっ、と後から後から流れ込んできます。あわてて飲みこみますけど、追いつきません。どろどろの口の中にさらにどろどろが詰めこまれて、こぷっ、と唇からあふれてしまいました。  鼻の奥にツーンとすごい匂いが充満します。目の裏がちかちかして何も見えなくななります。興奮しすぎて頭がぐるぐるしました。 「ああっ、あああっ、ゆかりさん、ゆかりさぁん……」  泣き声のようなものが聞こえます。悲しげで、でも隠しようもなく甘く溶けていて。手に取るように分かりました。きっと、丁寧に丁寧に積み上げてきた積み木を、一気にぶち壊してしまったような気持ちなんでしょう。  ぎりぎりまで我慢していたのに、ううんきっとそのせいで、西住殿の射精は手のつけようがないほどひどいものでした。私が呑み込み損ねてえずいて、根元を握っていた指までべとべとになるほどぶちまいてから、ようやく収まりました。  けんけんっと私がせき込んでいると、西住殿はものすごくあわてた様子で起き上がって、背中をさすってくれました。 「優花里さん、出して、吐き出して! ほら、えーって!」 「にしぶ、どの」私は涙を浮かべながら、心から笑ってみせます。「らい、大丈夫ですっ。汚くないですっ、これ」 「何言ってるのぉ……」口から精液を垂らした私のひどい顔を、西住殿は手のひらで拭ってくれます。「だめだよ、こんなの。私、こんなことするつもりじゃ……」 「嘘です、それ」きつい言い方ですけど、そう言っていいはずでした。「西住殿は、こうしたかったんでしょう。我慢してただけですよね? そんな我慢は、もうやめてくれないと」 「我慢って……」 「今だけは、ってことです」  興奮が峠を越えると、ねばねばが少しわずらわしくなって、自分でも手で拭きました。汚いからではなくて、西住殿の手や顔にまでついてしまうからです。手のひらのこってりしたクリームを、つとめてただのお菓子か何かみたいに、口に寄せます。 「私たち、今夜は『これ』を注いでもらうために、始めたんじゃありませんか。大丈夫、平気ですよ。ううん……私も、これが好きになっちゃったみたいです。西住殿が、私をくんくんしたみたいに」  そう言ってペロッと舐めとってみせると、西住殿は呆然としました。 「優花里さん……そんなに、そんなに平気なの。私のこと」 「がっかりしました?」  だいぶ普通に笑えるようになってきました。一番心配だった、西住殿のあれが思いのほか素敵だったので、余裕が出てきました。 「なんにも知らないまま、おびえていたほうがよかったですか? ええ、最初はそうでしたけど……」自分の行き過ぎた準備を思い出して、ちょっと苦笑してしまいます。「予習のつもりでいろいろ見て回っちゃったんで。男女のこういうことも、もっとすごいことも、いっぱい頭に詰めこんじゃってます」 「それ……大丈夫だった? 気持ち悪くなかった?」 「そういうのも、まあ、ありましたけど。でも」  へたりこんでいる西住殿を眺めます。はきっぱなしのスカートの前はいつのまにか何事もなかったように収まって、普通の女の子と変わりません。 「……西住殿のそれは、違うみたいです。さっきの約束とかを抜きにしても、ほんとに可愛いです。ね、西住流のみほ殿、自信を持って? あなたは――」  両手を取って、ぐいっと揺すりました。 「女の子よりも素敵な女の子ですよ。あなたの前にいるのは、世界で一人だけ、それに気づいた女の子なんですよ」 「優花里……」  ぽかんとしていた西住殿が、ぐいっと手を揺さぶり返しました。ぐいぐいっと何度も上下させて、涙ぐみます。 「優花里さん。優花里さんっ!」 「はい。はいっ!」 「嬉しい、ですっ!」 「はいっ!」  面白いことでした。キスよりもセックスよりも、このぐいぐいが、この日一番、西住殿と心のつながりを感じられたんですから。 「はー……」片手で目頭を拭った西住殿が、微笑みます。「なんだろう、もう。頭ぐしゃぐしゃ。結婚しちゃったみたい。私、これ……気持ちを取り出して、見せたいよ」 「結婚とか簡単に言わないでください……」私は頬を染めてうつむきます。「そんな大事なことはもっと別のときに話したいです。今はえっちで頭いっぱいなんですから」 「そ、そうなんだ?」 「そこリニアーなんですか? 西住殿」なんか童貞っぽいと思いましたけど、そうでした、この人、童貞でした。「話すこといっぱいあると思いますけど、今はまだお話しばっかりしてる場合じゃないですよね?」 「え、うん……」とうなずいてから、あわっという顔になります。「優花里さん、まだだったよね……! 私、いまちょっと変に落ちついちゃったから」 「そういうものなんですね……」  予習で知った賢者タイムっていうのは、これかぁ……なんて思いながら、私は聞いてみます。 「まだできます? 私、最後までしてほしいです。そのために邪魔の入らないロケーション取ったんですし」 「うく、はっきり言うなぁ……」西住殿が困り笑いして、すぐにうなずきます。「大丈夫だよ。前に優花里さんが泊まった日から、その、時間が経ったし」 「それは……溜まってる、ってことですか?」 「そう」あ、もう照れなくなりました。「しっかり溜まってます。一回じゃ、空っぽになりません」 「そういうの、自分でわかるんですねぇ……」  面白いなあと思いながら、ちょっと手を伸ばして、ぴらっと西住殿のスカートをめくりました。一瞬びくっとしたものの、好きにさせてくれます。 「ちっちゃい」 「はいぃ……」 「え、すごくちっちゃいです。こんなに小さくなるんですか!?」 「ていうかこれが普段でね、そうじゃなきゃ、すぐバレちゃう……」 「はー、不思議ですねえ……」スカートを戻して、首をかしげます。「どうしましょう。また口でしましょうか?」 「う」また固まる西住殿。「くち……優花里さんのおくち……えっち……」  上目遣いで見つめる顔が、ほんのりとまた赤くなってきて。口、のひとことであっさり興奮しちゃうあたり、これまた童貞くさいです西住殿……。 「ま、待って。ちょっといったん待とうね」あれ、仕切り入れた。  すーはーと息をして。 「優花里さん」 「はい」 「パンツ、脱いでもらえますか」 「……はい」  膝立ちになって、お尻から下着を降ろします。今気が付きましたが、二人ともスカートと靴下だけなわけで、これすごくマニアックなサイトでしか見なかった組み合わせです。  ……悪くないので、このままで行くことにします。特に西住殿、スカートからピンと顔を出すあれが、すごく色っぽかったですから……。 「脱ぎました。えと」ひょっとして。「嗅ぎます?」 「かっ、それっ、は」うんって言おうとしたのかな。「横へ、置いて……」 「はい」 「どうしよう、ええと……優花里さん、初めてだよね。初めては痛いって言うし、リップか何か塗るとか……」 「痛くても、かまいません」 「えっ」 「実は、痛むとご心配かけちゃうから、先に何かで練習しようかとも思ったんですけど……やめました。だって、どうせ痛いなら、西住殿にしてもらったほうがいいなって」 「私、に」 「はい……それにたぶん、大丈夫です。西住殿の、可愛いそれなら」 「可愛くなんかないよぉ……」 「いいえ、可愛いですって」  恥ずかしがる西住殿の膝をさすってあげているうちに、がばっと押し倒されちゃいました。 「ほんとに可愛いかどうか、お、思い知らせちゃうよ?」 「はい、思い知らせてください……んっ」  また抱擁、またキス。横寝して、空気に触れて冷えていた体を、もう一度あたため合います。  手を伸ばしてスカートの中に入れてみました。そこはすでに、さっき見た小さな姿よりもだいぶ育ってきていて。濡れた耳たぶのようなふにふにした感触が、とくん、とくん、と脈打つたびにむくむくと硬くなってきます。 「西住殿が興奮してるの、わかりますよ……」 「してる、してるよ、優花里さん」  伸ばした舌の上ではーはーと熱い息を吐きながらささやきます。 「優花里さんは……?」  こちらに手が入ってきて、ぺたりとあそこを覆いました。くりっ、手のひらで粒をこすれただけで、ぴくんと力んでしまいます。曲げた指がひだのあいだをぬるぬるとかき混ぜ始めました。ちゅぷり……と深く沈んだ一本が、入り口を探り当てます。 「ここ……だよね」 「はい」 「とろとろだ。優花里さんのこっちも、準備できてる……」 「はい……」 「すごい……あ、んふっ……」  私の指も、西住殿の硬いものの下にある入り口を探り当てていました。この人は、男のと女のものが両方あったんです。そこはやっぱり十分に濡れていて……でも、どんどん大きくなっていくあれの根元が腫れあがって、塞がれてしまっているみたいです。  ていうことは……と、私はぼんやり考えます。西住殿は普通の女の子みたいに、普通の男性と結ばれる可能性もあったんだ。  そうならなくて、ほんとによかった。  お互いに手でまさぐり続けているうちに、そんな考えも溶け消えていきました。目の前にいる相手のことしか見えません。キスを何度も交わして、体を最高に熱くして。  とうとう西住殿が、ごくっと唾を飲み込んで言いました。 「そ、そろそろしたい、よ……」  手の中のものはさっきみたいに、いっぱいに背伸びしていました。 「はい……」  私は西住殿にいったんどいてもらって、脚を広げました。西住殿が緊張した顔で前に来ます。いよいよですから、恥ずかしいのも我慢します。 「どうぞ……」 「う、うん。えっと……こ、ここ?」 「もうちょっと……あ、そこ……」 「ん。んっ……」 「……つっ……」 「痛い? ゆっくりやるね。んんっ……」 「ま、待って。向きが」 「向き、えっと」 「ちょっと待ってください」  脱いだ服をつかんで、丸めてお尻の下に入れて。  「こんな感じで」 「ありがと。じゃあ……んんっ……」 「あ、そこ……そのまま……」 「いい? う、んっ……!」 「はいっ……そこ……んんんっ!」  左右に手をついた西住殿が、じわじわっと力をかけると。  私のそこは、ぬるっ……と素直に熱いものを受け入れてくれました。 「はっ……入っ……つっ……」 「うんっ……入ってる……優花里さんの中にっ……痛い? だいじょうぶ?」 「待って……」  深呼吸してこらえます。じん、じんって鼓動と一緒に鈍い痛みが伝わってきますが、心配していたほど激しくはありませんでした。それよりも、中から押し広げるような西住殿の存在感のほうが強いです。 「ゆっくり、動いてみて……」 「ん。こう……かな……」  ヒリヒリとした熱い感覚の中を、硬いものが後ずさって、またじわじわと進んできました。入り口のうずきが、ぞわぞわと奥まで広がって、満足感が湧いてきます。  大丈夫……大丈夫でした! 「もういっぺん」 「はい。んっ……と」 「もういっぺん。……奥まで。もっと。ぎゅうっと」 「い、いいの?」 「はいっ……」 「いい? こうっ……こう?」 「はいっ、そうです、そぉっ……!」  ぬるぬるっとすごく深いところまで硬さが届いて、止まりました。はぁーっ、と西住殿が息を吐いて、抱きついてきます。 「ぜ、全部はいっちゃったよ……?」 「です、か?」 「うん。優花里さんに、私のがぜんぶ……」びくびくっ、とあれが喜ぶように震えるのがわかりました。「入った……つながっちゃったよぉ……!」 「嬉しい、です」  そう言った私の顔を見た西住殿が、信じられない、というように目を丸くして。 「……ありがとぉ……!」  ぎゅううっ、と頬ずりしてくれました。 「はぁっ、はぁぁっ……あっ……」  ぬるぬる、ぬるぬる、と西住殿があれを出し入れします。すでにもう、西住殿はすごく気持ちいいみたいです。私は抱き締める腕の強さに気持ちを預けて、ひたすら下半身の力を抜くようにしてみます。  力を抜いている、つもりだったんですけど。  そのうちに、勝手に動いてしまうようになりました。  ぬるぬると抜かれると、きゅっと吸い付いて。ぬるぬると入れられると、くっと包みこむようにして。意識してのことじゃないんです。楽なようにしているとそうなるんです。  楽なようにしている、が、気持ちいいようにする、に変わるまで、いくらもかからなくて。  そのうち自然に、私の西住殿の動きに合わせるようになっていました。 「はっ、はっ、はっ、はっ……んんんっ、ん」  ちゅぷちゅぷと音を立てて動いていた西住殿が、ぐっと入ったところで静止して、ふるるっと肩を震わせます。汗ばんだ顔に困惑の色を表して、ささやきます。 「ゆ、優花里さん、なんか、あの、なんか」 「ふぁい? な、なんですか……?」 「すごく私、動いちゃってるけど、あの、すごくよくて」 「はい……わかります」 「待って、待とう。うん。ちょっと待つね?」  充血してずっしりと重くなった感じのあれを、私の中になじませるようにぬちぬちと動かすと、「はぁーっ……」とまた大きく息を吐いて、西住殿は私の頬に頬を当てました。 「しちゃったよ、優花里さん……」 「はい……」 「私いま、すごくえっちなものを、優花里さんのすごくえっちなところに入れてる。なんていうか……これって、すごいよね。この瞬間を、もっと二人で味わいたいの」 「味わってますよぉ、西住殿……」  私は西住殿の背中に、交差した両手をしっかりと貼りつけます。 「私、いま初めての人に、女の子から女にされちゃってるんですよ……それが西住殿でよかったって、すごく思ってるんです」 「ゆ、ゆかりさ――」ぞくぞくっ、と触れている背中に震えが走って。「何それ……すごいこと言って……!」 「それでね、西住殿」  目を閉じて、おなかの下に意識を集中します。おしっこを我慢するみたいに、んっと力を加えると、きゅうっ……と硬いあれの輪郭をはっきり味わうことができました。 「いま、私も西住殿を、子供から大人にしちゃってるんです。……味わってくださいね? 西住殿。あなたの初めての人ですよ……?」 「んんっ、んんんうぅっ!」  ぶんぶんぶん、とたまらない様子で頭を振った西住殿が、私の顔を無理やりつかまえて、キスしました。すごいキスでした。舌も入れずに唇だけをくっきりと押し付ける、感情一筋のキスでした。 「もう、もうっ! だめっ優花里さん、好きっ!」  激しく腰を動かし始めます。ぐいぐいぐい、と開いたばかりの私のあそこが押し広げられて、ぬるぬるが泡立ちます。声も出せずに、私は西住殿の腕の中で悶えます。  完全に火が点いてました。抱き潰して貫くような西住殿の交わりに、焼かれてしまっていました。焼き尽くして溶かしてほしいって思いの塊になってました。 「優花里さんは私のだよ、キスも手もあそこも髪も全部だよ、私っ優花里さんのだよ、目も体もあれも全部優花里さんのだからねっ……!」  何を言ってるかわかりません。言葉が砕けてものが考えられません。  何を言われているかは死ぬほどわかりました。好きのただ一つです。私を全部自分のものにして、私に自分を全部あげたいって言ってるんです。  抱かれているから腕を動かせない。背中や腕を撫でているだけでは我慢できなくて、二の腕をぎゅうっと握りしめます。押し広げられた足をかける場所がない。膝から下はゆさゆさと無力に揺さぶられるがままです。  動くにつれて西住殿のあれはどんどん、危険なほど硬くなってきて。ぐねぐねと内壁をかき回すような動きも、次第に忘れられていって。  やがては、こらえるような慎重な動きで、まっすぐ一番奥だけを目指して、何度も深々と突き刺さってくるようになります。  そうすると、西住殿の腕や背中が、はっきりとぎこちなくこわばってきました。スカートに包まれたお尻を、薄氷を踏むような遠慮がちな動きで、ぐい、ぐい、ぐいぃ……とへこませて、私の中にじっくりと落ち着き場所を定めたところで、もう一度動きを留めました。 「限界……ですっ……」  はひはひと息を喘がせて、西住殿が切なく目を閉じます。 「出ちゃい……ますっ……ゆかりさんっ……」 「はいぃ……」  私は、体を支えているこわばった西住殿の腕に目を押しつけて、うなずきます。 「かまいませんっ……好きなだけっ……!」 「やめて!」驚くほど鋭い声。「ほんとに出ちゃう、からっ……! 出したい、すごく出したいっ……! でもっ!」 「大丈夫、ですからぁっ……!」私も限界でした。いきたくてたまりません。あの熱いぬるぬるを、おなかの奥に思い切り叩きつけられたい。「我慢、しないで……!」 「だめ、だめ、だめっ……! ま、万が一があるしっ! そと、外に出さなきゃ……!」 「西住殿ぉ……」 「だ、出したらっ、赤ちゃんできちゃう……っ!」  くず折れそうになりながら、カチカチと歯を鳴らしてこらえる西住殿の耳元に、私は思わず抱きついて、ささやきを吹きかけていました。 「いいです、できても」 「……!」 「当てちゃってください、私に……」  言葉のどれかがきっかけになったのかもしれません。でなければ、理性ゼロにとろけ果てた、私のねだり顔が。 「ゆかり……さはぁん」  ぎりぎりまでこらえていた苦しげな顔が、泣くように、どこかほっとしたように緩んで。  ふらりと崩れて私に抱きつきながら、西住殿は射精してしまいました。 「ふあ、ああ、んああああ、ああああ」  へなへなになった口から情けない喘ぎをこぼしながら、ぎちっ、ぎちぃっ、とあれを強烈に反り返らせます。そのたびに、びゅうっ、びゅうっと噴水みたいな勢いでねとねとがほとばしってきます。 「にしずみどの、にしずみどの、にしずみどのぉ……!」  打ちのめされたようにうなだれる頭を抱きしめて、私も天井まで届く声を上げます。沸騰した熱いクリームが、おなかの中にどんどん注ぎこまれて、気が狂っちゃうほどの心地よさです。 「ごめんね、ごめん、ごめんねぇぇ……! 出ちゃうぅぅ……!」  どうしても止められなくて泣き声を上げながら、西住殿が際限なく中出しを続けます。可愛いお尻をききわけのない動物みたいに、ぐいっ、ぐいっと激しく前に突き出して、私を満たしたクリームの中に、さらに追加のクリームをぬるぬると注ぎ混ぜていきます。 「にしずみ、どの、にし……」  声が尽きて息が涸れて、私は真っ白な幸せの中へ登りつめてしまいます。それは、私が望んでいた絶頂そのものでした。あの濃厚な西住殿のあかしを、生のまま直接注いでもらうこと。それを溜めこんでうずいていた西住殿に、出し尽くして空っぽになってもらうこと。 「うんっ、んっ、んんんんんっ! ……んっ、ふぅぅっ……」  最後に三度、思い切り力を込めて奥へ注いだ西住殿が、精根尽き果てたように、どっと脱力して、のしかかりました。毛穴が開いたのか、肌という肌にまたたっぷりと汗をかいて、花の匂いをまき散らしています。私はまるで、熱くて柔らかいふにゃふにゃの布団をかぶされたみたいで、うっとりとしてしまいます。 「出しちゃった、出しちゃったよぉ……優花里さんの、ばかぁ……」 「いいんです、いいんですよ」  はぁ、はぁ、とお互いふいごのように熱い息を吐きながら、私は西住殿の頭をめいっぱい撫でてあげます。   「あったかいです、嬉しいです、西住殿。最高でした、西住殿ぉ……」 「できちゃったら、どうするの? 優花里さん」  消耗した顔で、せいぜい叱るように眉をあげて、西住殿がにらみます。あは……と私は微笑みます。 「言ったでしょ、お薬もあるし、できにくい日にしましたし……それでもできちゃったら、それはもう運命ですって、西住殿」  顔を寄せて、ささやきます。 「きっと戦車好きの子になりますよ。ね?」 「そこまで覚悟決めてたの!?」  私は微笑み返します。軽い感じで言いましたけど、嘘のつもりはありませんでした。子供って、嫌いじゃないんです。 「はあぁぁ……負けだよぉ、優花里さん。私、がんばるよ……」 「えへへ、そう言っていただけると思ってました」  いつもの困り顔に微笑みを浮かべて、西住殿がキスしてくれます。  その顔が見られる限り、私はなんだってできると思いました。        †    †    †  本当に赤ちゃんを授かったのは、五年後です。準備万端整えて、狙ってしてもらったその日に一発で当たりました。さすが西住流は伊達じゃなかったです。  そのころまでに私たちは、念願の独り立ちを遂げていました。大学を卒業して、資格も取って。二人で立てた計画通りに、故郷に帰ってきたんです。  もちろん、みんなで守った大洗学園艦に、です! 「はーい皆さん、集まって並んでね。今年度の戦車道授業、第一回を始めます。戦車道が初めての人もいると思うけど、一緒に頑張ろうね!」 「西住せんせー、戦車ってどう動かすんですかー?」 「バーッと動かしてダーッと操作してドーンと撃てばいい! って私たちは教わりましたけどね。それじゃああんまりだから、まずは主砲の装填からいきましょうか!」 「優花里さ、いえ秋山先生、そこはエンジンのかけ方からじゃ……」 「秋山せんせーってざっくりっすねー……」 「大丈夫ですって。何かあったら私たちが面倒みてあげます!」 「むしろ肝っ玉母さん?」  学園艦では生徒の自主性を尊重するのがモットーですけど、顧問無しで好き放題やってた私たちの代はさすがに無茶苦茶だったっていうんで、教師がつくことになりました。私たちはその第一号になったんです。  仕事のほうは全開で頑張りながらも、暮らしのほうも全開で。 「優花里さん、赤ちゃん泣いてる泣いてる! これおむつ? おっぱい? どっち?」 「えーっとこれはですね、匂いしないし、たぶんおっぱいのほうですね。西住殿、いま出そうです?」 「んっ、どうかな。いけるかも」 「じゃ、お願いします。私は取っといて託児所で頼む分を」 「今日はご実家に預ける日だよ?」 「どっちにしろ必要ですし!」  産んだ赤ちゃんを抱っこしてもらったら、西住殿のほうまでおっぱい出るようになったのはびっくりでした。でもそういうことはたまにあるみたいですね。実家からスープの冷めない距離に新居を定めて、元気な赤ちゃんを抱えて、二人で協力して子育てです。結婚だけはできてませんが、そんなのは気持ちと甲斐性でカバーです。むしろお母さんが二人ですから子育てがしやすいってものです!  大洗学園艦の名物になった、あの懐かしい四号を駆る、ピカピカの高校一年生たちを眺めて、私と西住殿はうなずきあいます。 「今年の子たちは、すごく元気だよね」 「見どころがありますよねえ。気づきました? 昨日の放課後に七十五ミリの砲撃音がしてました」 「気づいた気づいた。誰かこっそりやってみたみたいだね」 「教師の目をかすめるぐらいのやる気があれば、今年も優勝間違いなしですよね!」  そんなことを言い合っていると、内気そうな生徒が一人、物陰からやってきました。「西住先生」と小さな声で言います。 「西住先生って、女の人なのに秋山先生と赤ちゃん作ったって、ほんとですか?」  興味本位の質問じゃないみたいです。西住殿が、かがんで目線を合わせます。 「本当だよ。どうかしたの?」 「実は私も……そういう体なんです。それで戦車しか好きなものがなくて、一人で悩んでて……」 「そうなんだ……」  驚く西住殿の横から進み出て、私はその子を抱きしめてあげます。 「きゃっ?」 「大丈夫! 大丈夫ですよ……きっと君にも、素敵な友達が見つかります!」  これはきっと夢です。  だって、こんなことになるなんて、信じられません。  ただの戦車マニアだった私が、こんなに嬉しい毎日を過ごせるなんて。  でも、私の隣には、あの日声をかけてくれたあの人が、本当にいて。 「……うん、そうだよ。きっとすぐに友だちができる。ほら!」  戦車が好きな女の子に、力強くうなずいてくれるんです。』      *   *   *   *   * 「ズミさーん、シャワー空きましたよ。使ってください!」  声が聞こえて、私は我に返る。 「あ、はーい。わかった、ゆかさん」  出していた何冊もの日誌をあわてて隙間に戻す。あれ、いつの間にこんなに読んだんだろう? 見上げた本棚には、何百冊、ううん何千冊もの、似たような「日誌」……。  そのどれもが、「みほ殿」「秋山さん」「みぽりん」「ゆかりん」「優花里」「師範代」。ちょっとずつ違う「西住みほ」と「秋山優花里」の日誌だった。 「西住殿」と「優花里さん」は、私たちにちょっとだけ似ていた。片方があれのある女の子。でも私たちと違うのは、「西住殿」のほうにあれがあることだった。  私にはあれはない。乙女のたしなみ、戦車道をやっているから。ゆかさんのほうにあれがある。大洗の他の子たちと同じように、戦車道をやっていなかったから。  そのせいかどうか、ゆかさんは内気で奥手な子で。私たちはもう二ヵ月もつきあってるのに、キスもまだしてない。 「ああ、いた。配管は生きてるんでお湯出ますけど、熱いんで気を付けて水を混ぜてくださいね」 「うん」  教えられた古いシャワー室に入りながら、どきどきしていた。「西住殿」と「優花里さん」はえっちだった。それにすごく素敵な人生を歩んでいた。ちょっとうらやましい。  私たちもあんなふうだったらいいのに……。  シャワーを出て艦長室に戻ると、なぜか日誌は全部白紙に戻っていた。不思議な部屋。あれはなんだったのかな? どこかにいる、私たちじゃない「私たち」の記録なのかな。  首をかしげながら居室に戻ると、ちょっと見ない間にツェルトバーンが敷かれて、バーナーや缶詰が並べられていた。ベッドには寝袋。今日は野営訓練。でもゆかさんの秘密基地に引っぱってきたのは私のほう。だから、ゆかさんに「優花里さん」みたいなえっちな計画を立てる時間はなかったはず。今夜はいつもみたいに、寄りそって寝るだけ。  そう思っていたんだけど……。  夕食が終わったら、ゆかさんが何かを取り出した。 「ズミさん、これ」  コトン、と置かれたのは、コンビニでよく見かける小箱で。  〇・〇三ミリって印刷してあった。 「ごむ」 「はい」 「ゆかさん……」 「わ、私たち、もうお付き合いを始めてから二ヵ月です。お互い、十分気持ちは確かめ合ってると思いますし、そろそろ……いかがですかっ」  身を縮めて真っ赤な顔で言ってくれた。  びっくりして、急に言われても心の準備が……って言いかけたけど、そのとき私は何かがわかった。できてた、心の準備。あの二人のおかげで。 「あは」 「ズミさん?」 「そういうことかぁ……」 「えっ、何がですか?」  戸惑うゆかさんの箱を取って、横に置く。あうぅ……と情けない顔になるゆかさんに顔を寄せる。 「ゆかさん、いくらなんでも、いきなりこれはないよ」 「ですよね……すみません……」 「でも、いいよ。一生懸命考えたんだよね? お薬なんかだと私が飲まなきゃいけないから」 「えっ? なんでわかるんですか?」 「ふふ、ないしょ」  笑って、ゆかさんの両肩に腕を回す。まっかっかになって目を見張るゆかさんの前で、目を閉じる。 「まずはこっちからじゃないですか?」 「ズ、ズミさぁん……」  腕を回されて、初めての、柔らかいすてきな感触が、唇に。  私たち、あんな二人になるのかも。 (終わり)