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 レースのカーテンがまぶしくて、目が覚めた。
「ん……朝か」
 外は明るい。日が出てからずいぶん経つようだった。起き上がろうとして思い出した。ここは、二人で遊びに来た港町の宿屋。今日は別に予定はないから、急ぐこともない。
「ふう」
 浮かせた頭を、もう一度、深々と枕に沈めた。その拍子に、かすかに甘い汗の香りとともに、金糸のような細い髪が、ふわりと頬にかかった。
 首を回すと、隣のリュカと鼻の頭が触れ合った。
「んふ……」
 眠りに浸ったリュカが、くすぐったいのか鼻をひくひくさせて、小さくうめいた。その様子は天使のように可愛らしい。これだけ近くで見ても、リュカの肌には染みひとつ見つからない。心と同じだけ、姿も清らかな女の子だ。
 清潔な白いシーツがなだらかな稜線を示し、その下のリュカの体の凹凸を現している。私よりも少し細めの、すんなりした肢体だ。抱きしめたら折れてしまいそう。昨夜は実際に試して、怒られた。
 そう、昨夜は……
 月光の下で思い切り愛し合った。元々、狩り場では息の合ったコンビだったけど、ベッドでもそれ以上に分かりあえた。身も心もひとつに溶け混ざるぐらい、激しくお互いを求めて、満たしあうことができた。
 思い出すと、頬が熱くなる。
 頬だけじゃなかった。
「……やだ」
 気が付くと、股間が熱い。窮屈にきちきちと張っている。思わず手をやると、自分でも驚くほど堅くこわばったものが、指に触れた。
「何これ」
 それは本来、私にないものだ。もちろんリュカにもない。だけど昨夜は、それを身につけた。法外な料金を取る怪しい素性の、しかし品物だけは確かだという触れ込みの行商人から買った、人には言えない魔法のおもちゃ。女の私たちに、男の楽しみを与えてくれる、作り物の肉。
 丸一日完璧な男になると聞かされていたが、こんな性質まであるとは思わなかった。
「……なるほど、これが」
 朝立ちか、と私は胸の中でつぶやいた。
 仰向けに寝たまま、しばらく天井を見ていたけど、それは収まる気配がなかった。昨夜の愛撫の最中よりも硬く張り詰めた感じで、私のおなかの上でぴくぴくと脈打っている。妄想しているからそんな風になったのか、それともこわばりのせいで妄想がかきたてられたのか分からなかったけど、じきに私は我慢できなくなった。
 また、気持ちのいいことをしたい。
 手でまさぐろうとして、思い直す。別に、このもやもやした気分を、一人で発散しなくたっていいんだ。すぐ隣に、それをぶつける相手がいるのだから。
 私は体を横に向けて、そっとリュカの体の下に腕を差し込んだ。抱きしめると細く、綿でできているように手応えが優しい。腕を下げてお尻をひきつけると、噛みちぎりたくなるほど柔らかい太ももが、私の股間に触れた。
 たまらない。私は両足でリュカの太ももを挟み、もじもじとあさましく腰をこすりつけ始めた。
 ローブに覆われたリュカのふわふわの肌に、私の硬いものが無遠慮に食い込む。すうっと背筋に心地よさが走り、ぶるぶると腰が震える。
 そうやって、相手の体を道具のように使う、情けない自慰を続けていると、さすがにリュカが目を覚ました。
「ん……シアン?」
「リュカ、起きた? ごめん、もうしばらく動かないで」
「何してるの?」
「ちょっと我慢できなくて……ごめん、すぐ済むから」
「あ」
 リュカが眉をひそめた。自分に押し当てられた異物に気付いたのだろう。
「シアン、これ……」
「朝だから、みたい」
「なんで、足なんかに」
「だって、どうしてもリュカにしたくて……寝てたから頼めなくて」
「遠慮しないでいいのに」
 荒くなりつつある息を懸命に抑えている私の耳に、リュカの刺激的なささやきが吹きかけられた。
「私はシアンのものだよ。寝てたって、別にそのまま犯してくれれば」
「り、リュカ」
「ん、気遣ってくれたんだよね。嬉しい」
 リュカはにっこり笑うと、シーツをはだけて、体の向きを変えた。
「出して。せっかく起きたんだから、きちんとしてあげる」
「いいの? 昨日したばっかりなのに」
「昨日したばっかりなのに、シアンが私をほしがってるんだもの。それだけおいしかったってことでしょ」
 言いながらリュカは、私の足首に指を伸ばし、ローブをするすると引き上げた。ひざ、太もも、そして下着が、空気にさらされて冷える。
「う……わ」
 私の股間を見下ろしたリュカが、目を丸くした。
「すごい、はちきれそう……」
「……言わないでよ」
「だって、これ。すごいよこれ。昨日よりももっと……」
 リュカのつややかな頬が、嬉しげな桜色に輝く。顔を寄せて、壊れ物を扱うように丁寧に私の下着を下げた。それから、感動したように言った。
「これ……私にしたがってるんだよね」
「うん」
 私は片腕を顔にかざして、表情だけ隠しながら、ありのままの思いを口にした。
「昨日のこと思い出して、隣で寝てるリュカを見たら、もうたまらなくなった。リュカが私のものだって、また確かめたくなった。私の頭もそこも、もうリュカのことだけでいっぱい……」
「――嬉しい」
 震えるため息のような声を胸から吐き出して、リュカが小さな唇に、私のものを飲み込んだ。
 ぬるぬるっ、と粘膜が迎える。舌が優しくからみつく。途中で終わらず、根元まで包まれてしまった。リュカの口には、とても全部は入らないはずなのに。
「くふ……うう……」
 リュカが鼻から息を漏らしている。膨れ上がった私のものが、喉まで塞いでしまったのだ。それでもリュカの目尻は満足そうにゆるめられている。
 整ったリュカの顔が、突き立てられた私のもので歪んでいる。かわいそうに思えてくるほどの光景だ。なのにリュカは、私を見て、目だけで微笑んだ。舌がつるりと私の幹をくすぐって、大丈夫だよ、という信号を伝えてくる。我慢ですらないのだ。リュカは純粋に喜んでいる。
 たっぷりと唾液を出して、リュカは口の中全体で私を刺激し始めた。
「んああ……リュカ……」
 抑えても声が出た。リュカの頭が上下して金髪が波打ち、立ち昇るくぷくぷという音ともに、唾液の滴がはねて光った。温かく、柔らかく、きゅうくつなリュカの中で、私はあっという間に、高まる圧力を抑えられなくなった。
「リュカ、だめ。早く離れて」
「んく、んんう」
「だめ、だめだってば汚しちゃう、離れ、はな、あ」
 リュカの頭を引きはがそうとする理性が、むなしく欲情に押し流された。中途半端にリュカの金髪に指をからめたまま、私は絶頂に突っ込んだ。
 どくっとこわばりの根元が震えて、踏み潰された虫のように、体液をほとばしらせた。私のいやしい汁が、欲情の証が、汚れのないリュカの体に注ぎ込まれていく。
「ごめん、ごめん、ごめんんー……」
 謝り続けたのは、止められなかったからだった。体内のもやもやをすべて吐き出してしまえる心地よさに任せて、私はとめどもなく、リュカに射精し続けた。目がくらむほど気持ちよくて、体中が白く溶けていた。
 放出はものすごく長かった。その長さがそのまま、私がリュカを汚そうとしていた気持ちを表しているように思えた。すべてが終わったあとの気だるさの中で、私は逃げ出したいほどの恥ずかしさに襲われていた。
 リュカの唇が、精液を拭き取るように優しく幹を滑って、つるりとそれを吐き出した。そのまま口を閉じて、しばらくぼんやりと座っている。私はまともに顔を見ることもできずに、謝った。
「リュカ、許して。最後に我慢して外に出すつもりだったけど、だめだった……」
「……」
「早く吐いて。無理しないで」
 リュカは何を思ったのか、うつろな目を私に見据えると、身を乗り出して顔を近づけてきた。私の上に覆いかぶさり、両腕を押さえ込んで、真上からじっと見下ろす。
「……リュカ?」
 リュカはなにやら頬を動かしていた。そしていっそう私に顔を近づけると、白いのどをそらして、んくっと動かした。何度も何度も、こくこくと動かした。
 飲んでる。私のものを。幸せそうに。
 最後にぷはぁと息を吐くと、リュカは目を細めて笑った。
「おいしかった。とっても……」
「り、リュカ。そんな汚いもの……」
「汚い? そんなことない。私、これが飲めたから、シアンが本気で私に感じてくれたって分かったんだもの。シアンが私を――」
 リュカは目を閉じて、ぞくっと肩を震わせた。
「分かる? この嬉しさ。私が、この人ならついていけるって信じた人が、私に包み隠さず思いをぶつけてくれたんだよ。おいしいなんて言葉じゃ足りない。――生かされたって言いたい。なくてはならないものを、与えてもらったって気がする」
「……リュカ」
 私にしみこんだ言葉が、私を熱く震わせる。合わせ鏡だ、と思う。リュカの思いが、私の中で同じものになって膨れ上がる。
「私も一緒。完全に同じ。ええと……分かるよ。私が分かってるって分かる?」
「分かる。すごく分かる。でもね、シアン。こうすればもっと分かると思う」
 リュカが私の両足を押し開き、その間にひざをついた。ローブをはだけ、下着を下げる。現れたのは私のものと同じ。追い詰められたように硬くこわばった、細い肉の幹。
 リュカが真剣な顔で言う。
「シアンに触れてたら、私も我慢できなくなった。させて。迎えて」
「……うん。いいよ、思い切りして」
「するね」
 短く言って、リュカが腰を寄せてくる。その表情の意味がわかる。真剣なんじゃない。微笑む余裕もないほど、私に飢えているんだ。
 私の幹の下で潤んでいる女の子の部分に、石のような硬さが押し付けられた。それが、気遣いも見せずにぐぷりと入り込んできた。
 焼けた槍が私のおなかに突き刺さる。
「っく……」
 乱暴さが小さな痛みになった。でもそれをかき消すほどの嬉しさが湧いた。私が痛ければ痛いだけ、リュカのそれは包まれる心地よさを感じられるはず。この人を気持ちよくしてあげられるのなら、自分の痛みなんか苦にもならない。
 その思いが、顔に出たみたいだった。リュカは私を見下ろして、心配そうに言った。
「シアン、ごめんね。痛むでしょ」
「そんなことないよ」
「うそ、分かるよ。ごめんね、我慢してね……」
 言いながらリュカが腰を動かし始める。その動きが、彼女の思いを何よりも雄弁に伝えてくる。
 上に下に力を加えながら突き入れるのは、私の中で自分の幹をこするのが心地よいからだ。
 途中でためらいがちに腰を止めるのは、自分の乱暴さがいやになって私を気遣うからだ。
 それでもまたすぐに動き出すのは、じっと我慢するのが耐えられないからだ。
「シアン、シアンの中、気持ちいいの。私のあれ、飲み込まれるみたい。溶けちゃうみたい。もっともっと、包んでほしいの」
 うわごとのように言いながら、リュカがぐいぐいと私の奥を突き上げる。痛みはどこかに消え、鳥肌が立つほどの快感が私の腰を溶かす。私の体が、リュカを喜ばせている。私の中に、リュカが入りたがっている。おなかを突き破って体ごと流れ込んで来たいほど、リュカは私を切望しているに違いない。それを迎えて私もあふれるほど濡れる。
 私が、私よりずっと清らかで高潔だと思っていた人が、私なんかの体に狂って、誇りも理性も捨てて一つになろうと願っている。
 それは、ただの性の快感なんかとはわけの違う、至福の心地だった。求められる喜び、必要とされる喜び、すべてを肯定される喜び。それが、この相手となら得られるのだ。
「リュカ、好き。大好き。もっと強く、もっと好きなだけ」
「私も、シアンが好き、シアン好き。シアンにいっぱい、たくさん、ありったけ」
「して、してっ」
「うん、うんっ」
 リュカが激しく腰を動かしながら、私の胸に指を突き立て、爪を食い込ませてつかむ。私は両足をくの字に曲げて、貪欲にリュカの腰をくわえ込む。
 キスが強く重なる。息と唾液と舌と思いが、どちらからどちらへかも分からないほど、混ざり合って行き来する。手のひらで頬を挟む、頭を抱く。力いっぱいひきつける。
 今までも硬かった私を突き上げるものが、痛いほどに硬さを増した。限界まで張り詰めた先端が、私の奥を押し開いて、ごりごりとさらに深く入ってこようとする。
「しあん、ね? いい? わたし、もう」
「うん、いいよ、いつでも、いくらでも」
「出したい、出したいの。しあんのなかに、あついのいっぱい」
「はじけそうだよね、わかるよ、たまらないんだよね」
「そうなの、ばくはつする、はじけちゃう、あぁ、だめ、いま出したら」
「いいの、いいから」
「おおすぎ、しあんやぶれちゃう、しあんが」
「いいよ、がまんしないで、ぜんぶすてて」
「だ、だめっ、くる、来るーっ!」
 リュカが悲鳴のような細い声を漏らしながら、言葉と反対に、私を殺そうとするような強さでこわばりをねじ込んだ。その一瞬に起こったことを、私は目で見たように細大漏らさず、体内でしっかりと感じ取った。
 びくびく痙攣していたリュカのものが最大限に張り詰め、
 破裂したように激しく沸騰した塊を吐き出し、
 私の奥の小さな入り口にそれを浴びせ掛け、
 さらにこわばりを押し込んで逃げ道もなく入り口にふたをし、
 小さな部屋を洪水のように溺れさせていく。
「くぅんっ!」
 二人同時に放った叫びだった。叫びながら、私はリュカの姿をもしっかりと目に焼き付けていた。
 額にしわを寄せてきつく目を閉じ、薄く開いた唇から舌先を覗かせた陶酔の表情。しがみつくように私の肩を抱く、指の痙攣。何度も何度も私の中にこわばりを打ち込む、獣のように激しい腰の動き。
 脳髄を焼く射精の快感が、リュカの慎みもためらいも溶かし尽くして、完全に無防備な姿にさせていた。
「んっ、んふっ、うぅん!」
 リュカのうめきと、腰の震えと、体内での間歇的なほとばしりが、ひとつに重なって彼女の快感を伝えてくる。そのうめきは私のものでもあったかもしれない。絶頂するリュカの姿を何一つ見逃すまいとしながら、私もまっしろなしびれの中に放り込まれていた。
「んくっ、んんっ……ふ……シアン……」
 私の中を隙間一つなく満たし尽くした頃になって、ようやくリュカが動きをゆるめた。また弱々しく震える幹を押し込んだまま、腕の力だけは抜いて、死んだようにぐったりと私の胸に体を預ける。
「い……いっちゃった……」
「いったね」
「たくさん、たくさん出しちゃった……気が狂いそうに気持ちよかった……」
「ん、私も」
 リュカはいったん言葉を切り、しばらくの間、乱れた息を整えようとしていた。その間も、私の中から出て行こうとはしなかった。
 私はおとなしく、いや、望むものとして、じっとそれを包んであげていた。
 
「シアン」
「ん?」
「もう、いいんだけど……」 
 しばらくたってから、リュカが遠慮がちに言った。私の中のものは、すっかり力を失って、おとなしい柔らかさを示している。
「ぬ……抜くね」
 口にするのも恥ずかしいというように小声でささやいたリュカの口に、私は素早くキスをした。やや長い口づけの後で、顔を離していたずらっぽく言ってやる。
「もっといて。飽きるまで」
「そんな……もう、終わったんだし。シアンに悪いし」
「悪いって、なんで」
「だって、こんなものシアンの中に入れておくの、悪いよ。いやらしいよ」
「さっきはあんなに激しく突っ込んできたのに?」
 私が言うと、リュカは冷や汗をかきそうなほど赤面して、居心地悪そうに腰を動かした。でも私はそれを許さず、両足でしっかりとリュカの腰を抱え続けた。
 離して、とつぶやくリュカに、私は優しく言い聞かせた。
「さっきはリュカが飲んでくれたでしょ。今度は私の番。おなかの中にしみこむまで、ずっといて」
「シアン……」
 リュカの顔に理解の色が広がる。それは穏やかな微笑みになって、私を見下ろした。
「シアン、分かった?」
「うん。好きな人にしてもらうのって、ほんとに素敵。なんだって受け入れられる」
「でしょ」
 リュカはうなずき、いったん力をこめていた体を柔らかくして、もう一度私の胸に預けてきた。
「私たち、会えてよかったよね」
「うん。会えなかったらって考えると怖い。――ううん、会って当たり前だったんだよ」
「ずっと一緒にいようね」
「ずっとね……」
 かけがえのない人が腕の中にいる。
 私たちはその幸せを決して逃がさないように、強く抱きしめあう。
 いつか失うものだとしても、せめて、今だけは。


 ――還らない過去、失った今。そして、叶わない、けれども有り得た未来




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