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第一章


KISS-CLASS  ―― 一年二組の魔王陛下 ――

 プロローグ

「はっ、あっ、あっ」
 私の体の下で、褐色のぬめぬめした体が、絶え入りそうなあえぎ声を上げて、もだえている。三二五歳、女盛りの脂の乗った肌の下で、戦いに鍛えられた筋肉がびくびくと激しく動く。
「も、もう駄目、勘弁して……」
「まだ六刻も続けていないわよ。それでも音に聞こえた蛇身族の女王なの?」
「くうっ……」
 冷酷な嘲りに反駁してくるかと思ったが、その体力ももはやないらしい。ぬめらかな秘孔を私の突き上げに任せたまま、吐息を漏らすばかりだ。
 まわりでは、彼女の配下にして臣民である、二千匹の蛇身族たちが、絶望に身を震わせ、うめきながら見つめている。
 彼らは敗者だ。私の軍と戦い、そして敗れた。今は囚われの身であり、ひとつの武器も持っていない。私の命じるまま、彼らの敬慕する族長が蹂躙されるのを、なすすべもなく見物させられている。
 怒りと絶望のうめき声を漏らしながらも、目をそらそうとする者はいない。見ないふりをするには、淫靡すぎる光景なのだ。女王の姿は、軍の指揮をとっていた時には、勇まし
くも美しく、東方の雄たる蛇身族たちの首領としての威厳をいかんなく発揮していた。単に長としてだけでなく、部族一の美女として彼女を慕いながら、今までその妄想を押さえ付けていた戦士もいただろう。彼らにとって聖なる存在である女王が、今こうしてあられもない姿で凌辱されているのだ。その落差は、彼らの心に潜んでいた汚れた欲情を引き出すには、十分すぎるほどだ。
「どう? まだ苦しい? やめてほしい?」
「い、いや……やめないで……」
 私のささやきに、女王は力なく首をふって答えた。戦士たちの間から、怒りとも羨望ともつかないため息が漏れる。顔を上げてこちらを見つめる女王の顔に、もはや戦意はない。戦意どころか、理性も抑制も消え果てて、残っているのはただ、力ある相手に胎内をむちゃくちゃにかき乱してほしいと願う、生物の本能だけだ。
「いい……気持ちいいわ。もっと突いて。……いかせて」
「いかせるためにあなたを犯しているわけじゃないわ」
 口の端からよだれの糸を垂らし、銀の瞳に涙を溜めた美しい顔に、私は優しく手を当てた。乳房や脇腹にまとわりつく水色の長い髪を、指先でかきまぜてやる。
「お願い……もっと……」
 顔を伏せ、下腹から始まるうろこに覆われた長い下肢を、女王は悩ましくくねらせた。その蛇体の付け根で震える、普段なら柔布と甲冑に覆われている美しいバラ色の粘孔に、私は硬くなったものをぐりぐりとねじ入れた。「ひゅうっ」と女王が息を吸い込む。
「でも、もう限界のようね」
「ア……アア……」
 忘我の表情で、胎内に差し込まれた熱いものを味わっている女王に、私は止めを刺してやることにした。
 くねる上体を押さえ付けて、腰の動きを強める。一気に女王の体が堅くなった。もう何度目になるかわからない絶頂を目指して、腕をもがかせ、体をくねらせて、性感を高めていく。しとどにあふれる粘液と柔肉にくるまれた私のものも、絶頂に近づいていった。
 体を激しく動かしながら、私は女王の耳にささやいた。
「私を受け入れる? 私に屈服したいと思う?」
「ええ、ええ」
「私の精を注いで欲しい?」
「は……はい」
「私の子を産みたい?」
「は、はい! だから、だからアッ!」
 地面に爪をめり込ませながら、女王は硬直した。下半身がビクッと震え、秘孔からじゅわっと粘液があふれる。
 ついに女王の精神が私に屈した。それを確かめてから、私も引き締めていた下半身を解放した。体の奥から、熱い粘液を女王の子宮へと勢いよく撃ち出す。
「あっ、あっ、アアッ!」
 満たされているのが分かるのだろう。私の脈動のたびに、女王はピクン、ピクン、と体を震わせた。快楽に歪んだその表情といい体の具合といい、女王らしく素晴らしいものだった。私は深い満足感とともに、自分でも驚くほど多量の精を、彼女の中に注ぎ込んだ。
「は……あ……」
 我知らず、吐息が漏れた。出し尽くした私は、体を放して、彼女に優しく声をかけた。
「素敵だったわ」 
 はあ、はあ、と女王は吐息を漏らしている。隠すものもなくさらされた秘部から、私の粘液がとろとろとあふれ出している。私は周りを見渡した。戦士たちは目を皿のようにしてこちらを見つめている。この瞬間、彼らはすべて、私の膝下に屈したのだ。
「グラディナ陛下……」
 敬称付きで、しどけなく横たわったままの女王が私の名を呼んだ。
「これから……どうなさるのです。私を妻になさるのですか?」
「結果がよければ」
「……結果?」
 汗にまみれた顔を、女王はかすかに傾けた。彼女はこの凌辱を、敗者へのただの懲罰ぐらいに思っているのだろう。
 だが、そうではないのだ。
「……うっ?」
 女王の顔が、不意に歪んだ。しばらくは気力でこらえていたが、じきに隠せなくなり、あらわな苦悶の色を顔に浮かべるようになった。
「……こ、これは……」
「戦っているのよ。私の精と、あなたの卵が」
「戦って……?」
 聞き返しながら、女王は下腹を押さえた。その美しい顔が、みるみるどす黒く変わっていく。体を丸めた彼女の性器から、突然、滝のように血が吹き出した。
「が……があっ!」
「……失敗のようね」
 のたうちまわる彼女を冷然と見つめながら、私はつぶやいた。
「魔界最高の生命力をもつあなたならと思ったけれど……駄目だったか」
「そ……そんな……私は……」
 大地を打つように蛇体を激しくくねらせていた女王が、不意に動きを止めた。天を仰いだその口がかっと開き、次の瞬間、真っ黒な血が噴水のように吹き出した。
「かああっ!」
「……ブンチェルガッハ!」
 私の叫びに答えて、ブン、とそばの空間が震えた。現れたのは、一抱えほどの真っ黒な球体。私の忠実な参謀副官、悪魔ブンチェルガッハだ。
 球体の真ん中が横一文字に裂けて、巨大な真っ赤な口が開いた。低い声が冷たい風となって流れ出てくる。
「……おそばに」
「蛇身族も失敗だったわ」
「……残念でしたな……」
「彼らにもう用はない。消しなさい」
「……かしこまりました……」
 うなずくと、ブンチェルガッハは横を向いて、ぼそぼそと言った。
「……ジャービー。ザルチゾ。まかりこせ」
 呼びかけに答えて、二体の悪魔が現れた。いずれも私のそばに仕える、有能な悪魔たちだ。
「……あの蛇身どもを消せ」
「あいよ!」「はい……」
 二体の悪魔に否やはない。恐怖に震える蛇身族たちをにらみつけるが早いか、亡骸と化した女王を飛び越えて、彼らに襲いかかった。

 始まった阿鼻叫喚の地獄図を見つめながら、私は落胆の吐息を漏らした。
「魔界十万土里四方、くまなく探し、殺し尽くしたが、それでも私の子を作れる者はいなかった……」
「……雌は腹が破れ、雄の精は陛下の下腹より吐き出された。やはり古えの定めのごとく、魔王の血は陛下一代限りということですかな……」
 ブンチェルガッハが黙然と言った。
「……魔界に再び大きな勢力が生まれることを防ぐ神の奴めの方策、破る方法はないようで……」
「いえ、まだ方法はあるわ」
「……というと?」
 そのとき、そばの大地がいきなり弾けた。飛び出したのは若い蛇身族の戦士。
「よくも、我らの女王を!」
 どこで手に入れたのか、鉛の刺又を構えている。間合いはわずか三歩、護衛の二体は遠く、ブンチェルガッハは戦いむきの魔ではない。彼は勝利を確信しただろう。
 だが、ここは魔界だ。いずこへ赴くとも、常に日の光の差さぬ暗黒に満たされた世界。この私――魔王の力が最大に発揮される土地。
 私の手の一振りで、周囲の闇が細長い布切れのように凝縮した。手にしたその黒いリボンを、私は若い戦士の横っ面に打ち付けた。
 蹴られたマリのように勢いよく、戦士の首は宙を舞った。
「いい戦士だわ」
「……皮肉にしか聞こえませんな。陛下にかかると……」
 それこそ皮肉なひとことを言って、黒いしもべはわずかに体を振った。
「……それで、方法というのは?」
「そう、その方法は」
 私は、手を振って再び闇を体の周りに集めた。私に最も親しく、最も忠実な闇たちが、私の血にまみれた戦衣を消し、ねじれた角を消し、逆立つ髪を消し、体中の呪紋を消し、そして肉体そのものを作り替えた。
 闇が晴れた後に立つ私の体は、華奢な娘の肉体。
 真っ白で磨いた銀のようにつややかな肌と、同じぐらいつややかで墨のように黒い、肩までの髪。無垢な瞳、小作りの唇、折れんばかりに細い手足と腰。張り詰めた乳房と、まろやかな尻。見たものの欲情を誘わずにはおかない、肉の薄い脇腹、小さな鎖骨、うぶげの残るうなじと、筋肉の少ないふくらはぎ。
 ほう、と黒い部下は嘆声を漏らした。
「……人間、ですな……」
「そうよ。人には神の封印が施されていない。人に化けて、人の世界で、わたしの子をはらむ雌を探すわ」
「……しかし、魔界を出れば、いずれ天にも知れましょう……」
「その時までには、子を増やすつもりよ。天と戦えるだけの軍勢をね……」
 わたしは宙へと舞い上がった。目指すは人の世界、魔界の上空にぽつんと開いた風穴の向こう側。
 闇をまとう。これから向かう人間の学びやの衣装だ。小さな白い下着と幅広の白いえり。黒い長袖と黒いスカート。動きやすいが防御力はない。特に下半身の頼りなさは驚くほどだ。その無防備さが、人間たちの欲情をそそるだろう。
「あなたも化けなさい。そうね、かばんがいい。四角いかばんが要りようよ。何かのときには、魔界との通路になってもらうわ」
「……御意に……」
 黒い悪魔は、形を変え、わたしの手に落ち着いた。
 準備は終わった。わたし――魔王グラディナが人間の世界へ現れるのも、すぐのことだ。


――続く――

第一章
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