姉さまはいつもお堅くて 点景1   引き戸の上で、横に長い目盛りのついた刻時板の目盛りがカチカチと滑り、コツッ・コツッ・コツッと控えめな打刻音を立てた。  真夜中まであと一刻。就寝の時間。湯屋は寝静まりつつある。  ナダウラ出の元援尼、今はズゼルナの薬師であるわたし、ファラコッド・エンテラスは、卓上の手仕事を片付けて、うんと伸びをした。  疲れていた。昼は診療、夜は編纂。ナダウラで援尼だった肩書はこの地ではいまいち人々に通じないので、記憶を頼りに医学書を書いているのだ。いくらかでも学門のあることを示せば人の見る目も変わるだろう、辞書をやるから挑んでみてはと、スンメルツィン法師に勧められた。それはわたしと同じナダウラの民を助けることにもつながるから否やはなかった。だが楽な仕事ではなかった。  夕食後に湯を浴びたから、あとはもう寝るだけだ。手洗いに降りてから、少し期待しながら部屋に戻ったが、そこはやはり空のままだった。縦横五歩ほどの小さな部屋。一人で使っているときにはちょうどいいと感じていたのに、今はなんだかがらんとしている。二人いるのが当たり前になったから。  メロメはまだ戻らない。  彼女もここで働き始めた。徒食するのは悪いですとあの子自身が言い出したのだ。昼は炊事に洗濯に釜焚き、夜は掃除。広い湯屋のどこかで流しや湯船や揉み台を洗っている。いつでも一緒にいるというわけにはいかなくなった。今日みたいに、朝しか顔を合わさない日もある。  それでも、以前よりはずっとまし。何百里も離れているわけじゃないし、生死がわからないわけでもないのだから。  同じ屋根の下にあの子がいる。その大きな安らぎを胸に、わたしは卓上のランプを消して、並べた床の片方についた。  部屋があるのは建物の上階の隅。大きな建物の角に、間違って付けられてしまったこぶみたいに突き出している。他のどの部屋よりも遠くて、とても静か。  窓の外の夜空を、こうこうと雲が流れている。  風の音に混じって、かこぉん……と桶の音が聞こえた。  布団の中で、夜着に包んだ体をごそりと横に向ける。穀物殻の詰めこまれた枕が、くしゃりと鳴った。  まだ深く寝付けずにまどろんでいるころに、すっと引き戸の開く音がした。とふ、とふ、とかすかな音がして、気配が物入れに向かう。足音をほとんど立てない、夜目の利く小柄な誰かが入ってきた。さらさらと衣擦れの音。わたしは寝息も乱さない。  たふり、とすぐそばに何かが落ち着く。わずかに空気が動いて――頬に小さな柔らかい点が触れて――気配は低く平らに横たわり、くしゃりと音を立てて静かになった。  こうこうと風が流れている。  眠たかった。眠りに沈みたくて、腕を伸ばした。  思った通り、期待通り、肌着一枚の少女がすぐ隣にいた。二枚の布団の谷間の部分。そんなところでは寝心地が悪いだろうに。んっと肩を抱いて、こちらの布団に引き入れる。  ついでに枕も。  ぴったりくっつけた枕に彼女の頭を乗せて、その長い髪に顔を埋めた。すうすうと嗅ぎ、こりこりと頭に頬ずりをして、ふーと長く息を吐く。澄んだ素朴な土の香り。  落ち着く。とても落ち着く。胸の中身が底深く沈む。  首の下に回した腕で、肩と二の腕をすっぽりと抱く。細く柔らかく、くったりとほぐれた体。袖をめくり、脈を計るときみたいに手首をしごく。――こりこりとした手首の骨。華奢な可愛らしい指。  布団に包まれ、少女のてのひらを握りしめて、わたしはふー、ふーと深呼吸をくり返す。  股間がうずく。下着がきつくなる。衝動がひたひたと腹の底から湧いてくる。――けれど、それをいっぱいに汲み上げてこの子に浴びせかけるような気力は、とてもない。  ただ眠りたい、安らぎたいだけ――ぬいぐるみを抱きしめる幼女と同じような気持ちで――わたしはかたわらの体をまさぐり続ける。  空いている手を胸に。少女の乳房を手で覆う。薄い肌着ごと、くしゅりとつかむ。柔らかい。ふにふにとした手ごたえ、というよりも、手ごたえがほとんどない。布も、肉も。小指を突き立てると、堅いあばらが感じられる。  胸を――腹を――また胸を――止めどなく布地に手のひらを滑らせて、なだらかな乳房とくぼんだ腹の輪郭を何度も味わった。そう、汲み取った。触り取るのが安らぎだった。  肌着の裾をついついと腹まで引き上げて、股間に触れる。下着はなく、ふわ、とわずかに陰毛の感触。ぷっくりとした小さな丘を指三本で割り開いて、中指を折り曲げる。ねとねととくぼみを探って、穴に入れる。  ふるっ、とほんのかすかなさざなみが、骨細の体を走り抜ける。  にちにちと穴をいじる。幸せな気持ちが強まる。もう片方の手を口元にやる。小さな唇を指で覆って、こちらもふにふにと揉む。  下の穴はじっとりと熱く、くつくつと潤んできた。指を抜き、また入れ、入り口を湿らす。  大きな動きが必要になった。もうすでにひどく億劫だったけれど、わたしは少女の腰を持ち上げてむこうを向かせ、ごそごそと自分の夜着の前をはだけた。下着を腿まで下げ、ぶるんと肉根を取り出す。  依然としてくったりと脱力しきったままの少女の背中にぴったりと貼りついて、尻を揉んだ。むにむに、むにむにと――油の詰まった袋みたいに柔らかくて、もう熱い。  眠たくて眠たくて、何もかも面倒で――重く固くなってしまって肉根の存在が、本当に邪魔くさくて。  その先端を、尻の間に滑りこませて、ぐっと押し当てた。  指で少しだけ湿らせた小さな谷間の真ん中。狭い入口をくむくむとこじると、尻がわずかに押し付けられて、角度が合った。薄く開いたひだの底のくっぽりとした小さな穴を、鈴口で感じた。  んっ、と力を込めると、こぷ、と先端がはまった。狭くて、深い穴がそこにあった。  んっ、と押しこんで休み、また、んっと押しこんで力を抜き――痛まないように、少しずつ進めて、とうとう根元まで押しこんだ。ぺったりと鼠蹊部に尻が当たっている。  わたしの邪魔な股間のものは、いまやわたしが一番入れておきたい場所に、とっぷりとすべて収まった。温かく、ぬめらかで、きゅっ、きゅっと、ときどき甘える穴。 「ん――くふ……」  右腕で肩を抱いて、左手で腰を抱いて。ごそごそと身動きしてすっかり落ち着ける姿勢を整えると、最後にすりすりと髪に頬ずりをして、わたしはふーっと眠りに落ちていった。    「ファラさま――」  と口の中だけでつぶやきながら引き戸を開けると、思った通り部屋は真っ暗で、かすかに寝息が聞こえた。  私、いつどこであってもファラさまのお手伝いであり恋人であるメロメは、足音を殺して中に入り、そっと引き戸を閉ざした。  部屋を渡って行李の前に膝を突く。お手伝いの服を脱いで、肌着を替える。下着は脱いだままにした。それがないほうがいい夜が多い。  床に戻って、安らかな寝顔にこっそりキスをして、横になった。  布団をかぶると体を満たすこわばりが意識された。それがゆっくりと抜けて四肢が弛緩する。疲れが心地よいものだということも、ここへ来てようやく思い出したことだった。好きな仕事のために肉体を使役するのは、楽しいのだ。私がここで働けばファラさまの立場もお気持ちも懐具合も、多いによくなる。それが楽しい理由だった。  一日の終わりにこうして好きな人のそばで休める――それだけでも、私は十分に満たされていた。忘れていた眠りという贅沢にまで浸れることもしばしばだった。  ましてここには、眠り以上の恩恵も待っていた。  横になってしばらくすると、それが訪れた。ごそりと動きの気配がして、腕が伸びてくる。  ファラさまの強い腕が、私を引き寄せて下さる。  それはいつもいろんな形で訪れて私に触れて下さるけれど、今夜は無言で、だった。肩を抱き、腕を握る。こつんと頭に鼻を当てて、すう、すう、と吸われる。  求められている。包んでくださる。その心地よさに私は、閉ざしたまぶたに、ぎゅっと力を入れてしまう。  寝入りばなで温まったファラさまの、果物のような甘い香りが押し寄せ、大きな柔らかいお胸と重い腰が押し付けられる。全身を湯に浸されたように、私はくなくなに溶けていく。乳房に手が触れる。まさぐって、撫でおろして、またまさぐって――そのたびに疲労がほどけて体が安らぐ。日中張りつめていた心身が鎮められていく。代わって、無性に甘え心が掻き立てられてしまう。もっと撫でられたい、触れられたい――体中を、包み込んでほしい。  いくらかの努力が必要なのは確かだ。声をあげて、抱き着いて、求めてしまってはいけないのだ。そうしてほしければ、ファラさまはそのようになさる。メロメいらっしゃい、仲良くしましょう――そうおっしゃる。  そうおっしゃらず、明かりを消して休んでおられたのだから、これはもうお眠りになりたいのだ。眠りついでにお抱きになりたいだけなのだ。  だから私は、それに備える。ファラさまが、無用に興奮なさらないように。  そのつもりだったけれど――おのれの体をすっかり意のままにするのは、難しいものだ。  股に手が来ると、つい思い出してしまった。ファラさまにさんざんそこを愛していただいいたことを。下腹部にぽっと生まれたうずきを静かにこらえているうちに、指で開かれた。くちくち、くにくに、と秘所をいじられる。手で揉むだけで満足なさるときもあるのに。今夜はじかに穴へいらした。つむり、と一本差しこまれる。いやでも意識してしまう。つぷつぷとこすられるうちにじっとり濡れてしまい、それを見つかってぬるぬると塗り広げられた。  かと思うと、ごろりと横臥させられて背中を抱かれた。あ、これは――いただける。  人の来ない離れ部屋。誰も見ていない布団の中。下着を穿いていない無防備な自分。かたわらには、半分眠りながらも精力をたっぷりとたたえて、下腹のものをのったりと腹まで反り返らせた、両性の援尼さま。  だめだ、もう。――興奮と期待で、息を押し殺すのに一苦労。今までの何百夜と同じように、私はまたしてもたやすく交わりの想像に頭を塗りつぶされて、待ち望んでしまう。抱かれる。ファラさまの情欲にずっぷりと貫かれてしまう。体液をどくどくと注がれる。この方と無理やり一つにつなげられる。  甘い期待を満たされる前に、お尻をこってりと撫でられた。それもまた背中がざわつくほどいい。尻を撫でられるのは妖しい快感がある。こんなにいいのだから、もっと四六時中撫でていただきたい、とさえ思ってしまう。  と――来た。  尻をくぐって、前の谷間に、ぐいと熱いものが。  思わず、くんと尻を向けてしまう。穴を合わせる。くむ、くむ、と圧力。いらっしゃる、ファラさまが中にいらっしゃる――開かれた。  ぬるり、と先端。自分では開けない形に、押し広げてくれて。ぬむ、ぬむ、と次第にかき分けて――ああ、熱い。大きい。それに滑らか。いつもファラさまはとても心地よく入って下さる。私の中をぬるぬるに……違う、私がぬるぬるになって呑みこんでいる。  普段狭く小指よりも細いその穴が、みちみちと押し開かれて硬いファラさまの形に変えられる感触に、私は恍惚となってあえいだ。  すると、抱擁。腕を抱かれ、腹も抱かれる。耳たぶに熱い息がかかる。私の腿の裏に、ファラさまの長い脚がぺったりと寄り添う。背中ではもったりと豊かな乳房が潰れていて。溶け合った。とうとう、一つにつながってしまった。 「……きゅぅぅ……ん」  鼻声が漏れた。――でも、様子が変。  ほわほわと、ファラさまのお力が抜けていく。すう、すうと押し付けられていた鼻が離れ、穏やかな寝息になる。動きが消える。  まさか、これは。 「ファラ……さま……?」  かちかちに熱くなったものを根元まで押しこまれながら、そのまま眠りこまれてしまったと気づいて、私は泣きたくなった。今までもいろいろなことをされたけれど、これはまたひどい扱いだ。高みに追い上げておきながら、梯子を外してしまわれるなんて。  常ならこのまま私も気を鎮めて、抑えねばならないところだったが、さすがにそれは無理だった。だって、鎮めようにも離れられない。ファラさまのあれはまだ最高に硬いままだ。  それならもう、私だって――ファラさま、お許しくださいね? 「んっ、んっ……んっ」  ほとんど体を動かせない姿勢のまま、目を閉じ意識を集中して、股間だけをうごめかせた。きゅっ、きゅっと力を加え、くねくねと尻をくねらせて――私の中の、私が一番心地よい場所を、入ったままの硬い男根で刺激する。  幸いそれは難しくなかった。というよりもえも言われず快かった。普段私は、ファラさまが心地よくなられるように、自分の体をよくしていく。でも今はファラさまのお気持ちを考えなくていい。ファラさまを自分のいいように使っていいのだ。  それはひどく不遜で背徳的で――そしてぞくぞくするほど楽しかった。私がもっとも大事なこの人を、私のおもちゃにしていいなんて。  ぎゅうっ、と内腿に力を込めて締めつける。ファラさまのあれが、くっきりと私の内側に焼き付けられる。硬さが、長さが、張りつめたえらが、浮き出した血管が、目で見て舌で味わっているように感じられる。 「んんんんっ……」と唇を噛んで硬直する。この人のそこを、自分のそこで、そんなふうに心ゆくまで味わったことなど、ほとんどなかった。したことがないというより、そんな卑猥なことは思いつかなかったのだ。きっと私はもう、この人のこれなら、入れられただけでそれとわかる。なんて淫らでいやらしい発見なんだろう。  そしてそこは、この人の強い手や優しく整ったお顔や茜色の長い髪と同じように、私が大好きな部分になっていった。  ぎゅっ、ぎゅっと締め付けるたびに神経ならぬ神経が焼かれていき、頭の中のほとんどが男根の形でいっぱいになる。もう一息で絶頂だった。あと少しだけ、集中が足りなかった。  私は口元にぱたりと垂れていたファラさまの右手を取って、親指をかぷりとくわえた。ぢゅうっと吸い立てて、さらさらした指の腹を舌で口蓋に押し付ける。  それで意識のすべてが、ファラさまでいっぱいになった。 「んんっ、くぅんっ……!」  ふうっ、と跳ね飛ばされた。好きな人と一部の隙もなく密着しているのに、すべてから解き放たれて空に舞ったような解放感。至上の幸福。  暖かい腕の中にぎゅっと背中を押しつけ、ぎゅっと閉ざした目の端から涙をこぼして絶頂していると、不意に強く抱きしめられて、びくびくっと股の内で何かが暴れる気配がした。 「ひぅっ!?」  ぶるっ、ぶるっ、ぶるるるっ……とファラさまが全身を痙攣させて、「ふぅん……」と艶めかしい寝息を漏らされる。びくん、びくん、と膣奥に食い込んだものが跳ねて、じわじわと重たいものが染みてくる。その生々しい感覚に、私は思わずお尻をひくつかせ、ぎゅうっと膝頭を突き合わせて感じてしまう。 「フ、ファラさまぁ……」  思わず背後をうかがったけれど、寝たふりをされていたのではなかった。心地よさそうに薄口を開けて、しかし目を開けることはせず、漠然とした満足げな顔のまま、再びゆっくりと脱力していかれた。  私の愛しい主人は、目覚めてもいないのに、私のほしいものを与えてくださったのだ。  小鳥の鳴き声と紺色の朝の空の光で目覚めると、なんだか少しだるかった。 「んん……ん」  朝日に手をかざしながら少し考えた。この気だるさは覚えがある。前夜にメロメとたくさん愛し合ってしまったときに特有のものだ。股のほうも――と、手を触れずにちょっと意識してみたら――少し、ひりひりした感覚があった。  確かに、うっすらと何か淫らなことをしたような記憶がある。……でも何をしたのだっけ? 昨夜は確か一人で寝て、メロメとは顔を合わせていなかったはずだけど……。  ごろりと横を向くと、メロメは自分の布団の真ん中で、枕にきちんと頭を乗せてすやすやと眠っていた。「メロメ?」と声をかけるとぱちりと目を開いて、「はい、ファラさま」と答えた。 「おはよう」 「おはようございます」  互いに身を起こして見つめ合った。メロメは意味ありげに微笑んでいる。 「どうしたの……?」と尋ねてから、うっすらと思いだした。  わたしは昨夜、夢うつつにこの子を抱き寄せた。声もかけずに匂いを嗅いで体をまさぐって――していいかと聞きもせずに、淫らなところに指を入れて、好き放題にまさぐって、それから――。  顔が、どうしようもなく火照ってきた。  コツッ・コツッと刻時板が鳴る。起きて、一日を始めなければいけない。  でも、起きられなかった。ただ眠たい一心だったのに、つい情欲に流されてしまった――ような気がする。ひどいのはそこだ。いやらしいことをしただけじゃなくて、さらにそれを覚えてもいない。  布団の端をつかんだまま、ぎこちなくわたしは聞いた。 「あの、メロメ……ごめんなさい、わたし昨晩あなたに、何かを……したのね?」 「ああ、やっぱり。自覚もなくあんなことをなさったんですね? ファラさま」 「ご、ごめんなさい」  思わずうつむいてしまうと、わたしの愛しいお手伝いはすばやく顔を寄せてツッと口づけし、嬉しそうに頬を染めてささやいた。 「とっても素敵でした。援尼さま」 「待って、ねえ、わたし一体何をしたの!?」 「きっと頼んでもしていただけないことです。さ、起きましょう。お仕事が待ってますよ」 (おわり)   姉さまはいつもお堅くて 点景2  ズゼルナ国、湯治場の裏山。夜の森の斜面を、紺の吊りスカート姿がえいえいと登っていく。下生えが腰まで茂っていて歩きづらそうだ。黒い長髪が闇の中でつやつやと揺れる。頭の横には蝶結びにした可愛らしい白桃色のリボン。  わたし、ファラコッド・エンテラスと、お手伝いのメロメは、紆余曲折あってズゼルナの湯治場に身を落ち着けたが、会いたいときに会えるようにはならなかった。わたしとメロメは身分が違う。下働きの娘を薬師のわたしと同居はさせられないとして、湯治場の長に部屋を分けられてしまったのだ。  それで、こうして湯治場をこっそり抜け出して、外で会うことを思いついた。 「メロメ、無理しなくていいわよ」 「いえ、私はお手伝いですから。お気になさらず」  メロメはそう言ってがんばるけど、背丈は低いし体も細いから、茂みに邪魔されて苦労している。わたしは彼女に追いついて、肩をつかんだ。 「ちょっと止まって」 「え、何を……きゃあ!」  可愛らしい悲鳴を上げたのは、わたしが身をかがめてスカートのお尻に頭を突っこんだから。  そのまま股に首を入れて、うんと立ち上がる。肩車をして、両足をつかんだ。 「これなら大丈夫」 「ちょ、ちょっと、ファラさま、こんなこと、あのっ」 「落ち着いて、ちゃんとつかまって。大丈夫よ、あなたは羽根みたいに軽い」  メロメが苦労した下生えも、私にしてみれば柔らかな草むら程度のものでしかない。革のブーツでざわざわと踏み分けて進んだ。 「ど、どうも申し訳ありません、ファラさま……」  わたしの髪をぐしゃっとつかんでいたメロメが、はっと気づいて、頭を抱きしめるようにつかまり直す。わたしは、首の左右をぴたりと挟んだ太腿のぬくもりを、心地よく感じながら進んでいった。  丘の中腹で木立から出る。そこが見晴らし台のような鞍部になっている。下界を見下ろすと、平和でにぎわっているウネムの町のともしびがほんのりと輝いていた。 「わあ……」 「いい眺めね」 「はい」  運動した体を涼しい夜風が冷ます。わたしたちはしばらく見晴らしを楽しんだ。  わたしは、大好きなメロメが肩に乗っていることに意識を惹かれる。膝のコツッとした堅いお皿を手のひらで撫で、横を向いて柔らかい内腿に口づけする。甘塩っぱくてほのかに土臭い、少女の汗の匂いがおいしい。  もぞ、メロメがお尻を動かした。 「……降ろしては、いただけませんか?」 「いや? 嗅がれるの」 「いやじゃないですけど――」何度味わっても、メロメのひんやりした滑らかな肌はそそる。「落ち着きません。こう高いと」 「そうね。落としたら大変だし」  降ろし方を少し考えてから、私はメロメの上半身に手をやって、ぐいと前に引いた。ばさりと黒髪が垂れてくる。 「このまま、前にぐるんして」 「……落としたら、私のおつむが割れてしまいます」 「ええ。手が滑ってしまうかも」  ちらりと笑みを見せると、メロメがためらいもせず身を乗り出した。わたしの頭越しに飛びこんで、足を宙に跳ね上げる。  その脇を両手でつかんで、支点にした。ぐるんと一回転して、すとんとメロメは地面に足を突いた。 「――っは」 「成功。信用してくれたわね」  「も、もちろんです……」  答える声が震えていたのが、なんとも可愛かった。  小鹿のように身軽で、ちょっと高いところが苦手で、わたしをすっかり信用してくれているお手伝いのメロメ。白いブラウスの胸を抱き寄せて、振り向く顔にキスした。ちっちゃな花びらみたいな唇が吸い付く。吸い寄せると舌を出し、からめると舌を吸う。小ぶりな胸のふくらみが、くふくふと息づいていた。わたしはじんわりと熱くなりはじめる。 「ここ――」垂らした唾液を口内でくちゅくちゅとかき混ぜる合間に、メロメがささやく。「見られませんか。下から」 「昼間ならね」   星明かりしかない今は、たとえ誰かがまっすぐここを見ていたって、見分けられるはずがない。そうは思っていても、開け放しの野外で唇を交わすのは興奮した。 「表向き女の薬師が、下働きの女の子をつかまえて、男と女みたいに手ごめにしてる……」 「ひどい色気違いだと思われます。狼藉者だとも」 「見咎められたら言い返してくれる?」 「はい、もちろん――私が望んで身をお捧げしているんです、と」  わたしがメロメのお尻に、ぐりぐりと下腹を押し付けているように、メロメもつま先立ちでお尻をくいくいと押し付けてくる。わたしにお腹をさわさわと撫で回されて、その手を助けるように華奢な手を重ねてくる。  何日離れていても、メロメはわたしのメロメだった。わたしを喜ばせるのを嬉しがる、わたしのモノ。 「はあっ」濡れた唇を離して、まぶたに強く押し当てる。前髪の下のおでこへ這わせる。「メロメ……メロメぇ。好き……わたし、四日ぶりよ。わかる……?」 「はい、わかります……」唇の下で陶然と目を閉じて、白い頬にぼうっと血の気を浮かせる。「溜まってらっしゃいます? うずうずの、ぐつぐつに? 搾ったら、飛び出してしまわれますか? びゅっと……」 「うんっ……」髪を嗅ぐ。すうーっ、すうっと。化粧に無頓着で香料を使わないメロメ。心の落ち着く素朴な頭皮の匂いがする。「あなたに浴びせたい……」 「ああ……」  わたしの腕が作る枠にぴったりと身を収めたメロメが、不意にいたずらっぽく言う。 「私がいない間は、どうされていましたか?」 「いない……あいだ?」 「ご自分で、始末しておられましたよね?」 「それは……ええ」正直に、こくんとうなずく。 「ファラさまが、ご自分の手でアレを」ぞくっと小さく震えて、メロメが言った。 「私、ひとつ約束を思い出してしまいました。タンブクの野での」 「タンブクの……? ずいぶん昔ね」 「ええ。でも、確かです。――ファラさまの一人遊びを、見せて下さるって」 「ええ?」思わず抱擁を緩めた。「わたし、そんなことを言った?」 「はい。今度ね、って」  するりと抜け出したメロメが、こちらを向いてくすりと笑ってみせた。 「いま見たいです、ファラさま。あなたが自分で、くしゅくしゅなさるところ」  そう言って、左手の指で輪を作って、くいくい、と上下に動かした。 「ええ……? 今、見せるの?」 「信じてます、ファラさま。約束は守っていただけるって」 「そんな……」 「ここがよさそうですよ。さ、腰を下ろして」  見晴らし場の柔らかな草の中に、太い倒木が一本横たわっている。メロメに勧められるままに、わたしはおずおずと膝を折って座り、倒木にもたれた。右のかたわらにメロメが寄り添って、涼しげな顔立ちで「いやとはおっしゃいませんよね?」と目を細めた。 「それは……その」  言われてみればうっすらと思い当たった。そんなことを言ったような気がする。他ならぬメロメとの約束だから、破りたくもない。それにメロメになら、どんな姿だって見せられる。 「わかった……わ」ごくりとつばを飲んだ。「わたしが、してみせればいいのね……?」 「ご承知いただけて嬉しいです」澄ました顔で言ってから、肩口でささやく。「でも……必要なら、私の体を使ってくだされば。触るなり見るなり、なさりたいですよね……?」 「――ええ。その……そのほうがわたし、興奮できると思う……じゃあ、胸、いい?」 「はい」  嬉しそうにうなずくと、メロメはブラウスの胸元に手をかけて、ぷちぷちとボタンを外していった。腹まで開くと、はさりと左右に開いて、布より白いささやかなふくらみをあらわにする。 「どうぞ……」 「先っぽ……いい?」 「こうでしょうか……?」  左身頃をいっそう引き開けて、目の前に乳房をさらしてくれた。わたしはそこに口を当てながら、下腹に左手をやった。  わたしの服装はズゼルナへ来てから与えられた、夕日色の長衣だ。故国ナダウラのものとは違うけれど、スカートでもズボンでもなく、前垂れがあってはだけやすいというというところは変わらない。  その前垂れを横へ払い、ぴっちりと覆っている絹の下着の中から、女にはないはずの熱く膨張し始めたものを、ずるりと取り出した。  手で握ってひとこすり、ふたこすり――そうするまでもなく、唇に当たるふにふにした膨らみとツンと際立つ乳首の感触で、すでに血の気が詰まってきている。むくり、むくりと頭をもたげたものが、みちみちとぬめる先端を膨らませた。 「んん――」とメロメが鼻を鳴らす。「お元気です、ファラさま」 「見てる?」 「はい」 「はしたない……?」 「はい」わたしの口に乳を含ませながら、メロメが髪を撫でた。「ひくんひくん、って大きくなってます」 「抱きついていい?」 「はいぃ……」声音が上ずっている。「いくらでも。お好きなように」  右手をメロメの薄い背中に回して、しっかりと乳房に顔を押し付けた。ふにふにとこね回して、あばらに乗った肉付きに気持ちをうずめていく。乳首を吸い立てる。鼓動を額で感じ取る。欲情の火を掻き立てて、そうして左手で強くゆっくりしごきあげる。 「ファラ、さま……」ぞくぞくと震えを帯びてメロメがうめく。「好かれてます? 私を……」 「んっ、んん」舌をてろりと伸ばして、乳房を斜めに舐めあげる。「好きよ……ほしい。心の底から……」 「くぅぅ」  頭にぐりぐりと頬ずりして、メロメがわたしの肩を抱く。  没頭が深くなる。脚を曲げているのがつらい。両足を、負傷者みたいに前へ投げ出して、下着に手をかけた。んっ、と尻を浮かせて腿まで降ろす。それでもう、下はあられもなくはだけてしまった。へその下から太ももまで剥き出しで、普段は縮んで隠れているみっともない男のあれを、あからさまに突き出して、へそまで反り返らせてしまう。  邪魔な布がなくなって、とても、しごきやすくなった。  それに、相手がメロメだから。自分が可愛らしい女の子に対して抱く、どろどろした醜い劣情を、隠さなくてもいいから。 「メロメ……メロ……んん」  ブラウスの片袖まで脱がせてしまった。痛々しいほど狭い肩、それに肌の薄い腋の下――そんなところにまで、鼻づらを突っこむ。ちゅうちゅうと腋を吸う。ごりごりと硬いものをしごく。  左腕を大きく上げて腋を吸わせてくれながら、「ファラさま」メロメがはっはっと浅く速く息づく。「ファラさま……お手が、すごいです」 「んっ」 「夢中になって、ごしごしあれをしごかれて……気持ちいいですか?」 「んっ、ん」二の腕の内側、歯を隠して甘噛みする、細い筋肉がふかふかして、食べてしまいたいほど柔らかい。「ひもちいいわ、あなふぁ、あなたに」 「私に、入れたいですか。そのがちがちのものを、私に?」 「ねじ込みたい……っ」一片の取り繕いもせずに思いをぶちまける。「あなたの、すべすべの、いい匂いの体に、突き刺して、食べ尽くして、溶けあってしまいたいの……!」 「あ、ああっ、あ」  ぎゅうっと目を閉じたメロメが、顎を上げてぶるるっ、と肌を震わせる。 「も、求めてくださいっ……! 嬉しいです、ファラさま、欲して、欲しがってください……!」 「メロメっ」  顔を這い上らせて、長く伸びた黒髪の中にさわさわと押しこみ、顎に、こめかみに、耳にキスする。腰を傾けて、びりびり震えるほど怒張したものの筒先をメロメの体に向けて、ぐちぐちと汁を散らしてしごく。 「んううう、うう、メロメ」太腿から膝へ、つま先へと、まっすぐに力がこもってピンと伸びていく。履いたままの固いブーツがうっとうしい。「来てる、うずうず、来ちゃってる、は、は、早く」 「はい?」 「した、下ぬいで。嗅がせて、かぎたい」 「は、はいっ」  動かせる右手だけで、あたふたとメロメが自分の下着を脱いで、「はい……」と顔に寄せてくれた。くしゃくしゃの柔らかい布の中に、べったりと粘つく温かい部分を感じると、わたしは恥じらいも何もなく鼻と口を押し当てて、甘ぬるい潮の匂いをふぐふぐと思うさま嗅ぎたてた。 「んうう、メロメぇ……!」 「は、はひ」 「好き、これ好き、あなたの、あなたの匂い……っ!」 「はいっ……!」  片腕を回してしっかりとしがみついた少女に、その子自身の手で脱いだ下着を顔に当ててもらいながら、わたしはもはや目を閉じて何も見ず、何も考えず、余計な動きひとつせずに、ただ片手だけをせわしなく前後させ続けた。  厚い皮に包まれていたつぼみがほぐれて、みずみずしい無垢の花弁が現れてくるように、どろどろの欲情の中から、次第に純粋な熱の玉みたいな衝動がみりみりと顔を現して、真っ赤に輝きながら膨れ上がってきた。 「いく……」残ったわずかな理性で、しがみついたメロメの耳元に知らせる。「い、いく、メロメ、いい、見る? 見てる?」  「はひっ、見てます……!」がっしりと体を押さえられたメロメが、それでもわたしの頭に頬を押し当てながら、感極まったみたいな声でささやく。 「どうぞ、ファラさま、出して……いっぱい出してください……!」 「んっ、うんっ、うんっ」  幼児のようにうなずいたわたしは、優しい声に安らぎながら、こらえていたものを解き放った。 「いく……い、いっ!」  手の中の根元でびくびく、びくっ! と激しい痙攣が起きたかと思うと、ぱんぱんに膨れ上がった真っ赤な衝動が破裂した。 「ひぃんっ……!」  びゅううっ、と焼けた光の筋が走り出る。その向きは、正確にメロメが服をはだけたおへその下に向けている。びちちっ、と音を立てて白濁が肌にしぶく。「んんっ、んんんっ、んーーっ!」と濡れた下着の中でくぐもったうめきを上げながら、二度、三度、とさらに強くしごく。ぎゅっと力を入れて引き締めたお尻を、ぐいっ、ぐいっ! と前に突き出す。  そのたびに、太く長い快感の流れが、びるるるっ、びるるっ、と手の中を焼き抜いていった。「んううっ、うっうっ」とうめきながら身悶えするメロメが、瀕死で逃げようとする弱った獲物みたいに思えて、筒先が肌に触れそうなほど腰を寄せながら、匂いのするねばつきを、いやというほど浴びせかけた。 「はぁっ……メロメ……はぁ……」  激情のあとで湧き上がる、地底湖の水みたいな暗い征服感と安らぎが訪れて、わたしはべとべとの股間を押し付けながら、隣のメロメに覆いかぶさる。  「見せた……わよ……わたし……思い切りいってあげた……みっともないぬちゅぬちゅ……ねとねとのわたしの汁……隠さず……どう……?」 「は、は、ファラさ、ま――」  はだけた乳房と腋をねぶり回され、耳をしゃぶられ、濡らした下着を嗅ぎたてられた挙句に、身動きもできなくされて、腹の上に手ですくえるほどの精汁をぶちまけられたメロメが、半眼でひくひくと痙攣しながら、か細い声を漏らす。 「すみまっ……せん……すごかった、です……私……私……」 「んん……なぁに?」 「と、とびました……っ」  んくっ、と喉を鳴らしてつばを飲み込んでから、メロメがこつんと頭を当ててきた。 「み、見せていただいただけで、興奮、すごくて……ファラさまぁ……」 「わたし、ね。こうしてたの、あなたがいないあいだ。……わかった?」 「はいっ……!」  わたしは髪をかき分けて、火照ったお手伝いの頬に、口づけをしてあげた。 (おわり)