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不思議の指の彼女   -An undex artisan-

 いつの頃からか、噂は西の幻都から南の商港まで広まっていた。
 その匠は、不思議の指を持つそうな。
 ある人は、両手剣の鍔元に、彫れるはずのない三つ目の溝を彫ってもらったという。
 またある人は、板金鎧を砕けるぎりぎりまで十回も鍛えてもらったという。
 まことしやかに語られる話のほとんどは、人づての風聞だ。自分がその品を持っているという者は、ついぞ見かけない。きっと本物は大切に匿されているのだろう。
 だが、腕の確かさは、ごく普通の分銅鎖や両刃短剣を頼んだだけで、実見できた。その匠は、十度挑んで九振り造るのだ。
 それゆえに、彼女は不思議の指を持つと噂された。
 しかし、おとのう人は少ない。
 気まぐれなのだ。しかも気難しい。風のカタールを打たせようと、懐からあふれるほどの札束を抱えて談判した暗殺者は、けんもほろろに追い返された。その男が仲間にこぼしたところでは、飾り物が気に食わない、と言われたそうだ。胸元にこれ見よがしにつけていたブローチが。
 そんな気性なので、彼女は敬して遠ざけられている。
 見かけないわけではない。会うだけなら易しい。首都の武器屋裏に足を向ければいい。三尺四方のアンペラを敷いて、匠はのんびり煙管をふかしている。たまに店を開くこともあり、運良くその時通りがかれば、高価だがとびきり優れた品をあがなうことができるだろう。
 客はたまにある。日に数人。いずれも名の知れた戦士ばかり。商人は皆無だ。いかな豪商であれ、転売が目当てだと見抜かれたとたん、怒鳴りつけられるからである。
 ましてや駆け出しの野菜売り、薬売りのたぐいなどは、近寄りもしない。
 カートを引く足もおぼつかない、無名の商人の娘が彼女に話しかけたことなど、一度たりとてない。


「こここれっ、読んでくださひっ!」
 ピンクの髪に挿したカプラバンドがずれるほど頭を下げて、少女が両手を突き出した。
「うん」
 カーラヴェーラは、武器作成の依頼書か何かだと思い、あっさりそれを受け取った。
 とたんに少女が顔を上げ、ぱっと星が飛び散るような笑みを浮かべた。何度か口を開閉させて、結局何も言わず、もう一度勢いよくおじきすると、回れ右して走っていった。
 後ろに牽いたカートをかかとでけっとばして、二度ほど転びそうになっていた。
「あれあれ、何をあんなにあわてて……」
 呆れつつ、封筒をしげしげと見つめたカーラは、ぽかんと口を開けた。唇の端に引っ掛けたパイプが垂れさがった。
 封筒はまっしろで、縦開きではなく横開きで、封は赤いハートのシールだった。
 どう見ても、依頼書や支払い書などではなかった。
「こ、これはもしかして……」
 おそるおそる封を開けて目を通した。

『親愛なるカーラヴェーラさま

 いきなりこんなお手紙をさしあげてごめんなさい。
 ほかの方法も考えたんですけど、思いつかなくて、がまんできなくて、お手紙さしあげました。
 わたしの名前は、ピコといいます。
 ゲフェンで毎日青ジェムとけいたい用溶こうろを売っています。
 でも将来は、カーラヴェーラさまみたいな上手なブラックスミスになりたいです。
 そう思って、時々マンドラ山にかりに行きます。
 器用さを上げているので、鉄ハエにもちょうちょにも攻激できます。
 でも腕力がないので、なかなかたおせないです。
 でもブラックスミスになりたいのでがんばっています。
 自分のことばっかりでごめんなさい。
 カーラヴェーラさまは、たまにけいたい用溶こうろを買ってくださるので、知っています。
 すてきな人だなあと思っていたら、友だちが、あれはふしぎの指を持つ人だよって教えてくれました。
 ふしぎの指というのは、どんなむずかしい武機や防具でも作れる指のことです。
 それを聞いて、ますますあこがれてしまいました。
 だから、がまんできなくてお手紙さしあげます。
 どうかわたしに、一度カーラヴェーラさまの手をさわらせてください。
 そうしたら、わたしもカーラヴェーラさまのような上手なブラックスミスになれるような気がします。
 失礼なおねがいですけど、どうかおねがいします。
 それでは失礼します。
                                  ピコより

 P.S. うまくせい造できるような幸運のお守りを入れました。』

 字は子供子供してまるっこく、文は下手くそで、誤字が二つもあった。
 しかし、便箋をよく見ると、何度も書き直しては破って捨てたらしく、上の紙の筆跡が幾重にも写っていた。熱意だけはありありと感じられた。
「まいったなあ……」
 カーラヴェーラは便箋を封筒に戻し、空を見上げてため息をついた。パイプの煙がゆっくりと広がっていく。
 手に触らせろと書いてあるが、これは明らかに恋文だ。年下の、しかも同性の女の子にそんなものをもらっても、対応に困る。完全にカーラの守備範囲外だ。――カーラの相方のホルスは少年の姿をしているが、実際は何歳なのかわからないし、性格もかなり危険だ。それに惹かれて仕方なく付き合っている。そういう付き合いが気に入っている。
 断ろうか、と思った。
 封筒に手をかけて力をこめる。すると、隙間からひらりと緑のものが落ちた。
 四葉のクローバーだった。
 それを見たとたん、意外にも、少し心が動いた。
 狩場がマンドラ山なのだから、そこで出したものだろう。買ったとしても、今の相場は十万z以下だ。しかしその程度でも、青ジェム売りのささやかな利益に比べれば高額だ。カーラ自身が昔売っていたから、よく知っている。あれはカート一杯売っても、五千ももうからない。
 その頃の記憶が、ぼんやりと蘇った。カーラも製造BSだから、器用さと運を重点的に強化していて、戦闘能力は後回しだった。強い敵を倒せず、ひたすら弱い敵をたくさん倒した。つらく、長く、孤独な修行期間だった。ピコもそんな毎日を送っているのだろう。
 しかしカーラは、途中でホルスと付き合い始めたので、だいぶ成長が早くなった。ピコにはそういう相手がいないらしい。地道に戦っているのだ。ただ一つのことを支えに。
 同じ道の遥か先を行くブラックスミスへの憧れを支えに。
 見捨てるには、わかりすぎた。
「……会うだけ会ってあげようかな」
 四葉をつまんで、カーラはくるくると回した。
 
 
 アルデバランの町は苦手。
 いろんな職業の人がたくさんいるプロンテラとか、どこか田舎じみてるふるさとのゲフェンと違って、時計台ダンジョンが目当ての、強い二次職の人ばっかりいるから。弱い自分が場違いみたいで、いつもはあんまり来たことがない。
 でも、今日だけは別なんだ。あの人に呼ばれたんだから。
「カーラさまが……一対一で会ってくださるなんて……」
 お使いの人に手紙をもらって、ここまできた今でも、わたしはなかなか信じられなかった。ゲフェンで友達に話したら、「うそぉー!?」の大合唱だった。不思議の指のカーラヴェーラさまは、商人のみんなの憧れだから。
 重いカートに引っ張られて、普段でもよろけちゃう足取りが、今日はよけいにふらふらする。カーラさまにお会いしたい、でも怖いから会いたくない。そんな二つの気持ちのせいだ。
 それでもわたしは勇気を出して、堀ばたのオープンカフェを歩いていった。
 町の北側まで回りこむと、パラソルの下のテーブルにあの人が見えた。わたしの胸がどきんと鳴った。
 エンペリウムを溶かしたみたいな長いプラチナブロンドが、きらきら光ってる。ゴーグルもよく似合ってる。ただの飾りじゃなくて、製造の火の粉から目を守るためにかぶっているからだ。下手なプリさんよりも人目を引いてる。
 それに体も。ブラックスミスのラフなシャツとジーンズが、あんなにぴしっと決まっている人って、他にいないと思う。大胆な服のせいで、すらっとして日に焼けた手足がもっと長く見える。胸なんかすごい。ぺたんこのわたしとは比べ物にならないぐらい。あれぐらいおっきければ、わたしもこんなぶかぶかの服やめちゃうんだけどな。
 いつ見てもかっこいいカーラさまに見とれて、わたしが立ち止まっていると、オークの兜をかぶった男の騎士さんが、カーラさまに近づいた。
 あれ、一人じゃないのかな?
 しばらく見ていたら、知り合いじゃないってわかった。騎士さんは、有名なカーラさまを偶然見かけて、特別な武器を作ってくれって頼んでいるみたい。ああん、カーラさまはこれからわたしと会うのにっ。
 騎士さんはかなり入れ込んでる感じで、やたらとカーラさまをほめて、その気にさせようとした。このままだとカーラさまがつれて行かれちゃうかなと思ったけど、そんなことはなかった。
 テーブルがガンッてジャンプして、カーラさまがいきなり叫んだの。
「うっさいわね、いまそんな気分じゃないって言ってるでしょ!」
 カーラさま、テーブルを下からけっとばしちゃった!
 わたしは自分が叱られたみたいに首をすくめた。周りのテーブルの人もびっくりして見てる。騎士さんは尻もちをついて、ぽかんとカーラさまを見上げた。
 なによ、っていうみたいに、カーラさまは騎士さんと周りの人を見回した。騎士さんはこそこそどこかへ行っちゃって、周りの人もあわててむこうを向いた。
 怖い顔のまま、カーラさまがこっちを向いた。わたしはびくっとちぢこまる。そしたらカーラさまが気づいて、声をかけてくれた。
「ああ、やっと来た。こっちおいで、ピコちゃん」
「ぴっ、ピコちゃん!?」
「いいでしょそれで。座りなよ」
 わたしはカチコチの体をむりやり動かして、カーラさまの向かいの椅子に腰かけた。そして、背もたれに両腕をひっかけたカーラさまの顔を、初めて間近で見た。
 ヒョウみたいな切れ長の目がぞっとするほどきれいだった。口にくわえた男の子みたいなパイプもさまになってた。見てるだけで、見ることができただけで、ドキドキがどんどん強くなって、さっきの怖さも忘れちゃった。
 そうやって見てたら、カーラさまがパイプを手に持って、にらんだ。
「……顔、なんかついてる?」
「えっ、そそそそんなことないですっ!」
「んじゃ、なんでそんなにじろじろ見るのよ」
「カーラさま、あんまりきれいだから……」
「カーラ『さま』ぁ?」
「ああっ、ごごごめごめんなさいいっ!」
 わたしがテーブルに頭をこすりつけてあやまると、なにそのものすごいリアクションは、とカーラさまが言った。そーっと顔を上げると、カーラさま、笑ってた。
「まー、そんなにびびんないでよ、うちはDOPやプリオニじゃないんだからさ。とって食やしないって」
「で、でも、カーラさまはわたしなんかと全然違う有名な人だから、こわくて……」
「そのそれよ。今日はね、ちょっとアンタの認識が変わるような話をしてあげようと思って来たの」
「話?」
「うん、まあ身の上話ね。うちがまだ商人だった頃のこと」
 カーラさまはパイプに葉っぱをつめかえて、テーブルにひじついてぷかぷか吹かしながら、話してくれたんだ。
 信じられない話だった。カーラさまも昔はわたしと同じように弱くて、苦労してちょっとずつレベルを上げていたんだって。一個450zの青ジェムを売ってこつこつお金をためたんだって。そりゃ理屈からいえば当たり前なんだけど、今まで想像もしなかった。カーラさまは生まれたときから腕利きのBSのような気がしてた。
 びっくりしたけど、うれしくなった。そういう話をしてくれるってことは、カーラさまもわたしの苦労がよくわかるんだ。それで心配してくれてるんだ。怒ると怖いけどほんとはやさしい人なんだ。
 話し終えると、カーラさまはぽわっと煙のわっかを作って、空に向けたみたいに言った。
「そんなわけだから、うちも元はといえば、重たいカートをこんころ引きずってスティチョン追っかけてた、よわよわのまーちゃんよ。どう、ちっとは励みになりそう?」
「はい、ありがとうございます……」
 わたしは胸がいっぱいになった。
「そっかあ、カーラさまもわたしと同じだったんだ。そっかあ……なんかうれしいなあ」
「あんまり盛り上がられても困るんだけどね」
「だ、だめですか?」
「いや、だめってこたないけどさ……」
 わたしがじーっと見つめていると、カーラさまはなぜか、あっちを向いたりこっちを向いたり身動きした。わたしは不思議になって聞いた。
「誰かを探してるんですか?」
「いや、あの、気にしないで。なんか照れくさくて……」
「照れ……カーラさま、かわいいんですね!」
「かわいいって、アンタね!」
「あ、ごめんなさいっ」
 調子に乗りすぎちゃった。わたしが頭を下げると、カーラさまはためいきをついて、わたしのカプラバンドをぴこぴこ引っ張った。
「ほら、もう謝らなくっていいから。まだやることがあるでしょ、顔上げて」
「やること?」
「手。それともやめる?」
 ぱっと顔を上げると、カーラさまが腕ずもうをするみたいに右手を出していた。わたしは、その手とカーラさまの顔を見くらべた。
「ほ、ほんとにいいんですか」
「いいわよ。指折らないでね」
「とっとんでもないですっ!」
 わたしはそーっと両手を伸ばして、それに触った。
 グローブの中で折れないように、爪はきれいに切ってあった。細くて長くて、色白だった。親指、人差し指、中指、薬指、小指。一本一本、先っちょからまたのところまでさすってみた。鋼みたいに硬い骨に、ハープの弦みたいな強い筋肉がついてた。なのに、肌は赤ちゃんみたいにすべすべで、こするときゅっと音がしそうだった。
 不思議の指。
 この世界で一番器用な指。
 カーラさまの、ゆび。
 触ってたら、胸がほわほわしてきた。いつまでも触っていたいような気分になった。
「きれいな指……なんか、なんかわたし……これ見てると……」
 鼻がくっつくぐらい引き寄せてのぞきこんで、わたしは言った。カーラさまの返事がなかったから、顔を上げた。
 カーラさまは片目を閉じて、虫歯の痛さをがまんするみたいな顔をしてた。
「あ、気持ち悪かったですか?」
 わたしはあわてて手を離して、降参するみたいに両手をあげた。そしたらカーラさまも、あわてたみたいに首を振った。
「そ、そんなことないわよ。別に気持ち悪くなんかない」
「無理しなくても」
「無理じゃないって、平気。ね、もういいの?」
 カーラさまが、左手も出して、大きな玉を支えるみたいに指を広げた。触っていいなら、もっと触りたい。やめたくない。あったかい。気持ちいい。
「じゃ、もうちょっとだけ……」
 わたしはまた手を出して、カーラさまの手のひらに重ねた。今度は指だけじゃなくて、手のひらにも、手の甲にも、じっくりと指をすべらせてみた。
 そのころから、わたしはそれを、ほんものの不思議の指だ、と思い始めた。触ってるだけで、そこ以外の体中があったかくなってくる。胸がどきどきどきどきする。背中までぞくぞくする。体の中がむずむずしてくる。
 そんな風に感じるなんて思ってもみなかったのに、そんな感じなんて感じたこともないのに、カーラさまの手は、どんどんわたしを気持ちよくさせていった。
「カーラ……さま……」
「ん……?」
「ほっぺ当てて、いいですか?」
「ん、いいわよ。……うちも、アンタ見てたら」
「え?」
「ううん、いいから」
 差し出された両手で、自分のほっぺたを包んだ。プリさんにヒールされたみたいに、ぽおっと顔が熱くなった。いつのまにかちょっぴり汗ばんでて、その匂いがした。汗の匂いなんていい匂いと思ったことないのに、カーラさまのそれは南の国の花の香りみたいで、吸い込むと頭がくらくらした。
「か……カーラさまぁ……」
 キスしてた。自分がなにやってるのか、わかんなくなってた。もっと触りたかった。もっともっと感触をあじわいたかった。
 親指のつけねのぷくっとしたところに、唇をちゅっとあてた。手のひらのくぼみで、鼻を包んでみた。わっかにした自分の親指と人差し指で、カーラさまの手首をくるんで、内側の筋をこりこりしてみた。
「ん、んっ……カーラさま、カーラさまっ」
 ちゅっ、ちゅって何度もキスしたら、ぴく、ぴくって手が震えた。すごく敏感なんだ。すごく伝わってる。
 なのにカーラさまが何も言わないから、不思議になって顔を見た。
「カーラさま……いいの? こんなことして」
「ピコちゃん……アンタ……わかってやってんじゃないでしょうね」
「え?」
 よく見直したわたしは、ぞっとした。カーラさまはパイプをテーブルに落として、唇を軽くかんでた。ほっぺたが真っ赤になって、目が泣いてるみたいに湿ってた。平気だなんて思えなかった。
「か、カーラさま、大丈夫ですか?」
「自覚ないのね。初めてなのね。でも感じられるんだ。よおし……」
「あっ!」
 悲鳴が出ちゃった。耳からすごい電気がきたから。カーラさまがそこに指を入れたから。
「くすぐったい? それとも気持ちいい?」
「あぁふっ、んやっ、やぁっ!」
「……言わなくってもよくわかるわ」
 カーラさまが細い人差し指を、耳の中でくるくる回す。それが、気味が悪いぐらい気持ちいい。背中が勝手にびくびく曲がる。それに、それに――
 スカートの中が、ぱんつの中が。
 へん。すごくへん。じっとりした感じが。おしっこなんて漏らしたことないのに。ううん、おしっことは違う感じ。もっと奥から、知らないところから、じわじわってなってきた。
 お尻がもぞもぞ動いちゃう。足をこすり合わせたい。足のおくを。
 なに、なにこれ。
「カーラさま、へんです。からだ、熱いの、熱くて、何かしたくって」
「ピコちゃん、あのね……それ、うちも」
「え?」
 ぐい、と顔を引き寄せられた。目をぱっと開くと、カーラさまのものすごくきれいな顔が、目の前に、
 あったかさと煙草のピリッとした味が、唇におしつけられた。
「――んんーっ!?」
 暴れちゃった。小さな子供みたいに手足をばたばたってさせて。目の隅に、隣のテーブルのプリさんとハンタさんの、信じられないって顔が映ってた。頭が真っ白になった。恥ずかしさと、もうひとつの感じ――溶けちゃいそうな気持ちよさで。
 カーラさまのキス。みんなが見てる前でキス。女の人のキス。初めてのキス。
 そういういろんな感じがぐるぐるって回ったから、暴れちゃったの。でもその間ずっと、わたしの唇は、あったかい、続けたいって感じ続けてた。
 それがはっきり整頓される前に、カーラさまはまたいきなり、ぱっと顔を離した。ぺたん、とわたしはテーブルに倒れる。
 はあはあ息をしてると、カーラさまが立ち上がって、テーブルを回り込んできた。わたしのわきに手を突っ込んで、ぐいっと立たせてくれた。
「おいで。最後までしよう」
「さいご……?」
「わかんないよね。いいわよ、教えてあげる」
 そう言ってから、カーラさまはにが笑いみたいな顔をした。
「うちも初めてだけど、なんとかなるでしょ。なんとかしないと収まんないし」
「ほぇ……?」
「歩いて」
 さかさか歩き出したカーラさまを、わたしはあわてて追っかけた。


 そんな展開になるとは思っていなかったが、ためらいはなかった。未成年のホルスと寝ている自分に、貞節にこだわる資格などないし、あるとしても今日は封印だ。ピコは、それぐらいかわいらしい。
 昔の自分のように何も知らない子だ。だから、昔の自分のように教えれば喜ぶはず。
 ホルスに教えられた自分が、そうだったから。
 ピコの無心な甘えぶりを見ていると、性別の壁も気にならなくなった。ホルスを除いての話だが、男とするほうがよっぽど生臭い。それに比べれば、幼くて汚れがないピコへの抵抗など取るに足りなかった。それに、この世界では同性のカップルなどざらだ。
 町の北にある空き家に連れ込んだピコを、カーラは当然のようにベッドに押し倒した。なにをされるのかわからなくて硬くなっているピコを、なかば落ち着かせるため、なかば味わうために、体を重ねて抱きしめる。
「かっ、カーラさま」
「なに?」
「なにって、なにを、カーラさまっ、わたしに?」
「聞くなら一度に一つにして。まあ大体わかるけど」
 ゴーグルを投げ捨てて、ピコのまるく幼い頬に、キスと頬ずりを繰り返す。肌はマシュマロのように柔らかいが、口元がこわばって歯がカチカチ鳴っている。手で触れた腕や肩が、かちんと音がしそうなほど硬直する。まるで炭鉱のモグラみたいにおびえている。
「怖がらないでよ……」
 初々しい反応がおかしくて、くすくす笑いながら、ピンクの髪を何度も撫でた。さっきのようにいきなりではなく、そっと唇に口づけした。それでもピコは力を抜かない。いやいやをしてキスから逃げる。
「カーラさま、怖い。こんなこと、しないで」
「んん、困ったな」
 ふと思いついて、ピコの手を探した。手のひらを捕まえて、指と指をからめて握る。すると、溺れる人がロープを見つけたように、しっかり力を入れて握り返してきた。
 ふーっとピコが安堵の吐息を漏らして、魔法をかけられたように体を柔らかくしたので、カーラ自身が驚いた。
「落ちついた?」
「……はい」
「怖くないからね。さっきのドキドキ、思い出して」
「わかるんですか?」
「もちろん。当ててみせよう」
 左手を握ったピコが、指を細かくうごめかせて、自分の指を感じている。それに心地よさを感じつつ、カーラは彼女に添い寝して、右の手でピコのあちこちを指し示した。
「心臓がドキドキしてる」
「はい」
「触られると、背すじがぞくぞくする」
「はい」
「頭はぼんやり。気持ちよくてうまく考えられない」
「はい」
「体中の肌がざわざわ。撫でられただけでぴりっとする」
「……は、はい」
「ここは、濡れてる」
 カーラはピコの厚めのワンピースの、下腹のあたりに手を当てた。ピコは口元を歪めて、とぼけるように顔を背けた。
 とぼけられないように、腹の上の邪魔な物入れをはずして、ぴたりとおなかに手を当てた。そこから肌の起伏に沿って手を下げる。少女のふっくらした腹の下に、布が逆三角形にへこむくぼ地があった。そこへ、指先をゆっくりと押しこむ。
 中心の谷間をはっきり押し示すと、ピコはとうとう、半泣きで返事をした。
「そんなところ知りませんよぉ」
「うそ。うずいてるでしょ。それとも、まだここのよさも知らない?」
「よ、よさって?」
 返事の代わりにスカートをめくり、膝の間に手を差しこんだ。
「やっ、いやっ……」
 手を下げて抗おうとするピコを、左手で押さえこんで、右手を強引に這い登らせる。閉じた太ももの奥にはすぐ着いた。商人はスカートの下にさらにスパッツを履いているので、まだ護りは堅かったが、それでも、撫でるだけなら無理ではなかった。
「こぉこ」
 きつく閉じた太ももの奥で、カーラは指先だけをくすくすと動かして、ピコの目覚めを促した。ゆっくり、だが確実にピコの反応は変化していった。
「ぐすっ……ひっく……」と泣きながら体をよじっていたのが、
「く……っ……」と身動きを止め、
「ん……くんんっ……」と何かをこらえるようなうめきと、時々の震えを見せるようになり、
「くぁ……はわぁ……」と口を開けて熱い息を吐き、あえぎ出した。
 その間、固かったつぼみが開くように、ピコの体もふんわりとベッドに伸びていった。しっかりとくっついていた膝は開き、腰が少しずつせり出してきた。
 いつしかピコは、最初のかたくなな拒否を忘れて、夢うつつのうっとりした顔で、カーラの指に身を任せていた。
「カーラさまぁ、カーラさまぁ」
「なあに?」
「これ、なんですかぁ。こんなことしていいんですかぁ。こんな、こんなえっちな感じ、初めて……」
「どんな感じ? これは?」開いた股間を指の腹ですうっと撫で上げる。
「はぁ……そわそわってします」
「これは?」そろえた二本指を優しく谷間に突き込んで、くにくにと震わせる。
「んん……ちょっと強いの。ぴりぴりってしびれて」
「ここは?」爪をかけるようにして谷間の一番上を引っかいた。すると左腕にピコがしがみついた。
「きゅうぅ……」
「いいのね?」
「わっ、わかっ、やあぅっ、うんっ、く……っ!」
 言葉も出せずに、力いっぱいカーラの腕を抱きしめる。カーラは強弱をつけてその芽を弾きまわす。そのたびに、ひくん、ひくんとピコの両足が閉じたり開いたりする。
 もう遠慮はいらないように思えた。カーラはピコの体を抱き起こした。長袖のジャケットとエプロンを次々にはぎとり、スパッツも一息に脱がせ、ばんざいをさせて厚手のワンピースを頭から抜き取った。瞬く間の早わざで、ピコが抵抗のそぶりを見せるまでに、キャミソールとショーツだけの半裸にしてしまった。
 ピコは頬に血を昇らせて、わたわたと片手で体を隠そうとしたが、手遅れであることに気付くと、隠れてしまいたいとばかりにカーラの腕に顔を押しつけた。細い声で言う。
「カーラさま、どうして?」
「見たいから」
 言葉通り、カーラはピコの肢体をまじまじと見つめる。
 自分が着ていたころも野暮ったいと思っていたが、重ね着の商人の衣装は、やはり隠しすぎだった。細いのはわかっていた。しかしピコは予想を越えていた。胸のふくらみは手のひらの厚みほどもない。腰もまったくくびれていない。おなかはふっくらとまるく、ショーツの薄布の中にもかげりは皆無だった。
 要するに、ピコは典型的な幼児体型だった。
「いや、いや。見ないで、恥ずかしいですぅ……」
 ピコはしきりに手を伸ばして、カーラの顔をよそに向けようとする。手もなくそれをいなして、カーラはピコの胸に右の手のひらを添わせた。小さな小さな、けれどもまぎれもなくちょこんと下着を突き上げている乳首に、五本の指をすべて使って、さすり、はさみ、はじき、つまみ、痛む寸前の激しい愛撫を加えてやった。
「かっ、カーラさまっ」
 ピコの腕がそちらに集まる。その隙に左手でショーツを襲う。さんざんからかってやった成果が、もう木綿の表面にまでにじんでいた。白い下着の中心に、小指の先ほどの灰色の湿りができていた。
 それほど濡らせるのだから、幼さに気後れすることもない。カーラはスリのような指使いでショーツの中に手を滑り込ませ、ここと狙った合わせ目の中心に、滑らかに指をくぐらせた。
 ちゅぷりと嬉しげな潤みが迎え、ピコが絶望的な喜声を上げた。
「じ、じかっ……!?」
「そうよ」
 カーラは二本の手で絶え間なくピコを弾きながら、唇をなめてささやいた。
「アンタの体、ぜんぶ見て、ぜんぶ触ってあげる。おっぱいも、パンツの中も、ぜんぶ」
「ひ……や……恥ず……っ!」
「そう、恥ずかしがって。真っ赤になって。思いっきりかわいくなって。うちを楽しませて」
「たっ、楽しいっ……ですか?」
「楽しいわ。モノを創るのは。アンタのカラダを創るのは」
「んきゃぅ! わ、わたしなんかでも?」
「アンタだからこそよ。精練ゼロの鉱石。何にするのも思いのまま。触れば触っただけ、育つんだもの……」
「ひっ、きゃぉ、んゃ、きゃは!」
 カーラの指が勢いを増す。ちゅくちゅくちゅくちゅくと粘膜と粘液をかきまわす。普通の人間なら乱暴になってしまうほどの激しさなのに、ちっとも痛みを与えない。ピコの幼い体を最短距離で高めていく。
「脱がしちゃうか……」
 つぶやくと、カーラはジーンズのポケットからナイフを出して、一秒半でキャミソールとショーツを切り裂いた。素早くナイフをしまい、完全に脱力したピコの体を抱えあげて、後ろから自分を密着させる。
 縛ったシャツで覆っただけの豊かな乳房で背中をささえ、体の前は両手で包んだ。逃がす気はなく、捨て去りもしないという姿勢だった。
「守ってあげる」
「はぁ……はぁ……はぁ……んく」
「安心して、イっちゃえ」
「はぁ……はぁ……ひゅくっ!」
 つかの間の休息にひたっていたピコに、再びカーラの愛撫が加えられた。片手が秘密の場所を、もう片方の手が残るすべての場所を、一瞬も休ませない激しさでくすぐった。ピコの身体が、その年齢では受けるはずのない快感に耐えきれなくなって、ぶるっ、ぶるるっと壊れたように震えた。
 その上、カーラは耳まで攻めた。
「ピコ、ちゃんっ……」
「うぁぁん……」
 カーラの長い銀髪が、ぽってりした唇が、尖らされた舌が、ピコの右耳すべてに覆いかぶさった。さわさわ、はむはむ、ちろちろ、と様々な快感の音が、ピコの敏感な神経を限界まで刺激して、焼き切れそうなほど熱くした。
「ひゃわ……あ……あ……」
 もうピコは、カーラがくれる快感で全身がはじける寸前の、理性のない人形と化していた。
 折り返しのあるソックスを履いたままの両足は、なにひとつ隠さずベッドに投げだされ、ひくひくと震えていた。
 股間で遊ぶカーラの指の動きに合わせて、白く泡立った濃密なとろみが、小さな谷間の隙間から、時折とぷりとあふれ出した。
 すべすべのおなか、細い肩、浮き出た鎖骨、そして薄い乳房を這い回る指に、肌を震わせるさざなみのような痙攣で応えていた。
 左右にだらりと垂れた腕が、頼れるものを探さずにはいられないという切迫感で、背後に座ったカーラの膝頭をつかんでいた。
 そして顔には表情がない。酸欠のように大きく口を開けて、よだれ交じりの火のような吐息をはっはっと浅く速く吐き出して、焦点をなくしたうつろな瞳で、シーツのしわの一つをぼんやりと見つめていた。
「ピコちゃん、イく?」
 蛇のように背後からからみついたカーラが、耳の穴に差しこむ舌に言葉を交ぜた。ピコは数秒おいてから、ただぷるぷると頭を震わせた。
「イくってわかる?」
「アア……ア……」
「飛びそう? はじけそう?」
「ア……と……ぶ……」
 機械のようなつぶやきとともに、カーラの膝頭をつかむ手に、ぎゅっと強い力がこもった。本能的にカーラは悟って、ピコのつつましやかな性器の内側に、かぎにした小指を、ぎりぎりの大胆さで突き込んだ。
「とぶっ!」
 ピコが短く叫んで、きゅうーっと全身を引きつらせた。のけぞった頭がカーラの肩にぶつかり、肌がビクビクと震え、小指が断続的に締め付けられた。
「っああーあー……!」
 ぐいいっ、とカーラの腕の中でしなってから、ピコはあやつり糸が切れたように、がくんと力を抜いた。直前まで満ちていた力が身体中の筋肉から消えて、くにゃくにゃの小さな肢体だけが、カーラにもたれかかった。
「はぁはぁはぁ……はあ……はあ……はあーっ」
 せわしない呼吸がゆっくりと収まっていく。燃え尽きて冷めていくピコの頭に顔を押し付け、カーラは髪の香りを深々と吸い込んだ。
「んー、いい匂い。イッちゃったあとは、女の子でも濃くなるのね」
 乳くささと飴の匂いが混じったようなピコの香りを楽しんで、カーラはしばらくその体を抱いていた。余韻ではない。ピコは余韻のさなかにいるが、カーラのうずきは、まだ始まったばかりだ。
 ピコが回復するのを待つ間、そうやって自分の興奮を保っているのだ。
「ふふ……次はうちよ、ピコちゃん」
 すでに、胸を揺らし始めている。


「カーラさま?」
 落ち着いてきたわたしは、背中のカーラさまの小さな動きに気がついた。
 カーラさまがくれた、わけのわかんないものすごい気持ちよさが、砂にまいた水みたいに少しずつ消えて、普通の感じが戻ってきた。だから、カーラさまが別のことを始めたのもわかった。
「なにしてるんですか?」
「正気に戻ったかな?」
「はい、だいぶ……」
「よかったでしょ? すごく」
「はい……」
 体のまんなかから指の先までしびれちゃうぐらいの、白一色の気持ちよさを思い出して、わたしはすなおに返事をした。足とか腰とかあそことかにはまだそれが残っていて、ろくに動かせなくて、動かしたくもなかった。
 カーラさまがふくふく息をしながら言った。
「だから、ね。うちもああなりたいの」
「カーラさまも?」
「うん。ピコちゃんが手伝ってくれれば、うちもああなれるのよ。OK?」
「……おっけーです」
「そう。じゃ、ここお願い」
 ぐいっと押されて、わたしはカーラさまから離れた。振り返って、びっくりした。
 カーラさまがシャツの結び目をほどいて……おっぱい、見せてくれた。
「触って」
 シャツを脱いで、スカーフを首からシュッとはずして、カーラさまがわたしを見た。濃いめの眉の下の目が、わたしを捕まえようとする動物みたいに強く光ってた。
 なんだか怒ってるみたいなきついまなざしだったから、怖かった。怖かったけど、逃げられなかった。へびににらまれたかえるってこんな感じなんだろうな、とわたしはぼんやり思った。
 わたしはふらふらと近づいて、カーラさまのおっぱいに顔を寄せた。少しも垂れてないきれいな丸型で、汗でつやつやしてた。その先でわたしの指先ぐらいのちくびが、ピンととがってこっちを見ていた。
 ほんとにきれいなおっぱいだったから、わたしはさわるのが悪いことのような気がした。
「ほんとにいいんですか」
「いいんですかって、頼んでるのはうちのほうよ。アンタも触りたいわけね?」
「さわり、たいです。なんでだろう、男の子みたい。……わたし、カーラさまにさわりたい」
「ふふ、目覚めてきたな?」
 カーラさまがわたしの手を握って、かたっぽのおっぱいに当てた。たゆん、と少しゆれて、すぐもとの形に戻った。手のひらにそれを感じたとたん、わたしの手から、すごく強い気持ちが伝わってきた。
 さわりたい、押したい、つかみたい、ぐにぐにしたい。
 まるでそれを読み取ったみたいにカーラさまが言った。
「揉んでみて。アンタの力なら思いっきりでもいい。うちを気持ちよくさせたい?」
「え? ていうか」
「自分の欲情でそれどころじゃないって? んふ、それいいよ。そのほうがいい。さあ、好きにして」
「あ……ありが……」
 お礼の途中で、もうさわってた。おっぱいがぺたりと手のひらに吸い付いて、自分から呼んでるみたいだった。指が勝手に動いて、むにゅ、むにゅ、とつかんじゃった。
「うあ……柔らかぁ……」
 わたしは両手でかたっぽのおっぱいを包んで、パン生地をこねるみたいにまるめたり広げたりしてみた。指が埋まっちゃうぐらい柔らかいのに、離すとすぐ元の形に戻る、すごく弾力のあるおっぱいだった。その感触だけでも、一日中さわってたいぐらいだった。
 少し目を上げると、撫でられてるねこみたいに目を細めた、カーラさまのうれしそうな顔があった。それでますますさわりたくなった。なんだか信じられないぐらいうれしかった。カーラさまの、あのカーラさまの、指なんかじゃなくておっぱいを自分がさわってるなんて、うそみたいだった。
 少し収まってた体の熱さが戻ってきて、わたしの頭がまたへんなことを考え始めた。赤ちゃんじゃないのに。わたしもう女の子なのに。
 そう思ったけど、むにゅむにゅすればするほど気持ちが強まって、とうとう言っちゃった。
「……カーラさま、おっぱい吸いたい」
「吸って」
 吸っていいじゃなくて、吸って、だった。カーラさま、してほしいんだ。わたしは勇気が出て、ちくびにそっと唇を当てた。
 ちゅうちゅう、と音を立てて吸ってみる。カーラさまは赤ちゃんを産んでないから、おちちは出てこない。なのに、それをするとわたしも気持ちよくなった。目を閉じてカーラさまの感触だけを味わって、ちゅうちゅう吸い上げる。
 カーラさまがうっとりした声で言った。
「いいなぁ……ピコちゃんの吸い方、純情で……」
「ん……?」
 てことは、カーラさまはほかの人にも吸わせてあげたことがあるのかな。でも、それでもいいやと思った。今カーラさまにさわってるのは、わたしだけなんだから。
「んく、んく……ぷはっ。カーラさまあぁ」
 カーラさまがすごく好きに思えて、わたしは唇を離してほおずりした。ほっぺにころころ当たるちくびがかわいくて、またすぐ吸い付いた。そうやって吸ったりほおずりしたり、二つのおっぱいで顔をはさんだりしてると、また心臓がどきどきした。
「乗ってるね、ピコちゃん……それなら、こっちもできるかな」
 少し前から、ちゅくちゅく小さな音がしてた。わたしはおっぱいに夢中で気にしてなかったけど、カーラさまがそう言ってわたしの頭を押したから、下を見た。
 カーラさまが、カットジーンズのベルトとボタンをはずして、中に片手を入れて、指を動かしてた。自分もされたことなのに、わたしはぽっと顔を赤くした。
「今度は……わたしがさわるんですか?」
「ううん、違う。アンタの指じゃ、多分イけない」
 そう言うとカーラさまは、お尻を上げてジーンズを脱いだ。それから、黒いパンツも。
 カーラさまは、髪と同じきれいな銀色の毛の集まってるそこを、かったぽの膝を立てて、堂々とわたしに見せた。
「口でして」
「く……か、カーラさまのそこにキスするんですか?」
「そう。アンタの舌、すごくいいの」
 わたしはぶるぶる震えだした。体が石になっちゃったみたいだった。抵抗感ってやつだ。おしっこするところに口をつけるなんて、動物みたいだ。人間のすることじゃない。
 そしたらカーラさまが、試すみたいに言った。
「イヤなの?」
「いや……」
「そう」
「……じゃない、です。いやじゃないです。あう、わたし……!」
 心の大事な何かをなくしちゃったみたいな気分だった。抵抗感があるのに、いやじゃない。カーラさまのそこなら、キスしてもいいと思ってる。ううん、キスしたい。させてほしい。おっぱいと同じようにくちゅくちゅしたい。それで、自分がされたみたいにカーラさまを気持ちよくしてあげたい。
「します……させてください」
「いいわよ♪」
 もう戻れないんだ、とばくぜんと思った。ちょっぴりさびしかった。
 わたしは犬みたいに伏せの姿勢になって、カーラさまの足の間に顔を近づけた。カーラさまが後ろにのけぞってそこを見せつける。壊れそうにどきどき鳴っている心臓の音を聞きながら、わたしはカーラさまのあそこをのぞきこんだ。
 銀色のさわさわした毛の下に、ピンクでつやつや光る縦長のひだが開いてた。二重の唇みたいで、小さな赤いぽっちと、おしっこの穴と、知らない穴があった。ううん、もう知ってる。そこはさっきカーラさまにさわられたとこ。おつゆの出てくる穴だ。カーラさまのそこも、透明なおつゆがとろとろあふれてた。
 きれいだった。おいしそう、とも思った。なんでここにキスするのがいけないのか、わからないぐらいだった。
「ほへー……」
「ほへーじゃない」
「なんか……見とれちゃうんです」
「うれしいけど、待てないの」
「は、はい」
 わたしは舌を伸ばして、一番外側のひだをそうっと押した。ぷに、と弾力があって、くん、とカーラさまが鳴いた。
 もう一つ内側のひだにしてみた。つんつん、とつついたら、もっと柔らかくてほとんど感触がなかった。れろれろってこすってみる。ゼリーみたいに逃げていっちゃう。思い切って唇もつけて、吸い込んでみた。
 くにゅっと挟めて、おつゆも口に入ってきた。にゅむにゅむしゃぶってみる。ほんの少ししょっぱいけど、全然まずくなかった。ねっとりした匂いがしたけど、いやな匂いじゃなかった。
「いけそう?」
「ふぁい」
「続けて……」
 言われるより先に、わたしはそこを熱心になめていた。形も味もにおいもいやじゃないのに、やめる理由なんてない。カーラさまのあそこ、と何度も頭の中でくりかえしてた。カーラさまの秘密のところを、わたしだけがなめてる。
 犬みたいだけど犬でもいい。わたし、カーラさまのわんちゃんなんだ。ご主人さまのカーラさまを気持ちよくさせてあげなきゃいけないんだ。ご主人さまだからわたしだけのものなんだ。
 知らない間にカーラさまの太ももをつかんでた。口のまわりがべたべたになった。それでも少しも止めたくなかった。ぺろぺろ、ぺろぺろ、わたしは柔らかいひだを夢中でなめた。
「いい……! ピコちゃん、いいよぉ!」
 カーラさまが後ろに手をついて、うれしそうにはあはああえぐ。とろり、とろり、とおつゆが出てくる。わたしへのおいしいごほうびだった。ちゅうっとそれを吸って、もっとほしくて、穴の中にまで舌を突っこんだ。
 うんと奥まで舌を入れると、カーラさまがどさっと後ろに倒れて、はふーっと息を吐いて、おっぱいを震わせた。
「じ、上手だわ、アンタ……そこ、すごくいい。れろれろしてぇ……」
「ふぁひ……」
 舌先を丸めて天井をくすぐったら、カーラさまはぐい、ぐい、と腰を動かしていやいやをした。両手で自分のおっぱいをつかんで、ちくびをこりこりし始めた。
「こ、これ、いいなぁ……」
「ひいれすか……?」
「うんん……ピコちゃん素直で、思った通りにしてくれて……拾い物だわあ……」
 わたしがちょっとずつ舌の動きを変えると、カーラさまもそのたびに足をシーツに突っ張らせたり、髪を振り回して頭を動かしたり、いろんな反応をしてくれた。カーラさまだってすなおだ、と思った。
「あ……もうすぐ……もうすぐ……」
 目を閉じたカーラさまが、はあはあ息をして、早口で言った。
「このままいけそ……くり、クリを鼻でくすぐって」
「え?」
「上のちっちゃい粒、ころころって、あふ! した、舌も止めないで、中続けて」
 言われたとおりに、わたしは二つのところを夢中でちゅぷちゅぷくすぐった。おっぱいをすごく強くぐにゅぐにゅしていたカーラさまが、じわじわと腰を持ち上げて、わたしの口に強く強く押し付けた。
「あ……きた……きた……い、イク、イクよっ……ゅぅぅっ!」
 銀の髪をまきちらした頭と、ピンと伸びたつま先をシーツに突っ張って、カーラさまの長い体がきれいなアーチを作った。ぐうっとわたしの顔を持ち上げた腰が、アーチのてっぺんでぶるるっと震えた。わたしの口の中に、ぴゅっとたくさんのおつゆが飛びこんできた。
「んむっ……!?」
「く……っ……」
 カーラさまは、長い間アーチを続けて、ぷるぷる震えていた。それがずっと、あの真っ白な気持ちいい時間なんだってことはよくわかった。だからわたしはじゃますることもできなくて、カーラさまがしぼりだす熱いおつゆを、いっぱい飲み込んだ。
「っ……く……はあっ!」
 十五か二十ぐらい数を数えたころ、カーラさまは大きく息を吐き出して、どさっとお尻を落とした。それに支えられてたみたいなわたしは、支えがなくなって、ぽすっとカーラさまのおなかの上に倒れこんだ。
「くー……はー……あー……」
 何度も深呼吸して、カーラさまがおでこの汗を腕でふいた。ぽわーんとした目で上を見ていたけど、じきにぱちぱち瞬きして、わたしを見た。
「きゃ!?」
 カーラさまの強い腕が、わたしをひきずりあげておっぱいの上に乗せた。ぽにゃっと潰れたおっぱいの上で、わたしはぎゅうっと抱きしめられた。
「ピコちゃん、最高よー!」
「え、え?」
「はあー、イッたわあ……ここまで思いっきりイけたの、久しぶりだ。やっぱ疑わなくていいからかなあ。ピコちゃんだと、全部忘れて狂えたからなー」
「え? どういうことですか?」
「ああ、いいのいいの。気にしないで、ほめてるの」
 カーラさまはそう言って、頭をなでなでしてくれた。そんなときまでカーラさまの指は上手だったから、難しいことはわかんなくてもいいか、と思った。
 はだかのまま、わたしたちはしばらく抱き合ってた。カーラさまがベッドの下のカートに手を伸ばしてパイプを取ると、わたしは決心して言った。
「か、カーラさまっ」
「ん?」
「わたし、今うまくできたんですよね」
「ん、うん」
 寝たまま器用に火をつけたて、カーラさまはパイプを吸った。ぷかりとあがった煙をおっぱらって、わたしは言った。
「ペット、いりませんか?」
 ぶはっとカーラさまが煙の塊を吐いた。わたしは夢中で続けた。
「してくれたのもよかったです。でも、カーラさまにするのもよかったの。カーラさまが気持ちよくなってるところ、ほんとにきれいでした。わたし、もっと見たいです!」
「ちょ、ちょっ、げほげほ、ちょっとピコちゃん」
「他には何にもいりませんから、たまに、たまにでいいですから、またカーラさまにさせてください! カーラさまのペットにしてください!」
「うわちゃー……」
 カーラさまがあっちを向いて、やたらとぷかぷかパイプをふかす。
「なつかれたよ、しまったなあ……うち一体何しに来たんだ」
「だめですか?」 
 ちらりとカーラさまがわたしを見る。わたしはじーっとカーラさまを見る。
「……そんな目で見るなよぉ」
「ペットがだめなら、せめて弟子入りとか……」
「あー、うー、責任あるよなあ……」
 カーラさまはしばらく天井を見ていたけど、ぽつりと言ってくれた。
「……考えとく」
「じゃ、ご返事待ちしていいですか?」
「ああもう、好きにしていいわよ」
「やたっ!」
 わたしはカーラさまの首に抱きついた。カーラさまは仕方なさそうに、でもやさしく、髪を撫でてくれた。


「カーラ」
 プロンテラの武器屋裏。石畳に敷いたアンペラにカーラが品を並べていると、長いローブをまとったウィザードがやってきた。金の短髪に猫耳のヘアバンドをつけた、愛くるしい顔立ちの少年、ホルスだ。
「あれ、何さ」
 カーラの隣りにすとんと腰を下ろすと、ホルスは横目で少し離れた物陰を見やって、聞いた。カーラは無愛想に答える。
「弟子未満」
「弟子ぃ? 出世したもんだね、カーラも。どこの何様?」
「勝手にあそこにいるのよ。仕方ないでしょ、ここはうちの領地じゃない」
「さっさと追っ払えばいいだろ、遠慮する柄でもない。それともファンがついてまんざらでもないとか?」
 容赦のない皮肉を飛ばして、ホルスはカーラの横顔を覗きこんだ。からかうような笑顔が消えて、すっと目が細められた。
「カーラ」
「何よ」
「ちょっと」
 ホルスはカーラの銀髪をひと房手にして、くん、と匂いをかいだ。やめてよ、と首を振って髪を抜き取ったカーラに、低い声でつぶやく。
「したね」
「な、なにを」
「浮気。男じゃないね、女だ。あ、はん、なるほど」
 ホルスはうなずいて、また背後を見た。
「そういうことか」
「なに納得してんのよ。邪推しないで」
「僕に隠せると思ってるの。お互い、目隠ししてたって相手の匂いはわかるでしょ」
 カーラが口を閉じ、うつむく。ホルスは軽く首を振った。
「ま、いいよ。一つ質問に答えてくれれば、許してあげる」
「質問って」
「今のカーラの優先順位。僕、あの子、自分の指。どれが一番いい?」
 カーラはさっと顔に朱を昇らせたが、ホルスの視線にあうと射すくめられたように身を縮めて、小声で答えた。
「三番が自分の指」
「へえ?」
「でも、あの子は二番。……っていうより、あの子は自分の指が増えたみたいな感じ」
「そう」
 ホルスは、再び笑顔になった。
「それだけ聞けば十分。僕は指とは違うもんね」
 立ちあがり、また明日でいいや、と去っていく。小柄な背に、カーラは思わず声をかける。
「順位、変わってたらどうする気だったのよ」
 ホルスは振り向きもせず、懐から杖を出して振った。幼虫カード二枚差しのアークワンド――彼の並外れた魔法攻撃力の象徴を。
 カーラはかすかに背筋を震わせた。彼ならやりかねなかった。
「はあ……」
 ため息をついて、アンペラに足を伸ばす。パイプをぷかぷかふかす。ゴーグルをはずして頭をがりがりかく。空を見上げる。
 それから肩越しに一瞬だけちらりと振り返って、ささやいた。
「ごめん、うちはもうしばらく、アイツから逃げらんないわ……」


 いつの頃からか、噂は西の幻都から南の商港まで広まっていた。
 不思議の指を持つ匠に、弟子ができたそうな。
 ある人はそれを真だと言い、またある人は偽りだと言った。
 真偽のほどは定かでないが、行けば実際二人いる。
 三尺四方のアンペラに座って、少し困ったような顔をしている匠と、やや離れた物陰で露店を出して彼女を見つめる、桃色の髪の少女が。


―― 了 ――



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