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envd01-01511281203/第三回公判 ......

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蛭川エンザイ事件 その四
----第三回公判(平成2年7月16日)
 今回は、T警官と検察側のレ−ダ装置に関する証人Sさんの証人喚問です。
 そのまえに、山口の7月はとにかく「暑い」の一言につきますね。体中にモワッとくる暑さは、中国地方の特徴ですね。東京にいた頃は、同じ暑くても夕方が待ち遠しかったもんです。日中は、アスファルトに照り返す日光と熱それに、車の排気やク−ラの排気が一緒になってまことに暑く、あの暑さは、山口の暑さを越えます。しかし、夕方になるとカゼが吹いて、少し湿気を飛ばしてくれます。そこでほんのつかの間、「やれやれ」と思う気持ちのゆとりがあったもんです。しかし、こちらではそれは期待できない。さすがに6時にもなると陽はかげりますが、湿気の中に、全ての上記と熱と疲れを閉じ込めてしまうような無風状態となります。これを「夕凪」といいます。
 函館も昼間はけっこう暑いのですが、夕方になると肌寒くなりますし、ましてや西からも東からも潮風が吹いて水蒸気を運んできて、それで、焼けた肌を冷やしてくれるのです。水蒸気というのも、暑くて風邪がなければ、熱が余計にこもり大変ですが、気温が低く風邪があると、冷却効果が強くて気持ち良いものです。現に、返りの日は、飛行機が35度の山口から、22度の函館に運んでくれました。まあ、これも気を付けないとカゼを引いてしまうわけですけど。それほどに、山口の夏は熱かったのでした。
 でもね、暮らしやすさとなるとどうでしょうね。山口の山の緑は柔らかく、ヨシの葉がそよ風になびいています。おだやかな夏の山なんです。緑色もやや淡く、日光が吸収されていくように感じてしまうセザンヌ色なんですね。野生のウドが日に日に伸びてまたたくまに道のトンネルを作り、大きな野草の葉は日光を浴びてしっかりと光り、くっきりと濃い緑に輝いている北海道の山と違う趣がある。で、自然がそうなら人もそのなところがあります。北の宿では、ハッキりとしていて激しいのは人も自然も同じようです。暑くても暮らしやすい、それが、山陽というところ、のような気がします。
 で、裁判に戻りましょう。裁判長さんもみなさんもお変わりなく、ヒルカワさんも達者なようです。真面目な顔はなかなかカッコよいのですが、喋り始めるときっといつものようでしょうね。つまりドジ。
 さて、1時30分開廷です。だいたいこれまでも形どうりの証人調べで、興味薄だったのですが、今回はとくにひどかった。「覚えていません」、「知りません」の応酬で、なんともやりきれませんね。こちとら一生懸命に、はるばる20万と3日をかけてこんなモンを見に来ているなんて、ただただ怒りがこみあげてきました。
 まず、T警官。すべてに、「覚えていません」と答える始末。しかし、ヒルカワさんのわりと面白い質問が1つありました。
「被告の顔を見てください。」
T警官は、後ろを向いてよいのですか、というように、ヒルカワさんを見ます。
「ウ、うしろですよ。どうです。おぼえがありますか。」
ゆっくりと、T警官は頭を回します。ボクは、ニコッとしたものか、むつかしい顔をしたものか迷ったので、とりあえず、おめめパッチリだけして、T警官の顔を見上げました。彼は、困ったようにしばらくボクの顔をながめ、おもむろに、「覚えがありません」と答えました。しかし、照れちゃうネェ。ミツメナイデ!どうやら彼も、ミツメタクナイ!って感じでした。やや変わったことというのはこのことだけ。あとは、ヒルカワさんにもベンゴシさんにもただただ「覚えがありません」を繰り返すばかりでした。一言彼のために付け加えるとすると、ほかの警官のように、覚えちゃいないが、日誌に書いてあるから間違いネエンだって言った乱暴なことはいわず、日誌と自分の記憶とをはっきりと区別して証言し、淡々としていたのは自動車のウインドウを下げて最初に質問してきた時の「しんせつなおまわりさん」そのものだったので、好ましく感じました。あんまり警官向きでないかも知れないねこの人。あとでそのことを弁護士さんに話したら、彼も同じようなことを言っていました。
 しかし、次の「わかりませんおじさん」にはマイッタマイッタ。かれは、レ−ダを警察に売り付けているM社の営業のSさんです。決まりきった文句をならべるのは、プロですから、決まりきった質問をするヒルカワさんの質問には、最初「ハイハイ」と元気良く答えていました。たとえば、
「あなたは、このレ−ダ丸菱700-CR型の点検をなさっていますか」なんて質問には、大きなからだをきっちりして、
「ハイ!」っと言った具合です。
いるじゃないですか、悪代官の横でお白州にすわり、代官の言う通りに「ソウダソウダ」とか、「まちがいアリャアセンゼ」とか愛の手を、チガッタ合いの手を入れる人たち。そんな人のようでした。それなのに、ヒルカワさんの最後の決まり決め手の質問、
「では、今回の件で、レ−ダに問題はなかったのですね。」の質問に、ほんの半瞬遅れて
「んハイ!」って答えたときには、思わず膝の上でボクの体を支えていた腕が、カクってして、笑いが込み上げてきて、クックックってなんないように押さえるのが大変でした。
で、弁護士さんの質問の番になると、とたんに、「はいおじさん」から、「知りませんおじさん」に変貌したのでした。
「レ−ダの個々の機器の性能についてはご存じなのですか。」
「良く知りません。」
「使用投射角度については、どうですか」
「良く知りません」
この辺から、すっかりト−ンも落ちてしまい、
「使用するに不適切な場所とは」
「よくわかりません」
「使用測定切り替え、高、低の違いは」
「わかりません!(悲鳴)」
 以下同文。
 ヒルカワ君、証人を選びたまえ。被害届けをだすぞ!
なぜなら、こうなるのはヒルカワくんの下手な芝居に違いなく、その証拠に、Sさんの訊問開始と同時に、事前に弁護側に了承のない技術レポ−トを裁判長に出そうとしたのでした。これに対し、弁護士さんは不快の意を表明し、裁判長に「不同意」の旨告げたのです。
弁護士さん:「レ−ダそのものの検証が必要ですので、検察側で、技術に詳しい証人を呼んでください」と言いますと、
ヒルカワさん:「レ−ダは、問題ないと思いますので」と答え、裁判長:「検察側で出廷を一応用意し、弁護側で不服なら弁護側で立ててください。」
 こんな一幕もありましたが、結局証人調べが終わって閉廷間際、ヒルカワさんの勝ち。一応どうぞとばかり、例の技術レポ−トを裁判長に渡してしまいました。「XX」はなくても経験はありってか。
 帰りの飛行機の中で、ふと第2回公判の事を思い出しました。I警官の証人席での後ろ姿は妙に気張ったようで印象的でした。
 ボクの考えたこと----蛭川エンザイ事件追補----ボクが思うに、K警官は、いねむりをしていたものだと思う。あるいは、白昼夢かな。あんな仕事を10年に渡ってやっていれば、意識がぼんやりしていても、手と目の協力が良いからキチンと出来る。そういうのを、医学的には、「反復練習効果による手と目の協応動作の修得」って言うんだよね。これは、一種の反射だから、とっさになさってしまう。それが良いのか悪いのか。意識があれば、自分で止めれもしようけど、無きゃ始末が悪いよ、これは。流れ作業なんかだと、脳波にアルファ波が出てても能率が下がんないけど、こと人の有罪無罪ってことになると、立証は難しいが有りえてしまうこの恐ろしさ。レ−ダの性能を云々したり、論じるのも大切だけど、人間が、それを何時間正確に作動させられるか(起きていられるかでも良いかな)ってことも、おまわりさんは要求されてしかるべきじゃなかろうか。そのほうが、おまわりさんのためでもある。だって、犯罪って、人間だから犯す過ちのことでしょう。それを知っておいたほうが、良いわけだ。

(つづく)