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envd01-01511281150/第二回公判 ......

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蛭川エンザイ事件 その三
----第2回公判(平成2年5月28日)

 今日の法廷は何かしら明るく感じました。公聴席には、当日のおまわりさん達が全員揃っていました。ヒルカワさんも心なしか真剣な顔つきでした。
 一体、犯罪の世界は(てやんでエ。たかがスポ−ド超過だろトウシロ!!とその筋の人からお叱りが聞こえそうですが)、どうしてこう見るもの聞くもの明暗がはっきりしているのでしょう。裁判所でも弁護士さんは明るい良いおへやにはいり、被告人は暗い棒イスが並べてある売店兼待合い室で待たなければなりません。悪いことをしていなくてもここで待っているうちに、「やはり俺は悪い人間なんだ」としなくてもよい改心をしそうになりそうです。
「.....そういう場合は、弁護士なんか通さなくても、必要な書類を裁判所で聞いて、書司さんに頼むとええよ。この場合の解釈は*****(法律用語--難しくて聞き取れない)というんじゃが。」と、売店のあばあさんが、足を組んで棒イスをすっかり一人で占領して、も一人のおばあさんに説明していました。そんなことをしながら時間を過ぎて待っていると弁護士さんがやってきました。
「お早うございます。お待たせしました。」
 さて、再び法廷に戻りましょうか。私から見ると、裁判長もみんなもまるで顔見知りのようでした。
「では始めますか」感じの良いお酒の好きそうな裁判長さんです。
「証人は前に出てください。」
K警官の登場です。バッタみたいな人です。そういえば、例の日もピョコンと飛び上がりましたっけ。
「宣誓!!!........」
 ヒルカワさんの質問が始まります。供述調書を逐一読み上げ、それが正しいかどうか聞いていきます。アクビがでるほど単調な手続きですね。
「......ソ、そうすると確かに被告の車以外には存在しなかったわけですね。」
「ハイ!もし、ほかに車がいれば、たとえ160キロ出していても、正しく機械が読めませんので捕まえません。その時は、特にそのようなことがなかったのは業務日誌にも記載されておりませんし、なにも無かったということはそういう事実が無かったということですから間違いありません。」と元気なお答えでした。
次に弁護士さん。
「あなたは、この地点でよく取締をなさいますか。」
「ハイ、私は、この仕事だけをやってきました。」
「こ、この地点での取締はどうですか」
「もう10年以上もやっており、....」
結局かなり焦点が定まるのに5回ぐらい同じ質問をし、最後に月に6-7回ここで、取締を行なっていることが分かりました。これは、業務上のひみつなのでしょうかねエ。
 ヒルカワさんも、弁護士さんも、K警官は、重要証人と見て、かなりつっこんで聞いてきます。二人の違う点は、ヒルカワ君が、ボクの車しかいなかった点を強調して、彼は調書をそのまま逐一認めさせていたのに対し、弁護士さんの方は、レ−ダ−を正しく操作し、間違いなく車のスピ−ドを計測する能力がK警官にあったかを確かめていった点です。弁護士さんは、相手にポイントを悟られないように、慎重に調書くずしに取り掛かっていました。それは、まるで碁のようでした。ただし、私はゴはまったく知りません。
 ここまで、やりとりを聞いていたボクでしたが、いきなり、裁判長さんが、「被告人は、何か質問がありますか」と親切に聞いてくれたのです。私は言いたいことがあったのですが、急なことにびっくりしたので、「あとでまとめて話します。いまは、結構です。」と答えてしまったのでした。根が慎重なのでいつもこうしていますが、本当はよくないのかもしれないなア。
 次にI警官が登場です。宣誓からKさんがスポ−ツ大会の開会宣言ように元気だったのに対し、Iさんは、沈みそうになる声を何度も意識しながら高めては、話していました。今も、そのようです。きっとこういうのニガテなんですね。
 ここでも、ヒルカワ君は、他に車両が確かにいなかったことを中心に聞いていましたが、Iさんは、現認に関してはKさんしかわからないような口ぶりで答えていました。この点は、弁護士さんも同じ方向に話が進めたいですから、彼も、余り突っ込んだ質問はせず終わりました。
 いよいよボクの登場です。Kさんが終わってすぐ、裁判長が被告人は質問がありますかと聞いてくれていたのですが、びっくりして後回しにしてしまったのでした。
 で、おもむろにメモを持って立ち上がり、裁判長のすすめで弁護士さんとその内容を打ち合わせました。
 サテサテ、こうなるともう、弁護士気取りです。一体どっちが裁かれようとしているのか分からなくなってしまいました。まず、I警官に質問です。
「では、質問させていただきます。」
皆さんの視線をかんじましたねエ。
「私の記憶では(こんなとき以外、ボクはワタシとはいわないのです)、自分を含めて4車いて、私が先頭だったと思いますが、確かに私の車以外を見なかったのでしょうか。」(もし否定すれば、Kさんが、全然いなかったと言うのと矛盾するわけです。)と丁寧に質問しました。
「よく覚えていません」との答。Kさんは絶対にいなかったと言っているので何か対照的でした。
「一般的に、取調べの際、なぜ、調べられている人の権利として、不服があるなら否認してもかまわない旨一言あってもよいと思うのですがどう思われますか。また、取調べは一人でやって頂けないのでしょうか。なぜなら、I氏からT氏にかわったので、まァいいかと思ってしまったので、I氏が全てやっていれば、言えたかも知れないのにと思うのです。さらに、事実を最初から否認するような人格は特殊であると思うのですが、どうお思いですか。」
「それについては、またあなたの見解をお伺いしましょう」と裁判長。わたしは、やつぎばやに、3つの質問を重ねることで、一般的な検挙とその時の取調べられる側の心理的状況を裁判長に印象づけることが目的だったので、その目的は叶ったと思い、それ以上Iさんに答えを要求せず、次の質問に移りました。
「先程から、もし間違いがあったら、取調べをしないので、間違いはなかったと確信するという論法が、果たして確証と言えるでしょうか。どう思われますか。」
「間違いはなかったと思います。」
彼らには、業務日誌に記載がないことは、事実として存在しないのです。これは、例の潜水艦と釣り舟の件でも問題になったところですが、「紙に残ったことは証拠」という社会習慣の問題点でしょうね。だって、それを書いたのは人間ですし、しかもそれは、あとで書き直せるのです。ましてや、ワ−プロ時代の現代で、フロッピィにしか原本がないなんて場合、それを書き換えた証拠を機械の側にプログラムしないかぎり書き換えても誰も筆跡や、インクの乾き具合で改ざん したかどうかを知る、ナンテ事は不可能になってしまうのです。で、かれらの日誌は、書き換えたフシがあるのです。大岡越前時代からの風習か、かれらは、まだ手書きのようです。


(つづく)