米国での使用済み燃料問題は解決できるか



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米国の控訴裁判所は8月31日に、エネルギー省(DOE)に対し4つの電力事業者から起こされていた損害賠償請求の訴えを認める判決を下した。

使用済み燃料問題への解決策はあるか? 米国の電力事業者は、同国での廃棄物管理計画の大幅遅延によって大きな影響を被っている。電力事業者は、1983年に核廃棄物政策法が制定されてい以来、核廃棄物基金に対し原子力発電量1kWh当たり0.1セントの負担金を支払い続けており、これらの資金は現在、その利子を含めて総額で170億ドル以上に達している。その一方で、エネルギー省の使用済み燃料貯蔵施設の建設計画に数十年の遅れが生じており、このため、これらの燃料は現在、100基以上に及ぶ原子力プラントサイトで保管されている。
DOEは、法的には商用原子炉からの使用済み燃料を1998年1月31日から引き取りを始めなくてはならない責務を負っている。この最終期限は、DOEと各電力事業者との間で交わされた使用済み燃料契約で定められていた。DOEによるこの最終期限の遵守が不可能になった現在、プラント所有者は貯蔵プールに余裕がなくなった場合には乾式貯蔵キャスクを使用するなどによって、これら燃料をサイトみずからで保管せざるを得なくなっている。
DOEは、たとえばネバダのユッカマウンテンで計画されている地下最終処分施設は少なくても2010年までは利用できないとの理由から、使用済み燃料はプラントサイトでそれぞれ保管し続けていく以外に方法はないとの釈明を行なっている。DOEは2001年に、ユッカマウンテンを最終処分地に選定すべきとの勧告をホワイトハウスに対して行なうものと思われる。しかし、これについても、今後その実現までに幾多の困難が予想される一連のプロセスのなかでのワンステップに過ぎない。
計画に大幅な遅延が生じているにもかかわらず、クリントン政権は、上記の最終処分場が利用できるようになるまで、ユッカマウンテンの隣接地に地上式の中間貯蔵施設を建設するための法案に対し、2度にわたって拒否権を発動した。この法案が、その圧倒的な支持により2度にわたって議会を通過していたにもかかわらず、ホワイトハウスは拒否権発動の姿勢を変えようとしなかった。このような行き詰まり状態に対し、今後どのような対応を行なうべきかという点に関しては、プラント所有者間で意見が異なっている。連邦政府への訴訟に賛成する者もいれば、法廷闘争はできるだけ避けて話し合いで解決すべきと主張する者もいる。
DOEが1998年1月の最終期限の履行を怠っていることから、11の電力事業者が米連邦裁判所に対し損害賠償訴訟を起した。DOEは、法的には使用済み燃料の引き取り責務を負っているとの彼らの主張は、一貫して認められたものの、百億ドルに及ぶ損害賠償請求については却下された。同裁判所はまた、電力事業者との間で交わされた契約では、損害賠償を請求できるケースはただひとつだけ認められていると述べた。それは、DOEの使用済み燃料処分スケジュールの「不可避の遅れ」に対して補償請求を認めている条項によってのみ、行政に対してクレームが提出できることである。法的な救済措置への見通しが依然として不透明のなか、フィラデルフィアのペコエナジーは7月20日に、電力事業者のなかで最初にDOEとの和解交渉を始めた。ペコエナジー(コモンウェルス・エジソンとの合併後にはエクセロンになる)は、当初に訴訟に踏み切った11の電力事業者のなかに含まれていなかった。
ペコエナジーの主導により進められた和解交渉には10カ月が費やされ、その合意協定によって、プラント2基から成るペンシルベニアのピーチボトム発電所に対し、DOEとの間で使用済み燃料契約条項についての改訂交渉が始められた。それは、ピーチボトム発電所の使用済み燃料貯蔵施設の拡充に直接かかわりのあることが明らかなコストについては、その補償措置としてペコエナジーに核廃棄物基金への支払いを免除することを認めるというものであった。これによって、ペコエナジーには今後10年間にわたって、8,000万ドル以上の負担の軽減がもたらされることになる。ペコエナジーは9月に、四半期の核廃棄物基金への支払い額を、4百万ドル以上減免させることができた。

取引または訴訟

DOEとペコエナジーはともに、その合意内容は互いに満足すべきものであったとの評価を下した。DOEとペコエナジー双方にとっては、彼らの主張した項目がすべて認められたというわけではなかったが、その決着によって、ペコエナジーは株主による投資資金を、訴訟に持ち込むよりも、より迅速かつ確実に回収できるようになる。
またペコエナジーの責任者は、この取引交渉には、核廃棄物基金を破産させないよう配慮がなされるとともに、DOEに対して発電量1kWh当たり0.1セントの負担金支払いを免除させたいとするペコエナジーの要求が考慮されたものになっていた、と述べた。DOEとペコエナジーはともに、この合意は、他のプラント所有者が今後同じような交渉を進めていく際の先例を提供することにになる、と述べた。ペコエナジーはコモンウェルス・エジソンとの合併が終了すると、そのプラント数は停止中のものを含めると20基に達することになる。
同責任者は、ペコエナジーはピーチボトム発電所での改訂交渉について詳細な評価を行ない、それがこれから同じような交渉が他のプラントで進められる際のベースとして利用できるか、そのあと判断していきたい、と述べた。使用済み燃料契約の改訂交渉は、プラント所有者がそれぞれ個別に実施しなくてはならなくなる。
DOEの放射性廃棄物管理部門の責任者は、今後同じような交渉が米国の他の電力事業者すべてに対し実施されるようになると、核廃棄物基金に約20-30億ドルの損失がもたらされるようになる、と予測している。同責任者は、同計画全体から得られる480億ドルに及ぶ資金額に比べれば、この損失はわずかなものである、と議会で述べた。これに反論を唱え、核廃棄物基金からの転用はDOEの処分施設建設計画の遅延をさらに増大させることになるとの懸念を表明する電力事業者が一部いる。一方、控訴裁判所での8月31日の判決は、その訴えが認められた4つの電力事業者だけではなく、米国のほかの原子力事業者に対しても大きな影響を及ぼした。
控訴裁判所は、旧ノーザン・ステート・パワー、メインヤンキー・アトミック・パワー、コネチカットヤンキー・アトミック・パワー、ヤンキー・アトミック・エレクトリックから起こされていた訴えを認める判決を下した。そのなかで同裁判所は、「不可避の遅れ」条項は一般的なスケジュール遅れにも該当することを意味している、と述べた。電力事業者はすべて、米国の放射性廃棄物管理計画の遅延によってもたらされる損害に対し、米連邦裁判所へ提訴を行なえる権利を有している。
上院のエネルギー委員会議長や、クリントン大統領による拒否権発動の影響を被った核廃棄物法案の共同提案者のひとりは、控訴裁判所での判決によって状況に大きな変化が生じた、と述べた。米国の放射性廃棄物管理計画の遅延が、電力事業者やその需要家に対して大きな影響を及ぼす一方、連邦政府や最終的にその負担が強いられる納税者は、現在莫大な賠償責任判決の可能性に直面している。連邦政府の支払い補償額がどの程度になるかは誰も予測できない。控訴裁判所で訴えが認められた4つの電力事業者は、約19億ドルにのぼる損害賠償請求を行なっている。
もし、これまでDOEへの提訴にあまり前向きな姿勢を示していなかった原子力発電プラント所有者の多くが、今回の控訴裁判所での判決を契機に、同様な訴訟に踏み切ることになれば、連邦政府の支払い補償額は莫大なものになるものと予想される。
9月下旬の上院エネルギー委員会での審議に先立って開催された公聴会で、もしDOEがその使用済み燃料引き取り責務の遂行が困難になり、これによって米国の原子力プラントの25%が停止を余儀なくされ、電力事業者に代替の発電施設の建設が強いられるようになると、その賠償額は800億ドル以上にのほることになると予測される。しかし、実際にどの程度の電力事業者が訴訟を起こすかは、いまのところまったく予測がつかない。
ペコエナジーと同様に、DOEとの和解交渉を選択する電力事業者がいくつか現れてくるものと思われる。そのほかの電力事業者は、連邦裁判所への損害賠償請求訴訟が最善の方策との判断を下すことになる、と原子力エネルギー協会の代表者は述べている。彼らは、顧客に最大の利益がもたらされるような方策を選択することになると思われる。それにもかかわらず、連邦議会で、ネバダに地上式の使用済み燃料中間貯蔵施設を建設させる法律の制定への動きが再び活発化している。
これが実現できれば、DOEは使用済み燃料の引き取りが開始できるようになり、訴訟の回避に向けての見通しが開けてくる。政府は、損害賠償の支払いすべてを免れようと考えているわけではない。使用済み燃料の移送を始めることによってのみ、莫大な賠償金の支払いが軽減されるようになる。
これはまた、米国の電力事業者の多くが最も望んでいるところでもある。