非常用水源の閉塞問題についての経緯とその分析


非常用水源ストレーナのLOCA 後の閉塞事象については、PWRに対してはまだ解明されていない技術的課題がいくつか残されているものの、規制上の要求条件が米原子力規制委員会(NRC)によって明確にされたことにより、この問題は最終的には決着されることになるものと思われる。
NRCによる公報、96-03の発行を受けて、米国で運転中の沸騰水型原子炉(BWR)はすべて、それらの当初のECCSポンプストレーナをより表面積の大きな高容量の受動ストレーナに交換することによって、この問題の解決を図った。その理由は、非常に確率の低い「配管破断冷却材喪失」事故( LOCA )時に生成される恐れのある大量の粒子状物質(すなわち、酸化鉄、ペイントチップなど)が少量の繊維状物質とともにポンプ吸い込みストレーナに取り込まれ、これを閉塞させて大きなヘッドロスを発生させることを防止するためであった。
BWRについては、この粒子状物質はそのほとんどがスラッジと呼ばれる酸化鉄から成っているが、塵埃やペイントチップ、粒子状熱絶縁材などもわずかながら含まれている。繊維状異物の発生源としては、熱絶縁材や耐火材、プラント管理対象外の付随材などが想定される。
NRCは、試験や解析、米国内外でのプラントでこれまでに発生した事例などから、LOCA時に粒子状物質と繊維状物質の混合物がサプレッションプール水に浮遊し始めるようになると推論した。サプレッションプール水はその後、非常用炉心冷却システム(ECCS)の吸込みストレーナに取り込まれる。繊維状異物はストレーナに集められ、薄層を形成し、粒子状物質に対して濾過材としての機能を果たすようになる。
産業界やBWR運転事業者による大規模な試験やハードウェア解析などによって、既存の受動吸込みストレーナをより表面積の大きな受動ストレーナに交換することが、米国のBWRにとって最も費用対効果の高い対応策になることが判明した。
BWRとPWRは、配管破断LOCA事象の発生確率はともに非常に低いが、両タイプのプラントにとつて、この問題に対する安全上の重要性は本質的に同じである。大きな相違点は、PWRの粒子状異物は、BWRのサプレッションプールに見られる酸化鉄の割合が少ないことである。どちらかと言えば、PWRの粒子状異物は潜在的汚染物やダストなどに加え、ペイントチップやコンクリートダスト、LOCA時の衝撃によって生成される粒子状熱絶縁材から成っている。
BWRと同様に、熱絶縁材や耐火材へのLOCA時の衝撃よって、繊維状異物の発生が予想されるようになるが、これには、プラントのドキュメント上で必ずしも特定できるとは限らない潜在的繊維状異物もわずかながら含まれる。既存の PWRは本来、水源スクリーンのサイズが比較的小さいこともあり、LOCA 後にこの異物の混入により水源スクリーンの閉塞の可能性が、改造前のBWRプラントがそうであったように非常に高くなる。
NRCは、PWRのLOCA後の非常用水源閉塞問題を取り扱っている「異物の閉塞による加圧水型軽水炉の非常用水源の再循環への影響」と題するNRC公報、2003-01の発行(2003年6月)に続いて、この問題に対処するため、米国のBWRプラントに対して適用されたのと同様な規制プロセスの導入についての検討を始めた。PWRに対しては、まだ技術的に解明されていない問題点がいくつか残されているものの、BWRに対しては、運転事業者やメーカーなどによる積極的な対応によって、この問題はすでに決着が図られている。彼らはさらに、NRCの規制上の要求条件がすべて明確にされた時点で、PWRに対してもBWRと同様な対策を導入していきたいと考えている。


図 1: 公報、96-03 に対応して、米国のBWR マークT型トーラスに設置された1対の積層ディスク型ECCS吸込みストレーナ。マークTとマークU型BWRプラントにて交換されたこのストレーナは水中に十分収まるよう円筒形状をしており、小口径のエントランスハッチが備えられている。機器ハッチサイズの比較的大きなPWRでは、これとは異なり大型のボックス形状のものになる可能性がある。

問題の詳細
公報、2003-01では、ECCSや格納容器スプレーシステム(CSS)での再循環時の水源閉塞によってもたらされたNPSH(正味吸収ヘッド)マージンの損失や、水源スクリーンの健全性、格納容器排出口上流側の閉塞とこれに続くECCS及びCSS再循環流路下流側の閉塞事象などに関する問題が取り上げられている。
公報にはまた、例えば、水源閉塞調査手順の変更に関する運転員の訓練、代替水源の確保や格納容器清掃の徹底/異物管理といった暫定措置案がいくつかリストアップされている。NRCはその後、運転事業者の対応が公報の目的やその要求条件に確実に一致させるようにするため、2003年10月に暫定指示、2515/153を発行した。
NRCは、PWRの運転事業者からそれらの再循環水源性能の妥当性に関する情報を提出させるため、2004年初旬に一般通達を発行した。
この安全上の重要問題は、ECCSやCSSの水源確保の妥当性や、配管破断LOCA後の冷却水の再循環能力に焦点が置かれている。NRCは、PWRの場合には、未特定の汚染物や塵埃がLOCA時の衝撃によって生成された熱絶縁材異物、ペイントやコンクリートチップなどとともに、再循環水中に混入し、水源スクリーンに取り込まれるようになると想定している(BWRの場合には、これらの異物はサプレッションプール内にブローされた後、ECCS吸込みストレーナに取り込まれることになる)。この混合異物は、発生源の異なる様々な粒子状物質や繊維状物質から成っている。この異物ベッドは、それを通過する再循環水に対して、システムのNPSHマージンを上回るような大きな抵抗力を発生させ、キャビテーションの発生によって、再循環流量が大幅に減少する。
NRCのエンジニアリングコントラクター、ロスアラモス国立研究所(LANL)によって2年前に実施された一連のパラメーター解析から、米国の69基のPWRのうちの60基(NUREG/CR-6762, Vol. 1 2002年.8月では「ケーススタディ」と言及)で、大規模LOCA後に、水源スクリーンが異物によって閉塞され、再循環流量が大幅に減少する可能性が非常に高くなることが分かった。
従って、大規模配管破断LOCAを想定した場合、ほとんどのPWRプラントでLOCA後に、水源スクリーンの閉塞によって再循環流量が維持できなくなることがパラメーター解析によって明らかにされたことにより、安全上重大問題に発展する恐れが高くなる。
多くのNRCの研究報告についての調査や、その後の NUREG/CR-6224から入手したNRCの予測計算式に準拠して実施したヘッドロス計算から、このヘッドロスは異物の量やその種類に大きく依存することが明らかになった。この依存性を示す側面のひとつは、ヘッドロスが粒子状異物の量に単調依存することである。すなわち、取り込まれた粒子状異物の量が多いほど、ヘッドロスもまた大きくなる。また、この逆も成り立つ。実際には、ある一定サイズの粒子状異物分布に対して、このヘッドロスは水源スクリーンに取り込まれる粒子状異物の量にほぼ比例するようになる。
この依存性を示すもうひとつの側面は、多くの人が最初に見て驚くことであるが、このヘッドロスの繊維状異物の量に対する関係式は依存性はr非直線的で、単調傾向を示さないことである。実際には、繊維状異物量のかなり広い範囲にわたって、繊維量が多くなるほどヘッドロスは減少し、繊維量が少なくなるほどヘッドロスは増大することが、NRCの予測計算から明らかになった。ヘッドロスが繊維量の増加とともに最終的に増大に転じるようになるのは、繊維状異物の量がかなり多くなるような(すなわち、数百立方フィート以上)場合のみである。
混合異物ベッド(すなわち、繊維状異物と粒子状異物)によってもたらされるヘッドロスは、スクリーンまたはストレーナの表面積の約2.5乗に逆比例する冪関数になることがさらなる調査によって分かった明らかとなった。これが意味するのは、水源スクリーン表面積がスクリーン設計の主要制御変数となり、物理的に既存スクリーンをより表面積の大きな新しいスクリーンに交換することが、LOCA後のヘッドロス増大の抑制に非常に効果的手段になるということである。

バーセベッグ以前:1979-1992年
米国の原子力プラントは当初、そのほとんどが「非常用炉心冷却システムと格納容器スプレーシステムの水源」と題する規制ガイド、1.82の50%水源スクリーン閉塞基準に準拠して認可されていた。この基準は、水源スクリーンまたは吸込みストレーナがたとえ50%閉塞されたとしても、LOCA後に再循環流量が維持されることがを前提となっており、これによって炉心や格納容器の冷却が確保できるようになると考えられていた。しかし、NRCは1970年代後半に早くもこの50%閉塞基準に疑問を抱き始めていた。これに関連して、NRCは以下の3つの懸案事項を包む「格納容器非常用水源の評価」と題する未解決の安全問題(USI)、A-43を発行した。
(1) LOCA後の過酷な状況下でのエアーの取り込みによる水理学特性への影響。
(2)配管破断LOCA時に水源スクリーンに取り込まれ、スクリーンを閉塞させて再循環ポンプのNPSHマージンを長期冷却の維持に必要な値以下に低下させる熱絶縁材異物による影響。
(3)エアーまたは異物の取り込みによる残留熱除去(RHR)や炉心スプレー(CS)システムポンプの機能維持に及ぼす影響。
再循環システムのストレーナまたは水源スクリーンはいずれも、差圧損やこれによるストレーナ/スクリーンの構造的健全性に与える影響が設計段階で考慮されていないため、LOCA 時にスクリーンまたはストレーナに取り込まれる熱絶縁材異物に関連した(2)項は注目に値する。スクリーン/ストレーナの表面全体にわたる均一な多孔質異物の取り込みや、それら異物ベッドへの流入水によってもたらされる差圧への機械的強度が設計段階で考慮されておらず、またこれが運転上大きな問題に発展することも認識されていなかった。
NRCは、USI、A-43にて、プラント異物による閉塞の可能性は、プラントそれぞれの特性に応じて評価されるべきであり、当初の50%閉塞基準は十分な余裕を有していると言えないと結論づけた。
数年にわたる調査や、聴聞会などを経て、NRCは1985年末に「LOCA後の熱絶縁材異物による再循環能力喪失の可能性」と題する一般通達(GL)、85-22を発行した。もし既存の熱絶縁材を新たに交換するか、または交換した場合には、プラントはそれぞれの特性に準拠して評価を実施しなければならなくなった。従って、それ以降、熱絶縁材の改修を行なった米国のプラントは、以前からプラントの審査に用いられてきた現在のNRCの設計認可基準の範囲内でそれを実施した。改修は10CFR50.59のプロセスに基づいて行われ、この問題へのバックフィット対策とは見なされなかった。
LOCA後の水源スクリーンや吸込みストレーナの閉塞問題は、NRCスタッフや産業界の間では単に繊維状熱絶縁材の問題にすぎないと考えられていた。従って、繊維状異物の量が少ないほど影響は小さく、繊維状異物の量が多いほど影響もまた大ききくなると信じられていた。運転事業者の中には、それらの水源スクリーン(PWR)または吸込みストレーナ(BWR)の設計の妥当性について、本心から疑念を抱いていた者はおらず、GL、85-22に準拠して、それらの改造及び/または交換を行ったプラントは1基もなかった。
格納容器の非常用水源の閉塞問題は、1992年中旬までの次の6年間はLOCA時に格納容器配管や機器熱絶縁材の損傷によって生成された繊維状熱絶縁材異物の観点からのみ理解され続けていた。このシナリオでは、格納容器はLOCA後も全体的にクリーンな状態にあり、再循環水も同様にクリーンなものと想定され、LOCA 時に濾過機能を担うことになるような潜在的繊維状異物の存在は全く考慮されていなかった。しかし、このような想定は1990年代初期の米国内外のいくつかのBWRプラントで発生したストレーナ閉塞事象によって長く続くことはなかった。 

バーセベッグ以降:1992年―現在
1992年夏の、スウェーデンのシドクラフトAB(現在はバーセベッグクラフトAB)のバーセベッグ-2号 BWR炉で発生したストレーナ閉塞事象についての詳細発表に続く同プラントの長期停止によって、この問題の安全上の重要性が明るみになった。
原子炉出力が1から2%、圧力が435psiの時、パイロット弁からのリークによって原子炉容器安全弁が開放された。この弁は、ドライウエルに直接放出されるようになっている。この事象に対応して、原子炉が自動停止し、高圧注入システムや炉心スプレーシステム、格納容器スプレーシステムが自動作動した。機器熱絶縁材への安全弁から放出された蒸気による衝撃によって、金属材で覆われていた鉱質綿が440ポンド剥がれ落ちた。推定で220ポンドの絶縁材がサプレッションプール内に流入した。5つのECCSポンプ吸込み側ストレーナのうちの2つが使用状態にあったが、この鉱質綿によってこれらの一部に閉塞が生じた。これによって、事象発生から約1時間後にポンプの1台にキャビテーションの兆候が現れた。運転員によるストレーナのバックフラッシュの成功によって、新たな問題も発生せず原子炉は安全に停止された。
この事象によって、スウェーデンのいくつかのプラントは、この問題の解決のために規制当局よりプラントの改造を強いられることになった。彼らは、それらの水源スクリーンまたは吸込みストレーナをサイズの小さな既存の能動ストレーナと一部共存させながら、よりサイズの大きな新しい受動ストレーナに交換する方策を選択した。
バーセベッグでのストレーナ閉塞事象の発生の少し前の1992年春に、クリーブランド・エレクトリック・イルミネーティング(現在はファースト・エナジー)のマークV型格納容器のペリー1号炉(BWR 6)で未発表のストレーナく閉塞事象が発生していた。NRCは当初、この事象をあまり重視していなかった。実際にこれに関連した情報通知(IN)、93-34が発行されたのは1993年4月26日になってからのことであった。これは、ペリーl号炉で1993年2月に発生した2番目の事象に相当していた。これはまた、米国で実際に大きな問題に取り上げられるようになった2番目の事象でもあった。
1992年の事象(2つのうちの最初)はプラントの計画停止時に発生した。逃し安全弁(SRV)から蒸気が意図的に放出され、これによってRHRシステムが自動起動した。RHRシステムポンプのNPSHマージンは、0 psig近くにまで大幅低下したが、これはRHR吸込みストレーナに取り込まれたサプレッションプールからの様々な繊維状異物に起因していたと結論づけられた。そこでは繊維状異物が、主蒸気(MS)や給水システム(FW)の炭素鋼配管や機器などから発生した酸化鉄粒子に対する濾過材としての機能を果たしていたことは明らかであった。粒子状異物は RHRの運転中に撹拌され、その後サプレッションプールに取り込まれた。この薄層の繊維状異物の粒子状異物に対する濾過作用によって、非常に大きなヘッドロスが発生し、一対の吸込みストレーナに変形が生じたことから、同年の1992年に、これらのを交換せざるを得なくなった。この事象の重要性については、即座には理解されなかったが、最終的にはNRCや原子力産業界のUSI、A-43に対する認識を変えさせる一因となった。
1993年に発生したペリーl号炉の2番目のストレーナ閉塞事象に関するNRCの分析結果が、BWR-6型ペリー原子力プラントの非常用炉心冷却ポンプ吸込みストレーナ閉塞事象問題を取り扱っているIN、93-34補足1の中で詳しく述べられている。このストレーナ閉塞事象は、運転事業者がすでにストレーナを交換し、サプレッションプール内を徹底して清掃した2カ月後の1993年3月に発生した。INが発行された後に、運転事業者はストレーナ上の異物に対し化学分析を行なった。異物は、不注意にサプレッションプール内に持ちこまれたエアーフィルターからの繊維状物質や、ストレーナに取り込まれ繊維状物質によって濾過されたプール水からの腐食生成物などから成っていた。繊維状のフィルター材がサプレッションプールの堰壁近くでわずかながら検出された。未解決の安全問題(USI)、A-43に対応して作成された「格納容器の非常用水源性能」と題するNUREG-0897Rev.1では、冷却材喪失事故(LOCA)時での繊維状熱絶縁材の格納容器からストレーナへの移行問題が取り上げられていた。USI、A-43での対応策は、流量阻害をもたらす繊維状熱絶縁材によるストレーナヘッドロス試験結果に一部基づいていた。USI、A-43では、ストレーナ上の繊維状異物の濾過作用によるヘッドロスへの影響については言及されていなかった。ペリーでの事象から、濾過された腐食生成物や、塵埃、その他のLOCA時のドライウエルからの異物によって、それらの機能が本来必要とされる時に、ECCポンプの有効吸込ヘッドが突然低下することが明らかになった。
1992年の事象での様々な繊維状物質や、1993年の事象のHVACフィルター材はともに、NRCと産業界が現在定義する「潜在的繊維状物質」に含まれている。ドキュメント上で明確に特定できるような繊維状熱絶縁材または耐火材などと異なり、この「潜在的繊維状物質」はサプレッションプール内に取り込まれることは想定されておらず、また異物発生源の可能性もドキュメント上からは特定することができない。NRCは新たな研究計画を進めるため、1993年後半に独立コンサルティング会社、サイエンス・アンド・エンジニアリング・アソシェイツ(SEA)と委託契約を結んだ。BWRプラントのみを対象にしたこの計画で、SEAは異物の移行や異物のヘッドロスに及ぼす影響に関する試験をアルデン研究所にて多く実施した。しかし現在では、USI、A-43とは異なり、異物はすべてのケースに対して繊維状物質と粒子状物質の混合物と見なされ、そこでは繊維状物質が粒子状物質に対し濾過材の役割を果たしている。SEAは、ヘッドロスを予測するために、水速、粘性、粒子状物質や繊維状物質の種類及び量などを関数とした新しいヘッドロス予測計算式を確立した。これは、現在も効力を有している。さらに、この計算式から、ヘッドロスは粒子状物質の量にほぼ比例する線型関数となるのに対し、繊維状物質の量に対しては非線型かつ非単調な関数になることが分かった。 この非線型特性に関して最も驚くべきことは、確立されたヘッドロス計算式は現在でもペリー1号炉でのストレーナ閉塞事象がどのようにして発生したか明確に説明できることである。薄層の繊維状異物と多くの粒子状異物の混在下では、再循環水がこれらのベッドを通過する際に非常に大きなヘッドロスが引き起こされる。
さらに、流量条件や粒子状異物の量を同一とした場合、繊維状物質の層が厚いほどヘッドロスは小さくなる。この計算式を使用してBWRプラントに対して実施されたNRCによるパラメータ解析から、ストレーナ表面積がストレーナヘッドロスに最も大きな影響を及ぼす設計変数となることが判明した。さらにヘッドロスは、ストレーナ表面積の約2.5乗に逆比例する冪関数になることが分かった。従って、もし表面積が2倍になれば、ヘッドロスは少なくとも80%減少することになる。
もし表面積が10倍になれば、ヘッドロスは99.5%以上減少する。
NRCが調査を進めていた最中の1995年9月に、今度は米国のペコエナジー(現在はエクセロン)のBWRで新たなストレーナ閉塞事象が発生した。この事象は、ペリーのケースと同様に、SRVからの蒸気放出に対応してRHRポンプが自動作動した。その後、サプレッションプール内のスラッジ(主に粒子状酸化鉄)が撹拌され、サプレッションプール水に懸濁が生じた。さらに、SRVからの放出前にサプレッションプール内にわずかながら存在していた「潜在的繊維状物質」が同じようにプール内で撹拌され酸化鉄粒子とともに2台のRHRポンプストレーナに取り込まれた。その結果、RHR ポンプの1台にキャビテーションが発生し、残りのポンプについてもNPSHマージンの低下が生じた。事象発生後に発行されたIN、95-47の中で、これらについての詳細説明がなされている。サプレッションプール冷却システムの運転中に、プール内の繊維状異物がストレーナに取り込まれるようになったと想定される。この結果形成された繊維状「マット」によるストレーナの濾過作用によって、ストレーナ表面にさらに多くのスラッジや他の物質が取り込まれることになった。SRVからの放出蒸気がこれらストレーナへの取り込み速度を早める結果をもたらしたかどうかは分からない。運転事業者は、1号炉のプールから約635キログラム(1400ポンド)の異物を除去した。2号炉のプールからもすでにこれまでにこれと同量の異物が取り除かれていた。分析の結果、スラッジの主成分は酸化鉄で、繊維状物質は一種のポリマー材であることが分かった。繊維状物質の発生源は.明確に特定されなかったが、運転事業者は、繊維状物質はサプレッションプールに本来存在するようなものではなかったと結論づけた。また、ガラス繊維やアスベスト繊維を示すようなこん跡は見当たらなかった。
ライムリックでの事象は、ストレーナに取り込まれ浮遊粉塵に対し濾過機能を果たす微量な繊維状異物を伴った米国のBWRでの新たなタイプのストレーナ閉塞事象であった。これによって、BWR運転事業者は、スラッジまたは酸化鉄粒子の発生量を最小限に抑えるため、サプレッションプール内の洗浄を定期的に行わざるを得なくなった。
さらに、「潜在的繊維状物質」の薄層や、これにより濾過された大量の粒子状異物によってもたらされる大きなヘッドロスは、BWR混合異物に対するNRCの新しいヘッドロス計算式によって予測できることが実証された。ライムリック事象でのこの「潜在的繊維状物質」の発生源は現在もまだ特定できていないことを指摘するのは重要なことと思われる。「潜在的繊維状物質」の発生源は恐らく、設計図や他のプラントドキュメント上からは特定できないものと思われるが、これはすべてのプラントの原子炉格納容器に依然として存在している可能性がある。
NRCは数年にわたる研究や試験、分析活動などを経て1996年5月に、「沸騰水型軽水炉での異物による非常用炉心冷却水源吸込みストレーナの栓塞の可能性」と題する公報、96-03を発行した。この公報は、すべてのBWR運転事業者に対し、最近の試験結果から得られた新たな情報を取り入れたRHRやCSシステムに対する再解析の実施や、LOCA後に循環冷却システムの機能が維持されるよう吸込みストレーナに対する必要な改造の実施などを要求していた。
これに対応して、米国のBWRプラントはすべて、より表面積の大きな吸込みストレーナへのバックフィットを行なった。 実際のところ、当時運転認可を得ていた米国の33基のBWRプラントで採用されていた設計手法は多岐にわたっていた。この設計手法の多様さが、国内で4つのストレーナベンダーや、多くの異なったECCS設計手法、多種類の熱絶縁材やその混合物、3つの異なったBWR格納容器形状などをもたらす要因になった。より表面積の大きな受動吸込みストレーナが採用された理由は単純である。その第一は、ストレーナ表面積がLOCA後のストレーナヘッドロスに最も大きな影響を与える設計変数であること。第二は、これらのストレーナの導入が、この安全問題を解決するうえで最も簡単かつ最もリスクの小さい方法になることである。

閉塞の原因
この問題が1990年代後半に米国のBWRで取り上げられるようになって以降、NRCはこれにかかわる格納容器ペイント材の健全性問題や、LOCA時のペイント異物の発生傾向に関する報告をいくつか発表した。BWRのサプレッションプール内の酸化鉄粒子に次ぐ2番目の要因と見られていたペイントチップやコンクリートダストが現在、PWRでのLOCA後の粒子状異物の主要発生源と見なされるようになった。さらに、PWRで粒子状異物に対し濾過機能を担う繊維状物質マットや、これらの関連問題は、(1)格納容器形状が異なる(サプレッションプールが存在しない)、(2)酸化鉄粒子の発生源になる炭素鋼配管が少ない、(3)BWRとPWRとの間のLOCA 後の水化学特性(BWRは中性pH、PWRは酸性pH)の大幅相違などによって、まだ十分に解明できていない。
従って、NRCは数年前に、「選択事故シーケンスに対するPWR冷却システムと格納容器の熱水力応答」と題するGSI-191を新たに包括安全問題に認定した。1993年のBWRの場合と同様に、NRCはロスアラモス国立研究所(LANL)に委託し、熱絶縁材異物の発生やその移動、ヘッドロスなどに関連した試験や解析を実施した。そのプロセスの一環として、LANLは米国の69基のPWRプラントすべてに対しパラメトリック解析(報告では「ケーススタディ」と言及)を行い、PWRプラントの87%がLOCA後に水源閉塞のリスクが非常に高くなるとの結論を下した。それを受けて、プラントの1つのデイビス-ベッセは、表面積が50平方フィートの既存の水源スクリーンを1200平方フィートの新しい大型スクリーンに交換した。しかし、それがLANLでの「ケーススタディ」にも使用されていたこともあり、この論文のPWRのパラメトリック「ケーススタディ」に関する以下の論議には、プラント初期の50平方フィート水源スクリーンも含まれることになる。
既存の水源スクリーンに対し、設計条件として300ポンドの混合粒子状物質と薄層の「潜在的繊維状物質」を想定し、NUREG/CR-6224から入手したヘッドロス予測計算式を使用して第三者によって実施された解析から、NRCの調査結果の妥当性が証明された。実際のところ、 LANLは、米国のPWRの87%が大規模LOCA 後に水源機能喪失の可能性が非常に高くなると予測したが、これらのパラメトリック解析結果は、実際より幾分厳しめなものになっている。第三者による解析から、微量の繊維状物質(わずか0.5立方フィート)と300ポンドの混合粒子状物質の組み合わせに対して、ほとんどすべてのPWRプラントでキャビテーションが発生することが明らかになった。さらに、同じ条件下で繊維状異物が数百立方フィートの場合には、逆にほとんどのプラントでヘッドロスが減少するとの結果が得られた。
NRCのNUREG/CR-6224から入手したヘッドロス計算式を使用して第三者によって実施された予測結果が、表1に示されている。これは、13591gpmの平均的再循環水量と157.5平方フィートの平均的水源スクリーン表面積を想定して計算されたこのヘッドロス予測式は(アリオン・サイエンス・アンド・テクノロジー、インノベィティブ・テクノロジー・ソリュション・ディビィションを通して<calcs.itsc.com/hloss/hloss.cgi>のウェブサイトからも入手できる)。
表1のこれらヘッドロスに関する概略評価から、1立方フィートの繊維状異物は100立方フィートの繊維状異物に比べてヘッドロスは大きくなり、このヘッドロスは300立方フィートの繊維状異物の場合とほぼ同等になるという驚くべき結果が得られた。4ループのウェスティングハウスプラントでの、破壊開始圧が6 psiで厚さ3インチの低密度グラスファイバー・ブランケット断熱材によって完全絶縁された配管の大規模破断LOCAを想定した場合、粒状の繊維状異物の発生量は恐らく100から300 立方フィートの間に収まることになると思われる。これらは、最終的に水源スクリーンに取り込まれることになる。

繊維状物質量(立方フィート ) ヘッドロス(水柱フィート)

1

16.6

30

20.2

100

12.3

300

16.6

表T.300 ポンドの浮遊粒子状異物を想定した、157.5平方フィートの平均的水源スクリーン面積と13,591gpmの平均的流量(温度は華氏200度)に対するLOCA後のヘッドロス計算値。計算には、NUREG/CR-6762ヘッドロス予測計算式とアリオンヘッドロス予測計算式が使用された。

従って、最悪ケースのシナリオは恐らく厚い繊維状異物層の場合よりはむしろ、1立方フィートにすぎない薄層の繊維状異物によってもたらされることになる。この微量な繊維状物質は、熱絶縁材や特定の可能な他の発生源からのものとは考えられない。どちらかと言えば、この繊維状異物は、例えば、ペリーやライムリックでのストレーナ閉塞事象にかかわっていた「潜在的繊維状物質」に該当するものと思われる。
アリオンウェブサイトから入手したヘッドロス予測計算式を使用して再度作成された図2から、ヘッドロスは明らかに繊維状異物の量に依存することが分かる。2つのカーブはまた、ヘッドロスが粒子状異物の量(150ポンドと300ポンドの比較)にも依存することを示している。最終的に、PWRのNPSHマージンの平均値を4水柱フィートと想定した場合、平均的流量や水源スクリーン表面積を有するPWRの被るヘッドロスは、ポンプの必要とするNPSHマージンを上回るようになる。従って、この「平均的PWRプラント」がこの厄介な安全問題に巻き込まれることは必須と言える。

PWRに対する意味合い
表1と図2の結果に対する推測から明らかなように、例えば、LOCA後のECCSの運転性能の改善には、熱絶縁材のような繊維状異物の量を減らしても一般的にあまり効果がないと言える。上記で想定した「平均的 PWR」ケースに対しLOCA時に発生しスクリーンに取り込まれる繊維状異物の量が、少なくとも300立方フィートを超える恐れのないような場合には、繊維状異物の最悪ケース量は30立方フィートになる(上記カーブ中心部の変曲点)。これは、水源スクリーンの全面にわたって薄層を形成するのに十分なわずか1立方フィートにすぎない繊維状異物量の場合より、わずかながらさらに悪いシナリオとなる。

図 2: 13,591gpmの再循環流量を想定(水温は華氏200度)した、アリオンヘッドロス予測計算式を使用して実施されたPWRのECCSスクリーンに対するヘッドロス計算値。

格納容器内部に100%金属熱反射材を有すると報告されている原子力発電プラントが何基かある。このような PWRプラントに対しては、LOCA後の水源性能解析に際して繊維状異物の存在をまったく考慮する必要がないとの考えが産業界に一部ある。この問題に対する歴史的経緯や各種の技術情報などから判断すると、この仮説は間違っていると思われる。もしプラントのドキュメント上で必ずしも特定できるとは限らないわずか1立方フィートにすぎない「潜在的繊維状物質」が、粒子状物質に対する濾過材としての機能を担うに十分な量であるなら、これは単に水源スクリーンまたは吸込みストレーナの表面積の不足問題にほかならないことが、ペリー 1号炉やライムリックでの2つの事象から実証された。PWRに対しては、この問題は一般的に繊維状熱絶縁材とは無関係なものと言える。問題はそれらの非常用水源スクリーンの表面積が十分確保できていないということである。

この問題への対応策
ポンプヘッドロスのスクリーン表面積に対する依存性を明らかにするため、69基のPWRそれぞれに対して実施された「ケーススタディ」が図3に示されている。すべてのケースに対して、300ポンドの混合粒子状物質と1/8インチ厚の繊維状物質の使用が想定された。アリオンヘッドロス予測計算式を使用して作成されたこの図表はまた、既存のPWR水源スクリーンに対して、ヘッドロスの水源スクリーン表面積への強い依存性を示している。この図から、例えば、水源流量といった他の変数が考慮されていなくても、その依存性が如何に強いかということに注視する必要がある。この予測曲線は、第三者によってヘッドロスがスクリーン表面積の約2.5乗に逆比例する冪関数を使用して作成された。
その後、第三者によって、同じアリオンヘッドロス予測計算式を使用して表面積の小さな既存の受動水源スクリーンをより表面積の大きな新しい受動水源スクリーンまたはストレーナに交換した場合の効果についての評価がなされた。図4は、「平均的」PWRケースに対し、5つの異なったスクリーンまたはストレーナ面積−100、200、300、400及び500平方フィートに対するヘッドロス対繊維状物質量の予測曲線を示しており、これからその依存性が如何に強いかということが確認できる。
図3と4での水源スクリーン表面積に対する予測曲線から明らかなように、水源スクリーンのヘッドロス予測値はスクリーン表面積の増加によって劇的に減少する(これらのグラフは対数目盛が必要になることに注意)。各種の設計変数の中で、受動水源スクリーンまたはストレーナ表面積を増大させることが、最も大きなヘッドロス減少効果をもたらすことになる。
産業界はこの安全問題に対処するため、自らプラント改造コストについて調査を行った。規制審査に75,000ドルから100,000ドル、詳細エンジニアリング解析に150,000ドルから300,000ドル、主要改造工事に3,000,000ドルから5,000.000ドルが必要になることが分かった。プロジェクトコストは、契約条項だけでなく、最終仕様にも常に左右されることになるが、これらの数値は信頼できると考えられる。

最近の状況
2003年の夏に、格納容器コーティング材の化学的影響を調査するため、LANLによって試験が実施された。これによって、LOCAのスプレー時にコーティング材と金属材の化学反応によって発生するある種の沈降物が、再循環冷却水中に混入する可能性が高くなるとことが明らかになった。もしこれらの沈降物が形成されると、沈降物は水源スクリーン上の繊維状異物マットによって濾過されることになる。さらに、他の粒子状異物と同様に、これらの沈降物は恐らくスクリーンのヘッドロスを大幅に増加させることになると思われる。

図 3: アリオンヘッドロス予測計算式の使用による、NUREG/CR-6762のPWR「ケーススタディ」データを使用した水源スクリーン面積に対するヘッドロス計算値。

図 4: 300 ポンドの混合粒子量と13,591gpmの流量(水温は華氏200度)を想定した、アリオンヘッドロス予測計算式の使用によるPWR ECCSスクリーンに対するヘッドロス計算値。
最近のACRSレターの中で述べられているPWRでのLOCA後の水化学による熱絶縁材破損への影響についてさらなる調査を行うため、LANLは、特に化学的沈降物の、鉄や亜鉛コーティング材、アルミニウム腐食率、ヘッドロスに対する影響を明確にするために、綿状沈降物による金属腐食への影響に関する研究を進めている。これは、ゼラチン状沈降物が形成されていた1979年のスリーマイルアイランド-2号炉での事故報告がベースになっていた。
従って、ACRSは最近になって、この「ゼラチン状物質」が水源スクリーンまたはストレーナに取り込まれ、ヘッドロスを増加させる大きな要因になっているのではないかとの懸念を表明した。
実際に LANLでの最近の試験結果から、もし繊維状異物ベッドが化学的劣化を起こせば、圧縮化が徐々に進展し、ヘッドロスの増加やコーティング材の劣化をもたらすことが分かった。しかし、この化学的影響問題に関しては、NRCは2003年11月に開かれた公聴会で、調査によってACRSにより提起された懸念の正当性は証明できたが、それはプラントそれぞれに対しこの問題への定量的評価基準を提供するに十分なものとは言えなかったと報告した。
これは必ずしもPWRプラントのこの問題への終結を意味しているものではないが、LOCA後の長期にわたるスクリーンまたはストレーナのヘッドロスの計算に際して、NRCがプラントスタッフに化学的影響に関する評価の実施を要求しなくなる可能性のあることを示している。それにかかわらず、産業界はこの問題の解決に役立てるため、半年にわたってのさらなる試験の実施を計画している。
また、繊維状物質やケイ酸カルシウム熱絶縁材の混合物に起因したヘッドロスの計算に関連して、LANLから新たな情報がいくつか提供されている。ケイ酸カルシウムは繊維状物質とは対照的に、非常に堅くて砕けやすい粒子状熱絶縁材である。従って、ケイ酸カルシウム熱絶縁材が配管破断LOCA 時に損傷すれば、これらから粒子状異物が生成されることになる。それにもかかわらず、試験結果から、LANLは11月に、NUREG/CR-6224予測計算式はインプットパラメータが適切に設定されれば、ケイ酸カルシウムによるヘッドロスの影響予測は可能との報告を行った。従って、既存の計算式はヘッドロスの予測計算に十分対処できることが立証されたことから、恐らく追加試験の必要性はなくなるものと思われる。
もしこれらケイ酸カルシウム熱絶縁材異物の長期にわたる化学的影響やヘッドロスへの影響に関する問題が解決できなければ、この安全問題への対応策が確立されたことにはならない。すなわち、もしヘッドロスが時間とともに単調増加するか、またはヘッドロス予測計算式が単にまだ確立できいないのであれば、その場合唯一受け入れられる対応策は、何らかの方法により異物をスクリーンまたはストレーナからたたき落とすことのできる能動装置を導入することである。
もし、LANLが水化学やコーティング材、熱絶縁材の種類などの因子が取り込まれたヘッドロス予測計算式を確立できなければ、これは、とりわけ妥当な対応策になり得る可能性は十分ある。
産業界にとって幸いなことに、 このLOCA後のPWR水源システム性能の安全問題への対応策は、 BWRの場合と同様に、すでに基本的考え方は確立できていることである。
従って、NUREG/CR-6224から入手の可能なヘッドロス予測計算式が用意できれば、PWRプラントに対しより表面積の大きな受動スクリーンまたはストレーナの設計が行えるようになる。これによって、長期にわたる再循環水確保という水源への要求条件は満たされることになる。
しかし、化学的影響や他の要因などにより最終的に受動対策が確立できないような場合には、PWRのこの安全問題に対して実用的かつ合理的な解決策がある。スウェーデンでは1992年に、ウェスティングハウス製PWRのリンハル-2号炉で、電力事業者、SV(現在 バッテンフォールAB)が表面積のより大きな受動ストレーナと比較的表面積の小さな能動ストレーナを利用する混在方式を導入した。表面積の大きな受動ストレーナは、長期にわたる化学的影響を考慮することなく、想定混合異物量に対処できるよう設計されていたのに対し、自動クリーニング機能付きの能動ストレーナはLOCAによってもたらされる異物の長期にわたる不確定な影響に対処できるよう設計された。電力事業者のスタッフは当時、それらの対策について十分な確証が持てなかったため、このようなストレーナの混在方式を採用した。それによって、能動ストレーナは受動ストレーナのバックアップ的役割を担うこととなった。振り返ると、ほぼ12年前に設置されたこのハイブリッド式ストレーナシステムは現在でもシンプルかつスマートな恒久的対応策としての機能を果たしている。
ある米国ベンダーはこの問題の解決のために、自動クリーニング機能付きストレーナを提案した。このようなストレーナは、1995-96年のEPRI BWRオーナーグループのストレーナ試験計画にも含まれていた。この装置は独創的で性能的にも優れており、検討の価値は十分あると思われる。しかし、BWRの電力事業者はいずれも、恐らく単一故障基準やこれによる多重設置などの問題によって、このオプションを選択しなかったことは指摘に値する。このユニークな装置は、ストレーナ表面の異物除去を連続回転ブレードに依存しているため、それは、例えば、スクリーン材に突きささった薄い金属片を含む広範な異物に対して100%対応できることが実証されなければならなくなる。それにもかかわらず、受動スクリーンを含まない能動スクリーンのみから成るこのシステムは、認定試験法や設計条件が明確にされ、規制上の要求条件にも十分対応できるようになれば、対応策のひとつになり得る可能性は十分にある。
最近の状況についての同じような問題から、フランスの巨大原子力事業者、EdFは最近、その58基のPWRプラントすべてに対し、既存の水源スクリーンを新しい大型スクリーンに交換する計画を進めていることを規制当局に伝えた。伝えられるところによると、EdFの原子力技術部門の責任者は米国のNRCに対して、EdFはまだその解析をすべて終えている分けではないと述べるとともに、これは複雑な問題であるため、調査がすべて終了するまで、それらのプラントへのバックフィットを行うつもりのないことを付け加えた。EdFは来年にプラントの改造工事に着手し、水源スクリーンまたはストレーナへの表面積の増大を含むいくつかの変更を行うことを計画している。これには、約1億2600万ドル(現在の為替レート換算)の費用が見込まれている。これは1基当たりに換算すると約220万ドルになる。
世界の原子力関係者が2004年2月25-27日のアルバカーキでの「異物の非常用冷却水の再循環に及ぼす影響」に関する国際ワークショップで、この安全問題への取り組み状況について論議した。この会議は、米国のNRCやOECD/原子力機関、同機関の原子力施設に関する安全委員会、解析と事故管理ワーキンググループ及び運転経験に関するワーキンググループなどで構成されている。この会議で、この問題について前回の国際会議以来の多くの新情報の提供がなされた。

総括
NRCによる、PWRのLOCA後の水源閉塞問題を取り扱っている一般通知の発行が差し迫っている中、この安全問題の主因となっている、発生確率の低い配管破断LOCA時の薄層の繊維状物質と粒子状混合異物に対する水源スクリーン表面積の不足問題に、PWRの運転事業者がさらなる認識を深めていくことが何より重要と思われる。このような表面積の小さなスクリーンに取り込まれた異物ベッドは、ヘッドロスを増大させ、再循環システムの機能喪失をもたらすことになる。この問題の解決のために、十分な表面積を有する大型受動水源スクリーンまたはストレーナの設計に対処できるヘッドロス予測計算式がNRCによって開発された。この計算式は、スクリーン上の異物ベッドに起因するヘッドロスは、スクリーンまたはストレーナ表面積の約2.5乗に逆比例するとの考えが基本になっている。米国のBWRプラントはすべて、この受動対策へのアプローチによって、これらの安全問題への解決を図った。PWRプラントに対しても、エンジニアリング解析や設計の的確な実施によって、BWRと同じような対策の導入は可能と思われる。