米国での MOX燃料利用計画
ニュークリアエンジ
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米国では現在、核兵器級プルトニウム50 tの処分計画が、米エネルギー省(DOE)の主導のもとに進められている。そのうちの25
t(当初は33 t)が混合酸化(MOX)燃料に転換される計画になっている。
冷戦の終結に伴い、米国とロシアでは多くの核弾頭の解体が進められ、その結果、核兵器級核燃料物質の備蓄量の大幅増加がもたらされることになった。これらのプルトニウムの処分計画がDOEの主導のもとに実施されている。この計画では、プルトニウムはその一部はこれまで通り備蓄を続けることにし、その残りを
MOX 燃料に転換するという戦略が講じられた。これによって、欧州でのMOX利用に対する消極的姿勢とは対照的に、米国でのMOX利用に対する関心の高さがあらためて浮き彫りにされる形になった。
DOEは、 MOX
燃料製造施設(MFFF)を、コジェマやベルゴニュークリアの施設をベースにして設計することにし、その作業をデュークエンジニアリングや、コジェマ、ストーン&ウェブスターから成る企業連合(コンソーシアム)にその作業を委託した。
DOEは当初、33 tのプルトニウムを6基のプラントで処分することを考えていたが、その後これは25
tに変更された。現在、マガイア1及び2号炉(2×1220MWe
PWR)とカトーバ1及び2号炉(2×1205MWe PWR)の4基のプラントで、プルトニウムの燃焼計画が進められている。これらの任務を課せられた原子炉はすべて、17×17燃料が使用され、約18カ月の燃料交換サイクル運転が採用されている。
同コンソーシアムは、2007年から2022年にかけて予定されている25
tのプルトニウム燃焼計画についてフィージビリティー・スタディーを行うため、当該原子炉に対し以下の3段階から成る照射計画(MRIP)の検討を開始した。
コンソーシアムはその第一段階として、MOX燃料の主管理目標を設定した。この際、その利用に際しての想定条件や制約条件がいくつか考慮された。MFFF
施設については、2007年9月に装荷が行えるよう、そのスケジュールに合わせて、設計や建設計画が進められることになる。これには規制関連事項も考慮されている。
このほかにも、当該原子炉は、MOX
燃料を装荷するためには、2007年9月までに炉心を一部改造しなければならなくなる。これらの任務を負った原子炉は現在、運転延長の認可が得られていないため、当初の40年の運転認可期間が終了するとプラントは停止させなくてはならなくなる。これらの原子炉は現行の燃料交換サイクルに従って運転され、また重大な計画外停止事象の発生の可能性も小さいものと見られている。
MOX
燃料や炉心設計に、欧州での経験を積極的に取り込むことによって、技術面や規制上に関わるリスクを最小限に抑えることができるようになる。
デューク・パワーは第二段階として、第一段階で設定した燃料管理目標を達成させるために必要な燃料戦略の策定に取り組んだ。実際のところ、MOX
燃料装荷炉心の設計に当たっては、同時に多くの制約条件が考慮された。
これらをまとめると以下のようになる:
■ MOX
燃料集合体は、既存の低濃縮ウラン燃料集合体と互換性を有するようにすると ともに、機械特性についてはこれと同一設計にする。
■ MOX 燃料の燃焼度は、集合体平均で45MWd/kgHM以下に抑えるとともに、燃料棒 のピーク燃焼度は50MWd/kgHM
を超えないようにする。
■ ウラン燃料棒のピーク燃焼度は、60GWd/kgHM以下に抑える。
■ MOX 燃料は、2サイクル運転を行った後、炉心から取り出す。
■ MOX
燃料の出力ピーキングは、ウラン燃料のそれと同一設計にする。
■
燃料の運転サイクルは、ウラン燃料管理計画(現在18カ月運転サイクル)に準拠す る。
■ 炉心へのMOX 燃料の装荷量は40%以下に抑え、燃料漏洩の可能性の小さい設計 手法を採用する。
■ MOX 燃料は 最低でも20MWd/kgHMの燃焼度を確保する。
■ MOX
燃料には、バーナブルポイズンは含めないようにする。
■
使用するプルトニウムは、核兵器級燃料物質(<
7% Pu-240)の同位体組成を考慮 する。
■ MOX 燃料を構成するウランには、U-235の名目濃縮度が0.25%の劣化ウランを使用
する。
第三段階として、上記設計手法の導入によって燃料管理目標が達成できるか、また各種の想定条件や制約条件もすべてクリアーできるかなどについて、検証を行うため、デューク・パワーの運転計画全般にわたって詳細検討を実施した。PWR炉心の燃料集合体は一般的に、第一、第二または第三サイクル照射燃料体で構成されている。デューク・パワーは「Casmo-4」や「Simulate-3」といったMOX燃料コードを使用して核解析を行った。
施設の設計
MFFF施設の設計は、南フランスのマルクールに位置し、順調に操業を続けるメロツクスプラントをそのベースにしている。この施設のプロセス設計には、北フランスのコジェマのラアーグ施設での経験をもとに、湿式精製法が採用された。
MOX製造施設のプロセス設計は、コジェマとベルゴニュークリアから成る企業連合によって、また施設本体の設計は、デュークエンジニアリングやストーン&ウェブスターから成る企業連合によって、それぞれ進められている。
このプロジェクトの設計作業は、1999年3月からすでに開始されており、2002年3月に終了する予定になっている。施設の設計については、NRCの認可が必要になり、またこの施設は将来、DOEの管轄下に置かれることになっている。設計認可の最終の申請は、2002年に予定されており、順調に推移すれば、2003年から建設工事が開始され、2006年に施設の利用が行えるようになる。プラントで最初に製造される燃料は2007年に上記原子炉に装荷されることになる。
MFFF施設 は2つの主要プロセスから成っている:ガリウムをプルトニウムから除去する湿式精製プロセスと、酸化プルトニウムやウランペレットの製造と燃料集合体への組み立てを行うMOX
燃料製造プロセス。
湿式精製プロセスは、溶解、精製、転換の3つのステップから成っている:
● 溶解ステップには、銀触媒による溶解と、ろ過プロセスが含まれている。このプロセ
スの採用の背景には、その高い効率性とPuO2粉末特性に対する依存度の低さがあっ た。これによってPuO2粉末の溶解特性の大幅向上が可能になる。
● 精製ステップは、プルトニウム注出、溶剤再生、酸回収、銀回収などのプロセスから
成っている。このプロセスは、プルトニウム漏洩が極めて少なく、またガリウムの除染
係数が非常に高いことがその特徴になっている。プルトニウム注出ステップの主機能 は、プルトニウム注出、不純物洗浄、プルトニウム回収プロセスから成っている。これ ら一連の作業はパルスカラム内で行われる。
● PuO2への転換は、連続シュウ酸塩転換プロセスによって行われる。酸化プルトニウ
ムへの転換は、いくつかの主要ステップから成っている:沈降、母液の気化、ろ過、乾 燥と焼成。
MOX製造
ベルゴニュークリアとコジェマでは、A-MIMAS(マイクロナイズド・マスター・ブレンド・プロセス)手法の導入によって、PuO2とUO2粉末の混合や、ペレット製造を行っている。
燃料製造プロセスは、4つの主要ステップから成っている:一次ブレンドと最終ブレンド、ペレット製造、燃料棒の製造と燃料集合体の組み立て。
一次ブレンドと最終ブレンド
A-MIMASプロセスでの一次ブレンド工程でのプルトニウム富化度は、最終ブレンドの生成物のそれより高い20%に設定される。ブレンドには3種類の粉末が使用される:
PuO2、UO2とMOX 燃料ペレットからのリサイクルスクラップ
。一次ミル工程は、このプロセスでの最重要ステップのひとつで、これに使用されるボールミルは、ふるい分けや最終混合工程に進む前の均質ブレンドの生成に必要な条件すべてを満たす最良な装置と言える。
最終ブレンディングは、プルトニウムの最終富化度を調整するA-MIMASプロセスの最終ステップである。最終ブレンディングの実施後に、これらの粉末は
MOX 燃料ペレットに要求される均質特性を達成するために、さらに混合化機によって混合処理がなされる。
ペレット製造
グリーンペレットの最終特性のほとんどがこのステップで決定される。ペレット製造工程で設定される各種パラメータは、ペレット欠陥の発生防止のため最適管理されなくてはならない。
たとえば、回収粉末や廃棄ペレットなどといった副産物については、リサイクル利用が行えるようになっている。これには、廃棄ペレットのクラッシングや均質化、MOX製造工程前段での回収粉末のペレット化や焼成などのプロセスが含まれている。焼成工程では、ペレットに含まれる有機生成物の除去や、要求されるペレット比重を達成するための気泡除去などの作業が行われる。センターレス研削盤によって焼結ペレット直径の最終調整が行われる。このシステムでは、廃棄ペレットや研削加工工程から発生するダストの処理が行えるようになっている。
燃料棒の製造
燃料棒コラムへのペレット装荷後に、TIG溶接やヘリウム加圧、除染作業などが実施される。燃料棒については、その健全性を確認するため、ヘリウムの気密特性や溶接品質、ペレットコラム内のプルトニウム富化度などについて検査が行われる。
燃料棒の組み立て
数種類のプルトニウム富化度から成る燃料棒によって燃料集合体へのに組み立て作業が行われ、その最終燃料集合体が梱包や出荷に備え保管される。
設計上の課題
MFFE施設の設計に際しては、新たに多くの課題への取り組みが必要になった。供給原料としての核兵器級プルトニウムの使用は、米国での最初の試みであった。プルトニウムは現在、DOEの管轄下に置かれており、その使用に当たっては、原子力規制委員会の認可が必要になる。これには
ユーロからの米国への技術移転も含まれている。
NRCによる認可
DOEの管轄下に置かれることになるMFFF施設は、サバンナ川沿いに設置されている他のDOE施設と並行して建設され、その運転は外部委託によって行われることになる。MFFF施設の建設には、NRC規則への遵守が必要になり、企業連合は、建設サイトが、NRCや環境庁、職業安全衛生局、州及び地方機関などが課す規制条項をすべて満たしていることを証明しなければならなくなる。
MFFF施設の審査は、他の燃料サイクル施設とは異なり、プルトニウム施設申請者にかなり厳しい規制を課している10
CFR 70に準拠して行われることになる。建設認可や施設の登録、使用認可などに関する業務は、それぞれ個別に実施しなければならない。
プロセスハザードの解析
包括安全解析手法(ISA)が整備され、安全設計基準の制定の際にこれが利用できるようになっている。
ハザード認定作業のスターティングポイントとして、コジェマ施設をベースにした一次ハザードリストを米国の規則や基準との整合性を図りながら作成した。この手法の第一ステップは、プロセスハザードに対する予備解析を実施することである。これによって、
MFFF施設の想定事故シナリオについての定量評価が可能になり、安全の確保に必要な対策を明らかにすることができるようになる。
さらなる評価が必要になる場合には、次ぎのステップとして、HAZOP(ハザード・アンド・オペラビリティー・アナリシス)やフォルト・ツリーといった手法を用いて詳細解析が実施されることになる。
臨界管理
臨界安全に関する評価は、米国の基準に準拠して行われる。
施設の内部は、臨界管理の観点から多くの小区画に分割されている。形状管理が必要とされる場合にはいつでもこれに対応できるようになっている。このほかにも、臨界防止の観点から、プロセスでのプルトニウム取り扱い量に制限が設けられている。このような二重対策の導入によって、臨界事故の発生に至るには、処理工程で少なくとも2種類の異なる事象の同時発生が必要になる。
MFFF施設は、それぞれ異なる物理的状態に対し、それ特有の臨界ベンチマーク実験の実施を考えている。これは、PuO2に対する高、中、低といった3種類の富化度調整や、混合酸化物粉末や硝酸塩、シュウ酸溶液などの取り扱い、ペレット製造や燃料棒の組み立てといった作業内容を考慮すると重要な活動要素になる。ベンチマーク実験については、追加実験がいくつか必要になることが予想されるが、これらは、国際的に認定された臨界ベンチマーク便覧から主に引用されることになる。ベンチマーク実験の妥当性に対する検証作業が、もしそれらが利用できれば新たに開発された手法や、また従来から使用されている統計手法などを用いて実施されることになる。
静的及び動的閉じ込めシステム
閉じ込めシステムの設計は、流出事象やシステム故障発生時に、作業員の立ち入る恐れのあるエリアの汚染防止や許容限度を超える放射性物質の放出防止を目的として実施されることになる。
施設の設計に際しては、多重閉じ込めシステムの導入が考慮されている。これらのシステムそれぞれは、静的及び動的閉じ込めシステムのサブシステムから構成されている。
静的閉じ込めシステムは、建物壁、バリヤ、グローブボックス、エンクロージャ、フィルター、フード、配管、タンク、弁、排ガスダクト、プレナム、容器などの要素から成っている。
動的閉込システムは、 HVAC
排ガスのサブシステムから構成されている。動的閉込システムは、高汚染管理区域から低汚染管理区域への汚染物質の流入防止を図るため、汚染レベル区画間に圧力差を維持させることを目的にしており、静的システムを補完する役割を担っている。
動的及び静的閉込システムは、互いにバックアップ的な関係にあるわけではなく、それぞれの機能を補完し合う任務を負っている。