ノズルクラックがヘッド腐食に発展

 


ニュークリアエンジニアリング
インターナショナル

2002年2月にデイビスベッセ原子力発電プラント(PWR)で検出された原子炉ヘッドの腐食は、同プラント特有の事象であった。

デイビスベッセプラントは2002年2月16日に燃料交換のため停止した。停止時に行われた作業には、原子炉圧力容器(RPV)を貫通するノズルの点検が含まれていた。この点検は、制御棒駆動機構(CRDM)に関連したノズルに重点が置かれていた。
運転事業者のファースト・エナジーは、3つのCRDMノズルに軸方向クラックが発生し、原子炉圧力バウンダリーから冷却材が漏洩しているのを発見した。クラックの指示模様は、原子炉圧力容器のヘッド中心部に位置する1,2及び3ノズルから検出された。ファースト・エナジーは2002年2月27日に、これらに関する調査結果をNRCに報告した。
原因究明のため、ファース・トエナジーは3 CRDMノズル周りのRPVヘッドの状態について調査した。この調査には、CRDMノズルの取り外しやRPVヘッド表面上のホウ酸堆積物の除去、超音波による RPVヘッドの肉厚測定などが含まれていた。
ホウ酸除去作業を終えた際に、ファースト・エナジーは、RPVヘッドの3 CRDMノズル貫通部の下り勾配側に大きな空洞があることを発見した。超音波探傷試験の結果、RPVヘッドのノズル周りの炭素鋼が減耗しているのが確認された。減耗エリアは 、3 CRDMノズル貫通部からRPVヘッド下り勾配に向けて長さ5インチにわたっており、その幅は最も広いところで4から5インチに達していた。空洞の深さは、RPVヘッド内面のステンレスクラッド層(厚さ公称3/8インチ)にまで達していた。
これらのノズルについては、軸方向クラックの存在は以前から確認されていたが、安全上早急な対応を必要とする問題ではないと認識されていた。この問題は、1997年にNRCにより発行された一般通達 97-01のなかで取り上げられていた。これに関しては、これまでプラントのメンテナンス停止時に検査や補修が行われていた。しかし、2001年にいくつかのPWRプラントで、ノズルの構造維持溶接個所の上部で幅一面にわたる円周状クラックが検出された。
これらのノズル機能のうちのひとつは原子炉冷却システムの圧力バウンダリーを確保することである。CRDMノズルのクラックは、この一次冷却システムの圧力バウンダリーの喪失を意味するもので、安全上重大な問題に発展する可能性がある。
2000年11月にオコニー1号炉、2001年2月にアーカンソー1号炉にてそれぞれ検出されたノズルクラックはともに軸方向のみに限定されており、NRCのノズルクラックに対する安全評価基準に照合すると、安全上それ程大きな問題にはならない。しかし、2001年2月にオコニー3号炉、2001年4月にオコニー2号で円周状クラックが検出されたことにより、その安全性やPWRプラントでのノズルクラックの拡大に強い懸念が持たれるようになった。
オコニー3号炉の運転事業者、デューク・エナジーは、ホウ酸水の漏洩兆候について調査するため、RPVヘッド外面に対し目視検査を行った。その後、新規の漏洩や漏洩継続を示す新たなホウ酸堆積物の検出への妨げになる既存のホウ酸堆積物をすべて除去するため、プラント停止に先立ってRPVヘッドを洗浄した。69のCRDMノズルのうちの9つに、RPVヘッドのノズル貫通部に少量のホウ酸(1立方インチ以下)が堆積しているのが特定された。
何回か調査を行った後、デューク・エナジーはクラックの指示模様の存在を特定したが、それらは、これまでとは異なる特徴を有していたため、それ程重要でないクラックと誤認してしまった。
デューク・エナジーは、CRDMノズルのクラックは主に一次冷却水による応力腐食割れ(PWSCC)が原因と結論づけた。J形グルーブ溶接部やその周りの熱影響部にクラックが発生し、冷却材がCRDMノズルと RPVヘッド間のアニュラー領域を通して漏洩したことにより、CRDMノズルのクラックはノズルの外面から始まった。
RPVヘッドの外面にCRDMノズルクラックから漏洩したホウ酸堆積物が検出されたことにより、かなりの量の原子炉冷却材が一次圧力バウンダリーからCRDMノズルと RPV ヘッド間のアニュラス領域に漏洩し、アニュラス領域を上昇した後、最終的にRPV ヘッド外面に漏出したものと推定された。600合金や182合金に対しては、溶接部でのPWSCC起因のクラック幅は非常に狭小なため、ノズルやこれに関連した溶接部の軸方向クラックからの漏洩量は非常に少なくなると考えられる。これに加え、円周状クラックでの圧力誘発による曲げ拘束力によって、オコニー3号炉での少量なホウ酸堆積物の検出例からも明らかなように、かなり大きな円周状クラックの場合でも、CRDMノズルからの漏洩量は最小に抑えられるようになる。
CRDMノズルの大部分はRPVヘッド内に収められており、室温にて締まりばめ処理がなされている。もし、これらの効果がプラント運転条件の下でも維持されるなら、冷却材のアニュラス領域からの漏洩に対する抑止作用がもたらされ、目視検査の対象にされるRPVヘッド上の堆積物量は少なくなる。
CRDMノズルの劣化によって、いくつかの問題点が浮き彫りにされた。

● CRDMノズルのJ形グルーブ溶接部の182合金にクラックが検出された。これは、溶接母材の状態のみをベースにした現在のクラック感受性モデルの妥当性に対し、問題点を提起することになった。
● アーカンソー1号炉でのクラックの発生は、原子力産業界の感受性モデルの妥当性に対する問題点を浮き彫りにした。クラックは、1997年1月を基点として実効全出力・年(EFPY)が15を超えると発生の可能性が高くなると予測されていた。
● CRDMノズルでの円周状クラックの発生は初めての事象であった。これは、冷却材喪失事故につながる恐れのあるCRDMノズルの損傷の急速進展や制御棒放出事象に対する可能性を高めることになる。
● CRDMノズル外面から内側に向けて進展する円周状クラックが特定されたのは初めてのことであった。これは、比較的問題の小さい軸方向クラックからの漏洩の2次的影響への懸念を増大させることになる。
● CRDMノズルでの円周状クラックは、少量のホウ酸堆積物の存在によって特定された。これは、ノズルの健全性が損なわれるようになる前にCRDMノズルの劣化状況を検出できる、より効果的な検査手法の開発の必要性を増大させる。

RPVヘッドの目視検査やノズルでの体積検査は、定期的に実施されていることから、 ノズルでのクラック成長率は、次の検査時までノズルの構造健全性が維持されることを保証するという観点から、重要な検討項目になる。検査時に傷のなかったノズルでのクラック成長率は、次の検査時まで重大な傷に発展する恐れのないよう十分に小さくなければならない。
感受性ランキングに対する推奨モデルから、PWRプラントはいくつかのグループに分類される。

● ホウ酸堆積物の検出によってノズルにPWSCCの存在が確認されたループ。これらに対しては、クラックの再発や他のノズルへの影響が懸念される。
● オコニー3号炉の状況から、5EFPY以下の感受性ランキングに基づくPWSCCに対して感受性が中等度のグループ。
● オコニー 3号炉の状況から、5EFPY以上で30EFPY以下の感受性ランキングに基づくPWSCCに対して感受性が中等度のグループ。
● オコニー 3号炉の状況から、30EFPY以上の感受性ランキングをベースにしたPWSCCに対する感受性が低い残りのプラント。

PWSCCに対する感受性が低いプラントに対しては、PWSCCによる劣化発生の可能性は低いことから、現行の検査手法を強化する必要はないものと思われる。これは、検査を強化しても、ノズルで新たにPWSCCが検出される可能性が低いからである。
オコニー 3号炉での状況から、5EFPY以上で30EFPY以下の感受性ランキングに基づくPWSCCに対する感受性が中等度のプラントに対しては、ノズルに対してノズルからの漏洩による微少なホウ酸堆積物が検出できる、より効果的な100%目視検査は高いリスクが課せられるようになる前に、PWSCCによる劣化を確実に特定できる優れた手法と言える。この効果的な目視検査は、断熱材やRPVヘッド外面に存在する既存の堆積物、漏洩検出の妨げになるような他の因子などによる影響を受けない。
オコニー3号炉の状況から、5EFPY以下のランキングに基づくPWSCCに対する感受性が高いプラントに対しては、ノズルでのクラック発生の可能性は高くなることから、ノズルに対して効果的な100%目視検査を導入していく必要がある。この手法は、以下の2つの特徴を考慮することにより、ノズルクラックからの漏洩検出やその正確な状況把握が可能になる。
その特徴のひとつは、ノズルの貫通クラックはいずれも、RPVヘッド表面に十分な漏洩量をもたらすというプラント特有の性質である。第二番目は、感受性が中等度なプラントに対して効果的な目視検査と同じように、目視検査の効力が断熱材や、RPVヘッド表面に存在する既存の堆積物、その他の因子などによっての影響されないということである。その妥当性が認められた目視検査に代わるものとしては、 ノズルに対し効果的な100%体積試験が、ノズルの構造健全性の確認に適した方法になる可能性が十分に考えられる。
CRDMノズルて゚すでに PWSCCの発生が確認されているプラントに対しては、プラント運転に伴ってノズルクラックが進展していく可能性が高くなる。従って、ノズルに対して効果的な100%体積試験が、ノズルの構造的健全性が維持されていることを立証するに十分適した方法になり得ると考えられる。

補修計画
ファースト・エナジーは、RPVヘッドの補修計画をNRCに提出した。これは、原子炉ヘッドの腐食部分の切除と厚さ15cmの耐蝕性ニッケル合金プレートによる溶接補修から成っていた。プレートの直径は約45cmで、腐食部周囲のノズル開口部だけでなく、腐食領域に隣接する他のCRDMノズル開口部もこれによって覆われることになった。補修コストは約2500万ドルと見積もられた。
ファースト・エナジーは、NRCの認可いかんにもよるが、デイビスベッセを2002年の第3四半期中に再起動させることを希望していたと述べた。
ファースト・エナジーは、事象の分析報告書をすでにNRCに提出したと述べた。報告書の要点は次のようになっていた。

● その結論については、デイビスベッセがNRCに提出した原因報告書の概要とNRCの派遣調査チームによって作成された報告書のそれとは一致したものになっている。
● 損傷は、2つのCRDMノズルのクラックから浸出したホウ酸とRPVヘッド炭素鋼の腐食に起因していた。ステンレス製ノズルでのクラックは、恐らく4年以上かけて進展していったものと推定される。
● この事象の早期検出機会を逸したことも含め、この腐食には他にもいくつかの要因がかかわっていた。
● いくつかの是正対策案がリストアップされた。これらには、例えば、検査やメンテナンスをサポートするためのヘッド上部の作業デッキの改善といったすでに実施済みのものもいくつか含まれていた。これら以外にも腐食損傷個所がないかどうかを確認するため、すべての原子炉冷却システム機器に対し検査が行われた。この長期的問題を特定し、解決していくために、約40基のプラントに対して総点検が実施された。また、ホウ酸腐食管理計画の策定作業も同時に進められた。
● ファース・トエナジーは、これに関連して経営層による内部診断の実施を計画している。