欧州での新型 BWRの開発状況


                                二ユークリアエンジニアリング
                                          インターナショナル
現在運転中の原子力発電プラントがその運転寿命に近づくにつれ、国民に広く受け入れられるようなより安全性に優れた新世代型発電プラントの開発へのニーズが一層高まってくる。これに関連して、多くの設計案が検討されているが、ABBアトムの設計によるBWR 90+ プラントが現在その最先端を走っている。このBWR 90+ 設計には、先行モデルのBWR 90の欧州要求仕様に対する評価結果が反映されるようになっている。

欧州の原子力事業者は90年代初期に、将来の軽水炉に要求される設計仕様のドラフトの作成に着手した。これは、将来の新型軽水炉の建設に際してその認可が保証されるような基本設計基準を確立することに狙いを定めていた。そのドキュメントは、EUR -「欧州電力事業者要求仕様」として知られ、ほかの電力事業者やベンダーからのコメントを反映させるため、その初版のRev Aが1994年に発行された。スウェーデンとフィンランドは1995年に、EU(欧州連合)への加盟を果たした。その後まもなくして、スウェーデンの電力事業者の FKA とフィンランドの電力事業者の TVO が EUR ドキュメントの作成メンバーに加わった。
EUR ドキュメントは4つのボリュームから構成されており、このうちのボリューム3は欧州の設計要求仕様に対する分析評価、すなわちこれら新型設計プラントのEUR要求仕様への適合状況に関する評価結果から構成されている。従って、各種の新設計案それぞれに対し、ボリューム3が作成されることになる。現在、フランスとドイツとの共同開発によるEPR、欧州受動設計プラント(EPR)、ABBアトム設計によるBWR 90設計がEURボリューム3の発行対象になっている。これらの評価はEURドキュメントの Rev Bに基づいて行なわれることになる。
上述の北欧の電力事業者2社は1997年に、オランダのKEMAとともに、プロジェクト推進メンバーとしての立場を考慮し、このBWR 90プラントの評価活動を進んで引き受けた。 このプラントは、フィンランドでの1991年の5基目の原子力発電プラントの入札対象にされていたため、その入札用ドキュメントにプラントの設計仕様が詳細に記されていたことから、今回の評価活動に際してのベース的役割を担うことになった。フィンランド議会は1993年に、原子力発電プラントの新規建設を中止する決定を下した。それにもかかわらず、ABBアトムは電力事業者と共同して、BWR 90+という名称のもとに、新型軽水炉の設計開発を引き続き進めてきた(最近議会によって、5基目のプラントの建設が承認された)。BWR 90に対するEURボリューム3の内容は以下のようになっている。
チャプター 1:
プラント概要(ABBアトムとプラントベンダーが担当)。
チャプター2:
EUR要求仕様への適合状況分析(推進メンバーによって作成され、EUR ステアリング委員会により承認された)。
チャプター3:
BWR 90設計に対するEURの要求仕様( EUR ステアリング委員会によって承認された)BWR 90に対する評価活動は、1998年までにそのほとんどが終了した。EURグループは、その中心メンバーのフランス電力庁(EDF)とともに、EUR要求仕様の制定に向けての取り組みを精力的に進めた。これにより、このドキュメントは欧州での将来の軽水炉設計に際して大きな影響力を及ぼすことになると思われる。

BWR 90のEUR要求仕様に対する評価

1997年に、このプロジェクトを推進するための事務局がスウェーデンのフォルスマークに設立され、プロジェクト実施マニュアルが制定された。プロジェクトメンバー3社は EDF や ABB アトムとともに、EUR/BWR 90調整グループを発足させた。
プロジェクト・チームは、評価担当者に対し、BWR 90のEUR要求仕様への適合状況に関する評価活動を開始するよう指示した。またその作業の過程で、より実践的な評価手法が随時導入された。
EURドキュメントのほとんどは、BWR 90のEUR 要求仕様に対する適合状況の分析結果によって占められている。
ボリューム1:主方針と主要求仕様。
ボリューム2:原子炉設備に対する一般要求仕様(全19チャプター)。
ボリューム4:発電プラントに対する要求仕様(24チャプター)。
ボリューム4は、このタイプのプラントは原子炉とタービンが直結されているため、BWRにとって重要なものになる。
BWR 90のEUR要求仕様への適合性評価は、フィンランドでの入札ドキュメントにその設計仕様が詳細に記されていたため、比較的容易に進めることができた。評価結果に影響をもたらす恐れのあるBWR 90+プロジェクトへの設計変更項目についても検討対象に加えられた。しかし、これらについては、すでにBWR 90+プロジェクトの参加メンバーによって承認が得られているもののみに限定された。
BWR 90に対する評価は、1997年秋から1998年春にかけて集中的に実施された。「しなければならない」、「することが望ましい」といった表現がEUR の各チャプターの中で適宜使い分けられ、BWR 90の4,000項目以上にわたる要求仕様への適合状況について分析評価がなされた。各項目それぞれに対する評価結果がドキュメント化され、そのなかには以下の項目に関する情報やコメントが適宜盛り込まれた。
● 設計内容が詳細に記述されたBWR 90関連ドキュメント。
● 評価結果。
● 評価結果の妥当性。

適合状況の分析評価

BWR 90は、EURの要求仕様のほとんどを満たしている。これらには、重要設計項目やプラント建設、品質保証、運転などにかかわる項目が数多く含まれている。
EURドキュメントには、欧州の多くのサイトでプラントの大幅改造を行うことなく、その認可や建設が保証できるような設計基準を確立させたいとする欧州の電力事業者の願望が強く反映されたものになっている。この結果、たとえば過酷な気象条件や、地震、航空機衝突、外部爆発といった外的ハザードに対する防護仕様が広範に定められることになった。
これらの要求仕様を満たすには、フィンランドのBWR 90については設計変更が必要になる。BWR 90は当初、地震が少なく、プラント周辺の人口密度が低い北欧特有の気象条件などを想定して設計された。外的要因によるハザードは、設計仕様には考慮されているものの、EUR要求仕様に比べると、全体的にいくぶん穏やかなものになっている。しかし、ABB アトムは、プラントレイアウトの変更を行うことなく、EUR仕様に完全に一致させることは可能との見解を示している。これは、軍用機の衝突といった最悪ケースに対しても当てはまる。しかし、構造体(外壁強化)や、システムやコンポーネントに対しては設計変更が必要になるものと思われる。評価結果から、これらの項目についても、全体的には要求仕様への適合は可能との結論が得られた。
次のセクションで、 BWR 90のEUR 要求仕様への適合が困難と思われる重要項目のいくつかについて、その概要が述べられている。全体内容については上述の総合報告のなかで確認できる。

12時間規則
EURドキュメントに新たに設けられた最も厳しい要求仕様は、原子炉の安全性にかかわる分野に集中している。欧州の電力事業者は、12時間規則を導入した。
この規則は、過酷事故の際に、運転員は最初の12時間は何も操作する必要のないことを意味している。さらに、最初の12時間は、格納容器ベントも必要ないようになっている。BWR 90については、早期での格納容器ベントは、放出される希ガスによってプラント周辺の線量率をEURの定める制限値以上に上昇させる恐れがある。
欧州では1980年代に、BWRに格納容器ベントシステムの導入が図られた。格納容器の内圧を開放することによって、事故の拡大防止が図られ、プラントの安全性が大幅に向上する。このようなシステムが、スエーデンの原子力発電プラントとフィンランドのオルキルオト発電所のBWR 2基に設置されている。ベント開始に先立ち、フィルターによってエアロゾルやヨウ素が除去されるため、放射性物質の放出が大幅に減少する。特に期待のもたれる大きな効果は、土壌の汚染回避である。このことが、北欧の原子力プラントに格納容器ベントシステムの導入を促す最大要因になった。この概念の導入により、格納容器の内圧はその後徐々に大気圧まで低下し、冷却水の注入と相まって、原子炉と一次格納容器は最終的に安全な状態に収拾されることになる。
このことにもかかわらず、EURドキュメントは、初期段階での格納容器ベントに起因した希ガス(特にキセノンXe 133)による線量率の上昇は認めていない。EURの基本的考え方は、過酷事故後に、プラント周辺(原子炉から約800m)で、避難などの非常措置を講ずる必要性がないようにすることである。EUR グループは、これをBWR 90設計に対する唯一の改善必要項目と見ている。
BWR 90+ 設計では、比較的早い段階でのベント操作が回避できるよう、より大型の一次格納容器の使用が考えられている。これはまた、EURの要求仕様を満たすことにもなる。

調整プロセス

BWR 90設計については、このほかにも調整グループによってEUR要求仕様に合致しない重要項目の多くが明らかにされた。以下に、これらの項目についての概要がABB アトムの見解とともに述べられている。これらの問題に対する最終解決策は、現在まだ検討中の段階にある。この結果いかんによっては、不適合項目のさらなる追加や、既存の不適合項目の一部削除が生じる可能性がある。

送電系統に対する要求条件
EURドキュメントには、プラント出力を低下させることなく送電系統の外乱に対応できるようにするための設計仕様が定められている。北欧特有の要求仕様(NORDEL)に基づいて設計されたBWR 90には、送電系統の電圧変動への対応について、それほど厳格な要求が課せられていない。しかし、EURの送電系統に対する要求仕様は、NORDELのそれに準拠させる方向で調整されることになると思われる。
ABB は、コスト削減の観点から、NORDEL仕様に合致させるためのEUR要求仕様の改定に同意する意向を示している。プラント運転事業者は、系統外乱への対応は系統運用事業者が自らの責任で行なうべきであると考えている。

計測制御管理
BWR 90のプロセスオートメーションシステムやプラント保護システムに対するソフトウェア要求条件や多様設計思想については、EUR仕様には完全に一致していない。
BWR 90で使用される機器は、EUR の要求する原子力基準(IEC 880)を満たしておらず、またプロセスオートメーションシステムや保護システムも多様設計思想が必ずしも十分に反映されてはいない。両システムは、同一のハードウェアや基本ソフトウェア技術に準拠して設計された機器が使用されるようになっている。しかし、この2つのシステムについては、適用されるコードが異なっている。このことは、機能的多様性が一部ながら確保されていることを意味している。
BWR 90+ では、計測制御システム(I&C)の機能はEURの要求仕様に基づいて設計されることになる。

放射線管理
BWRは、EURの要求仕様が満たされないような高レベルの放射線にさらされている。BWRタービンからのスカイシャインによって、プラント周辺の線量率は、EUR の制限値をかなり上回ることになると思われる。この要求仕様は、今後も引き続きBWR技術の導入を図っていくためには、国際放射線防護委員会の線量基準に合致するよう改訂する必要がある。同様なことが、EUR の制限値に比べかなり高めの状況にある通常運転時でのタービン周辺の放射線量に対しても当てはまる。ABB アトムの見解によると、その線量率を、世界的に認知されたICRPの線量限界値より低めに設定することは、コスト・効果の点で問題があるだけでなく、その合理的根拠を見い出すことさえ困難である。EUR の要求する制限値は、自然バックグラウンドの変動幅よりも小さい。

燃料取扱い時の未臨界性
EUR 仕様では、原子炉内外での燃料取扱い時の、炉心やその関連機器とシステムでの実効増倍率(keff)は、中間の燃料シャフリング計画を含め、単一故障または単一手順エラーを想定した場合でも0.95以下になるよう要求している。
BWR 90では、燃料の乾式貯蔵施設や燃料プールについて、keff<0.95の基準が満たされるよう設計されている。原子炉については全制御棒が炉心に挿入された状態でkeff<0.95が確保できるようになっている。単一故障または単一手順エラーを想定した場合でもkeff<0.99が維持できるようになっている。また、制御棒1本の挿入不能や挿入手順エラーを考慮した場合でも、keff<0.99が確保されるようになっている。この点に関してABB アトムは、EUR ドキュメントは現行のBWR技術基準に準拠させるようにすべきと主張している。

使用済み燃料貯蔵容量
EURは、プラントサイドに使用済み燃料を10年間(MOX燃料に対しては15年間)貯蔵できるスペースを確保するよう要求している。BWR 90では、使用済み燃料プールは5年分と緊急時の1炉心分の貯蔵が行なえるように設計されている。北欧では、暫定の使用済み燃料貯蔵施設の建設が計画されていることもあり、10年分の貯蔵容量はコスト・効果の点で問題があると考えている。同様な.理由で、MOX燃料の15年分の貯蔵も受け入れが困難と思われる。これとは別に、サイトに独立した形態の貯蔵施設か貯蔵建屋を建設することによって、この要求仕様の遵守は可能になる。BWR 90+は、将来、貯蔵容量の増強が可能なレイアウト設計になっている。

高エネルギーライン
EURは、原子炉冷却材のような高エネルギー(高圧と高温)ラインは、一次格納容器を貫通させるべきでないとコメントしている。BWRでは、原子炉冷却材浄化システムへの接続を含めて、蒸気ラインや残留熱除去ラインが一次格納容器を貫通している。最新のBWR設計では、残留熱除去 システムは格納容器の外部に設置されている。EUR はこの設計思想を踏襲すべきと考えられる。
不適合項目のなかで、EUR グループが最も重視しているもののひとつは、炉心溶融事故後の比較的早い段階での格納容器ベントにより放出された希ガスによるプラント周辺部での線量率の上昇である。上記で論議された他の項目と同じように、この問題に関しては次ぎのような対策を講じるによって解決できる。:EURに対するBWR技術基準の適用;EUR要求仕様の変更;BWR 90設計の見直し。

BWR 90+プロジェクト

ABBアトムは1994年以降、フィンランドの電力事業者のTVOと共同して1991年にフィンランドに提示した設計案に対する改善対策を進めている。最近、スウェーデンの2つの代表的電力事業者のFKA と OKG、バッテンフォール、シドクラフトなどがこの活動に参画した。TVOにとっての最大の関心事は、ABB アトム設計プラントを、フィンランドでの新型プラント導入のための選択肢のひとつとして確保することと、スウェーデンの電力事業者が現在運転中のBWRプラントを将来リニューアル化する際の原型となる原子炉を開発することである。
BWR 90+の設計思想は、スウェーデンとフィンランドで現在運転中のABB アトム製のプラントの設計基準にも反映されている。インターナルポンプや微調整型制御棒駆動機構、SVEA最適燃料集合体、気密保持用スチールライナーが内張りされたプレストレストコンクリート製一次格納容器などがその代表的特徴になっている。以下の表に、BWR 90+の主要パラメータの一部やその設計目標、これに対応した EURの設計目標が示されている。

表1.EURとBWR 90+ の設計目標

BWR 90+ 開発の主目的は、BWRが欧州の電力自由市場で経済的競争力を備えた選択肢のひとつとして存続できるようにすることである。上記パラメータが、プラントの経済性に大きなかかわりを有することは明白である。これまでの経験から、この表に示された目標値については、その実現の可能性は非常に高いものと思われる。たとえば、ABB アトムのインターナルポンプは、この10年間に90%を超える稼動率で運転されており、またフィンランドで運転中のBWRは、その出力規模が小さいことにもよるが、通常運転時の燃料交換停止は20日以下となっている。従って、これらのプラントでは、発電コストの低減化が可能になる。公表されているフォルスマーク1,2及び3号炉の発電コストからも、このことが確認できる。
経済性にかかわる評価を別にすると、BWR 90+の開発に際しては2つの重要条件が考慮されなければならなくなる。これらは、フィンランドの規制当局のSTUKやEURから出された要求条件がベースになっている。
両ケースとも、過酷事故にかかわる要求仕様がそのベースになっている。 BWR 90に比べ、一次格納容器の容積が増大しているため、炉心溶融事故時に想定されるかなりの量の水素ガスや他のガスを、フィルターベントを通して放出させることなく、格納容器内に閉じ込めることが可能になる。圧力抑制プールについても容積の増大が図られているため、冷却システムに依存することなく12時間にわたって残留熱の除去が可能となる。これらの設計改善によって、セクション3で論議されたEURの要求仕様を完全に満たすことができるようになる。
このタイプの格納容器が、図 1に示されている。コアキャッチャーの配置が、BWR 90に比べて大きく異なっている。BWR 90では、原子炉圧力容器を貫通する炉心デブリ(溶融物)は、圧力抑制プール内に落下するようになっており、水蒸気爆発の可能性が残されていた。BWR 90+では、炉心デブリは、乾式のコアキャッチャーに落下するようになっており、この問題が回避されるようになる。これによってまた、炉心デブリによる格納容器本体への影響を考慮する必要がなくなる。すなわち、格納容器の健全性や耐漏洩性の維持に必要な構造部にまでその影響が及ぶようなことにはならない。
現在、受動安全システムに強い関心が寄せられており、EURにもこれと同じような考え方が導入されている。BWR 90+の開発に際して、その多重性や分散配置を考慮したバランス設計や、多様性、受動特性などについて検討が加えられた。また最善の解決策を見い出すために、確率論的安全事前評価手法(PSA)が広範に導入された。BWR 90+に導入される主要受動システムは、残留熱除去用の非常用復水器である。さらにつけ加えれば、この装置はABBアトムの最初のBWRプラントのオスカーシャム1号にも採用されている。
要約すれば、BWR 90+の設計思想は、これに関連したEURの要求仕様すべてを満たしていると言えよう。

図1.BWR 90+ 設計


結論

EURの電力事業者やABBアトムによる、BWR 90のEUR要求仕様に対する技術評価に、10人-年のマンパワーが投入された。これには、第三者によるプラント重要特性すべてに対する詳細設計評価が含まれている。電力事業者は、この評価結果の受け入れを無条件に表明しているわけではないが、彼らのそれに寄せるメッセージなどから、 BWR 90+ 設計への取り組みに大きな期待を抱いていることは確かである。
この評価活動は、欧州での新たな軽水炉建設への可能性を狙った一連の商業利用プロセスの第一ステップにすぎない。これは、短期的にはスウェーデンとフィンランドで現在運転中のプラントのアップグレード化やリニューアル化に際しての原型となる最適原子炉を見出すことに重点を置いた北欧の電力事業者の活動に役立てることができるようになる。これらの分析結果はまた、BWR 90+の今後の設計開発に向けての貴重なデータとして、ABB アトムによって利用されることになる。最後に、この分析作業に関連して、EUR ドキュメント自体を現行のBWR設計基準に適合させる必要性があると思われる項目や、別の根拠により見直し変更が必要になると思われる項目をいくつか特定することができた。