カトーバ原子力発電所での高燃焼度燃料の導入に伴う線量率への影響
ニュークリアニューズ
デューク・パワーは、 カトーバ原子力発電所で、燃料交換作業時での放射線量率の低減化への取り組みを積極的に進めている。運転サイクルの長期化を狙って高燃焼度燃料を導入したことにより、放射線量率の上昇という予想外の結果がもたらされた。
高燃焼度燃料の導入による長期運転サイクルへの取り組みによって、プラント稼動実績の向上や、燃料交換頻度の減少によるプラント運転寿命を通しての総被ばく線量の低減といった効果が期待できるようになる。しかし、実際には稼動実績の向上という効果が得られた一方で、燃料交換時での放射線量率の上昇という予想外の副産物がもたらされた。
デューク・パワーの化学グループによって、この異常事象についての調査が数ヵ月にわたって行われるとともに、ニュークリア・エンジニアリング・グループのメンバーと共同で、データ収集やその分析作業が進められている。放射線レベルの上昇要因については、当初は、1996年にカトーバ1号に、1997年にマクガイヤー1及び2号にそれぞれ導入された新型蒸気発生器伝熱管の運転初期段階での酸化保護膜の未形成に伴う腐食生成物の発生に起因しているのではないかとの見方が有力であった。過去に、バージニア・パワーのノース・アンナやサウスカロライナ・エレクトリック&ガスのVCサマー原子力発電所などでも、蒸気発生器を交換した後に、これと同じような放射線レベルの上昇を経験していた。
蒸気発生器を交換した場合、一般的にはその第一運転サイクルの終了時当たりから、クラッドと称せられる腐食生成物の発生が多く見られるようになると、デュークのニュークリア・エンジニアリング部門の上級エンジニアが述べている。しかし、この想定は1998年末でのカトーバ2号の燃料交換作業時に、訂正を与儀されることになった。このプラントは、蒸気発生器を交換していなかったにもかかわらず、予想をかなり上回る線量率が観察された。調査の焦点は、プラント運転中での燃料の燃焼挙動に向けられることになった。
燃焼時間の長期化
燃料炉心の設計は、運転サイクルの長期化や燃料の燃焼効率の向上といった観点に重点を置いて行われることになるため、燃料集合体の発生出力が従来に比べて高くなってきていると、プラントマネージャーは述べている。12ヵ月から18ヵ月への運転サイクルの延長は、デュークの核化学部門の上級エンジニアによって承認された。ほんの数年前までは、サイクル当たりの全出力日(EFPD)目標値は
375 から425 EFPDの間に設定されるのが一般的であった。デュークの原子力発電所では現在、480
から500 EFPD の間で運転されており、これによって高い設備利用率が達成できるようになった。
運転サイクルにわたっての水質条件の相違という観点からの検討も進められたが、冷却材中の腐食生成物の発生量増大に直接結びつくような兆候は確認できなかった。
我々は蒸気発生器の交換以外に、腐食生成物の増大を招くようなプラント変更は何も行っていなかった。:
炉心の各燃料集合体の出力は、その平均レベルにあったと、プラントマネージャーは述べている。しかし、サブクール核沸騰を発生させるに十分な出力レベルで運転されていた燃料体が何体か存在していた。腐食生成物を含有していた冷却材が燃料表面で沸騰現象を起こすと、冷却材中に溶解していたこれらの物質は、蒸気中に取り込まれなくなるため、燃料表面上に堆積していく。
ほかの多くのプラントと同様に、我々のプラントでもこのような出力状態で運転される燃料が必ず何体か存在すると、プラントマネージャーは述べている。サイクルを通しての燃料集合体の燃焼状況は、炉心設計がどのような思想のもとに実施されたかによって大きく左右される。炉心設計は、原子炉が安全かつ効率的に運転され、これと同時に必要な出力が取り出せるかどうかに重点が置かれている。結局のところ、原子炉の安全運転が保証できるようにするためには、解析に際して、多くの基準に準拠しなければならなくなる。
これら基準の要求事項や運転サイクルの長期化といった要素を考慮すると、燃料集合体は、サイクル末期に向けてその出力が除々に上昇傾向を示していくことになると、プラントマネージャーは述べている。サイクル末期での燃料集合体出力は、炉心に最初に装荷された3または4年前に比べ、高くなっている。
燃料体が高出力状態で運転されると燃料表面上にクラッドが堆積し易くなるとの指摘がなされている。サイクル末期に、燃料体がこのような出力状況にあると、クラッドへの放射化傾向が益々強まることになる。プラント計画停止時に、クラッドバースト処理(原子炉冷却系への過酸化水素の注入によるクラッドの強制放出)が実施されると、その一部は剥離し、冷却材中に拡散する。
これらについてはまだ仮定上の説もまだ一部含まれていると、プラントマネージャーは指摘している。このような事象は、同じような線量率の上昇に遭遇した他のプラントでもまだ実証されているわけではなく、今後もさらに調査を続けていく必要がある。
金属腐食生成物のひとつであるニッケルは、炉心で中性子照射を受けると、コバルト
58に転換される。プラントを停止(燃料交換のため)した場合、炉水温度が低下し、原子炉冷却材の酸性度が高まる。これによって、ニッケル金属の溶解度が増加する。このような状況の下で、冷却材中にクラッドが放出されると、コバルト58の溶解量が増大し、放射線量の上昇がもたらされるようになる。
カトーバ 2号は、ウェスティングハウス製の4ループ型のアイスコンデンサー式プラントである。前回に実施された燃料交換時には、114人-レムの集積被ばく線量が記録されていた。1998年10月に予定されていた燃料交換計画について検討していた際、集積被ばく線量は、これまでのカトーバの燃料交換作業での最低となる112人-レムを想定していた。
高線量レベル
しかし、作業の開始直後に、崩壊熱除去システムの配管やその周辺部の線量率が、予想を100%近くも上回り、また格納容器内部の放射線レベルも、原子炉冷却水がドレンされた状態で平均で41%以上も上昇していた。一次系のコバルト58
の放射能レベルのピーク値は2.55μCi/mlを記録していたが、クラッドバースト処理実施後の浄化作業の段階では0.1μCi/mlのレベルにまで低下した。
「通常の管理手法に基づくクラッドバースト処理のための過酸化水素注入時に、デュークのエンジニアが、照射線量率が予想をかなり上回っているとの指摘を最初に受けた。コバルト58の放射能ピーク値が、前回の燃料交換時に比べ、2倍近くも上昇していた。一次系の放射能ピーク値は、2.55μCi/mlに達していた。
デュークは0.1μCi/mlの最終目標値を達成するために、クラッド浄化作業をさらに27時間延長することにした。
放射線レベルの上昇状況をまとめると下記のようになっていた。
■ 補助建屋の線量率は平均で50%近く上昇していた。
■ 残留熱除去系の線量率は通常時より1.5から2倍近く上昇していた。
■ 蒸気発生器チャンネルヘッド部の線量率は70%近く増加していた。
■ 格納容器全体の線量率は通常時に比べ30%以上上昇していた。
今回の作業では、炉心から燃料体が取り出され、またメンテナンス作業の開始に先立ち一次系から原子炉冷却材も抜き取られていた。このような状態は14日間続いた。遮蔽効果の役割を果たしていた冷却材がドレンされたことによって、線量率の上昇がもたらされることになった。49日に及ぶ計画停止作業が終了した時、集積被ばく線量は予想を45人-レムも上回っていた。
プラント運転時や停止時の水質パラメータは、すべて予想通りの値を示していたため、水質問題は線量率の増加要因にはならないと結論づけられた。しかし、運転サイクルの延長対策や設備利用率の向上対策への取り組みは、既存の水質管理計画によるクラッド対策の有効性に、新たな問題点を提起することになった。また、原子力技術の進歩によって、従来に比べて、高燃焼度燃料を使用する原子炉の数が増加してきている。
先に述べたように、これら新型燃料集合体については、その出力レベルがサイクル末期に向けて徐々に上昇していくように設計されている。これは、炉内でトラップされたり、また燃料に付着するクラッド量を増大させる要因になる。クラッドバースト処理時に、これら汚染物質の一部が、一次冷却系を通して除去された。
カトーバから派遣された原因究明チームによって、停止作業にかかわるすべての局面について詳細調査が実施され、一次系の線量率の上昇によって、少なくとも32人-レムの被ばく線量の増大がもたらされることになったとの指摘が行われた。
対応策
デューク・パワーは、炉心に堆積するクラッド量の低減化が、線量率の改善に対する効果的対策になると考えている。
我々は、冷却材中へのクラッド溶解量を低下させ燃料への付着量を減少させるとともに、それを拡散させることなく冷却系から除去するといった対策を取り入れていく必要があると、プラントマネージャーは述べている。問題は、これらの対策はすでに従来から実施されてきているもので、これによる改善の余地がほとんど見込めないという状況に加え、これらの対策の導入に際して、マイナス要因を考慮しなくてはならないことである。たとえば、pHレベルを高めようとすると、リチウムの注入量をさらに増加させる必要があるが、これは燃料被覆管材のジルカロイの腐食を促進させる要因になる。基本的には、長期運転サイクルの導入を進めていくためには、これに見合った効果的なクラッド対策を新たに検討し直さなければならなくなる。
1999年4月22日に予定されていたカトーバ1号での燃料交換作業に対しては、以下の対策が講じられた。
■ クラッドバースト処理やその後の洗浄時間は、80時間に延長し、0.1uCi/mlの目標濃度が達成できるようにする。
■ クラッドバースト処理に際しては、炉心からの粒子状物質の放出量を最少に抑えるため、原子炉主冷却ポンプの運転を停止する。水質サンプルの採取や線量率のモニタリングの実施によって、粒子状物質の放出予想量が作業中に確認できるようにする。
■ 残留熱除去系の運転投入時期を遅らせる。冷却材中へのクラッド溶解量は冷却材温度に影響され、高温状態ではその溶解度は低くなる。このため、残留熱除去系の運転開始までに、原子炉冷却材の温度をさらに100℃低下させる。低状態でRHR
システムを運転させることによって、コバルト58の溶解度が高まり粒子状物質のプレートアウト量を最少に抑えることができるようになる。
■ 溶解酸素を除去するため、プラント停止に先だち、ヒドラジンを
RHR システムに注入する。水質管理担当者は、RHR
システムの運転によって、同システムの酸素飽和水が粒子状物質のプレートアウト量を増加させる要因になるおそれがあるとの指摘を行った。
■ 原子炉冷却材のドレン期間は4日間に制限する。
現在我々が取り組みを行っている活動のひとつに、炉心での沸騰蒸気の発生率や炉心表面温度を予測できる熱水力モデルの開発があげられる。我々は現在、炉内の腐食生成物の堆積量について解析計算を行っている。燃料設計手法の変更については、その具体策はまだ現時点では明確になっていない。我々は、解決策の検討に取り組む前に、問題の本質についての理解をさらに深めていく必要があると考えている。
問題点についての論議をさらに進めるとともに、最善の解決策の確立に寄与させるため、約10の電力事業者の水質管理担当者から構成される作業グループ会議が、デュークの後援の下に6月にアトランタの原子力発電運転協会(INPO)で開催された。これについては、まだ作業が継続中という状況にあるが、かなりの成果が期待できると、カトーバの
ALARA 専門家は述べている。我々がこれまでに取り組んできた各種の活動は、どちらかと言うと理論面が中心になっていた。適切な対応策の確立に役立てることができるように、我々は産業界全体から有用情報の提供を幅広く求めている。
最も重要なことは、産業界全体に与える影響を最少に抑えることができることを保証していくことであると、デューク・パワーの原子力発電部門の責任者が述べている。この問題によって、我々のプラントの規制やプラント運転管理上の線量限度についての見直し検討にまで、事態が進展するようなことはないものと思われる。しかし、我々がこれまで蓄積してきた多くの経験に基づいて総合判断すると、
ALARA 計画が今後のプラント活動の重点課題に据えられるようになることにはほぼ間違いないものと思われる。これはシステムの除染にもっと多くの時間を費やす必要があるということを意味している。我々はこの問題以外にも、今後も精力的な取り組みを行っていかなくてはならない検討課題をいくつか抱えており、これらの問題が効果的に解決できるようにするためにも、産業界の他のメンバーから多くの有用情報が提供されるようになることに大きな期待を寄せている。