「デリカテッセン」
「ロスト・チルドレン」
「エイリアン4」
彼の映画にはまらない者はいない。そう断言できるほど、魅力溢れる映画ばかり作っている監督だ。彼の作品の中では僕は「デリカテッセン」が一番好きだ。まず、大戦後の人肉を売っている肉屋のアパートで繰り広げられる騒動。彼の映画の常連のドミニク・ピノンがそのアパートへやってくる。当時、まだ彼は痩せている。この映画の前の作品「ディーバ」ではもっと痩せていて、ちょっと怖かった。映画の話は肉屋の店主の娘と恋に落ちるが、店主は彼を食べようとしている。その状況と、アパートの住民とのいざこざ、それに地底人が参加して、大騒動へと変貌する。そして、衝撃的結末を迎える。
まず、発想が面白い。そして、登場人物が個性的。凝りに凝った脚本で、全国共通のボディランゲージギャグが全編を埋め尽くしている。展開も複雑だけれど、面白く、はっきりしている。怖いし、面白い。音楽がいい。美術も凝りすぎている。
どこをとっても落ち度がない。百点満点の映画だ。
その後の「ロスト・チルドレン」。これも面白い。前作に比べて、製作費が莫大になり、美術や特殊効果が大掛かり。大きな街を丸ごとセットで作ったり、不気味な塔を作ったり。特殊効果も毒針を持った虫がリアルに動いて、頭に飛びつく場面や、年を取ったり若返ったりする場面。大男で怪力のロン・パールマン。絵本から飛びだしたような可愛い女の子。六人も出てくる、ドミニク・ピノン。シャム双生児の不気味な女。クローンの失敗作。おかしな科学者。昔は美人だったデブ女。もう、前作以上に不気味なキャラクターが続出。そして、脚本も前作以上に凝っているし、ギャグもひねりが一杯。怖さも前作以上。音楽が怖い。「ツイン・ピークス」の作曲家だけのことはある。でも、何だか、「デリカテッセン」ほどの衝撃は受けなかった。もう少しぶっ飛んだ内容にしても良かったと思う。
「デリカテッセン」と「ロスト・チルドレン」の間が長かった為、次回作はだいぶ先なのだろう、と考えていると、すぐに「エイリアン4」を監督したので驚いた。思わず劇場に見に行った。ウィノナ・ライダーが出演していることもあって。「エイリアン」シリーズは何と言っても「エイリアン」(リドリー・スコット監督)が一番良い。「リドリー・スコット」参照。だから、今回の「エイリアン4」はいかにジュネらしくするか、にかかっているのだ。ストーリーはもうありきたり。エイリアンが宇宙船の中で暴走して、大混乱に陥る。それを退治して、突き進んでいくというもの。エイリアンは何十匹も登場するが、結局は3.5匹(一人は仲間に殺される)とだけ戦う。アクション映画としても普通。脚本は別人なので、仕方がないところ。でも、その他でジュネらしさは、というと。まず、。キャラクター。今までのと同じような風貌な俳優が沢山出演している。エイリアンを摘出する科学者達など「ロスト・チルドレン」のデブ女にそっくりだ。それにロン・パールマンやドミニク・ピノンが出演し、彼らはなんと最後まで生き残る(おそらく、脚本では彼らは死ぬことになっていただろう)。他にも縦横無尽に走るカメラワークもジュネらしくていい。彼は何かのインタビュー記事で、彼も『エイリアン』が一番いい、と話している。そして、自分の作品は超えていない、とも言っている。謙虚な姿勢がいい。でも、不満が残るのは、彼特有の「ぶっ飛び」が控えられていること。ハリウッドだから、脚本通りじゃないとだめなんだろう。ハリウッドなんて金だけ出しておいてくれればいいのに。ジュネ自信は、ハリウッド映画とフランス映画とをつなげた、といっているけれど、あなたのような偉大な監督が犠牲にならなくても、良かったのに。