リドリー・スコット
フィルムをキャンバスのように使う男
僕が初めて彼の作品を見たのは、「ブラック・レイン」だった。当時、小学2年生だった。でも、この映画の衝撃は今でも忘れない。松田優作の凄み。マイケル・ダグラスや高倉健まで食ってしまっている。強烈な悪役像に僕は身震いした。こんなすごい人が日本にいるなんて、と思い、次回作はなんだろう?、と思っいたら、実はもう既に亡くなっていたと聞いて、悲しんだのを覚えている。ここまで書くと、なんだか松田優作の話になってきそうなので、話を戻すと、この松田優作の輝きを完璧に出し尽くせたのは、やはり監督の手腕によるところが大きいだろう。日本の普通の監督が撮れば、ああはならなかっただろう。かえって松田優作が浮いてしまっただろう。監督・リドリー・スコットのすごさは他にもある。まず、大阪の街。誰が見ても、汚い街だ。ネオンがドロドロして見える。それなのに、監督はこのネオンを油絵のようにフィルムに描き込んだのだ。ダークな映像で、ネオンを浮き出し、鮮烈な映像を作り出した。これが大阪か?というほど美しい街に見えるじゃないか。道頓堀の場面など、ラスベガスを彷彿とさせる。
次に見た、彼の作品は「テルマ&ルイーズ」。暴走する二人の中年女性の話。これも驚いた。殺風景な広大な荒地を走る車の姿、それが絵になっているのだ。一枚一枚展示できるぐらいに美しいし、かっこいい。「ブラック・レイン」ほどではないが、ダークな映像も随所に見られる。ストーリーも面白いし、最高の映画だった。
その後、見たのは、「白い嵐」。青春映画という、アメリカが好きそうな映画だった。ストーリーはいまいちだが、海の透き通るような青だけを見るのには十分な作品。最後の嵐の場面はすさまじく、ここまで海を迫力ある映像で描いた人はいないだろう、と思った。
次に見たのが、彼の代表作と思われる映画「ブレード・ランナー・ディレクターズカット最終版」。言わずと知れたカルト・ムービー。ビデオが三つも出ているという代物。しかし、やはりこの「ディレクターズカット最終版」が一番。いや、これを見なければならない。最初のはひどい結末で、無駄なナレーションが気持ち悪いので、絶対見てはならない。この映画の原作も超有名な「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」だ。「ブレード・ランナー」というタイトルは別の作家の作品からとってきたものだそうだ。まぁ、それはいいとして、映画の内容だが、とにかく映像がすごい。冒頭の未来のビル群。飛行物体が真横を通り過ぎる。炎を巻き上げるビル。そして、バックを流れる、ヴァンゲリスの音楽。僕が見てきた映画の中でもっとも衝撃的な冒頭。ストーリーはレプリカントを追いかけるブレード・ランナーの話。単純なストーリーに思えるが、そこには複雑に感情が交錯する。