歌枕紀行 花の窟

―はなのいはや―

花の窟神社

この浜の人、はなの岩屋のもとまで着きぬ。見ればやがて岩屋の山なる中をうがちて、経を篭め奉りたるなりけり。これは弥勒ほとけの出でたあはむよに、とり出で奉らむとする経なり。天人つねに降りて供養し奉るといふ。げに見奉れば、この世に似たる所にもあらず。そとばの苔に埋れたるなどあり。側にわうじの岩屋といふあり。たゞ松の限りある山なり。その中にいとこきもみぢどもあり。むげに神の山と見ゆ。
天人のおりて供養し奉るを思ひて、

天つ人いはほをなづる袂にや法のちりをばうち払ふらむ(増基法師『いほぬし』)


木の国や花のいはやに引縄の長くたえせぬ里の神わざ(本居宣長)

神無月春ごこちにもなれるかな花の岩屋に花祭りして(加納諸平)

花の窟


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©水垣 久 最終更新日:平成11-04-07
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