八番 左 侍従定家
015 君が代は
法 にたとへてひらくなる花を波間にちたび見るまで右勝 内但馬
016 そのかみのながれのすむに河竹のこの君の代やひさしかるべき
左歌、
法 にたとふる花、といへること、思ひ分きがたきよし、人々申さるるを、優曇花 のことに侍り、三千年に一たび花さく、その花を千度 見るよし陳じ申さる。このことを思う給ふるに、三千代 に一度花咲くよしをのべて、法 にたとふる花と侍らば、優曇花とも心得はべるべきを、法 にたとふる花とばかりにて、優曇花と心得がたく侍り。蓮花をも法 にはたとへ侍れば、などきこゆ。右歌は、さしたる咎 きこえねば可勝 と侍り。
【通釈】(左)
(右)
(判)
【語釈】◇
【解説】
八番 左勝 定家
049 秋風の暮るればはらふ空になほ光はあまる夜半の月かな
右 但馬
050 てる月は
姨捨 山もことふりぬこの宿にてぞ見るべかりける左歌、「雲とも言はではらへることいかが」など
沙汰 侍り。右歌、「月をよまむに姨捨山を謗 らむこと、うちまかせず」など人々侍るめり。まことにも思う給ふるに、後拾遺に、為仲朝臣が越 よりのぼるに、姨捨山のふもとにて、月を見てよめる歌、「これやこの月みるたびに思ひやる姨捨山のふもとなるらん」とよめり。されば、月を見むには姨捨山をば思ひ出づべきことときこゆ。ただし、為実 、父永実 に倶して信濃へまかりてのぼれるすなはち、故左京兆歌合に、「名にたてる姨捨山も見しかども今宵ばかりの月はなかりき」とよめり。これぞかの山を謗 れる歌にて侍る。件の歌合未判なれば、勝負知りがたし。うちまかせて歌にはかやうのことはいかがとおもうたまふへ しかば、そのよしは申し出で侍りにき。その為実が歌は詞花集に入 れり。歌合と撰集とには、ことかはるにや、歌合には毛をふくことにや、撰集などには、このほどのことには、歌がらめづらしければゆるし侍るにや、左の雲の難あながちのことならずは、姨捨山を謗 れる、いかが、とて左勝ち侍りぬ
【通釈】(左)
(右)
(判)
【語釈】◇
【解説】
八番 左持 定家
083 秋ふかき野島が里に宿かれば袖に浪越すさを鹿の声
右 但馬
084 知らざりつよその涙をともなひてを鹿は
汝 が妻よばふとは左歌、「袖に浪越すなどよろし」と沙汰侍り。右歌、「あしからず、こしの五文字ぞいかが」など侍れども、
持 とさだまりぬ。
【通釈】(左)
(右)
(判)
【語釈】◇
【解説】
八番 左勝 定家
117 いまはただ紅葉にかぎる秋の色のまだき時雨のあまりそむらん
右 但馬
118 いづかたか秋の形見にのこるべき枝ともしりて人に折らせじ
左歌、「まだき時雨、おぼつかなし」と申しあはれたり。右歌、「紅葉の心見えず、たとひいづれの枝としりて人に折らせずとも、嵐はのこさずや侍るべからん」とおぼえ侍り・いかにも題をよめらんに、いかでかはひとしく侍るべき。
【通釈】(左)
(右)
(判)
【語釈】◇
【解説】
八番 左勝 定家
151 わびつつは憂きにむくいのなくもがな世々にも見せんふかき心を
右 但馬
152 ひとごころ玉野の原の駒なれや荒れまさりつつ手にもかからず
左歌、「つねは後の世にむくいあるべきやうにこそよめるを、むくいはなくて、なほ世々にふかき心をみせん、とあるこころざし、あはれなり」などきこえはべり。右歌、「玉野の原の駒、大嘗会の歌をきくここちす」などはべりて、左をつよしとはべり。
【通釈】(左)
(右)
(判)
【語釈】◇
【解説】
公開日:平成22年12月01日
最終更新日:平成22年12月01日