大伴宿奈麻呂の娘。坂上大嬢の異母姉。「田村」は宿奈麻呂の邸があった田村の里に因む。現法華寺町付近、一説に天理市田町とも。
天平年間、叔父稲公より恋歌を贈られる(万葉4-586)。万葉集に載る歌八首は全て大嬢に贈った歌である(4-756〜759、8-1449、8-1506、8-1622・1623、8-1662)。
大伴の田村の家の大嬢の、
【通釈】春になると茅花を引き抜く浅茅の原――そこに今を盛りと咲く坪菫のように、私があなたを恋しく思う気持も今がまっ盛りだよ。
タチツボスミレ |
【語釈】◇つほすみれ 今のタチツボスミレのことかという。最もありふれた菫の一種で、春に淡紫色の花が咲く。但し「すみれ」の名の原義(工具の墨壺――墨入れ――に似ていることから)を強調してスミレをこのように呼んだとの説もある。
【補記】春相聞。恋歌仕立ての挨拶歌。「つほすみれ」までは「今盛りなり」を起こす序であるが、その花の可憐なイメージが「恋ふらく」の相手、つまり坂上大嬢の喩えにもなっていよう。この異母妹に対する愛情がよく伝わる歌である。
大伴田村大嬢の、
我が屋戸の秋の萩咲く夕影に今も見てしか妹が姿を(万8-1622)
【通釈】我が家の庭の秋の萩が咲く夕日――この美しい光の中で、今あなたの姿を見たいものだなあ。
【補記】同性の親族間のやり取りだが、やはり恋歌仕立てにしている。二句切れ・四句切れと説が分かれる。
更新日:平成15年12月28日
最終更新日:平成20年09月30日