豊前国娘子大宅女 とよのみちのくちのくにのおとめ おおやけめ

伝不詳。豊前国(今の福岡県西部から大分県北西部)出身の女性。遊行女婦(うかれめ)であったと推測される。万葉集巻六の984番歌題詞脚注によれば「大宅」は字(あざな=綽名)で、姓氏は未詳。巻四の709番歌の題詞脚注にも「未審姓氏」とある。万葉集に二首の歌を残す。

豊前国娘子大宅女が歌一首

夕闇は道たづたづし月待ちて()ませ我が背子その間にも見む(万4-709)

【通釈】夕闇は道が暗くてたどたどしい。月の出を待ってお行きなさい、あなた。お帰りになるその間、月の光で後ろ姿を見送りましょう。

【補記】万葉集巻四の大伴家持を中心とした贈答歌群中にある。月にかこつけて恋人の男を引き止める歌とも見え、宴席で客人に贈った歌とも見える。因みに同じ作者が万葉集に残すもう一首は「雲隠りゆくへをなみと我が恋ふる月をや君が見まく欲りする」で、やはり月の歌である。

【他出】よみ人しらず「新勅撰集」
夕されば道たどたどし月まちてかへれわがせこそのまにも見む


更新日:平成15年03月21日
最終更新日:平成20年09月29日