二条教良女 にじょうのりよしのむすめ 生没年未詳

権大納言従一位教良の娘。九条左大臣女(二条道良女)の従姉妹。従兄弟にあたる関白太政大臣二条兼基の側室となる。
乾元二年(1303)閏四月の仙洞五十番歌合、正安二年(1300)〜嘉元二年頃の三十番歌合、嘉元元年(1303)〜二年頃の歌合、嘉元三年三月歌合など、京極派の歌合に出詠。玉葉集初出。勅撰入集は計十七首。

伏見院、人々に花の歌あまたよませ給ひけるに

山のはの月は残れるしののめにふもとの花の色ぞ明けゆく(風雅196)

【通釈】東の空がわずかに白み始めた頃、西の山の上には有明の月が残っていて、その麓の桜の色から夜が明けてゆくように見える。

夏月をよみ侍りける

よにかかるすだれに風は吹きいれて庭しろくなる月ぞ涼しき(玉葉387)

【通釈】夜になろうとする頃、簾に風が吹き込み、月明りで白くなった庭が見渡せる――その光の涼しげなことよ。

【補記】「よにかかる」の「よ」は「夜」「節(よ)」の掛詞で、「夜になりかかる」意に「(竹の)節に吹きかかる(風)」の意を掛けたものか。

萩をよみ侍りける

ながめすぐす日数や秋にうつりぬる小萩がすゑぞ花になりゆく(玉葉492)

【通釈】つくづくと思いに耽って日数を過ごすうちに、季節は秋に移ってしまったのか。萩の枝先がすっかり花になってゆく。

【補記】下句は萩の花が咲く様を低速度撮影のフィルムで見せるかのよう。時間の推移の表現に心を砕いた、京極派独特の作風。

冬歌の中に

夕暮のあはれは秋につきにしをまた時雨して木の葉ちる比(玉葉836)

【通釈】夕暮の哀愁は、秋の間しみじみと味わって、もう心魂も尽きたのに、また時雨が降り木の葉が散る初冬の季節になって……。

【参考歌】飛鳥井雅有「隣女集」
ちる花にをしむ心はつきにしを又なげかるる春の暮かな

灯をよみ侍りける

思ひつくす心に時はうつれどもおなじかげなる閨のともし火(風雅1672)

【通釈】つきつめて考えに耽っていた心には、かなりの時間が経過したように感じられたのだが、寝室の灯火は前に見た時と同じ炎のままだ。

【補記】室内の灯火という日常的な小道具を用いることで、心の有り様によって変化する時間の進行の感覚をリアルに描き出した。

【参考歌】伏見院新宰相「玉葉集」
きゆるかと見えつる夜はの灯のまた寝ざめてもおなじかげなる


公開日:平成14年11月16日