藤原雅正 ふじわらのまさただ 生年未詳〜応和元(?-961)

藤原兼輔の長男。紫式部の祖父。弟に清正がいる。定方の娘を妻とし、為時(紫式部の父)・為頼らをもうける。従五位下。周防・豊前などの守を勤める。貫之と親交があり、また一時伊勢が隣家に住んでいたことが後撰集の歌から知れる。勅撰入集は後撰集の七首のみ。

隣に住み侍りける時、九月八日、伊勢が家の菊に綿を着せにつかはしたりければ、又の朝、折りて返すとて   伊勢

数しらず君がよはひをのばへつつ名だたる宿の露とならなむ

【通釈】名だたるお宅の露となって、限りなく貴方の寿命を延ばしてほしいものです。

【語釈】◇菊に綿を着せ 菊の花の露を染み込ませるために、綿を被せることをいう。九月九日の重陽の節句には、この綿で顔を拭いて不老長寿を祈った。◇折りて返す 菊の花を折って、綿と共に雅正のもとに返す。◇名だたる宿 名の知れた家。雅正の家をこう言うのは、彼の父が有名な歌人兼輔であったため。

【補記】歌人の伊勢の隣家に住んでいた頃、重陽の節句の前日に、伊勢が雅正の家の菊に綿を被せるために遣いをやった。翌朝、その菊の花を折り取って返す折に詠んだ歌。綿を被せられた菊の身になっての詠。

返し

露だにも名だたるやどの菊ならば花のあるじや幾世なるらむ(後撰395)

【通釈】たとえほんの少しの菊の露でも、名だたるお宅の菊の露なのですから、さぞや長寿の効験があることでしょう。ましてや、花のご主人様でいらっしゃる貴方は、どれほど長生きされているのでしょうか。

【語釈】◇露だにも 菊に置いた露でさえも。「露」は、綿に染み込んだ露と、「少しも」という意味の掛詞。◇名だたる宿の菊ならば 歌人として名高い貴女(伊勢をさす)のお宅の菊の露なのであったら。◇花のあるじ 菊の花が植わっていた家のあるじ。伊勢を指す。

【他出】伊勢集、歌林良材


公開日:平成12年09月02日
最終更新日:令和2年04月24日