伊須気余理比売 いすけよりひめ 別名:媛蹈鞴五十鈴媛(ひめたたらいすずひめ)

大物主神と勢夜陀多良(せやだたら)比売の間の子。父は事代主神とも。綏靖天皇の母。富登多多良伊須須岐(ほとたたらいすすき)比売・比売(ひめ)多多良(たたら)伊須気余理比売とも。
大和三輪山麓、狭井川のほとりに住んでいたが、高佐士野(たかさじの)で遊んでいた時、神武天皇に(つまど)われ、大后として入内した。天皇崩後は、皇子の当芸志美美(たぎしみみ)命に娶られたが、夫が先夫との子等を殺そうとしていることを知り、下記の二首の歌を詠んで子等に危険を知らせた。継父の謀略を知った神沼河耳(かむぬなかわみみ)命は、逆に当芸志美美命を殺し、皇位を継いだ(綏靖天皇)。
奈良県奈良市の率川神社、大阪府茨木市の溝咋神社などに祭神として祀られている。
以下には古事記所載の二首を掲げる。

 

狭井河(さゐがは)よ 雲たち渡り 畝傍山(うねびやま) 木の葉さやぎぬ 風吹かむとす

【通釈】狭井川の方から、雲が湧いて広がり、ほら畝傍山では、木の葉がざわざわ音をたてました。すぐここまで風が吹いてこようとしています。

【語釈】◇狭井河 奈良県桜井市を流れ、大和川に合流する三輪川。◇畝傍山 奈良県橿原市にある死火山。大和三山の一つ。山麓に橿原神宮がある。

【補記】古事記中巻。作歌事情は上記の略伝を参照されたい。

 

畝傍山 昼は雲と() 夕されば 風吹かむとそ 木の葉さやげる

【通釈】畝傍山をごらんなさい、昼はまだ雲が静かに懸かっていますが、夕方になれば、風が起り、吹いてきますよ。それを知らせるように、木の葉がざわざわ音を立てるのですよ。

【補記】古事記中巻。

【主な派生歌】
阿波々山ただに向へるさやの山木の葉さやげる秋たつらしも(*栗田土満)
眞晝閒の睡魔やさしき 畝火山夢に紫紺の風吹かむとぞ(塚本邦雄)


更新日:平成15年03月21日
最終更新日:平成15年03月21日