碁檀越妻 ごのだんおちがめ 生没年未詳

碁檀越の妻。碁檀越は伝不詳。碁師と同一人かとも言う。

碁檀越の伊勢の国に往く時に、(とど)まれる妻の作る歌一首

神風(かむかぜ)の伊勢の浜荻(はまをぎ)折り伏せて旅寝やすらむ荒き浜辺(はまへ)(万4-500)

【通釈】伊勢の浜辺の蘆を折り伏せて、あの人は旅寝をしておられるのだろうか。波風荒い浜辺に。

【語釈】◇神風の 「伊勢」の枕詞◇荒き浜辺 波風が激しい意と共に、岩などでごつごつした浜辺が想像される。◇浜荻 浜辺の荻。中世の歌学書などには蘆の異称とする。「伊勢国には、蘆を浜荻と云ふなり」(仙覚抄)。

【補記】持統六年(692)三月、伊勢行幸の折の作か。旅中の夫を思い遣った歌。新古今集などに「よみ人しらず」、初句「神風や」として撰入されている。

【他出】人丸集、俊頼髄脳、奥義抄、和歌童蒙抄、袖中抄、六百番歌合陳状、和歌色葉、新古今集、定家八代抄、歌枕名寄

【主な派生歌】
あたら夜を伊勢の浜荻折り敷きて妹恋しらに見つる月かな(*藤原基俊[千載])
しらざりし八十瀬の波を分け過ぎてかたしくものは伊勢の浜荻(*丹後[新古今])
旅寝するあらき浜辺の波の音にいとどたちそふ人の面影(藤原定家)
月にふす伊勢の浜荻こよひもや荒き磯辺の秋をしのばむ(藤原定家)
折りしかむ旅寝もつらし波まくら名はむつましき伊勢の浜荻(後鳥羽院)
幾夜かは月をあはれとながめきて波にをりしく伊勢の浜荻(*越前[新古今])
折りしかむ隙こそなけれ沖つ風夕たつ波の荒き浜荻(藤原家隆[新拾遺])


最終更新日:平成15年04月23日