恵行 えぎょう 生没年未詳

伝不詳。東大寺に属した僧官か。
万葉集によれば、天平勝宝二年(750)四月、越中守大伴家持と宴に同席し、歌を贈答する。左注によればこの時「講師」。当時の「講師」は、おもに東大寺関係の僧侶で、華厳経など特定の経典の講義のため任命された僧官のことという(井上薫『奈良朝仏教史の研究』吉川弘文館)。

()ぢ折れる保宝葉(ほほがしは)を見る歌

我が背子が捧げて持たる厚朴(ほほがしは)あたかも似るか青き(きぬがさ)(万19-4204)

【通釈】あなたさまが捧げて持った厚朴の葉――さながら青い蓋にそっくりではありませんか。

朴の木 モクレン科の落葉高木。

【語釈】◇厚朴(ほほがしは) 朴の木。大きく厚い葉は食物を包んだり、盃の代りにしたりした。◇蓋(きぬがさ) 衣笠・絹笠とも書く。貴人などに背後から差し掛ける、柄の長い絹張りの傘。

【補記】天平勝宝二年(750)四月、越中守大伴家持と宴に同席した際の作。「我が背子」はおそらく家持を指す。家持がホホガシワの葉を盃にして持ったのが、衣笠を貴人に差しかける様を連想させたのであろう。家持の返歌は「すめろきの遠御代御代はい布(し)き折り酒(き)飲みきといふそ此の厚朴」。


更新日:平成15年03月21日
最終更新日:平成20年07月27日