伝不詳。中臣東人との贈答、また万葉巻四の排列から、和銅〜養老年間の頃生存していたと推測される。安倍女郎(万葉集04-0505・0506)は別人とも見られるが、目録には「阿倍女郎」とあり、ここでは取りあえず同一人とした。
安倍女郎の歌
我が背子は物な思ひそ事しあらば火にも水にも
【通釈】あなたはご心配なさいますな。火の中でも水の中でも、何かありましたら、私がついておりますものを。
【語釈】◇事しあらば火にも水にも 火にても水にても、事しあらば、の意。火や水の災いをいう。
【補記】一つ前の同じ作者の歌は「今さらに何をか思はむうち靡き心は君に寄りにしものを」。
阿倍女郎の歌一首
我が背子が
【通釈】あなたが着ておいでの衣の縫い目のひとつも漏らさず、あなたへと沁み入ってしまったらしいですよ、私の心までが。
【語釈】◇針目落ちず 針目ひとつ漏らさず。◇入りにけらしな我が心さへ 私の心までが、入ってしまったらしいなあ。心ここにあらず、貴方の身に染み入ってしまった、といった意。
【補記】この衣は作者自身が縫って贈ったものなのであろう。
中臣朝臣
独り寝て絶えにし紐を
阿倍女郎の答ふる歌一首
【通釈】あなたが別れてゆく時、三筋に堅く縒った糸で結びつけておけばよかったものを、今になって悔しく思われる。
【語釈】◇三筋に搓れる糸 三組の糸を縒り合わせた糸。千切れにくい。
更新日:平成15年03月21日
最終更新日:平成15年03月21日