江戸時代の肉筆三十六歌仙カルタです。「札が三十六組しかない百人一首カルタ」として売りに出されていたのを、もしやと思って見れば、三十六歌仙カルタの逸品でした。売主にはこのことを知らせず、「百人一首カルタの半端品」として購入したことは言うまでもありません。
柔和な線で描かれた歌仙絵は、妖艷な趣さえ漂わせ、相当の力倆をもった絵師の手に成るものでしょう。文字は御家流の達筆で、筆跡は有名な陽明文庫旧蔵百人一首カルタにそっくりです。同一人の筆になるとすれば、当カルタは寛文から元禄頃のものとなりますが、鑑識眼のない私にはよく分かりません。読み札にも取り札にも金箔の砂子が散らされ、裏打ちの和紙はほのかに赤みがかった銀箔です。すみずみまで細やかな神経が行き届いた、非常に美しい作品です。保存状態もたいへん良く、おそらくカルタ取り遊戯には使われなかったのでしょう。屏風などに掛けて鑑賞するためのカルタだったに違いありません。
三十六歌仙は、紫式部などと同時代の人藤原公任が、万葉集から拾遺集頃までの歌人三十六人の秀歌を選りすぐった「三十六人撰」に由来します。後世、多くの模倣を生み、中古三十六歌仙・新三十六歌仙・女房三十六歌仙といった歌仙歌集が編まれることになります。定家の百人一首にしても、大きくはその流れの中にありました。
画像は左から右へ、「三十六人撰」の登場順に並んでいます。マウスポインタを絵に合せると、歌番号・歌人名がポップアップします(Internet Explorerのみ?)。クリックすると、大きめの画像に翻刻を付けたページへとリンクします。
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