竜胆 りんどう(りんだう) りうたむ りうたう Gentian

りんどうの花 鎌倉海蔵寺にて

「りんどう」の名は漢名「竜胆」の訓みが訛ったものらしい。古今集では当時の漢字の発音から「りうたむ」と書かれている。
晩秋、青紫の清楚な花を咲かせる。枕草子の「草の花は」の章段では、

りんだうは枝ざしなどもむつかしけれど、こと花どものみな霜枯れたるに、いとはなやかなる色あひにてさし出でたる、いとをかし。

と、寂しさを増す季節にきわやかに咲くこの花を賞美している。ところが和歌ではあまり好まれなかった。「きちかう(桔梗)」などと同様、漢名から借りた名であるゆえ、和歌の調べに馴染まないと見なされたためだろう。例外的に、物名歌では人気の歌題であった。

りんどうの花 鎌倉海蔵寺にて

『古今集』 巻十 物名  りうたむの花   とものり

わがやどの花ふみしだくとりうたむ野はなければやここにしもくる

適宜漢字を宛てるとしたら「我が宿の花踏みしだく鳥打たむ野はなければや此処にしも来る」となろう。第三・四句に「りうたむのはな」を隠している。
歌意は「うちの庭の花を踏みにじる鳥を懲らしめてやろう。野には花がないからというので、ここにやって来るのだろうか」。棹など抱えて「鳥打たむ」と跳び出してゆく男の姿が想像されて可笑しいが、「わがやどの花」は外ならぬ竜胆を指し、彩りの少なくなる季節に咲くこの花への激しい愛着が詠まれているのである。単純な言葉遊びの歌ではない。友則が残した物名歌の傑作である。

**************

  『新勅撰集』 (りうたむをよみ侍りける) 伊勢
風さむみなく雁がねのこゑによりうたむ衣をまづやかさまし

  『和泉式部集』 (詞書略) 和泉式部
りんだうの花とも人を見てしかなかれやははつる霜がくれつつ

  『拾遺愚草員外』 (詞書略) 藤原定家
りうたんの花の色こそさきそむれなべての秋はあさぢふのすゑ

  『馬酔花』 伊藤左千夫
ここにして思はんよりは走りゆき手とりなげかん竜胆の花

  『鷺』 太田水穂
たましひの深むらさきに咲きいづる寒けき谷のりんだうの花

  『桐の花』 北原白秋
男なきに泣かむとすれば竜胆がわが足もとに光りて居たり


公開日:平成18年1月9日
最終更新日:平成18年1月9日

thanks!