1  次頁へゆくまへがきへ戻る       *                                             月を隠したりしないでくれ    してゐる 恋人のもとへ出かけよう だから雲よ また棚引いて  夜になりやうやく雨が上がつた 澄んだ月の光が夜空を照ら                                   又更にして雲な棚引き 八|一五六九                    雨晴れて清く照りたる此の月夜                                       秋の歌                         *                                             待たねばならなかつたのです それで 花は満開になつても それを見せるのは月が満ちるまで  当時 男女の逢引は十五夜前後の月夜に限られてゐました  うと思つた 庭先の橘です  十五夜過ぎの澄んだ月夜になつたら いとしい貴女に見せよ                                   見せむと思ひし屋戸の橘 八|一五〇八                            望ぐたち清き月夜に我妹児に             花橘を攀ぢて坂上大嬢に贈る歌             *                                              人の美しい眉が心に浮かぶ  夜空を振り仰いで三日月を見ると 一度逢つただけの あの                                   人の眉びき思ほゆるかも 六|九九四           ふりさけて三日月見れば一目見し                              初月の歌                         *                                         家持秀歌選