和歌投稿用の掲示板「花莚」にて開催していた題詠百首です。以下に、これまでの投稿作品を題別にまとめました。作者別のまとめはこちらです。
春 二十題 夏 十五題 秋 二十題 冬 十五題 恋 十題 雑 二十題
(※以下、敬称略)
立春 梅 椿 残雪 若草 余寒 春山 春野 春雨 遅日
春曙 桜 落花 苗代 春月 蝶 春鳥 春夢 晩春花 残春
大空に霞の衣干しかけて春来にけらし天の香具山 樂々 ★
しがらみとなりし紅葉のこほれるを春立つけふの風やとくらむ 写歌
明け方の 白き梢は しづまりて 下葉におつる 雪の玉水 修学院
春かすみ年におくれす立ちにけり初日にしるき遠の山の端 深草
沖つ辺の霞の間より東風寄せて波もみどりにゆるむ湊江 ういろう ★
若草のつまをよすがに敷島の大和し春の立ちにけるかも 招き猫
春立つと聞きて覚めけむ佐保姫や霞の衣の今朝の山裾 海松純
梅が香もほの片割れのおぼろ月春立つけふの夜は更けにけり 水垣
後夜の雨に花やあへなき老い梅の
梅の花ふし見の里に訪ひ行かむ匂ひにぬるむ風をしるへに 深草
くれなゐの梅に柳をなびかせて春の園こそ錦なりけれ 樂々
軒の端に入り方の月かげもれてうす雪しろしあけぐれの梅 修学院 ★
夢に見る空もこの頃霞むかな床までとほる梅のにほひに 海松純 ★
浄らかに光をまとふ翁舞ひやがて白梅の
ねづ山の加賀のしらうめ知らぬ間にさききそふらむ月わたる夜も 招き猫
花まへの宙に羽振けるひよどりに口吸はれむとす庭椿かな 写歌
露うけて朗らに咲ける玉つばき春を祝ひて紅ぞ濃き ういろう
はや春とすずろ心を彩るに今日は耐へてや咲く雪椿 アゲハ ★
庭にちる椿の花にひかりのこし暮れゆく空に入相の鐘 修学院
落椿水脈さへにほふくれなゐは盃に似て浮かぶ九重 海松純
八千年の春へを峯の玉椿めてにし人は数そ知られぬ 深草
波しぶく岬の果ての潮風に椿散りつつ昼静かなり 樂々 ★
ひとひらの雪のしづくに濡れにける椿かげりて池しづかなる 黒葛
風に舞ふすべなき椿こずゑよりひたみちに落つその
岩陰の堅雪けふは融けそめて
一木づつ霞につつむ山もとの朝けの窓に雪のひとむら 修学院
残り雪むら消えそめし若草に今年は何の彩を描かん 海松純 ★
春浅みまだ一重なる佐保姫の衣を透けて見ゆる雪肌 樂々
鶯の春に知らせぬままにして雪間も見えぬ谷の下道 深草 ★
ふとぶとと根ばふ山路の楠の根に沁みかへりゆく雪のむら消え 水垣
山里の雪間に萌ゆる草見ればかれにし人ぞまた待たれける 樂々
春風に水籠りの蘆つのぐみて水面に出でし
雪ましる風に冬かとまかふなよ今朝萌え初めし小野の若草 深草
朝つゆに濡れて色そふうすみどりおりしづまるる霞のまにまに 修学院 ★
うりずんの雨にふれにし若草の色土に満つ香ぞ天に満つ ういろう ★
春若くまづ咲き出づるみどりまた草てふ名負ふ花にやあるらん 海松純
こぎ音ゆく舟やみぎはの草萌えて花待ち顔ににほひたつかな 招き猫
雪とけて野辺の若草色づけば命は泣きて生くるものと知る 黒葛 ★
朽葉ふかき森の下にも春は来ぬ木洩れ日ごとに萌ゆる早蕨 水垣
木々にもる月の影よりはつかなるひとひらの花ひとひらの雪 修学院
三島江はなほ風さえて真菰草角ぐむうへに淡雪ぞふる 樂々
端座する余寒の茶室にようやくに松籟ありてこころ弛びぬ 写歌
春霞雪けの内になひきつつ寒さかはらぬ如月の空 深草 ★
大空は雪の別れの色ながら梅が香寒き風のきさらぎ 海松純 ★
花冷えの春死なましを山ざくら
うぐひすの褥ともしも背戸の尾は萌葱浅黄にくれなゐの綾 写歌 ★
霞更けてかたぶく月に入る方の山の端うすく春にほのめく 修学院
白妙の色はかはらず横雲の別るるひまの花の峰々 海松純
四方の木々色萌え出でぬ木々毎に鳥は来鳴きぬ春ぞ
浦風の花の梢に通ひ来て空に浪立つ志賀の山越え 樂々 ★
訪はぬへき故こそなけれ花の山人松か枝も春の色見せ 深草
見晴らせば萌黄眩くいでそめて山笑むときにまたも遇うかな アゲハ
春とてやなど雲ゐなるけふの富士雪げの裳裾ひくのみにして 招き猫
よそにのみ峰の桜の咲くごとに我が魂の
蒲公英の絮は野風に身をまかせいづち定めむ来る春の宿 写歌
夕づく日かすみに春を染むる野にせつせつわたる雁のひとこゑ 修学院
春の野に袖より下の花を見てひとひ挿頭の雪を忘れぬ 海松純
姿なき鶯の誘ふ我が妹の手にし若菜の薫る春日野 黒葛
かぎろひの名残に暮るる春の野に雁行く空を眺めやすらふ ういろう
春の野の霞に消ゆる夕ひばり雲居に到る声聞こゆなり 樂々 ★
草萌えて桜匂へる春の野辺行く若駒の声そ霞まぬ 深草 ★
なえはつる道こそなけれ見わたせば柳錦に花の香ぞする 招き猫
青き色天下りてや小さき花のむらむら咲きぬ野は春にして アゲハ
春雨や今あがらむと夕雲雀なほけぶる野に声しめりつつ 水垣
青柳の緑のすぢに紛ふかに音なく降りぬ雨の優しさ アゲハ
夕雨の桜並木の花明り家路の傘の色の清や清や 写歌 ★
佐保姫の眉偲ばする青柳に髪より細き春雨ぞふる 樂々
しとどふる橋のかたはらうつろひし花のなみだのたもとに落ちぬ 黒葛
咲く花は結ひもとめぬ春雨の糸に野山は緑ましゆく 深草
かすみにほふ梢の空はやはらかに花の木のまに春雨のふる 修学院
同じくはいづこに雨の宿りせん梅の花陰青柳の下 海松純
ひねもすにしくしくと降る春雨の染めかへしゆく野のみどりかな ういろう ★
したわらび谷に歌へばまして濃きうぐひす色の春雨ぞふる 水垣
卯の花の白き垂枝に夕風のゆたにたゆたに日は暮れなづむ 写歌 ★
群鳥の間近き声に目覚むればなほ日は高し花の下陰 樂々
茜さす日の短けば恋しかる香のうつろひに悲しからずも 黒葛
暮れがたき春日を見れば君が代の心やすくも長くもがもな 海松純
しづむ日のよわき光はきえわびて花のうへにも暫しやすらふ 修学院
延ばはりて暮れゆく野辺の夕空におぼろの月も高く出でたり ういろう ★
花たとり幾十の野辺を訪ねしにまた暮やらて匂ふ日の影 深草 ★
ながき日のをはりまどろむ窓のそと夕星あかり春とやはらぐ 水垣
あけほのを松か根枕立ちて見む色音かすめる須磨の浦なみ 深草 ★
しろたへのひれかとぞ見る遠つ人松浦の山の花の曙 樂々
橋立の浦に朝影赤らひてか黒に小さく浅蜊舟みゆ 写歌
夜をこめて花は袂をよそふとも枕より見る春のあけぼの 海松純 ★
夢のうちに明くる眺めや花霞匂ひ立ちたる曙の空 ういろう
源氏物語「野分の帖」にこころはせて..
曙のかすみの間より咲きにほふ嵐のあとの白き花影 修学院
伊豆の海や霞にねむる島影も乙女椿のあけぼのの色 水垣
春はただこのひとときの名ぞかしと桜ににほふみ吉野の空 樂々 ★
み吉野の
夕さりて高瀬にうつろふ桜花よどみに白き影のこしつつ 修学院
昔よりなほ白雲にまがふかな八重立つ染井吉野の色は 海松純
東雲のほどろほどろに明けゆけばまづ花影ぞ匂ひそめける ういろう
いつれをかまさると言はむ峯ふもと盛りひとしき山桜花 深草
人づてに咲きて散りゆく峯の上の雲にかくるる山桜花 招き猫
時に空かげろふ下を風過ぎて静まるのちの花の色深し 水垣
散ればまた見んため惜しき命かな花ゆゑ入りし山ならねども 樂々
来む春の盛り祈るや神垣に花はみつから幣とこほれて 深草 ★
香をさそふ風に散りゆく花わびてやはらにひかる春のかげかも 招き猫
春風のすさぶまにまに散りまがふ花こそ知らね飽かぬ別れを ういろう
散らばこそかかるめでたき桜川流れ行く瀬の花のゆかしさ アゲハ
山桜八重に散りしく木のもとは花明りにぞ暮れなづみける 写歌
小夜更けて風鳴る庭に咲きちらふ梅のにほひを文に染めつる 黒葛
音はせで花に流るるいささ瀬の汀にとまる色ぞすくなき 修学院
吹きまよふ下風花の香に染みて枝をかれゆく天の羽衣 海松純 ★
しめやかに花降る夜の雨宿り桜老樹に独りよりそふ 水垣
ひきてせく苗代水のいかなれば過ぎゆく春をとどめかぬらん 樂々 ★
苗代に広ごる青き水影を風は
今年また何を唄はん夕暮れの苗代道を帰る早乙女 海松純
大沢の風になびきて色まさる早苗のすえにひとむらの雲 修学院
蛙鳴き雨けふるなり苗代の水口まつる賎にこたへて 深草
田の神は小さき神か白つつじ幣のさ枝をよりしろにして 水垣
藤浪を揺りつつくぐる春風の匂ひうつして照るおぼろ月 ういろう
波音に雁の声そふ春の夜汐路ひとつに霞む月かけ 深草
あふことの夢にあらじと松が枝にかかりてむすぶ春の夜の月 招き猫 ★
山吹の花染衣きたるかにまどろむ春の月のをかしき アゲハ
白妙の袖濡らしつつ眺むるかも春の夜月のおぼろに見ゆるは 黒葛
つれなくも君こぬ夜のさむしろは月もおぼろに宿りかねつる 写歌
面影に昔の月や写るらん涙をそそく春の盃 樂々
あやなしと今宵は言はじ花の香も色も朧に照らす春月 海松純
小夜中の梢の月は春をとどむ霞のおくの花のひかりに 修学院
深き夜を花なき枝に白き紗綾掛けつつわたれ春の月かげ 水垣
願はくはやがて覚むべき夢ならで胡蝶となりて花に飽かばや 樂々 ★
雪間より早わらひ萌ゆる春の野に日かけ誘ひあそふ蝶々 深草
夢のしじま舞ふがに蝶の白き影真昼の庭ゆ消え去りにけり 写歌
春風のをやみしからに紋白蝶かすみのそらに吸はれゆくかな 水垣
ぬばたまの夜は明けぬれど黒揚羽羽に赤々と灯もともしたり 海松純
揚げ雲雀声降る調べをかぎろひの空に記せり蝶の白翅 ういろう
さやさやとまがきのうへに吹く風のなごりにふるふ蝶のうす羽 修学院
誘ふべき花も見えぬに飛び来るは我を慕ひて迷ふ胡蝶か アゲハ
かぐはしき花といふ花たづねゆくつれなき蝶は庭を過ぎゆく 黒葛
雁がねはかへりて花を惜しめばや散るをば見じと思ひたつらん 樂々
武蔵野の春のゆかりをたづぬれば姿見えねど雉子鳴くなり 黒葛
春の空のこる心を薄墨に書きて帰るか雁の玉章 写歌
百千鳥木伝ふ庭にしきしまの春やうららにわたりゆくかな 招き猫(長歌は略しました)
春は来ぬ声のみ風のつれそめて霞の奥を渡るうぐひす 海松純 ★
かほりにほふ木花あやなすせせらぎの平瀬にさやぐ鶯のこえ 修学院
閑けさをたもつ山こそ侘ひしけれ友よふこ鳥一日鳴きつつ 深草
円ら眼の白き隈取り花影に見えつ隠れつ目白遊べり ういろう ★
藪隠れならひ始めし歌をいま桜の蔭に心のままに 水垣
春の夜の風や夢路に通ふらん覚めても同じ梅が香ぞする 樂々
寝覚めをば何にゆだねん明日の夢梅のにほひかうぐひすの声 海松純 ★
花霞む空のあはれも何かせむ人思ひ寝の夢はとたえて 深草
春の夜の夢の通ひ路まどひきてあしたの野辺にもゆる糸遊 写歌
時のまにかすみて聞こゆ春の夜の夢の先にて問ひし君はも 黒葛
そのかみの瀬見の川音ゆめにして水面にゆるる青柳の影 修学院
朧にも深く色染む春の夜もよそに霞める夢の曙 ういろう
うつつにはまた行かむとも逢はめやもその夜の夢にみ吉野の花 水垣
ひかりさす野辺や蒲公英ほの白く綿毛にそよと風わたるなり 招き猫
逝く春に遅るるとかも青時雨に咲けば且つ散る山吹の花 アゲハ
匂はねどまことと見ゆらむ夕去りて音しづかなる池の藤浪 黒葛
濡れつつぞふさに折りつる藤の花君がこころの深き色かな 写歌
この里に幾世の春を送りぬと問へど答へぬ井手の山吹 樂々
ひとへだに色の限りをかきつめてまばゆく咲ける山吹の花 海松純 ★
玉川にそそく露にや物いはぬ八重山吹の心見ゆらむ 深草
神山のふもとになれし杜若ほそき葉末に月影のすむ 修学院
つむじ風小手鞠の花巻きあげて暮れゆく春の
去夜の雨に山に笑ひの形見なく翠
花散りて今は名のみに残る春行方は空の雲にこそ問へ 深草
若草の著く生ひ立つ日の暮れにまだき遙けし佐保姫の袖 ういろう
青みゆく四方にもひとり春の色をとどめよしばし山の藤波 水垣
面影は重ねじとてもなほも惜し花の別れは袖のひとへに 海松純
首夏 時鳥 夏夜 五月雨 紫陽花 夏花 夏草
蛍 夏虫 水辺夏 炎暑 蝉 夕立 納涼 晩夏
白妙の衣や干すと見るままに春を隔つる卯の花の垣 樂々
茂りゆく梢かすまぬ夏の来てまたも恋しき花の面影 深草
開け遣れば空薫揺らぎ橘の香さへひとへに競ろひし頃 アゲハ
五月晴れ端山繁山はたばりていぶせき一日家隠りする 写歌
神さびて御注連の内にかざしける葵にもるる賀茂のあさ影 修学院 ★
空青し緑新し若夏の島は真南風にそよぎ渡れり ういろう
若夏(わかなち) 初夏の季節を呼ぶ沖縄の言葉。万緑をおしなべいよよ青嵐あらあらしくも夏さりにけり 水垣
世の憂きに入らんと思ふ深山より鳴きても出づる時鳥かな 樂々
夜をこめて待つより先に時鳥幾たび我と聞くや忍び音 海松純
思ひ寝の時は知られで暁の夢の底ひに聞くほととぎす ういろう ★
さみだれて昏れゆく庭のいぶせきになにせはせはと時鳥啼く 写歌
あくかるる山ほとときす今宵しも待つ夜の数を宿に鳴かなむ 深草 ★
紫の花に降りしく朝しぐれささめく外面にほととぎすのこえ 修学院
夏のあした鳴き立つ蝉のかげに聞く山ほととぎす森の奥より 水垣
有明を見果てぬ夢のなごりにてまだ宵ながらしらむ夏の夜 樂々 ★
夏の夜は遠花火の音にそぞろぎて夜戸出してみる山際の空 写歌
風も涼し真砂の数に散りまがふ月の光は夏の夜の霜 海松純
月光り涼しき能登の浦波の寄せて返れは明くる夏の夜 深草
夏月に誘はれ出でてすずろ聞く宵の円居の声ぞ親しき ういろう ★
夏の夜の水面に映ゆる篝火の影になづさふ人形の色 修学院
宵方の空つらぬける花の火にかざし折りける早乙女の袖 招き猫
雨音にをみなをとこのささやきのまじりて聞こゆ五月闇川 水垣
水際をわたる蛍のあやふさは旅の仮寝の短夜の夢 ゆゆ
さみだれて夜半にむすびし松の葉のまだひぬつゆになくほととぎす 招き猫
夜を籠めてふるさみだれを聞きすます来ざる君とは予ねて知りしも アゲハ
ふるたびに色ふかめこし紫陽花の苑もかすみて今朝のさみだれ 水垣
眺めつつ人待つ心さみだれてあだにふりゆく身をぞ惜しむる 逸爾散士
花かつみかつみがくるる五月雨に浅香の沼は名をや変ふらん 樂々 ★
幾返りこのすぢごとのさみだれをわけてもやまぬこひぢをぞゆく 海松純
亡き人の悔し涙か初七日に卯の花腐しさみだれの降る 写歌 ★
さみだれに胸の底さへあらはれて昔眺むる黄昏の空 ういろう
さみたれし日数知らるる晴れて猶たえぬ林の木々の滴に 深草
あぢさゐを手向けの花に手折らばやつゆと消ぬ間の色なればこそ 招き猫
かはらひて彩り愛でし紫陽花もはた厭ふかな移る心を アゲハ
長雨にひとりいろめく紫陽花のうつり気に日々惑わされつつ ゆゆ
うすれゆくみどりは雨に朝な朝な白あぢさゐの面輪
五月雨の晴れ間の月を待ちとりてなほ色変ふるあぢさゐの花 樂々 ★
あぢさゐやみどり幼く咲き初めてふちのみ青く色づきにけり ういろう ★
夏衣ひとへにかはる月影をいくへに増すやあぢさゐの花 海松純
さみだるるなへに移ろふ紫陽花に君をながめし日もふりにけり 写歌
晴れゆかは誰にか見せむ五月雨の滴も匂ふ庭のあちさゐ 深草
夕顔は我が立ち待ちし柴の戸に咲くや真愛しひとつ思ひに アゲハ ★
五月闇くちなしの花に雨降ればふと立ち香る君の面影 ゆゆ
先の世の契りもかくやあさ露を宿しも果てぬ夕顔の花 樂々 ★
紫の深きゆかりのうれしさに花の面さへ色づきて見ゆ 海松純
いづくにかさ百合咲くらし杜の辺の闇のまにまに香ぞたち籠むる ういろう
梅雨はるる夕べの空に合歓の花くれなゐそよぐ月は来にけり 水垣 ★う
くちなしはとへどこたへぬ岩手山いづくに匂ふ風のゆくさき 招き猫 ★
白木槿ひと日の明り床にあり夏の夕べに茶を点ててゐる 写歌 ★
夏の日の言問ふ池に口なしの色して咲ける河骨の花 深草
額紫陽花 夜空の星を すくいあげ 待ち侘びながら 梅雨に濡れ立つ 言蛇
五月雨を長み夏草野を茂み裾も濡らしついま訪ね来む ういろう
かりにだに来ずや鶉は鳴かねども夏こそ茂れ深草の里 樂々
すさまれし身はいでたつと思へども草たちふさぐ夏のさ庭を アゲハ
朝露を八雲の方のつとにして空わけ入らむ青き夏草 招き猫 ★
夏の野は茂き草葉のなかなかに花ごと色ををしまするかな 海松純 ★
わが思ひ日にけにしげくなりゆけど朝朝ふかき夏草の露 写歌
武蔵野や照る日の陰もなつ草の波越す風そ袖に涼しき 深草
ゆきちがふ燕の腹に末なびき草叢高き野辺の夏かな 水垣
いたづらに袖に括りて忘らるる朝ほたるの命かなしき アゲハ
かがよひしかづらの影をかれゆきて空に玉まく蛍火の果て 海松純 ★
貴船川岩に砕くる白波の玉かと見えて飛ぶ蛍かな 樂々
おのづから蛍もとめて出逢ひたる
飛鳥川かり寝の旅の供をして夢の中までわたる夏虫 ゆゆ ★
夕さりてやうやう燃ゆる蛍かなあかぬ月夜の夏草のかげ 招き猫
宵闇の息づきのごとき蛍火の消ゆる間よその心もとなさ ういろう
あらそひし花しなければうつりすめうきつよの瀬をわたる蛍火 月形
蛍火を闇路ほのかに見てしより君が魂かと心に添へり 写歌
涼しさを集めて庭のやり水にかよふ蛍の小簾の透き影 深草 ★
心なき君は篝火夏虫の我なにせむに身をばやくらん アゲハ
わが恋はなどや火に入る夏虫のまほろばとしもみゆるごときに 招き猫
夏百合を離るる揚羽のはばたきや瞬く影と迷ひ去にける ういろう
小山田に雪解け水を引きはへて蛙の声もさゆる夜な夜な 樂々
かはひらこ引きやるからに白妙の袖のはだけのけはひよそほひ 海松純 ★
柴の戸を推す音に夜のゆらめきてひひる舞うかげ仄白きかな ゆゆ ★
大水青みづかげあをき蛾なりけり月におどろく夏の夜の夢 水垣
夏虫も訪ひこぬ里の深草を惜しめばとめよ玉響の露 月形与三郎
汝がぬちのまどしき明りにあくがれて玻璃戸に身を打ち夏虫の落つ 写歌
世の人のさまに似たるか闇照らす光したひて集ふ夏虫 深草 ★
真広げて見入れば涼し滝川の澱みにすまふいをのともしき アゲハ
せせらぎの木の葉にのりて流れゆかな素足の脛を棹と差しつつ ういろう ★
夏山のみどりに茂き川深く揺れつつ潜く月ぞ涼しき 海松純
汀まで蓮の立ち葉の玉ゆらに玉揺りおとしわたる夕風 水垣 ★う
神風に夏の日ざしを和らげて瀬音も涼し御裳濯の岸 樂々 ★
山みどり立つ白雲や日影さへうつりていこふ川面夏かな 招き猫
夏草の岸のおどろを刈り
龍神に頼みし水を傍にきき足取り軽き貴船入りかな ゆゆ
夕立の晴れてふたたひ池水は鏡と澄める月や待つらむ 深草
喘ぎつつ片陰乞へばゐしきまで焼き上ぐるなり昼のきざはし アゲハ
御贔屓の熱さへ添ひて鯱鉾も溶けて流るる名古屋場所かな 樂々
陽盛りに炎えつつ盛る
日盛りに蝉の声さへ薄れゆきて野山もなべて眠るまぼろし ういろう ★
玉響の歩みをとむる木陰だに葉の間を貫きて敷ける日盛り 海松純
常夏のみしらぬ國と思いけり炎暑の底にこごるまほろば ゆゆ
みどり立つ稲葉くまなく照り映えてこぞとも同じ夏の大空 招き猫 ★
炎熱の路上の片へ遠くしてむなしく果てしみみずらの殼 写歌 ★
涼みする木陰に暑く吹き来れはかへりて風をいとふこの比 深草 ★
枝しげく重なる楢の広葉よりひまなきものは蝉のもろ声 樂々
夏の日も榛色に暮れゆけば軽らかに降る蜩の声 アゲハ
忽ちに蝉の羽をゆく照り雨の音をばよそに繁きもろ声 海松純
蜩の声添ふ夏の夕木立何失はむあやなくわびし ういろう
沸きかへる四方の端山の蝉のこゑ空へ抜けつつ暮れてゆくかな 水垣
いそのかみいくへかさねてふる蝉の声のまにまにうづもるるかな 招き猫 ★
空蝉の人をはかなく待ちわびて蜩の音になき暮るるかな 写歌
すみなじむ旅ころもとて空蝉のみ山の裾は色かはらじな 月形与三郎
木々茂み秋とおほゆる方あまた御苑の蝉の遠近の声 深草
雲過ぐる外山の空に鳴る神の音はしながら晴るる夕立 樂々
神ごめに落つる白玉数知らず八重の簾の夕立の空 海松純 ★
雷の低きに響む萱野原靡き乱れて夕立ぞ降る ういろう
徒に淡きかねごと繰りをれば身を知る雨に夕立ぞ添ふ アゲハ
かき暮るる天にたのむのやすらひて稲葉涼しき夕立のあと 招き猫
潮気たつ
夕立の軒端宿りの仮初に人を恋ふれば小止みあいなし 写歌 ★
しはしとて涼しさ知らむと遠方に降る夕立の雲を待つかな 深草
御簾越しに遣り水の音の冴えくれば心涼しきこの夕べかな アゲハ
雨やみて涼みに窓を開くるより外面に同じ風の内方 海松純
谷水を庭にせき入れて山里は夏に訪はれぬすみかなりけり 樂々 ★
大輪の花火のあとの静けさに潮騒聞こゆ浜の莚べ 写歌 ★
水浴びにはしゃぎし子らの昼下がり寝顔おのおの扇風機まもる ういろう
岩はしる水音絶えす聞こえきて居なから涼し瀧の下庵 深草
いつとなく過ぐすならひの端居にも扇忘るる今宵の風に アゲハ
なく蝉の涙のつゆに秋かけてまだきいろづく森の下草 樂々
今日明日の薄き衣の形見とて身に染むほどは吹かぬ涼風 海松純
路濡らす子らの遊びもしまひけりおしろひ花の香のみ残して ういろう ★
ひさかたの雨間すずしき水無月の空に声してほととぎす逝く 水垣
晩夏光ステンドグラスゆ射しいりて御堂の床に七色にあゆ 写歌
夏かけて木の実むすびし沙羅の葉の音なひになど月のかすみぬ 招き猫
浮き舟のその日暮らしの水底にふり墜ちてゐし蝉の片翅 ゆゆ
みそきする比なりけりな吹く風の秋をかねたる御手洗の河 深草
早秋 残暑 朝顔 露 萩 草花 秋鳥 霧 月 薄 虫
秋夕 秋果実 秋天象 秋田 秋雨 夜寒 菊 紅葉 暮秋
何となく袖ぞ露けき唐衣龍田の里の秋の初風 樂々
掻きあわす琴の音に添う初嵐しらべいみじく身にしみにけり アゲハ
昼はなほ露も扇も置かねどもまづ夜に知る秋の初風 海松純
鎌倉の山路を越えて蝉時雨聞きつつ眺む雲ぞ遥けき ういろう ★
秋きぬとはだへにしむる夕風に思ひくらしのねをやなくとて 招き猫
由比ヶ浜
深き夜に目ざめて見ればオリオンは雲間に低し初秋の空 水垣 ★う
朝風に仄かに肘のうるほひて秋の気色は寂しかりけり ゆゆ ★
秋はまた浅茅か原にこの朝けまたきにしけき露の白玉 深草
涼しさはまだおとづれぬ夕暮れにひとり秋なる荻のうは風 樂々
蜻蛉羽の衣あやなし秋たつにのこんの暑さ時ならずして アゲハ
秋立つもしばしひとへの衣手にうち重ぬるは扇ぐ音の数 海松純 ★
秋そよと風の音にぞ目覚めしをつれなき真昼の蝉時雨かな ういろう
夏終わる
あとかたづけの
菜園の
腕ほどあろうか
胡瓜が一つ 麻呂
蜩をおもほひてなほとどむらむ雲居高みてひかりさす空 招き猫
狭庭べのほのぼの白し夕顔に暑き真昼の名残り忘るる 写歌 ★
ひぐらしは息絶えぬるか昨日よりまして暑さの秋の夕凪 水垣
秋来ても日影そ暑き散り初めし桐の一葉も見れはしをれて 深草
朝顔や我が世の夏は終なるを名残に深き呉藍に咲く アゲハ ★
釣瓶なきわが
きぬぎぬの涙を露と宿しおきてなほ面影に咲ける朝顔 樂々 ★
秋風に木槿ふたたび咲き出でて今しばらくは朝の貌花 水垣
久方の色をうばひて咲くなれや月とかたみに白き
はや伸ぶる花咲かぬ間の朝顔のあまつ雲居に誰ぞやおるらむ 招き猫
かほ花の露けき朝の青の色に紫ほのか透き通りたり ういろう ★
今をおきていつか見るへき露なから盛りほとなき朝顔の花 深草 ★
暁の別れに耐へぬ涙より繁きに勝るこれの露原 アゲハ
草の葉の露を思はず明け暮れて六十路に露の繁く消ゆみる 写歌
宮城野の草吹き結ぶ秋風にこぼれて落つる萩の下露 樂々
秋は来ぬ葉末も袖もまがへつつ月の光を散らす下露 海松純 ★
面影を見ゆらむものを深草の露はかかるや忘れへずして 光源氏
朝明けの虹の花野に敷く露になべて旭の宿りたるかな ういろう
秋の色を見えぬあたりにこめたるや今そことなる露のあはれさ 深草
朝かげに早しをれつつ月草のまだひぬ露ぞ藍深めゆく 水垣
あさじめり萩しなだれて露こぼすかそけき音にしじまゆらぎぬ アゲハ ★
萩の花ただみまほしと奥山に入れば待ちたし宵の秋月 招き猫
いとかなし夜にやあらむ萩の花しとどに濡れてさはに零れり 写歌
秋の野の萩の錦を来て見れば霧の立つさへ惜しまるるかな 樂々
虫の音の震はするかは夕さりにしづけく萩の花は零れぬ ういろう ★
さ牡鹿のなく音も遠き萩の末野辺のこなたや風のしがらみ 海松純
萩原を風のゆく時ひとすぢに我がまなざしも彼方へわたる 水垣
袖触らは露乱れむとま近くは行きそかねつる庭の萩原 深草
花野辺の別きても愛しみこしぐさ衣に織り着てみまほしきかな アゲハ
をみなえし見ぞするとてか手折る間もなきのまにまに秋の風ふく 招き猫
女郎花あだには折らじ白露に濡れなん袖を人もこそ問へ 樂々 ★
女郎花よそにおほかる野辺よりはひともと立てる庭を眺めむ 海松純 ★
先を見ず退きてぞ通ふ 集会堂 吾も斯うして小身萎へしかな 写歌
(作者注:「水引き」「荷葉(かよう)」「秋海棠」「吾亦紅」「女郎花」と5種の草花を詠み込み、「先」を「咲き」と掛け、縁語としました。)
水引を紅く点して庭隅は秋が標野となりにけるかも ういろう
うつろひの時やさやかに視つめむと秋明菊は瞳ひらきし 水垣
この年の野辺の錦やいかならむ匂ふ盛りの千草八千草 深草
いくそたび追へども群るる稲雀斯くあらまほし汝がおとなひも アゲハ
しろがねの勾玉あゆぐ様なして月のみぐしを雁渡りゆく 写歌 ★
初雁の声する方をながむれば一葉色づく桜葉の影 招き猫 ★
菅原や伏見の里に月さえて生駒の嶽をわたる雁がね 樂々
おきまよふ黄なる涙に身をつくし木々に袖振り鳴ける鶸かな 海松純
秋さればはや夢に聴く有明の山ほととぎすいつか去りにし 水垣
霧雨に柴焚くけぶりもくゆるらしひよ鳴き渡る里の夕暮れ ういろう
ひむかしの川も鶺鴒わたるやとかへり見しつつ歩く夕暮れ ゆゆ
衣打つ声にやきほふ深草の野辺立つ鴫の小夜の羽かき 深草
月きよみ雲井の雁も宿るべしその数だにも月読の森 公麗
三次なる里ふたぐとや厚らかなその霧截たば衾ともせめ アゲハ
しかなくと聞かば訪へかし川霧のたつみの方ぞ世をうぢの里 樂々 ★
後朝のつらき別れに明けゆくに人目忍ばすけさの霧かな 写歌
すずろなる霧のまよひの晴れそめて見ゆる宇治川波立ちかへる 招き猫
秋霧やいづれか
はるかにも霧笛ひびかふ鎌倉のけぶれる山の山ふところに 水垣
夜深く桜紅葉のちらぬ頃の大横川にすめる月影 招き猫
すみなれば心慰む夜やあらん旅の空なる更科の月 樂々
譬へるに適ふもあらず称ふるに言の葉もなし秋の月かな アゲハ
そびやげる大廈のひまに方形の夜空のありて月渡りゆく 写歌
空見ても心に曇る月の影冴ゆる枕に秋を知るかな 海松純 ★
かの人も秋の渚を月よりのさすらへ人か影あびてゆく 水垣
澄む月の雲間出づれば道すがら眺め眺めて家
禊せし御裳裾川に影さえて二重に照らす宇治の夜の月 公麗
踏み分くるにしるしの道もなかりせば繁き薄野里と見ましや アゲハ
道のべの尾花がしたゆ思ひ草薄き思ひのわれならなくに 写歌
秋深み尾花が風にほの白くいくへも映ゆる後の月かな 招き猫
旅の空月に重なる花すすき幾袖かけて光る露かな 海松純
にほの海や釣り舟送る浦風に尾花の波をわたる帆の影 樂々 ★
風になびく薄の原を見わたせばいにしへ人の袖ゆたかなり 水垣
吹く風も秋と告ぐなる蓬生に露重げなる松虫の声 樂々
邯鄲の夢としるべき世を尚も厭ひなくらし虫時雨かな アゲハ ★
すだく虫さとに鳴きやみ君かもと妻戸に立てば風の訪ひ過ぐ 写歌
幾
雲の間に月の出づれば虫の音の静もるのちぞ長けくまされる ういろう
そよろ秋まなこ閉ぢよと馬追ひの夕べ川面を声わたり来る 水垣 ★う
秋とだにわかぬときはの山人もながめわぶらん夕暮の空 樂々
はやち吹かば駒の鬣思ほゆるしろがねの穂や荻の夕影 アゲハ
たまゆらに光りて失せし入り海の浜にいろへる秋の夕影 写歌
つくばねの里たづぬればみえつらむ思ひそめける秋の夕暮れ 招き猫 ★(長歌は略しました)
もみぢ葉も露もむなしと見遣るとも空も色添ふ秋の夕暮 海松純
夕映えのいや美しく翳深く胸にさし込むものあり秋は 水垣 ★海
風冴えて心はかなく眺むれど誰をも待たぬ秋の夕暮れ ういろう
窓閉づる夜深き部屋の葡萄一粒山の奥にぞ鹿の鳴くなる ういろう
未だ熟れぬ通草と見しを誤りとしたり顔なるむべのをかしき アゲハ ★
月とのみすむ深山辺は栗の実の落つる音にも驚かれつつ 樂々 ★
方代が残せし柿の実枝にあり鳥も飽き満ち冬がきぬらむ 写歌
(作者注:本歌は「柿の木に礼をつくして柿の実を梢に三粒粒捥ぎ残したり」 山崎方代)
わらはべが過ぐれば消ゆる栗の実を道におぎなふ木々のくるめき 海松純 ★
青
いざ行かな柑子手にとる
熟れ柿の色にたちでて後の月ひと夜ひかりはしたたりつづく 水垣
畳なづく鱗の雲は神集ふ國より湧きて立ち寄するかな アゲハ
いかにせむ雨夜の星のあやにくに明日とも見えぬつまの灯 海松純
雁がねの羽風や雲を払ふらん鳴き行くままに晴るる月かげ 樂々
木枯しの一夜に銀杏は葉を落とし裸木あさの蒼穹に顕つ 写歌 ★
西つ方姿やさしき雲しあれば野に誘はるるいにしへの旅 ういろう
曼珠沙華その色照らす稲妻の光りてもゆるわが心かな 招き猫
小山田もこの小春日に刈り株に蘖青く萌えいでにけり アゲハ
秋の田の刈り穂のいとど露にぬれ君が行幸を待ちわびにけり 写歌
山田もるかりほの床のいねがてに穂波をわたる小牡鹿の声 樂々 ★
収穫を終へし稲田の畔道に夕日たばねて蓼の花咲く 水垣
穂の数の吉事頻かなむ稲莚みながら刈るは冥加なけれど 海松純
秋づけば物侘しきに昨日今日雨降り頻けば堪えずしぐるる アゲハ
唐松の木間もる秋日にきらきらと
長き夜の消え残りたるともしびに窓打つ雨の声もをぐらし 樂々 ★
枯葉うつ音に始まる夕しぐれ入日にほそく照りてをやみぬ 水垣
かたときは春の朧に立ち寄りてさすがくもりも果てぬ霧雨 海松純 ★
片敷きの袖に月影宿らせし夜寒の朝は露もしとどに 写歌
秋の実は梢の風になれぬらん我が身夜寒の床に和ぎぬも 海松純
ふり出づる鈴虫の声弱るなり夜風や寒くなりまさるらん 樂々 ★
さ夜風に窓やとづべき夏冬のあはひの時は未だあかなくに 水垣
うちむれて霧の上ゆく雁か音の羽風に寒き夜半の月影 深草 ★
月さえてひとり寝にふすしきたへの枕ならへぬほどのわが身は 招き猫
霜おけば幾日もあらじ菊の花よし惑ふとも折らば折てん 樂々
菊の弁の盞に浮かべて酌む宵は大宮人の心地こそすれ 写歌
菊の花色々咲けばをりふしの空より寄れる月かとぞ見る 海松純 ★
暮れのこる秋野の末に夕星の光ともれば菊もほのかに 水垣
大空の星の林と見まかはむ垣根にあまる菊の白妙 深草
手向けにし紅葉の錦散りぼはば帰へさに一葉家苞にせむ 写歌
大井川錦の浪ぞ立ちにける嵐の山に紅葉散るらし 樂々 ★
入相の日影もあかき色そへて錦あらそふ木々のもみち葉 深草 ★
錦木の千束の色もまどふらん道の奥まで染める紅葉に 海松純
みかも山錦まぐはし紅葉なる
散りのこる柞の下葉いろなづみ冬隣るらむ山は黙しぬ 写歌 ★
龍田山越えてや秋は帰るらん紅葉の錦幣と手向けて 樂々
花妻はなく鹿の音に吹き合はす夕風寒し秋の暮かた 深草
風はなほ枯野の色にかはりつつ思ひし数も惜しき秋かな 海松純 ★
秋かけて恋しき人を夢にのみ見てし時雨るる今朝の枕は 招き猫 ★
見るままに落葉の雨と降る山路このひと風をゆく秋とせむ 水垣 ★う
初冬 落葉 寒草 小春 霜 水鳥 氷 冬星
雪 冬花 寒樹 暖房 冬山 歳暮 待春
昨日までひぢ踏む音の朝戸出に氷は薄くくだけそめつつ 海松純
おほかたの色は嵐に払はれてたき火をしたふ冬は来にけり 深草 ★
冬日浴ぶる白き垂れ布に影
霜枯れの道はあらはになりにけり雪積まぬ間に訪ふ人もがな 樂々 ★
なりひびく森の梢に音かへて風のうちにぞ冬も来にける 水垣
夜をこめて虎落の笛の哭くを聴けば瞼に雪の降り積むを見る アゲハ
夜もすがらやまぬ時雨と聞きつるは宿に木の葉のふるにぞありける 樂々
褪せぬまに色をば衣にうつさなん赤黄青なる道の朽葉は 海松純 ★
この頃は朝よりわひし閨の戸をあくれは繁き庭の落葉に 深草
光る径銀杏葉蝶の影なして
朝あけの雨降る窓の明るさは散りて色濃き庭のもみぢ葉 水垣 ★う・海
君恋ふる涙ともがな櫨紅葉つれなき袖に散りて見せばや アゲハ ★
霜枯るる野辺のはたてに垣となし冬麗の空広ごりにけり 写歌
尋ぬべき鶉の床に秋暮れて枯れ野となれる深草の里 樂々
花までの庭の日数を憂ふとも白む草葉の冬のあけぼの 海松純 ★
八千草の花そ恋しき今はたた霜に埋もるる冬枯れの野辺 深草
陽だまりに臥せる柴犬庭の草なべて枯れたり一つの色に 水垣
暖かき日ざしになごむ群雀暮れやすさにや冬を知るらん 樂々 ★
ひおもてに素心蝋梅ふふみたり浅黄の珠の
風の上ににほはぬ梅もありやとて見えし梢は小春なりけり 海松純
霜枯るヽ冬野の原の陽たまりに春をおほえて憩ふこの朝 深草
重ねける衣にたまる日影さへ春かとみゆる冬桜花 招き猫
笹藪に小春のひかり踏みまどふ影もめづらし鶯のこゑ 水垣
見上げれば限月の青空に花芽も固き桜木の枝 アゲハ
巌より雲を見おろす荒鷲の羽しろがねに夕霜ぞおく 樂々 ★
菜畑の片辺は冬日明くして家蔭に冴ゆる霜の狭莚 写歌
何冬を咲かぬ折りとぞ思ひけむ落葉も霜の花に薫れり 海松純
冬枯れの木立あらはに日かけさし雫にかへる松の朝霜 深草 ★
雪の上にふりおく霜か朝月夜しろにもしろき野辺のきらめき 水垣
冷え勝る野末を遥か見渡せば霜降りぬらし暁の道 アゲハ
夕映えの
さとはやき足音あまたの浜千鳥真砂の路に揺るぐ夕影 海松純
小夜ふくる佐保の川原の風さえて凍れる月に千鳥鳴くなり 樂々
夜あらしの吹くも汀はこほらしと群れて遊へる水鳥の声 深草
夕風の寒き青より舞ひ降りし沖つ鳥また青へ朝立つ 水垣
夜の
山深み氷ぞ結ぶくる人も冬は絶えたる滝の白糸 樂々
木枯らしも跳ぬる道辺の夕氷映れる月の影も揺るがず 海松純 ★
月冴えて梢くまなき片岸に嵐を渡す池のうすら氷 深草
波の音に流るる氷あけぼのの水面を八重にただよひにけり 黒葛
小鳥らが浴みし器の水こほる樹々の
暁の空のあか星榊葉の霜といづれかさえ増さるらん 樂々 ★
星月夜その名羨しみ棲む谷戸の山際低く夕つづの影 写歌
月にだに色なずらふるよしもなしひとりにほへる冬の長庚 海松純
久堅の雲の薄ら氷さし透し今宵ぞ殊に青きシリウス 水垣
人となる主こと祝きうちつとふ御民をまもれ清き夜の星 深草 ★
夢にだに訪はれぬものを雪のうちに誰踏み分けん小野のふる道 樂々 ★
朝ぼらけ明昼の日とみるまでに屋ぬちを照らす庭の白雪 写歌
色もなき心の空の果たてよりとはれぬ袖をすべる白雪 海松純 ★
川つらに結ふ氷そ知られける消えて降りつむ今朝のみ雪に 深草 ★
ゆゑありてこほれる身にやなりぬらむみ雪妻問ふ越の山風 招き猫
下陰のふかきにぞ見し朱の実の山橘を照らす白雪 水垣
磯触りの香りのひまに匂ひくる爪木の崎のほきの水仙 写歌 ★
おしなべて散るやはあらぬ寒椿ひと弁ごとにはなほ惜しければ 海松純
誰が庭の雪に咲くとは知らねども春は隣と告ぐる梅ヶ香 樂々
いつくにか春をかすめて咲きぬらし風にたくはぬ梅か香そする 深草 ★
春まつもあまりてひらく梅の花雪のなごりの風に香し 招き猫 ★
山際に千枝の冬木の影顕ちてほがらほがらと明くる東雲 写歌
冬木立つらき嵐もよそにして一人色ある峰の老松 深草
吹雪する三輪の山本来て見ればしるしの杉になびくゆふしで 樂々
もみぢ葉に色をかこちし月影も梢に細き冬木立かな 海松純 ★
冬木立風に負けじとたのみせばもる枝につぼむ春のおとなひ 招き猫
まはだかの冬の春楡枝々に鳥とまらせて夢にか聴ける 水垣
もろともに灰となる身のなほしばし残りて向かふ夜半の埋み火 樂々 ★
こごる手をひをけにかざせし熾きの火も遠く過世の火影となりぬ 写歌
埋火に向かひ語らふ冬の夜は閨もる風も春の香そする 深草
冬こめて雪にしづもる山里の夜半のまほろば囲炉裏火の端 ういろう
なかなかに春の香こめて吹く風に消ゆる消えぬをまよふ埋み火 海松純
かき抱きて火桶を友と暮らしけり
白妙の富士のかたへに
風過ぐる梢のひまに星見えて光さびしき冬の山道 海松純
炭かまの細き煙をひき寄せて雪に静けき八瀬の里山 深草 ★
雪深み岩の懸け道跡絶えて峰に嵐の声のみぞする 樂々
靴裏に乾き切つたる落葉砕け森すがすがし冬の山道 水垣
冬枯れは暮れゆく年のいそぎかな木の間のそらもすみかへりける 招き猫
川ならば堰きて止めむと思ふにも流るる月日になす術もなく 写歌
老いの身は年の暮れこそ悲しけれわが世の春に会はじと思へば 樂々
呉竹の一夜と思へは惜しまるる幸より禍に馴れしこの年 深草 ★
年ごとに鏡の影はうつれどもさてこそ深き大晦日かな 海松純
年果つる大き入日の目に
はたやまた年のよるとぞなりにけるふりつむ雪のかさも知られで ういろう
あしひきの
咲かばまた疾しと惜しまむ同じくは春待つ心冬に尽くさむ 海松純 ★
白雪を枕と梅の咲きしより近き春へはなほそ待たるる 深草
白雪とともにわが身はふりぬれど今ひとたびと春を待つかな 樂々
紺瑠璃の暁にきびしき枝ひろげ梅は待つらむ春の深空を 水垣
初恋 忍恋 不逢恋 逢恋 変恋 別恋 久恋 遠恋 寄月恋 寄雲恋
ひきしのび通ひ初めにし水茎の跡恋ひかぬる我は妖しき アゲハ
消えなむよさらぬ心と思ひしを惜しみそめつる我が身知らるる 海松純 ★
心うちに君がゑまひを頼みつつ眺むる窓の雨の明るさ ういろう ★
山のはにほのかに見えし月影の入りにし方ぞ恋しかりける 樂々 ★
ほつれ髪
しらぬ間の思ひ知りにしあしたよりひねもすうかぶ君が面影 招き猫
すすき野辺君かたわらの秋長夜もち月眺むその心もち 漢升
ふみかよふ
言の葉の陰に漏りくる陽に惹かれ待宵草の色変はりたり ゆゆ
行末もわかぬに今そ入りそめて帰さ忘るる恋の山口 深草
耐へがてに狂ひし時は龍となり君より他をあやめてしがな アゲハ ★
はづかしな野べに咲き合ふ花々は色に出でてもはばかりもせで 海松純
あはれいくよかの岸とほき朝川に息づく身だにけなばけたれよ 招き猫
ひとむらの白萩咲けば我が恋は封じこめたり風な忘れそ 水垣 ★う
しのぶ山木隠れにのみ行く水の音に立てつべくものを思ふかな 樂々
いとしとて吾の手及ばぬ望月よ隔つ帷越え名こそ呼べども 漢升
包めとも涙の露はせきかねて袖は今にも朽ちそ初めてむ 深草
恋ひわたる心は上の空ながら文のみ通ふかささぎの橋 樂々
頻偲び逢うが命を時の間もなきとや人のつれなかりけり アゲハ ★
さむしろや露を片敷く黒髪にちぎりおけるは月影ばかり 海松純
逢へずともさもあらばあれ現よりまさしき夢の影ほそるまで 水垣
片恋ひの紅葉赤々燃えれども木枯らし吹きて褪めて散りゆく 業平もどき
たのめつつあはで年ふる哀しさは慣れしわが身の心にぞある 写歌 ★
ながむれど逢坂こゆるすべをなみまだしふみみぬ背山妹山 招き猫
はひしのぶ思ひおきつつな絶やしそまたのあふちの末を頼まむ ういろう
うき人よあはれと思へ逢坂の関のかなたの松虫の声 深草 ★
うらみんと阿漕に思ふしきたへはみるめも寄らぬなぎさなりけり 公麗
現とも夢ともわかぬ後朝になお移り香のしるくたちける アゲハ ★
由良の門にこの逢ひながら楫を絶ち名立たぬ旅を重ねてしがな 海松純
年ごろの夜の長さは忘られてな明けそとのみ思ひけるかな 樂々
ひく潮の満ちかへりまた逢ふことも有明の月をしたふばかりぞ 水垣
望月に照る面影をうるはしみ惜たら眺めむ夜の真深きに ういろう ★
しきたへのつげの枕にとひてみむつかのま君がみし夢のうち 招き猫 ★
わびぬれし百夜の袖もあかねさす君が一夜の思ひに干ぬる 写歌 ★
をふの梨 秋の七日にならずとも折り見てあはむ夜のことごとに 公麗
常永久に敷くは月とぞ知られけるかはる枕のよその我が身に 海松純
ちぎりきや末の松山知らねども夜毎に袖を波越さんとは 樂々
桂紅葉きみが心に見し色のうすくれなゐもうつりゆくらし 水垣
たまづさの返らぬ日より秋空の雁が音ばかり憂きものはなし 写歌 ★
おほつかな梢は分きて山風のことの葉はかり吹き払ひけむ 深草 ★
龍田川紅葉いかだしゆく水にかはらぬおもひあるとやしるらむ 招き猫
変はらずよ妹ぞ
今宵よりかをらぬ風は吹きそめぬゆくへ尋ねぬ床の扇に 海松純 ★
別るとて袖に時雨のふるときぞまつにつれなき世とは知りぬる 樂々
夕月夜ほのかたらひて襟髪のやさしきばかり見つつ別れし 水垣
夏草の思ひ
別れても人は寄りそふ心地して泣く泣く袖の移り香を聞く 深草 ★
いかにせむ道にまどはぬわが心つたふるすべやあらぬあらざる 招き猫
ほのあかく明け立つ空の色のみか君がにほひの形見となるらむ ういろう
恨みつつ恋ひつつ果てず限りなくゆくへも知らぬわが思ひかな 写歌 ★
もの見るも聞くをも人に結ひつつ逢はて過きぬる年そ久しき 深草
花霞それかとばかり見し人を幾春かけて思ひける我は 水垣
今はただ弁々の日数も月草や訪ひこし路に露も残らず 海松純
添ひ過ぐす月日の淵瀬や飛鳥川そのみなかみを懐かしみつつ ういろう
みるめなく松はかりなる海山を幾重へたてて恋ふる人影 深草
風の音の空をゆきかふ夕なれば遠く思はむ雲のはたてに 水垣
思はくのあなたの月ぞ漏れ入りて夜の錦に袖ぞもみづる 海松純
現にはするがならねば夢路にぞ遠つあふみを恋ひ渡りなむ 浅草大将
我が家戸を訪ひ来し笑みもまさやかに妹ぞ夢見し離るる妹を ういろう ★
逢へばまた待つ日の遠くたちかへり逢ふも逢はぬもつらしこの恋 写歌
月のかほ見るは忌めども小手鞠の花にうつせば面影ぞ立つ 水垣
我か妹にまかひてつらし百草の露にかすかす匂ふ月かけ 深草
君と見し去年の秋月思ほゆる変はらぬ影の今は哀しき アゲハ
月影の隈無きを君笑みたればなほ照りまさる静けき夜かも ういろう
あかぬ戸をむなしく待ちて明けそめて空に消えゆく有明の月 写歌
絶えし夜の涙を闇につくろへどあしたの袖にゆるぐ有明 海松純 ★
あらぬ世とわするべきかは夢路にて衣通光る雲の月影 招き猫 ★
曙の峰にたなひく横雲の別れていとと恋ひこかれつつ 深草
下思ひのそれとしらすな夏空にいよよひかりてゆくしろき雲 招き猫
大空の青裂きはしる白雲のただひとすぢの跡も絶えにき 水垣
峰かけて夢に浮橋なほ渡す別れて後は空の横雲 浅草大将
風吹かばちぎれて消ぬる雲に似て君が契りのはかなくもある 写歌
偲びつつ空眺むれば雲さへも面影だちて見ゆる儚さ アゲハ
我が恋はいづちよりともなき雲の絶え間も見えぬ上の空かな 海松純 ★
夕雲の峰に消残す火の色は昏るる胸にぞ移り燃えける ういろう
松 竹 苔 魚 獣 山 川 野 橋 海 旅
名所 別 市 田園 楽 懐旧 夢 無常 述懐
山里に雪消えそむるときはなる松の緑も春の色なり 樂々
杉の戸をとはばはしたになりぬべし松はむかしの色にありとて 招き猫
多賀の城の末の山松神さびてこの道の奥に果てし人はや 水垣
霜ののち雪のうちには更なるに春秋問はぬ松の千年よ 海松純
降りしきる雪を堪らふる松が枝のときはからひて払ふ雄々しさ 写歌 ★
わか門の千代の栄えを見するなり御祖か植ゑし庭の老松 深草
世人みな習へ御垣の呉竹の幾代変はらぬ直きすかたに 深草
竹むらのうへを風ゆく音もなし零るる玉のひかり揺れつつ 水垣
をちこちの竹の端山に吹き合へる秋風の音篠笛の声 海松純
万緑の外山にけざやぎ一叢の黄金靡ける竹の秋かな 写歌 ★
神さびし杜の巌に生す苔の緑深くも光透きたり ういろう
みどり濃き森の大岩苔むして如何なる神のやすみし枕 水垣
おこなひに日々を尽くしつ年を経て思へは馴れぬ苔のさ衣 深草
花楓散れど狭庭の苔莚のさ緑なくば斯くも映えまじ アゲハ
あらたしき狭庭の石も苔生して吾とここにぞ
仙人の庵のけはひも知らるかし八重八重続く苔のきざはし 海松純
鯔の子の群れ立つ川に子らが声やれもて帰る朝顔の鉢 招き猫 ★
茜さす磯廻の庭に
大空は青き鱗の鰯雲今日はあまたの漁りなるべし 海松純 ★
蓮葉の隙より見ゆる池の国をよぎる緋鯉の御堂のごとき ういろう ★
星逢ひの夕へやいかに天川瀬々にひれふるいろいろの魚 深草
池の面にあぎとふ真鯉くるしげに
手を打てば先ずは寄り来る緋の鯉を汝が形代と見るはかなしき アゲハ
草を喰む山羊と差し向かふ汝はただ我が眼の奥の我を読むらむ ういろう ★
闇に鳴る猿の渡りの木々の声影こそ見えね神さぶる杜 海松純
再びの呼ぶ声に覚め老い犬は日向にいできぬ冬庭の朝 写歌 ★
「待て」の間を堪ふる小犬の牙の間ゆこぼるるよだれ朝日子に照る 水垣
三さけひを千たひ八千度夜のさる誰もこすゑにつまや恋ふらむ 深草
地の極み虚空に迫る群山のヒマラヤ襞のかげ神さびつ 写歌 ★
後のため守りぬくへし四方にまた辛くも残る清さみつ山 深草
つくばねのははそがもとの思ひねに去年とも同じ秋の夕暮れ 招き猫
片付けばなほとほしろき丈姿月より高くそびく山の端 海松純
むさくろし武蔵野育ち常に見る夢の瑞山いつ見し山か 水垣
白砂にひとみち浅き水ながれ小さき川よ海に至れる 水垣
昨日までなぎの水面と興ずるをいつか流るる明日香川かな ゆゆ
何方に着くかと問へは果てもなし楽しくつらきわかひと世川 深草
せせらぎの果てに海原はるけくもいづこ限りぞ流るるあが日 写歌 ★
空蝉の同じ我が身と水無瀬川浅瀬の水脈にうつるもみぢ葉 海松純 ★
谷川の岩越す波は砕けてぞ常にも全き玻璃の細工や ういろう
もえつきて
色うつる鶉衣に露落ちて心は上の深草の空 海松純
忘れ得ぬくれなゐ競ふ飛火野のたそかれ時はなほ忘れ得ぬ ゆゆ
わかために衣うつらむ旅出して遠里小野のさむき夜な夜な 深草 ★
黄沙ふる野の果て山も見えわかず蝕まるるごと日は沈みゆく 水垣
人知れぬ小野ぞ優しき草の香に心ほろほろ鳥と放たる ういろう
わびぬれて空ながむれば虹の橋君が住む辺に渡り入るなり 写歌 ★
ふむ跡をさらに降りしくもみぢ葉の深まる秋の山のかけはし 水垣
年を経て逢ひ見し星の涙かな霜おきまよふかささぎの橋 海松純
定めなき時雨の露のふるさとをほのかにうつす街の石橋 深草
あやぶみの橋ゆくべきか早瀬川せきぞあへなき袖のしがらみ 招き猫 ★
夏の陽を溜むる潮に仰ぎ浸るいのちはたれのものにもあらず ういろう ★
もののふの歌碑の背向に伊豆の
大風に夏のわたつみ波立てていかづち遠くあふぐ浜松 海松純
凩の果ては音なく凪ぎわたる相模の海は冬ぞやさしき 水垣
松たかき天橋立霧晴れて内外の海の波そさやけき 深草
雁が音を聞けば旅居の夫恋しはつかばかりの玉章もなく 写歌(「かきつばた」折句)
我と行く旅にしあれどいや離る妹が名呼ばふいや愛しくに ういろう
川舟にめぐる旅ゆき葦わけて瑞穂の国の水駅たどる 水垣
思ひやれ宿より宿に移る身の幾夜眺めし旅の日の月 海松純
難波なるみをつくしてもよりあへむものと言はばふるさとの顔 すが
白き雪千重降り積もれ旅の内もかへりみやこの四方の山の端 深草 ★
台北の外れの甍暮れなずみ旅路の風の懐かしきかな ゆゆ ★
つひにゆく旅にしあれば梅が香の月にあくがる恋もこそすれ 招き猫 ★
いくとせを奏でわたるや琵琶の鳥正倉院に今日も囀る ゆゆ ★
大峰の山遠ければ明日川を越えても行き見ずみ吉野の里 写歌
花とほく離りしものを吉野杉くらき木の間にひらめく白は 水垣
姨捨の山に居ながら見る月の伝へもあへぬ影の色かな ういろう
今日も又恋する人の影見えて昔変はらぬ鴨川の岸 深草
おほやしま天つ雲居のうたたねに誰がかけそむる天橋立 招き猫
杉の葉も行き交ふ人もかすみつつ雪降り巡る逢坂の関 海松純 ★
諸共に梢に咲きて散る花の別れかなしき春の学ひ舎 深草
終とならぬ別れはあらぬものなれど知らに別るる人のかなしさ 写歌 ★
しなが鳥千葉の葛原うら枯れていくへわかぬと音をのみぞ鳴く 招き猫
峰々の遠き別れの慰みにいづこも同じ月もものかは 海松純
とほつひと雁なくみ空はなむけと君にあふがむ風を手づから 水垣
きらめきの飾りにおごる市の街空に薄ら目開きて人呑む ういろう ★
何となく訪ねて一日過くしけりあき人さはく山もとの市 深草
降る雪に灯りうつして寒き歳の市路あかるく暮れゆくはをし 水垣
さびしくも暮れゆく年の慰みや雪よりしるき市人の声 海松純
あらたまの年来経往けば市詣で節を重ねて祝ふ箸かな 招き猫 ★
甘さふな灯りに肉を喰らふひと夜市の熱とノスタルヂック ゆゆ
早苗葉のあえかにさやぐ峡小田を統べて豊けし越の山影 写歌 ★
千町田やなべて嬉しきなりはひに鍬打ち返すをちこちの音 海松純
棚田ゆきまた棚田ゆき青に染み不意に秋めく白鳳の風 ゆゆ
鶯の豊年を祝く声すなりまた雪深き春の小山田 深草 ★
稲そよぎ雁が音たかし土と生くる人は天とも共に生くらむ 水垣
涼風は稲の葉末におとづれて端山重山ふる蝉の声 招き猫 ★
畑起きぬ陽籠むる土は黒々と匂ひ立てるよ雲雀やいづら ういろう
たらちねの母
三線の音ははかなくも爽さはと浜の苫屋を風に漏り聞く ういろう ★
晴の日のうちふる鈴に黒髪にちかくとほくと和する囀り ゆゆ ★
花にそひ月にそひつついにしへも今も変はらぬ糸竹の声 深草
神さぶる五十鈴宮川音にきく猿女の君の舞ひわたるかも 招き猫
舞ふ袖も風に鳴り合ふ琴の緒のながき夜も飽かぬ巫女神楽かな 海松純
秋風や四方の端山に谺して祭の神楽里をめぐれる 水垣
浮彫の朝貢の絵のなほしるく
稲蘰捧ぐる
書きすさぶ言の葉種もえも捨てず是を見むのちの昔語りに 海松純
支那の子かと聞きし店出て霧の中何処へゆくのも自由だった ゆゆ
いにしへのそのむかしへのかはらけや成しし
松風の身にしむころはむかしとてなほ月影の恋しかりける 招き猫
思ひ出てて露ふる寺の鐘の音を聞けと断たれぬ世々の面影 深草
姥捨の 田琴の月を 眺めやり 千曲へ注ぐ 星砂の酒 言蛇
たたなづく明日香路はるか行きし日はひたすら蒼き夢の中かな ゆゆ ★
夢に酔ひゆふべはかけし世の中もあかとき覚むればあした露けし 写歌
有明の夢の浜江にあさりして君真愛しく珠と拾ひぬ ういろう
縁側へ 聴かせる手毬歌 曽根崎で 拾った夢を 繕いながら 言蛇
春の夜に袖を返して夢見草うつつに逢ふは花ばかりなり 海松純 ★
思ひやれ見るもほとなき春の夢さめての後の人の心を 深草 ★
春の夜の闇こそかをれ梅の花しばし枕の夢の通ひ路 招き猫
和泉式部
無刀にて 空に掛けたる 梓弓 石の舟をば 心うかべる 言蛇
散る花はまた来る春をした待てどふりゆくわが身なにかた待たむ 写歌
たまゆらに消え果つる世と聞きながらすがる我が身ぞ命なりとて ういろう
これをしもとこしへなりと言へねども天窓の玻璃にあふぐ星の座 水垣
常有らはいかか生るへき敷島の道の種なる人の心も 深草 ★
昨日まで
望月の常とはならぬこの世をばあはれとぞおもふ欠くるわが身は 招き猫
若き日に老いがこぼせし言の葉の露さはに染むわが身となれり 写歌 ★
また明日 放課後帰りの 夕焼け空 背中の影が また明日 言蛇
花も人も塵の末だに捨てがたし明日は限りの我を思へば 海松純 ★
ひとつ世の旅のあはれのくさぐさや歌に凝らば手向けてぞ行かむ ういろう ★
頼むかな経かたき世をは隔てつつ猶たしかなる敷島の道 深草 ★
しきしまやまこと
公開日:平成20年06月24日
最終更新日:平成22年12月23日