幸か不幸か、私のまわりにはオーディオ好きの人がたくさんいました。高校の恩師に二人ほど、また、友人に二人ほど。みんなそれぞれ自分の愛機で好きな音楽を聞いています。よく試聴しにいきますが、彼らが自分の愛機でかける音楽を聞いていると、その人の人柄がわかります。ステレオが音楽だけでなく、その人の人生を奏でるといった感じです。そういう音楽を聞いていると羨ましくなります。自分もそんな音楽を人に聞かせることができるといいなあと思うのです。
<マーティンローガンで“悲愴” 96年9月>
高校の恩師にオーディオ好きの先生がいらっしゃいました。アナログにこだわる方で、プレーヤー/アンプ/スピーカ/電源のどれも一級のものを使っておられました。そこでマーティンローガンの音を聞かせていただきました。
コンデンサー型のスピーカーで有名なマーティンローガンですが、コンデンサー型とは、静電気を帯びた薄い膜に電気を通して再生するものです。聞かせてもらったマーティンローガンは畳を縦に半分にしたくらいの大きさでしたが、表面積が広いため、その演奏はまさに等身大のものでした。かといって繊細さを欠いたわけではなく本当にコンサートホールにいるかのような音楽を聞かせてくれました。プレーヤーはカナダ製のアナログ、アンプはプリ/パワーともラクスマンのようでした。
「メジャーなものはやはりいい」と言ってチャイコフスキーの悲愴(ショルティ/シカゴ響)を聞かせていただきましたが、ヴァイオリンの音が絹のようで、聞き古された感のあるあの主題を新鮮に奏でてくれました。その音に感激して私も自分でオーディオを持つことを決意しました。それ以来、バイトで稼いだお金のかなりの部分がオーディオとレコードに費やされることになります。(^^;
<アナログ・プレーヤーがやってきた 97年10月>
自分でオーディオと呼べるようなオーディオを手に入れて1年近く、ほとんどCDばかりを聴いていました。いくらDAコンバータが良いプレーヤーといってもヴァイオリンの音などを聴く限りアナログ・レコードの音には及びません。雑音がない、気軽に聞ける、置き場所をとらないなどCDの長所はたくさんありますが、それでもレコード・プレーヤーを手に入れたくてたまりませんでした。とはいえ、聞けるようなプレーヤーとなると上等のMDデッキが買えるくらい高いし、第一、ほこりとの闘い(「誇りとの闘い」だったらかっこいいが、実は「埃との闘い」)のようなこの部屋でレコードを聴くなんか無理なことだと思いずっと買えずにいました。そんな折りに、ステレオを譲ってくれるという話をいただき、念願のアナログ・プレーヤーを手に入れることになりました。
何とか場所を工面してプレーヤの置き場所も決まり、秋葉原で針とレコードを調達してやっとレコードに針を落とすことができました。ゴソゴソっと雑音が入った後、スピーカから弦の音がとびだしてきました。曲はチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲。独奏ヴァイオリンの音は紛れもなくホールで聴くそれでした。今までCDで聴いてきた音はいったい何だったんだろう。いや、CDをすべて否定するつもりは微塵もないけれど、あらためてアナログの音を実感しました。アナログがCDよりも良い音を出すことは自分の耳で何度も確かめてきたけれども、自分の機械をとおしてあらためてそれを思い知らされました。
<アクセサリについて 97年12月>
オーディオを揃えようとすると、まずアンプ、プレーヤー、スピーカーが最初です。それから、デッキやチューナーを付け足していきますが、一通り揃ったら次にアップグレードするのは脇役のアクセサリたちです。
私がまず最初に手を着けたのは電源です。家庭用コンセントの電源は蛍光灯やその他の雑音が入っているため、そのまま使用するのは望ましくありません。そこでノイズフィルターを追加しました。オーディオテクニカ製の“AT-NF58”というやつで、場所もそれほどとりません。結果は、まずアナログ・レコードの音場感が増しました。音の焦点が合った感じです。CDについては、それほど大きな差は見られませんでした。
つぎに、オーディオケーブルを変えました。今回はCDプレーヤーとアンプをつなぐケーブルを変えることにしましたが、秋葉原に行ってみると恐ろしいほどたくさんの種類のケーブルがあります。上は1メートル×1本で数十万円というものもありました。それは例外的なのですが、比較的手に入れられそうな価格帯では、アクロテック、オーディオテクニカ、古河電工、オルトフォンなどがしのぎを削っています。今回は日立電線のメルトーンシリーズ“MTAX-205”というやつを選びました。
私のプレーヤは基本的にDENONで組んであります。DENONはもともとしっとりした音が持ち味ですが、昨今はCDプレーヤーのDAコンバータに“ALPHAプロセッサー”“ラムダSLC”という波形再現技術を搭載することで一層そのDENONサウンドにみがきをかけてきました。今回、日立電線のケーブルを使うことで、そのDENONサウンドがさらに洗練された感があります。音の密度が増し、低音も安っぽい響きをすることなくなりました。全体に音質が向上した分、相対的に音場感が下がった感はあります。でも総合的に見るとかなりいい出来です。
また、接点クリーナーというものを見つけてきました。オーディオのプラグの接点は長期間使っていると表面に酸化膜ができてしまい音質が劣化します。その酸化膜を溶かして端子を保護するのが接点クリーナーです。念のためにすべての端子をこれで掃除しました。とくに、アナログ・レコードプレーヤーは私がもらってくるまでは十数年間放置されていたようで端子に錆が来ていたので分解してありとあらゆる接点をクリーニングしたところ、接点がよみがえって、見違えるように(聴き違えるように?)音が良くなりました。
<アナログプレーヤーの針(カートリッジ)を変えました 98年1月>
これまで、レコードプレーヤーのカートリッジはプレーヤーについてきたMM型を使っていました。しかし、もっとアナログ独特の音場感を出したいと思い、MC型カートリッジに変えました。また、私の使っているアンプはMM用のフォノイコライザーしかなかったので同時に昇圧トランスも追加しました。カートリッジは audio technica の AT33ML/OCC、昇圧トランスは DENON の AU300-LC です。期待通り音が格段に繊細になってくれました。ただ、そろそろプレーヤやアンプ周りの改良にスピーカーがついて行かなくなりつつあります。
<ガラードのプレーヤーとフェログラフのスピーカーをもらいました 98年4月>
熊本に帰った際、久しぶりにオーディオ好きの恩師である田畑治國先生の所に呼ばれました。「粗大ゴミがあるから持っていってくれないかね」と言われ、クルマで「粗大ゴミ」を受け取りに行きました。そのゴミとはガラードのプレーヤーとフェログラフのスピーカー、そしてパイオニアのデッキでした。そんな名機たちが物置の奥から出てきたのでびっくりしました。さて、いずれも10キロを超える重さがあるので、車に乗せるだけで一苦労。ガラードは東京へ持って帰ろうと思っていましたがあまりの重さと大きさのため結局実家の自分の部屋(スピーカーだらけ)に置いておくことにしました。しばらく物置に放置されていたので音は不安定でしたが、いかにもイギリスっぽい音が印象的でした。クルマでいうとジャグァーのXK8と言ったところでしょうか。