★90分劇場版「On Your Mark」

佐藤 (EHF41721@pcvan.or.jp)
90-minute-film version of 'On Your Mark'
Sato (EHF41721@pcvan.or.jp)

Summary
The released version of 'On Your Mark' is 6 minutes and 40 seconds long. He tries to write the scenario for its longer version, and here he roughs out the plot of the story.
 星歴512年、地上は既に死んでいた。しかし、それは一見平和な風景であった。オゾン層が永久に破壊された事による強烈な紫外線、更に大地に溢れまくる放射性廃棄物によって、地上は人間の生存を許容しなかった。厳重な防護服を着用しないで地上に出る事は速やかな死を意味した。そして、二人の警官は死んだ。彼らの魂は、彼らが放った使徒と共に天空へと飛び立ったのだ。彼らの魂は自らの生涯の最後の瞬間を思い出しながらさまよう。永劫に…。もはやそれが真実であったのか、或いは願望だったのかさえ定かではない。

「国家殲滅計画罪、確定だ…」

一つ目が描かれた奇妙な覆面を被った男が呟いた。

「大量殺傷兵器不法所持、特種危険物所持、もう言い逃れは出来ないぞ。地球浄化教団め」
「昔…」

と別な声が響いた。覆面の男はギョッとして、そちらを振り返った。強烈なサーチライトが突如として点灯し、部屋の隅々まで照らし出した。自動小銃、手投げ弾、バズーカ砲、重機関銃、ハンドミサイル…。正に武器庫そのものであった。完全武装の僧兵を従えた、目の数が多い覆面をした男が云った。教団幹部である。

「昔、そう云うのが有ったっけな。まともでない役人には2種類の人間しか居ない。悪党か正義の味方だってな。正義の味方君、ご苦労だった。キミが発見した物は、キミの正体を見破る為の罠だったのだよ。計画は既に最終段階にある。間もなく世界は浄化され、冬眠カプセルの中の我々の子供達はやがて清浄な大地に降り立つ事になるだろう。キミはそれを観る事は出来ない」
「ふ、遅いな。お前はおしゃべりが過ぎた様だ。俺の無線通信で、既に公特がこちらに向かっているぞ」
「チッ、応戦準備だ。その前にそいつを浄化しろっ!」

 公特。正式には公安省特殊機動隊と云うその部隊は、治安維持の為には殺戮さえ厭わない強引な鎮圧ぶりで、一般人からも恐れられていた。内偵により国家殲滅計画罪容疑が確定して公特が出動した時、それは対象となった団体の完全破壊を意味する。

 聖NOVA教団。人類が地上を捨てて地下に潜った時から、人々は希望の拠り所を求める事になった。このまま地下に埋没し滅びてしまうのではないかと云う恐怖が、多くの新興宗教を生み出す事になった。聖NOVA教団はそんな新興宗教の一つであったが、彼らの教えの中核は最終戦争願望であった。地上を汚染した人類の罪は、自らを焼き滅ぼす事によってのみ許される。世界を焼き払ってから千年の後、地上は再び浄化し、罪を許された子孫達が地上を満たす事になるだろう。信徒は最終戦争を起こす為に大量殺傷兵器を製造し、且つ、自らの子孫を千年の後に送る為に、低温冬眠装置の建設を行っていた。公安省は教団の最終目標に気付き、内偵の末、ついに攻撃のチャンスを掴んだ。既に公特の特殊攻撃機が教団本部に迫っていた。特殊攻撃機による突入、銃撃、爆破。一矢乱れぬ公特の攻撃に、後手に回った教団は必死の抵抗も空しく、食い止める事が出来ずに死屍を積み重ねるだけであった。深部に追いつめられた信徒達は、毒ガスで自ら命を断った。
 二人の公特隊員が、倉庫の片隅に奇妙な物を発見した。それは翼を持った少女であった。彼女は鎖につながれ、半死半生の有り様であったが、隊員の差し出した飲物で生気を取り戻した。彼女は微笑んだ。彼らは、その笑顔を忘れる事が出来なかった。

「おい、信じられないぞ。翼を持っている。突然変異か?」

隊長は直ちに核・生物・化学戦特殊班の出動を要請、特殊班は防護服を着用して、彼女をラボ(研究所)へとつれ去った。残された二人。

「あの娘、どうなっちまうんだろうな」
「うん…」

居酒屋でも、いつの間にかその話になってしまう。

「翼を持った少女か…、ウソみたいだな」
「例の教団がバイオテクノロジーで作ったと云う話だぜ」
「いや、地下に潜るのを拒んだ連中の末裔が障気で突然変異を起こしたって聞いたが…」
「…翼か。本当の空を飛ぶ鳥なんて観た事無いよな。なぁ〜、俺達にも翼が有ったら…」
「あの障気と紫外線の地獄に舞い上がるのか?嫌だぜ、俺は」
「でも、俺達はご先祖の代からずっとモグラ暮らしなんだぜ。このまま終わっちまうんじゃないかと思うとゾッとするぜ」
「しようがねぇ〜だろう、お偉いご先祖様の遺産なんだから」
「…あの娘は昔何かで読んだ天使みたいだな」
「…うん、俺もそう思う」
「あの娘は一体どうなっちまうんだろうな」
「恐らくラボで解析して、ガラス瓶に一生閉じこめておくんだろうな」
「可哀そうに…」
「まァ、俺達はモグラだから地下に潜っているのはいいけど、あの天使みたいな娘が死ぬまで羽ばたけないなんて惨すぎるよな」
「確かに、惨いよ…」

「…」
「…」

「…やるか?」
「…うん、やってみよう」
「結局はみんな死んじまうかも知れ無いけど、一度でいい、空を羽ばたかせてあげたいからな」
「やろう」

 彼らは早速準備に取り掛かった。盗んだパスワードを使ってコンソールから使徒の居場所とラボの見取り図を手にいれた。潜入・脱出ルートの設定、解析室への入室用IDの偽造、使徒を封印したガラス瓶の開封用信号発生装置の製作、ラボの保安システムへのジャミング装置…。
 準備は完了、後は実行のみ。偽造IDによりラボに潜入、最も警戒厳重な解析室にも難なく入れた。まさかの侵入に隙を突かれてあっけなく倒された解析者達。解析室の最深部に「彼女」は居た。ガラスの牢獄の合い鍵である特殊な信号を発生させた。牢獄が開いた途端、ラボにはサイレンが鳴り響いた。しかし、既に保安システムにはジャミングが掛けてあるので、侵入者の場所を即座に特定する事が出来ない。地上への脱出口に続く、特殊装甲作業車置き場へと向かう。作業車を運転して一気に地上へと向かう。だが、ラボの異状を探知した公特は特殊攻撃機を脱出口へ向かわせた。

「停車しろっ!さもなくば射殺する」

 警告を無視して作業車はスピードをアップした。特殊攻撃機との激突。作業車は遥か下の地中へと落下する。

「飛ぶんだっ!飛べっ!」

落下しながらも必死に使徒を飛び上がらせようとする二人。しかし、間に合わない。

「…いや、俺達はうまくやったんだ」
「作業車に上昇用ロケットが装備されていたのをすっかり忘れていたよ」

 作業車は強烈な噴射を開始して、町並みに突っ込んだ。そこは地下都市が作られている大穴の周囲に張り付いたビル群だった。脱出、そして車の奪取、更に地上への脱出。

 明るい。青空、流れる雲。これが障気と毒の光の世界だとは…。

「さあ、飛ぶんだ」
「飛べ、お前は自由だ」

「…あの時、有り難うって云った様な気がしたんだが」
「いや、あれは微笑んだだけだったよ」

 天空へと飛び立つ使徒、そして二人の魂。


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