大図解・これが月島家だ

EastWind (XSG19897@pcvan.or.jp)


 「耳をすませば」の驚きのひとつは、精密な背景描写です。特に家のなかの描写のリアリティには感嘆します。しかし、映画館で見ているとあっというまにカットがうつり変わってしまい、細かい背景の書き込みまではなかなかよく観察することができませんでした。おまちかねのビデオは1月に発売です。冬の夜長に、これをお手元に置き、リモコン片手に耳すまをじっくりとお楽しみください。

 さて、月島家は、多摩市・日野市にあるいくつかの団地の取材を元にしていると思われます。特に、百草園駅と高幡不動駅の間に位置する百草団地および高幡台団地には、雫の家に外観がよく類似した建物がなん種類か見られます。しかし、まったく同じと思われる建物は発見できません。その理由も後程明らかにします。

 月島家の番号は408。4階の8号室です。表はベランダのある2部屋と、手すりつきの窓のある雫の部屋が見えます。裏は小さい窓が2つと手すりつきの窓が1つ。姉妹は1部屋を共有し、キッチン兼用の居間、父の穴蔵と化している書斎、「そこつ〜」の洗面所などが映画では印象が残っているでしょう。細かく見て行くといろいろと面白いものが画面に写っています。

  1. 汐が彼氏への手紙(笑)をとばした階段。
  2. 普通の玄関である。表から見ると鍵穴がノブのなかにあるシリンダー錠であるが、裏から見るとロックのつまみがノブと別にある。つまり鍵穴もノブと別に必要である。これは?
  3. タイル張りのお風呂場。風呂釜はバランス式のガス風呂釜で、外から吸排気部が見える。
  4. 靴箱の上にはドライフラワーのほかにうず高くものが積み上がっている。雫が蹴つまずいた傘立てもある。
  5. 新聞紙の山。非常に物の多い雑多な玄関である。
  6. 2槽式の洗濯機。給水は洗面所の蛇口から。排水は風呂場へ流す。排水ホースが短くて届かないので、洗濯機を手前に引っ張り出して洗濯する。終わったらまた壁に押しつける。非常に手狭である。更衣室代わりにもしている洗面所の入り口には青いカーテンが掛かっている。
  7. 洗面台。雫が顔を洗うときには雫の背の高さになり、汐が立つと汐の背の高さに自動的に変化する。サービス満点である。
  8. デンオンのオーディオの箱。(DR-PC-773a) これはなんだろうか。最初のころには置いてなかったので、後半になって買ったらしい。劇中には出てこないが、月島夫婦の部屋に置いてあるのか。
  9. 多分、トイレのドアだと思うが、この家の人間はだれもトイレに行かないので不明。表に美術展のポスターが張ってある。PAEDOR だったりNPADURだったりする。
  10. この位置にふすまがあることは、玄関から見通したカットと、リビングからわずかに左側にみえるカットで判る。しかし、そのなかに何があるのかは不明である、とかいっても、夫婦の部屋しかありえない。内部の調度および夫婦生活の実態は不明である。だが、ほかの部屋から察するに、ここも物で溢れかえっていることだけは間違いないだろう。
  11. 黒板とカレンダーがある。カレンダーは一ヵ月早くめくってしまうこともあるようだ。
  12. 電子レンジがある。
  13. オーブンとオーブントースターもある。その3つを1台で兼用する製品もあるというのに。
  14. ナベの山。流しの上下にはいったいなにをしまっているのだろうか。
  15. いちごのテーブルクロス。
  16. どうみても食器棚なのに半分は書籍で埋っている。
  17. 19型くらいのテレビ。ビデオはジョグシャトルつき。後半の汐と母親の会話で良く見える。テープも10本くらいある。
  18. 丸いおぜん。たんす。これらも同じく汐と母親の会話のときに写る。
  19. 本棚に囲まれた穴蔵が父の書斎となっている。
  20. この位置に巨大な電話。留守電にしても大きいが、fax機能があるのだろうか。本棚の裏はカーテンがかかっている。また、帰宅時にここに背広を掛けていたが、洋服たんすはないんだろうか、おとうさん?
  21. この部屋は本来6畳の和室。リビングとの境は本来ふすまで仕切るらしく、ふすまのレールらしきものが写る。しかしすべて取り払ってカーテンで仕切るようにしているようである。それも普段は開け放し。
  22. 押入は、もちろん出てこないが、一番もっともらしい配置にしてみた。押入なしという可能性も考えられるが、日本の住宅では、なければ不便。といっても、月島家では潰してしまっているのだろう。(本棚をどけると入り口があったりして)
  23. トイレはせっかく外に面しているのに外から見ても窓がない。まったくの謎であるが、外側は下水のパイプスペースと考えてみた。トイレも1畳では広い。
  24. 窓の上には良くみると換気扇の排気口がある。なぜにレンジの位置とずれているのか。それはモデルとした家のレイアウトとずれているからであろう。穿って考えると、中間ファンがあるタイプのトイレ・レンジの集中排気口かもしれないが、この住宅の年式からは考えられない。
  25. 雫の部屋の窓であるが、窓の柵のデザインは見ているとコロコロ変化している。
さて、ここまでは非常にうまくレイアウトに収まりました。問題は雫と汐の部屋です。ここに書いたレイアウトからは4畳半で、どうがんばっても6畳は取れません。ところが、部屋のなかはどう考えても6畳なのです。謎。それでは、雫と汐の部屋を図解します。
  1. 雫の机。父に似たのか乱雑である。ペンギンや魔女の人形の置き場所の移り変わりを追うのも楽しい。結構よくいじり回しているようである。
  2. 壁の絵は誰の作品だろうか。ピカソの初期か、またはトイレのポスターの画家か。 後半ではここに貼ったカレンダーの書き込みに注目してほしい。まめにチェックがしてある。11月は12日に丸がしてあるのが、聖司の帰国予定日だろうか。深夜に飛行機が着くので、到着の翌日を雫に連絡してあったのかもしれない。日付は9日まで消してある。10日に西老人に見せにいき、「1日早くなった」聖司とは11日の朝に会って朝日をみに行ったのであろうか。
  3. 本棚には鉱物の本などを図書館から借りている。
  4. 制服、普段着などをここにつり下げている。赤い半袖、赤いトレーナー、赤いセーター。赤が好きな子である。空想のなかのドレスまで真っ赤である。ショートパンツまで赤い。
  5. 二段ベッド。姉妹がたがいにじゃまにならないように緑のカーテンで仕切ってある。
  6. 汐の机の上には、AVパソコンらしき物体がある。汐が掃除機を掛けているシーンで写る。でも、汐は母親のワープロを借りたりする。謎だ。
  7. 汐の本棚の中味は不明。
  8. 入り口はふすまである。
  9. 押入はピンクのカーテンで仕切ってある。ラスト近く父親が「入るぞ」と言って入ってきたところで写る。
  10. 畳の敷きかたは、執筆に疲れた雫がごろりと畳に転がるあたりでわかる。畳の目まで描写されているが、明らかに6畳の敷き方であり、4畳半の敷き方ではない。
  11. 二段ベッドの上段は、汐が出て行ったあと物置として活用されており、早くもいっぱいになっている。
  12. 玄関の脇は電気・ガスや水道のメーターを設置してあり、表から検針できるようになっている場合が多い。
 以上のように、月島家は外側よりも内側のほうが広いというナルニア世界のような構造をしていることがわかりました。なぜ、こんなことになってしまったのでしょうか。その答は、百草団地を巡るうちに気がつきました。表から見て雫の家のように見える家は、裏がもっと広く、窓が4つ見える。そして、裏からみて窓が3つの家は、表がもっと狭いのです。

 つまり、雫の家のモデルは、表と裏とが別々に存在していて、しかも広さがことなるのです。取材のときに混同してしまったためでしょうか。その結果として、このような手品のような家ができ上がってしまったというわけです。多分部屋のなかの取材もまた違う場所なのでしょう。


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