もしかしたら名探偵 杉山亮 偕成社
出会いの不幸! 『怪傑黒うさぎ 闇にひそむ鬼』
杉山 亮 作 堀田 あきお 絵
講談社 青い鳥文庫 2000・5・15日 第一刷
「ました」調の文体は、こうした作品に合わない。オノマトペの多用も目障り
だ。「愛くるしい顔立ちで近所でも評判の小町娘」(p、32)何と月並みな表現。「顔の半分以上はありそうな大きく根をはった鼻」(p、35)は想像外。「絹を裂くような悲鳴」(p、49)陳腐な表現として笑い話の種になりました。「真夏の大名行列じゃあるめえし、ぼんやり(盆槍)してるから悪い」(p、51)この大時代的なオヤジギャグは、現代の子どもに通用するか。「父親の仁右衛門は殺されていたことがわかりました。」(p、78)も無責任な表現。「どこをどうやって逃げだしたかわかりませんが、いつものように、風呂敷包みをぶらさげ」(p、128)も同様のご都合主義のオハナシ。
かくて筋も忘れさせるひどい作品に出会って、杉山亮さんの作品は読む気概を
失くしました。
以前にも酷評した作品がありましたが、今回はそれ以上です。
前書はメールの指示作品(名探偵シリーズ)の中になかったと思い、図書館で見つけた(わんわん探偵団シリーズの一冊)『わんわん探偵団 猛犬注意事件の巻』(絵:広川沙映子)を読みました。シリーズで刊行されているところを見ると、読まれているのでしょうか。
犬の助けを借りて探偵するシリーズらしい。「猛犬注意事件」の「解決編」は犯人の服装が左前になっていたことに気づくところにある。(挿絵を見たらわかるが、読者にとって挿絵はそれほど重視しない。?)「ミイラやしきのなぞ」では、特別に呼び寄せた犬しか飛び越せない門を「おれもよじのぼって門をこえた。」(もったいぶるのはこの手の常習手段!)脅かされていた父は、犯人にナイフで脅されていて逃げられなかったらしいが、挿絵にもその緊迫感がない。
こんな単純な事件すら解決できない警察は「馬鹿みたい!」(これも少年探偵団以来の警察無能力説)
探偵だけが知っている事実を最後に披露して事件解決をはかるのは、アガサクリスティ、横溝正史と同じ。
見開きに8行しかない本を挿絵で膨らます商法は、きちんと書けない作品か、読者の程度に合わせたものか。
これ以上杉山作品を読むのをやめます。
今世間に行はれてゐる、少年少女の読物や雑誌の大部分は、その俗悪な表紙を見たばかりでも、決して子供に買つて与へる気にはなれません。かういふ本や雑誌の内容は飽くまで功利とセンセイショナルな刺激と変な哀傷とに充ちた下品なものだらけである上にその書き表はし方も甚だ下卑てゐて、こんなものが直ぐに子供の品性や趣味や文章なりに影響するのかと思ふとまことに、にがにがしい感じがいたします。 【鈴木三重吉「赤い鳥」の宣伝文】
改めて三重吉の嘆きを思い返しました。
2007・9・8 大藤 幹夫
なぞなぞ遊び
スタイルはハードボイルドで私立探偵ものだ。主人公は妻と別居しているミルキー・杉山。別居している妻が頭脳明晰で、その知恵を借りて事件を解決していく。
読んだのは「もしかしたら名探偵」
その第1話「4人のへんなきゃく」
美術館で絵が盗まれ、容疑者は最後の4人の客ということになる。その客がピエロ、サンタクロース、ダイコク、ニンジャ。この中で、最後に出て行ったものが犯人ということである。
まず、マンガ風の絵の割合が多い。セリフまで吹き出しで書いてある。謎解きも絵を見なければわからない。文章も極端に少ない。登場人物も架空の現実的でない設定。
ここには、ドラマも、ストーリーもない。誰が犯人かという謎があるだけである。
これは文章で書かれた物語ではなく、単なるなぞなぞ遊びである。(信原和夫)
絵は楽しい
なぞ解きを楽しむ3編の話が内容。「4人のへんなきゃく」は絵を盗んだ犯人は忍者だが、なっとくできる解決となっていない。「うそつきはだれだ」は貸した本返さない犯人をさぐる話で3人に化けていた教授が犯人。「きえたダイヤモンド」は4つの風船が3つになっていたことがでがかりという話。各編とも「事件編」と「解決編」とになっていて、探偵役は頼りない男のミルキー・杉山、助ける役は「わけあってわかれてくらしている」妻のたつ子。内容はわたしにとってはつまらないが、絵は楽しい本。(向川幹雄)
〔名探偵シリーズ〕を読む
なんでこれを選んだのか、と問われる前に答えておこう。我が家の購読紙は朝日新聞で、朝日主催のオーサービジットに杉山亮の名があり、ここ最近、その名が紙面に載る回数が多いように思われる。それなのにわたし自身は、一冊も読んでいない。かなりのスペースで〔名探偵シリーズ〕の広告も出た時だったので、そんならいっぺん読んでみようかと、ごくごく簡単に選んだ。
未読の巻があるかもしれない人のために、出版年順に紹介しておく。
『もしかしたら名探偵』 1992.03
『いつのまにか名探偵』 1994.07
『あしたからは名探偵』 1995.06
『どんなときも名探偵』 1997.06
『そんなわけで名探偵』 1998.04
『なんだかんだ名探偵』 1999.03
『まってました名探偵』 2000.12
『かえってきた名探偵』 2004.05
『あめあがりの名探偵』 2005.12
全作とも中川大輔が絵を描いている。出版社は偕成社。こうして並べると、名探偵の前には六文字、リズム感のある題名づくりである。
名探偵よりも迷探偵に近いミルキー杉山なる人物は、わけあって別居中の妻に困った時は助けてもらい、復縁を願っていそうな気配だ。この妻は頼まれれば名探偵ぶりを発揮し、夫を大舞台で成功させている。なら、なんで、同居ができないのだろう。いつもワクワクしたいから探偵をやっているという男は、現実の夫としては認めがたいのだろうか。いやいやこれは大人の世界です。
推理というよりも謎解き段階の話で、荒唐無稽な人たちが登場する。ハチャメチャという言葉が似合う。広告にあった父兄の推薦文、マンガしか読まなかった子どもが読みきった初めての本です、というのはさもありなん。どの事件も絵がなければ成り立たない、マンガそのものなのだから。
月光仮面、木枯紋治郎、西郷さん、水戸黄門の一行、新撰組、坂本竜馬も歩いていた。サラリーマンふうのおじさんはバナナ、ある時はソフトクリーム、冬のさなかに西瓜を食べながら歩いていた。事件に関係のないこんな人物を、チョロチョロ登場させて面白がらせるのは、笑いの質としてはいかが?
はじめての杉山ワールドは、美味しいまずいと感じる前に満腹になりました。
村上裕子