『人形は救いなり』という本があります。母の大先生、つまり先生の先生、岡本正太郎先生の作品集です。
 人形にもさまざまな種類がありますが、母の目指した人形は、御所人形といわれる系統の、 とても伝統的な手法を基礎としたものです。御所人形は、丸々と太った幼子の姿を模しているのが基本で、 幼子が天衣無縫に遊ぶ姿こそが、人間の一番美しい姿だと先人達は思ったといいます。
 現代の御所人形は、その伝統の上にありながら、さらなる新しさを感じさせます。 岡本正太郎先生の本を拝見させていただきましょう。人形のそのお姿には、なんの無駄もない張り詰めたような緊張感が感じられます。 そのお顔の表情には、静かで崇高なまでの美しさがあります。ほっとため息をつきたくなるような、こんなとき人は「救われた」気持ちになるのではないでしょうか?

中田先生(左)と母
昭和48年ごろ

 母は30年前、神戸でたまたま中田世津先生のお人形を見たそうです。 そのとき、「これだ、私はこんな人形が作りたい」と思ったといいます。 それから、子育ての合間、家事の合間を見つけ、細く長く続けてきたのです。 そうして数年前、近畿伝統工芸展に入選しました。かあくん、細く長く続けてきた甲斐があったね。よかったね。
 人形との出会いは、母の人生において、きっと最大のよきことであったに違いありません。 母にとって、この人形は救いであったに違いありません。その人形を自分の手で、丹念に作ってゆく作業そのものが、救いであったのでしょう。 そして、人を救うような人形を作りたいと、願っていたのではないでしょうか。

 早いものです、母がなくなって1年になります。私たちの生活も、ようやく安定してサイクルする ようになりました。それでも、神戸の家に帰ると母が待っているような気がするのです。母は、おおらかで、母であるために生まれてきたような人でした。 そして、その人形のように、いつまでも幼女のような人でした。

 この夏、母の一周忌に際し、母が約30年の間に製作した人形を集めて、遺作展を開こうと思います。 母をしのぶ人形展です。娘として、これは私の努めであると思っています。暑いおりですが、よろしければ、母の人形たちを見にきてやってください。

岡本正太郎作品集

8月7日(金)〜11日(火) 神戸元町 たじま画廊
9月11日(金)〜15日(火) 東京 ぎゃらりぃ風草

 家には作りかけの人形がいくつかあります。道具も使わなければ錆びついてしまいます。 私も、人形を作り始めようかと思います。仕事の合間をぬって、細く長くつづけてゆけば、 母のような人形が作れるでしょうか。

人形は救いなり、私にも、そんな人形がつくれるでしょうか。


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