教育基本法第十条(教育行政)の立案過程

 教育基本法第十条(教育行政)条文中の、「教育は不当な支配に服することなく」は、本来は、教育が政治的または官僚的支配に服さないことを最大の目的として作られたものです。
 1946〜47年における草案の変遷から、このことが明瞭に読み取れます。資料として下にまとめます。


 なお、教育基本法の審議経過は、田中耕太郎文部大臣が主導、田中二郎を中心とする大臣官房審議室が具体的に立案、教育刷新委員会が審議、CIE(占領軍の教育担当部局)の意見反映をして、法案としてまとめられました。

(「資料教育基本法50年史」 鈴木栄一、平原春好編 勁草書房 1998  による
 立案関係者の書き込みを、特に区別せずに表示しています)

名称 草案、または条文 コメント
教育基本法要綱案
1946年9月14日
(七)教育行政 
 教育行政は学問の自由と教育の自主性と教育者の品位とを尊重し、教育の目的遂行に必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならないこと。
最初の教育基本法草案 田中二郎立案、田中耕太郎書き込み
教育基本法要項案
審議室提出
1946年9月18日
(九)教育行政
 教育行政は学問の自由と教育の自主性とを尊重し、教育の目的遂行に必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならないこと。
教育基本法要綱案
文部省
1946年9月21日
(一〇)教育行政
 教育行政は、学問の自由と教育の自主性を尊重し、民間の有識者の意見を聞き、教育の目的遂行に必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならないこと。
教育刷新委員会第1特別委員会に文部省が叩き台として提出
教育基本法制定に当って考慮すべきこと
審議室
1946年9月
25日
教育行政
 教育行政官庁法(学区庁法)案の作成、之に伴う財政上の措置
田中二郎起草
教育基本法要綱案
教育刷新委員会第1特別委員会中間案
1946年11月1日
(一〇)教育行政
 教育行政は、学問の自由と教育の自主性とを尊重し、教育の目的遂行に必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならないこと。
教育刷新委員会第1特別委員会中間案
教育基本法要綱案
教育刷新委員会第1特別委員会案
1946年11月15日

 同上
教育基本法要綱案
CI&E交渉用
1946年11月21日
(十)教育行政
 教育行政は、学問の自由と教育の権威とを尊重し、教育の目的遂行に必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない。
 CI&E(占領軍の教育担当部局)との交渉結果に基づき訂正したもの
教育基本法要綱案
1946年12月21日
(一〇)教育行政
 教育は、政治的又は官僚的支配に服することなく、国民に対して独立して責任を負うべきものであること。
 学問の自由は、教育上尊重されなければならないこと。
 教育行政は、右の自覚の下に教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならないこと。
審議室、教刷委、CI&E三案を比較検討したもの。
「政治的又は官僚的支配」が登場
教育基本法要綱案
文部省調査局
1946年12月29日
(十一)教育行政
 教育は、政治的又は官僚的支配に服することなく、国民に対して独立して責任を負うべきものであること。
 学問の自由は、教育上尊重されなければならないこと。
 教育行政は、右の自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならないこと。
教刷委の審議一段落を受けて文部省がまとめた案
教育基本法案
文部省
1947年1月15日
第十一条 教育行政
 教育は、不当な政治的または官僚的支配に服することなく、国民に対し、独立して責任を負うべきものである。
 教育行政は、右の自覚のもとに、学問の自由を尊重し、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない。
立案の本格化
教育基本法案
文部省
1947
年1月30日
第十一条 教育行政
 教育は、不当な支配に服することなく、国民に対し直接に責任を負うべきものである。
 教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない。
「直接に責任」は、CI&Eの意見に基づく。
教育基本法案
文部省
1947年2月12日
第十条 教育行政
 同上
教育基本法案
教育刷新委員会第25回総会で承認
1947年2月28日
第十条 教育行政
 教育は、不当な支配に服することなく、国民に対し直接に責任を負つて行われるべきものである。
 教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない。
教育基本法案
閣議決定
1947年3月4日
 同上
教育基本法案
枢密院修正案
1947年3月12日
第十条 教育行政
 教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負つて行われるべきものである。
 教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない。
国民”全体”を挿入
教育基本法
昭和22年3月31日 法律第25号
第十条 教育行政
 教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負つて行われるべきものである。
2 教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない。


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