「効力は十年」と「有効期限の定めなし」の矛盾

 「教育ニュース観察日記」というブログがある。資料性が高く、分析もしっかりしているので、よく読ませてもらっている。このブログが、免許法改正案にとんでもない矛盾があるのではないかと指摘している。

「教育ニュース観察日記」 私的解説・教育改革3法案

 私も法案を調べてみたら、たしかに免許更新制の根幹にかかわる問題があると思った。
 免許法改正案第9条と、附則第2条の間の矛盾である。

 第9条 普通免許状は、その授与の日の翌日から起算して十年を経過する日の属する年度の末日まで、すべての都道府県において効力を有する。

 附則第2条
 .......普通免許状又は特別免許状を有する者については、第1条の規定による改正後の教育職員免許法第9条第1項及び第2項の規定にかかわらず、その者の有する普通免許状及び特別免許状には、有効期限の定めがないものとする。

(資料)

 9条は「効力は十年間」と言い、附則2条は「有効期限の定めなし」と言っている。

 おそらく文科省側にはなにかしら独特の理由があってこのような条文を作っているのだろうが、その理由に深入りして、単純な読み方を忘れたのではないだろうか。さらりと読むと、矛盾としか思えない。


強行スケジュール

 教育3法は、ものすごい強行スケジュールで法案作成がなされた。
 教育再生会議が第一次報告を1月24日に出し、通常国会での3法の改正を迫った。これに対して文科省側は無理なスケジュールだと渋った。しかし、首相の強い押し込みで、通常国会での成立へと動き出した。
 2月6日、文科省は、発足したばかりの新中教審に「時間の余裕はないが...」と教育3法の諮問を出した。中教審は、困難だがやむを得ない....、と3月10日に文科省の方針を追認するような答申を出した。(資料)
 文科省の原案はその後、自民党と公明党の協議でかなりの修正を受け、3月30日に国会に提出されている。

 教育3法改正案の分量は厖大である。とくに「学校教育法」は、新しい章を前半に挿入したので、全条文のナンバー変更が必要になった。関連法律との整合性を保つだけでも、厖大な作業である。
 この春、外部から見ていても、文科省のいろんな仕事が滞っていた。出てきた文書から文科省の作業量を推測すると、おそらく、文科省は過労死が出てもおかしくないような状況だったろうと思われる。

 法案の文科省ホームページ上へのアップは、国会提出よりも大幅に遅れ、われわれのように文科省発表のPDFで読むしかない者にとっては、なかなか条文の検討に入れなかった。また、そのPDFもきわめて読みにくかった。特に、学校教育法の改正案は、複雑な構成を取っていて新旧対照表が二つになっているため、文科省の人の解説でもないことには、どこをどう読めばいいのかすら掴むのが困難であった。おそらく省内で二つに分業して進めた作業を、一つにまとめる時間がなくて、そのまま形にしてしまったのであろう。

 私が「大問題だ」と指摘している学校教育法第42条(学校評価)における「文部科学大臣の定めるところにより」は、中教審も言っていないし、法案要綱にも書いてない。学校教育法の二つある新旧対照表のうちわかりにくいほうの表を見て、やっと見つかるものである。

 教育職員免許法の附則第2条も、新旧対照表に載っていないので、かなりの法律通の人や国会議員であっても、見過ごしてしまう可能性が高いであろう。ふつう、法律案は、新旧対照表によって、なにが改正されるかを把握するものである。

 国会での審議もあわてている。5月下旬から一日に6時間の審議をやっているが、一日の分量が多すぎると、内容を理解し問題点を拾うだけでも大作業で、新聞記者が審議内容を報道することすら難しくなる。ビデオの中継もあるが、なかなか目を通しきれるものではない。問題点が出てきても、煮詰めることができないものである。教育基本法の審議のときがそうだった。


わかる条文を

 とにかく普通の人間には、この免許法の有効期限に関する条文は理解し難い。免許保持者から「附則2条により、私の免許は失効しないはずだ」という訴訟が起こったとき、この法律では耐えられないのではないか。免許更新制の対象者は、現職教員だけでも100万人もいる。普通の人たちにわかる法律でなければまずいであろう。
 
 国会会期はあと十日であるが、「この文言での国会成立は無理」の可能性すらあるのではないか。

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免許の有効期限に矛盾
    07年6月13日 古山明男  (引用・転載・リンクを歓迎 但し商業的利用を除く)