遅まきながら本格議論
 教育基本法改正案が参議院特別委員会で審議されている。ここの審議では、ようやく床屋談義が減って、法律案としての問題点に焦点があたってきている。

 「教育目標が社会教育や家庭教育まで拘束するのか」、「官庁の支配は不当な支配でないのか」「機能していない教育委員会」、などなどである。この論議が衆議院で起こるべきだった。そうすれば、今頃は、きわめて具体的に法律の持つ問題点が追求されていたあろう。

地方分権先送りではなく、実は中央集権化
 地方分権問題に対し、教育基本法改正案16条(教育行政)の条文は、「国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下」とあり、具体的なことは何も書いていない。(資料1 改正案原文)これによって、地方分権の問題を先送りしているように見える。

国が介入できる根拠になる
 しかし、実質的にはこの教育基本法改正は、大幅な国の権限強化になる。その理由は三つある。

 まず第1点として、教育目標を第2条(教育の目標)、第5条(義務教育)、第6条(学校教育)に書いたこと。それも、かなり細かく決めた。目標が国の法律で定められていると、いくら分権的な構造を作っても、国から現場に対して「それではまずい」と介入できる。条例に対しても介入できる。

「法律の定めるところにより」は文科省のフリーハンド
 次の問題点として、第16条に「教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり」、と「法律の定めるところにより」を入れたことがある。

 一見、当たり前のことを言っているように見える。しかし、どんなことでも、法律があれば法律どおりに行われるのは当然である。それをわざわざ書くと、それなりの意味が生じる。
 「法律の定めるところにより」を挿入すると、実質的には文科省権限が確定する。それは、実際の法律構造のためである。『学校教育法』は、「〜は文部大臣が定める」としている法律で文科省に多くの裁量を与えている法律である。

 これに対する唯一の歯止めが、現行教育基本法第十条の「教育は不当な支配に服することなく」という表現であった。行政の介入も不当な支配であるとする余地を作っていたのである。ここに「法律の定めるところにより」を挿入すれば、行政からの介入はすべて不当ではないことになる。文科省が決めていいことに法律がなっているからである。

 もちろん、法律体系がまったく違うものになれば16条の現実への効果も変わる。しかし、現在の情勢からして現行の法体系が根本的に変わることはないであろう。「法律の定めるところにより」は、実質的に文科省のフリーハンドとして機能するであろう。

教育振興基本計画による中央集権化
 3番目の問題点として、第17条によって教育振興基本計画を策定する権限を文科省に与えたことである。

 国家がなんらかの教育振興施策を作り推進することは当然のことなのであるが、現状の教育行政システムの中でこれをやると、中央集権の弊害をもたらすであろう。文科省権限の見直し、教育委員会制度の見直し、学校自治の確立を先にやるべきである。そうでないと、文科省が相対的に強すぎる。

 文科省権限の見直し、教育委員会制度の見直し、学校自治の確立をやるだけで、教育はずいぶんと実情対応するようになって改善されるはずである。

 現在の文科省権限は、奇形的である。建て前は地方分権であるが、実質は文科省の院政体制なのである。戦後の左右対立の中で、自民党・文部省が名を捨てて実をとる方針に出て、教育委員会をコントロールできる仕組みを作ったためにそうなった。
 文科省は正式には学校の基準作りの権限しか持っていない。しかし、この基準作りの権限が多岐に渡るので実質的に教育方針まで作ることができるのである。「ゆとり教育」などがそれである。

 院政体制であるから、文科省としても権限不足に悩むことが多いであろう。しかし、「教育振興基本計画」はこの院政体制の法制化と言ってよいものである。教育の責任者が、またわからなくなる。
 文科省の奇形的権限を正常化することを、まずやったほうがよい。

教育振興基本計画に対する問題指摘
 教育振興基本計画の問題点は、日本教育学会歴代会長が出した「教育基本法改正継続審議に向けての見解と要望」の中でも、指摘されている。教育振興基本計画は下位法でよいではないかというのは、的確である。(資料2 この中の4の部分)

 また、先週、教育振興基本計画について、ようやくきちんと焦点をあてた論が出てきた。地方分権の流れに逆行するではないか、という論である。教育振興基本計画は、規制緩和、地方分権などのテーマとの関連で捉えられるべきものなのだが、それがなされていなかった。これをシンクタンクの構想日本が取り上げている。(資料3)

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06年12月4日 古山明男  (引用・転載・リンクを歓迎 但し商業的利用を除く)

教基法改正は地方分権に逆行