学校設置主体について考える

 教育の自由化を考えるために、学校を作るのに適した団体は、どのような団体なのか、と調べていました。法人は、ここにあげた外にも多数あり、その研究を詰め切っていないので、中間報告のようなものです。

1 教育を行いやすい団体の条件
 
(1) 活動の自由がある
    教育は、あらゆる社会活動、肉体活動、精神活動にかかわるため。
 
(2) 政治的、経済的な目的の手段とされない
    教育方法は、人間観、倫理観、世界観から発してくる。
    時の政治目的や金銭利益からではない。
    教育が政治的、経済的な目的を直接に追求すると、社会は
    自己コピーを繰り返し、柔軟性を失うようになる。
    ただし、専門教育的な段階では、直接の人材供給を目
    的としてもかまわない。
 
(3) 精神の自由が保障される
    教育の内容は、学問、技術、芸術、文化、思想、良心であり、いずれも
    憲法によって自由を保障されている。また、この基盤として教師の精神の自
    由が必須。
 
(4) 団体内の組織構成方法、運営、人事を外部から制約されない
    2,3を具体的に保障するため。
 
(5) 施設・設備のための資本蓄積が容易。施設・設備の拡充に課税されない
    学校は、資本を少しずつ蓄えて、充実させていくもの。
    税、配当等の資本流出は極力避けるべき。

6) 非営利で、社会的信任を得やすい。補助金や寄付を受けやすい。
    学校教育は、根本的には、社会の信任によって、社会から資産・資金を
    贈与されて運営するものである。
 
(7) 設立が容易である
    新しいものを容易につくれないと、精神の自由を保つこと、社会のニーズに
    応えることは、確保できない。
 
2 国際条約は学校設置の自由を認める
 国際的には、国際人権A規約(社会権規約)第13条、児童の権利に関する条約第29条が、「個人及び団体」による教育機関設置・運営の自由を保障している。
 これに合うように、国内法を整合させることが必要である。
 
3 現在の法制構造なら、もっと自由でいい
 
 教育基本法、学校教育法のように、法体系が設置主体と関わりなく学校の運営基準を規定する法制が存在する。このような場合、設置主体はそうとうな自由度があってかまわない。
 
 ただし、現在の学校教育法は、教育内容、組織構成方法、運営、人事に立ち入りすぎている。

 
 
4 学校設置団体拡大の方法
 次の4通りの方法がある。
 1) 学校法人の設立要件を緩和する。
 2) NPO法人、財団法人、株式会社等、学校法人以外の学校設置を認める。
 3) 教育に適した新種の法人を創設する。
 4) 公設民営型にして、自治体設置の形を残しつつ、実質は主体を拡大する。
5 現実に存在する学校設置主体
 
小、中、高、大学は国、地方公共団体、学校法人のみである。
 現実には、不登校フリースクール、オルタナティブ教育学校などの全日制無認可学校が存在しており、その設置主体は個人、任意団体またはNPO法人である。現実に公立学校がニーズをカバーし切れていないため、実情優先で黙認されている。

 
幼稚園では、国立、地方自治体立、学校法人立、財団法人立、宗教法人立、社団法人立、個人立が存在している。(「文部科学統計要覧 昭和51年」) このような幼稚園の事例のほうが、国際条約にかなっているし、現実的である。なお、幼稚園も学校教育法第1条で規定される正式な学校である。
 

6 学校設置主体別の適否
 
・個人
 
 国際人権A規約第13条は、個人が学校を設置する自由を認める。教育は、個人対個人の内面的関係が大きな部分を占め、基本的には、個人が学校を運営できる余地を作るべきである。歴史的にも、学校は個人運営から発する。
 教育基本法第6条が、学校設置者を法人に限定したのは、狭すぎる。

 いっぽう、個人運営の問題点は、
 ・ 施設・設備に遺産相続の問題が生じる
 ・ 団体として契約を結べない。借り入れが個人としてしかできない。
 ・ 税制上の優遇がない
  これらの問題は、現実的にはたいへん大きいので、個人の学校設置が認められていたとしても、主流は法人による設置となるであろう。
 しかし、個人による学校設置の余地を残しておくことは、社会全体にとって、重要である。幕末の松下村塾のような教育機関を発生させることが可能でなければならない。
・地方公共団体
 
非営利で、社会的信任を得やすい、財政基盤がしっかりしている。
 教師を公務員にして学校を運営する場合、身分保障がしっかりしている利点と、官僚機構的形骸化が起こりやすい問題点がある。
 地方公共団体は政治家の影響、指揮下にあるため、政治的目的が入り込みやすい。
 
 地方公共団体が学校を運営する場合は、経営と運営を切断して、
学校の自治的な活動の自由を保障し、政治的目的が入らないようにすべき。
教育委員会の本来の目的はこれにあるが、現実の日本の教育委員会は、首長からの独立性が弱い。
 学校は親たちの教育委任による自治的な活動であるという本質からすれば、公立学校を公設民営的に運営することが、本来の姿だと思われる。
 戦後日本の公立学校は「学校教育法」と「地方教育行政法」(略称)の強い規制によって、公設官営の性格が強い。
 
・学校法人
 当然のことだが、なかなかよく設計してある。とくに税制面の優遇が大きい。
 安定性を重視しすぎて、設立を困難にしたのが問題。
 公益性から考えて、役員賞与は認めるべきでない。すべて給料制にすべき。
 剰余金(利益)を教育に再投資することを義務づけてもよい。
 
 
・株式会社
 活動の自由、設置容易、独立性という点で優れる。
 営利団体に特有の創意・工夫が活発。
  営利団体なので、補助金、寄付を得にくい。
 株主の発言権が大きすぎる。
 株式会社は柔軟な制度で、問題点をいろいろとすり抜ける方法
 はあるので、独立的、非営利的に運営することも可能である。スウェーデン、フィンランドなどでは、私立学校の理念に賛同する人たちが株主になって、株式会社の形態で学校を設置・運営している。
 税制上の問題が、最大のネック。授業料、寄付金などによって
 施設・設備を拡充すると、資産の増加と見なされて、課税される。
 したがって、施設・設備は自己所有せずに借りるか、借入金で施設・
 設備にあてるかしなければならなくなる。
 営利的に学校を運営するなら、非常にニーズの高い領域
 (進学指導、語学教室、など)でないと利益を出しにくい。
 よほどのノウハウがないと、税制上優遇されている学校法人と、
 サシでは勝負できないだろう。
 公立学校の運営だけ委託された形なら、営利的にも成り立つ。
 これは公立学校の冗費節約にもなるが、学校の運営費、教職
 員の人件費を中間利得することにもなる。
  
 ・NPO法人
 設立容易な公益法人である。
 学校設置には、かなりの好条件である。とくに、設立容易である点が評価される。
 現実に、オールタナティブ系の非公式学校が、NPOによって運営されている。
 安定性に問題があるため、学校法人と同様の、税制上の優遇が必要である。 

・医療法人、宗教法人、福祉法人などの公益法人
 公益法人は、学校を運営しやすい。
 公益法人は、一般に設置が容易でない。
 教育基本法、学校教育法のように、設置主体と関わり
のない法体系が学校を規定する法制下では、広く公益法人に
学校運営を認めてもよい。
 宗教法人ではすぐにカルトが心配されるが、これは人権問題として対応すべき問題であり、公益法人が学校を設置できる原則まで立ち入る必要はない。
 人間の基本的な倫理、良心は宗教から発してくるので教育か
らどんなに宗教を排除しようとしても、影響は残るものである。宗
教に対しては、政治に対してよりも寛容であるべき。
 現実にキリスト教系、仏教系などの学校がある。


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