ゲーム研究室


ゲーム作家の発想

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ライナー・クニツィア博士に聞く

ゲームをしていると、良く「こんなものどういう頭の人が考えたのだろう」と思う ことがあります。欧米には間違いなく「ゲーム作家」という人たちがいます。その中 でも近年魅力あるゲームを発表し続けているライナー・クニツィア博士のインタビュ ー記事が入手できましたので読んでいただこうと思います。

「ライナーさん、まずあなた自身の事をお話頂きたいのですが。」

「わかりました。私は38才で妻のマヌエラとミュンヘンに住んでいます。ドイツの 銀行に勤めていますが、ここ数年は英国で働いています。」

「ゲームの他に御趣味は。」

「走ることが好きですね。それからノンフィクションの本を読むこと。特に歴史、科 学、経営ですけれど、読む時間がありません。」

「あなたの本職というと何になるのでしょうか。」

「おそらく回りからは数学者と見られるのでしょう(注:氏は数学博士です)。でも そんな職業なんて本当はありません。私自身はプロジェクト・マネージャーだと思っ ています。」

「どうしてゲーム作りを始めたのですか。」

「物心ついたときからゲームを作っていたようです。10才の頃、玩具屋のゲームを 見ていたものでしたが買ってもらえませんでした。そこで作ろうと思ったんです。最 初に作ったのは城と駒があってダイスを振って敵の城を取るゲームでした。どういう ゲームが良くてどういうゲームが悪いか、どういうメカニズムが良くてどういうメカ ニズムが悪いかの基礎を勉強しはじめたんです。それから自分で買えるようになった のですが、自分が欲しいと思うゲームはありませんでした。それで作るのを続けたん です。高校、大学と成長とともに私の作るゲームは長く複雑になり、ほとんどシミュ レーションになってきました。気がついたらそれをプレイする時間はなくなっていた んです。」

「ゲームのアイデアというのはどこから得るのですか。」

「現実からです。テレビや博物館や地図などでいろいろな魅力的なものを見るんです。」

「最初に閃くのはメカニズムですか、テーマですか。また最 初の閃きで最後までできてしまうのですか。」

「普通は題材から始めます。そしてそれのイメージを形作るメカニズムを見つけよう とします。そして現実からアイデアを加えていきます。時にはボード無しでゲームが 出来てしまうこともありますが決して新しいことではありません。
良いゲームにはあまり小道具はいりません。だから私は一つの物に複数の機能を持 たせるようにします。例えばカードというのはシステムを動かすのにはとてもいい物 ですが、実にいろいろな使い道があります。例えばボードを作ったりすることも出来 ますし。
開発というのは非常に分析的に行います。それはテストの節約にもなります。そし て頭の中でものを絵的に動かしていきます。で、後から物理的にテストしていくわけ です。全体の過程はそれほど創造的とは思えません。頭の中ではたくさんの可能性を 考え、実行し、それが機能する方法を見つけます。ときには最後に出来上がったもの が最初の目的にまったく合わなかったり、テーマが私の不得意なものになってしまっ たりもします。
 私の教授は『石油を掘り当てたなら隣を掘れ』と言っていました。一つのことで仕 事をしているとそこから十以上の物が出てきます。アイデアが爆発してそこから新た に十以上のものが出てくるんです。
私はゲームの本を書いているときがいちばん創造的ですね。経験は高い比率で良 いゲームを生み出してくれます。」

「ゲームはどういう風に見えて来るんでしょう。絵的にです か。それとも数学的にですか、それとも図的に。」

「私が実際にゲームをしているところが見えてきますね。駒を動かしたり。」

「実際のゲームはどうようにしてできたのですか。」

「ツタンカーメンは典型的な例ではないですね。思いつきから完成まで一年ちょっと と、これはずいぶん早かったです。妻とミュンヘンのエジプト博物館に行きましてね。 壁に掛かった古代エジプトの地図を見てすぐ浮かびました。
 それからこれを2つの会社に持ち込みました。最初のは考えることが多すぎる、と 見てもらえませんでした。二番目は少ししてから断ってきました。ハンス・イム・グ リュック社は気に入ってくれたのですが、すでにモダンアートが行ってましてね。結 局アミーゴ社になったんです。
 モダンアートは全く新しいゲームということで始めたんですが、作っているうちに 開発中だったグレイハウンドというゲームからベースが来ていることに気がつきまし た。原案では1ラウンでカードは25枚だけでした。私は会社に小さいゲームで、と 言ったのですが、『不十分』というコメント付きで帰ってきました。
カードは増えて、ラウンド数も4になりました。ハンス・イム・グリュック社はた くさん改良して9カ月後に受け取りました。全体では5年かかったんですよ。」

「どのようなテストプレイをするのですか。」

「テストプレイは最後の最後です。ほとんどのテストは頭でやってしまいますから ね。テストは自分なしではしません。自分がいることによって他の人の反応からゲ ームを評価できるわけですから。ゲーマーとゲーマーでない人たちにやらせて、そ の間私は影響を与えないように黙っています。」

「ゲーム全体の質というのは誰が決めるんでしょうか。」

「販売会社は3つのものを売ります。箱と名前と絵です。そして中身を決めます。 名前と絵と大きさと値段と流通と。普通は相談を受けますけどね。モダンアート の時は、私はカードを簡素にして値段を落とすことを提案しました。でも会社は聞 いてくれませんでした。」

「誰かと組んで仕事をすることはありますか。デザイナーな どと。」

「販売会社に渡してしまったら、普通は最終的な形になるまでタッチしません。」

「仕事を持ち、頻繁にドイツに戻るわけですが、いつゲーム のデザインをしているのでしょう。」

「朝は5時半に起きて、家を出るまでゲームのデザインをしています。平穏と静寂が 好きなのですが、この時がそうなんです。もちろん他にも考えたりひらめいたりする 時間があります。そういうわけで週に20時間はとれますよ。」

「ゲームを作るのとするのとの比率はどのくらいですか。」

「ほとんどは作るかテストしているかですね。するのに一時間以上かかるゲームはし ません。それは私の作るゲームの制約でもあります。」

「なぜゲームを作るのですか。」

「最初にできあがったの見るのはとても興奮します。それから店で自分のゲームが並 んでいるのを見るのも楽しいですね。私は楽しみとしてゲームを作っています。」

「あなたがデームデザイナーであることを他の人たちはどう 思っていますか?」

「何人かは理解できませんね。何人かは変だと思っています。その他の人たちは面 白いと思っているようです。」

「ゲーム界の人間には3つのタイプがある。作る者と売る者 と批評する者だ。と言われたことがありましたが、これはどういうことなのでしょう。」

「人間は同時にこの3つの内の2つ以上を兼ねることは難しいと言うことです。」

「良いゲームデザイナーであるための最低条件というのは何 でしょうか」

「そんな質問は初めてですね。十分な経験を持つこと。ゲームがどうあって、どう変 わっていくかを感じられることも必要でしょう。おそらく少し狂気的であることも。」

「自分の作ったゲームが批評されているのを聞いてどう感じ ますか。」

「その批評が正当だと思ったら素直に受けとめます。マスコミで書かれることはしば しば事実ではありません。」

「同時に幾つぐらいのゲームを作っているんですか」

「20かそれ以上ですね。さらにアイデアだけのが100ぐらいです。」

「作ろうと思ったけれどもできなかったゲームというのはあ りますか」

「ありませんね。まだそんなことに出会ったことはないです。」

「良いゲームとはなんでしょう。」

「ぼくの好きな質問ですね。敗者もまた勝てるのが良いゲームです。逆に言えば、 つまらないゲームでは勝者もまた負けるわけです。」

「するのはどんな種類のゲームですか。」

「他のゲームをする機会はほとんどないんですよ。それは危険なんです。クラウス・ トイバーが私に言ったのですが、彼はあえて私の本を読まないそうです。自分が考え たものが入っていると困るから。」

 (注:クラウス・トイバー:ゲーム作家。代表作に「バルバロッサ」「ドルン ター&ドリューバー」「貴族の務め」「キャタンの開拓」)

「ゲームはどのくらいお持ちですか。」

「他の人の作ったゲームは200ぐらいですね。あとは箱を捨ててしまったものがい くつか。」

「今のゲーム界や市場をどう思いますか。また未来はどうな ると思いますか。」

「ドイツの市場は売れ行きが落ちているという問題を抱えています。でも私は市場は 急速に育っていると思います。そして正常な状態に近づいていると思いますね。私は いくつかの会社で中身のない軽いゲームを作るのに携わっています。こういう会社は 市場と共に動いていますが、消費者が離れていけば崩壊するでしょう。ドイツはまだ 、小さい会社がとても質の高いゲームを出しているという良い環境にあります。コン ピューターゲームに移っていくでしょうが、古典的なゲームの持つ文化価値というの は残ると思います。」

「最後にゲームの魅力というのは何でしょうか。」

「ゲームをするというのは他人と過ごす方法として最高のものの一つです。他のプレ イヤーというのはゲームの新しく面白い部分なのです。だから私はコンピューターゲ ームが嫌いなんです。ゲームは他の人たちと楽しく過ごすと言うことを含んでいます。 またゲームは現実世界では経験できない役割を与えてくれます。子供達に負けるとい うことを教えるのに役立ちます。これは自分ではすべてできません。そして、チーム プレイであることの利点も教えてくれます。」

 氏の代表作「ゴールドラッシュ」「レス・プブリカ」「パイレーツ」「クオ・ヴァ ディス」「モダンアート」「アタック」「ツタンカーメン」


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